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月下の鬼人(ワールドエネミー)下
at gunpoint (セブントリガー)20
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「!?てめぇ!今何の操作を────」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
何かが爆発する音と地鳴りのような激しい揺れ。
目敏く見ていたアキラの詰問へと答えるよりも先に、ミチェルの起こした現象が直に俺達へと襲い掛かる。
「じ、地震!?」
「いやリズ、こいつは────っはぁ!地震じゃないよ!この音と揺れは多分……やっぱり!この建物一階の一部が爆破されて、ちょっとずつ崩れ出しているんだ!!」
ロアから途中意識が反転したロナが、手短に操作した電子デバイスの映像を見て叫ぶ。
銃を撃つのはブラフで、爆発が本命だったってことか!?クソ!
「ミチェルお前……ここで死ぬつもりか!?」
「……勘違いするな。為すべき使命がまだ残る私が、こんなところで死ぬつもりはない……お前達は、ここで私が殺す……この爆破も貴様達を逃がさない為の……包囲網に……゛す゛き゛な゛い」
な、なんだ今の声は!?
ミチェルが最後に発したそれは人のものではなく、まるで脳内に直接呼びかけるような濁度の混じったダミ声だった。
皆の混乱に乗じてミチェルは、撃たれたこととは別の苦しみに侵された胸を掻きむしり、バキバキと関節の鳴るクラッキングような音を奏で始める。
次第に盛り上がった肉体は羽織っていた衣類を食い破り、体表には灰色の毛並みが覆いだす。
「ウソ……魔力操作で自身の肉体をあそこまで変化させるなんて……普通の人間に耐えれるはずが……」
その方面に明るいベルが、ミチェルの異常性に気づいて言葉を失う。
一応俺も右眼の魔眼で身体を強化するから分かるが、人間は魔力に対して許容範囲があり、余程の特異体質であっても体内に取り込める魔力は限られている。
それをミチェルは、どっから生み出したのか、何百人もの魔力を身体に溜め込み、その形状を変化させることで肉体を増減させているようだ。
見上げるほどに大きく、全身を灰色の毛並みで覆ったその姿は……
「オオ……カミ……!?」
レクスが漏らした言葉の通りそれは、ミチェルではなく灰色オオカミ。
いや、オオカミなんて可愛いものじゃない、オオカミの姿形を取る鴻大な化け物!
ヘリの残骸を巨木のような豪脚で軽く踏みつけ、広々としていた執務室が狭く感じるほどに身体を増長させたミチェルは、低く悍ましい吐息を漏らしては……何かが弾けたように雄たけびを上げた!
ヴォオオオオオオオオオ!!!!!!
舞い落ちていたガラス片や調度品の残骸を巻き上げ、部屋の入り口の古扉を吹き飛ばすほどの咆哮を向けられ、俺達はその場で踏みとどまるのが精いっぱい。
振り落とされた前足の鋭爪が執務机を粉々に砕かれ、その衝撃を躱そうと俺体は左右に展開する。
バゴオオオオオォォォン!!!!
「ッ!?」
足先に感覚が無いことに気づいて、自分達が部屋から堕ちていることに気づく。
鋼鉄のヘリを紙屑のように潰してしまう脚力に耐え切れず、執務室の床が真っ二つに抜け落ちたのだ。
身体が真下へ引きずり込まれていく。
瓦礫に混じって落下していくさなか、獲物の後を追ってオオカミが、灰色の毛並みを震わせる。
鋭い爪が闇の中で煌めく。
狙ったのは一番近くにいた人物……
「やば……」
ロナがハニーイエローの瞳を見開く。
瓦礫の渦に巻き込まれて反応が遅れていた彼女へと、豪脚の一撃が襲い掛かろうとしていた。
それ助けようと皆がそれぞれの銃を放つも、見た目は柔らかそうで戦車の装甲のように固い灰色の毛並みが全てを弾き返してしまう。
間に合わない……!
「ロナァッ!!」
健気にも身構えたロナへと、豪脚が振り落とされた。
体格差で言えば人が虫を叩き落とすくらい、残酷で無慈悲な一撃は、悲鳴すら上げることを許さなかった。
「そんな……ウソでしょ……」
あんな一撃くらって生きている人間なんていない。
血煙すら残らなかったその光景を見て、リズの表情が暗澹たる暗闇に染まる。
「バカ!?リズッ!!回避を!!」
動きを止めてしまったリズへとレクスが叫ぶ。
次なる標的を見つけたオオカミが、ガブリと大口を開き、剣山が如く牙を見せていた。
「えっ……」
滴る唾液を隠そうともせず、一飲みにラーテルを食らわんとするオオカミ。
自分の窮地に眼を丸くした時には、既に大きく開かれた口のはざま、その舌上の嫌な感触が絶望を足先から全身へと伝えていき────
バクッ!クチャクチャ……
汚い咀嚼音が、瓦礫の中でもハッキリと耳に残った。
う、嘘だろ……?
たったの数秒足らずで二人も殺された事実に、流石の俺も思考がマヒしてしまう。
悲しみ、怒り、失望、そういった感情が何一つ浮かばない。
ただただ眼の前で起きた現象が、質の悪い夢を見させられているかのような、そんな非現実感だけが募っていくばかり……
……?
数回口を動かしたところで、オオカミが何かに気づいたように、口を開けて赤絨毯のように広く長い舌を出す。
そこにはリズの身体どころか血液の一滴すら残っていなかった。
どういうことだ……?
ダラァァァァァァァ!!!!
ヴォオオオオオオ!!
意識を現実へと引き戻すような銃声の雨。
突如、集中砲火を眼に食らったオオカミが、初めて怯んだように雄たけびを上げた。
一体何が……?
「フォルテッ!こっちを頼む!」
誰もいないはずの真上から声を掛けられたと同時に、何かが舞い降りた。
見上げたと同時に咄嗟に腕で受け止めたそれは────
「ロナッ!?」
「フォ、フォルテ……!」
バラバラに引き裂かれたとばかり思っていたロナが、全くの無傷で俺の腕の中に不思議そうに収まっている。
まるで、当の本人もどうして自分が助かったのか分かっていないかのように。
「二人ともボサッとするな!早くここから逃げるぞ!」
何度もフリーズするPCを再起動するように、ロナを放り投げたアキラが檄を飛ばす。
さらに、オオカミを撃ったマガジンを再装填していたその背にはなんと……
「リズッ!?」
「……ッ……!?え?どうして……?」
未だオオカミに飲み込まれていると思っていたらしく、身体を硬直させてアキラにしがみ付いていたリズは、俺の呼び掛けでようやく自身が無事であったことに気づいた。
一体何が起きているのか?
近くで見ていた俺やレクスにベル、そして、当事者であるロナやリズも状況を正しく把握できている者はおらず、ただ一人、アキラだけが士気旺盛とばかりに銃を構える。
「説明は後だ!俺が援護している間に階下層の出口へ!」
執務室のフロア下、瓦礫の海と化した階下層のフロアに着地した俺達は、後から降り立ったオオカミへと牽制射撃を加えつつ、出口に向けて散開。
多少の混乱があっても身体が動くのは、数々の修羅場を潜り抜けてきた場数による経験か……それとも血の滲むような訓練のおかげか……
理由なんて何でもいいが、こうして身体が動いてくれるだけで今は十分だ。
上層階にも仕掛けが施してあったらしく、爆発で生じた火柱が真上から降り注ぐ。
それをオオカミは事も無げに軽い咆哮でいなしてしまう。
二股に分かれた火柱の下、瞳孔の狭められた金色の瞳が俺達を嬲るように見下ろした。
夜はまだまだ終わらない……
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
何かが爆発する音と地鳴りのような激しい揺れ。
目敏く見ていたアキラの詰問へと答えるよりも先に、ミチェルの起こした現象が直に俺達へと襲い掛かる。
「じ、地震!?」
「いやリズ、こいつは────っはぁ!地震じゃないよ!この音と揺れは多分……やっぱり!この建物一階の一部が爆破されて、ちょっとずつ崩れ出しているんだ!!」
ロアから途中意識が反転したロナが、手短に操作した電子デバイスの映像を見て叫ぶ。
銃を撃つのはブラフで、爆発が本命だったってことか!?クソ!
「ミチェルお前……ここで死ぬつもりか!?」
「……勘違いするな。為すべき使命がまだ残る私が、こんなところで死ぬつもりはない……お前達は、ここで私が殺す……この爆破も貴様達を逃がさない為の……包囲網に……゛す゛き゛な゛い」
な、なんだ今の声は!?
ミチェルが最後に発したそれは人のものではなく、まるで脳内に直接呼びかけるような濁度の混じったダミ声だった。
皆の混乱に乗じてミチェルは、撃たれたこととは別の苦しみに侵された胸を掻きむしり、バキバキと関節の鳴るクラッキングような音を奏で始める。
次第に盛り上がった肉体は羽織っていた衣類を食い破り、体表には灰色の毛並みが覆いだす。
「ウソ……魔力操作で自身の肉体をあそこまで変化させるなんて……普通の人間に耐えれるはずが……」
その方面に明るいベルが、ミチェルの異常性に気づいて言葉を失う。
一応俺も右眼の魔眼で身体を強化するから分かるが、人間は魔力に対して許容範囲があり、余程の特異体質であっても体内に取り込める魔力は限られている。
それをミチェルは、どっから生み出したのか、何百人もの魔力を身体に溜め込み、その形状を変化させることで肉体を増減させているようだ。
見上げるほどに大きく、全身を灰色の毛並みで覆ったその姿は……
「オオ……カミ……!?」
レクスが漏らした言葉の通りそれは、ミチェルではなく灰色オオカミ。
いや、オオカミなんて可愛いものじゃない、オオカミの姿形を取る鴻大な化け物!
ヘリの残骸を巨木のような豪脚で軽く踏みつけ、広々としていた執務室が狭く感じるほどに身体を増長させたミチェルは、低く悍ましい吐息を漏らしては……何かが弾けたように雄たけびを上げた!
ヴォオオオオオオオオオ!!!!!!
舞い落ちていたガラス片や調度品の残骸を巻き上げ、部屋の入り口の古扉を吹き飛ばすほどの咆哮を向けられ、俺達はその場で踏みとどまるのが精いっぱい。
振り落とされた前足の鋭爪が執務机を粉々に砕かれ、その衝撃を躱そうと俺体は左右に展開する。
バゴオオオオオォォォン!!!!
「ッ!?」
足先に感覚が無いことに気づいて、自分達が部屋から堕ちていることに気づく。
鋼鉄のヘリを紙屑のように潰してしまう脚力に耐え切れず、執務室の床が真っ二つに抜け落ちたのだ。
身体が真下へ引きずり込まれていく。
瓦礫に混じって落下していくさなか、獲物の後を追ってオオカミが、灰色の毛並みを震わせる。
鋭い爪が闇の中で煌めく。
狙ったのは一番近くにいた人物……
「やば……」
ロナがハニーイエローの瞳を見開く。
瓦礫の渦に巻き込まれて反応が遅れていた彼女へと、豪脚の一撃が襲い掛かろうとしていた。
それ助けようと皆がそれぞれの銃を放つも、見た目は柔らかそうで戦車の装甲のように固い灰色の毛並みが全てを弾き返してしまう。
間に合わない……!
「ロナァッ!!」
健気にも身構えたロナへと、豪脚が振り落とされた。
体格差で言えば人が虫を叩き落とすくらい、残酷で無慈悲な一撃は、悲鳴すら上げることを許さなかった。
「そんな……ウソでしょ……」
あんな一撃くらって生きている人間なんていない。
血煙すら残らなかったその光景を見て、リズの表情が暗澹たる暗闇に染まる。
「バカ!?リズッ!!回避を!!」
動きを止めてしまったリズへとレクスが叫ぶ。
次なる標的を見つけたオオカミが、ガブリと大口を開き、剣山が如く牙を見せていた。
「えっ……」
滴る唾液を隠そうともせず、一飲みにラーテルを食らわんとするオオカミ。
自分の窮地に眼を丸くした時には、既に大きく開かれた口のはざま、その舌上の嫌な感触が絶望を足先から全身へと伝えていき────
バクッ!クチャクチャ……
汚い咀嚼音が、瓦礫の中でもハッキリと耳に残った。
う、嘘だろ……?
たったの数秒足らずで二人も殺された事実に、流石の俺も思考がマヒしてしまう。
悲しみ、怒り、失望、そういった感情が何一つ浮かばない。
ただただ眼の前で起きた現象が、質の悪い夢を見させられているかのような、そんな非現実感だけが募っていくばかり……
……?
数回口を動かしたところで、オオカミが何かに気づいたように、口を開けて赤絨毯のように広く長い舌を出す。
そこにはリズの身体どころか血液の一滴すら残っていなかった。
どういうことだ……?
ダラァァァァァァァ!!!!
ヴォオオオオオオ!!
意識を現実へと引き戻すような銃声の雨。
突如、集中砲火を眼に食らったオオカミが、初めて怯んだように雄たけびを上げた。
一体何が……?
「フォルテッ!こっちを頼む!」
誰もいないはずの真上から声を掛けられたと同時に、何かが舞い降りた。
見上げたと同時に咄嗟に腕で受け止めたそれは────
「ロナッ!?」
「フォ、フォルテ……!」
バラバラに引き裂かれたとばかり思っていたロナが、全くの無傷で俺の腕の中に不思議そうに収まっている。
まるで、当の本人もどうして自分が助かったのか分かっていないかのように。
「二人ともボサッとするな!早くここから逃げるぞ!」
何度もフリーズするPCを再起動するように、ロナを放り投げたアキラが檄を飛ばす。
さらに、オオカミを撃ったマガジンを再装填していたその背にはなんと……
「リズッ!?」
「……ッ……!?え?どうして……?」
未だオオカミに飲み込まれていると思っていたらしく、身体を硬直させてアキラにしがみ付いていたリズは、俺の呼び掛けでようやく自身が無事であったことに気づいた。
一体何が起きているのか?
近くで見ていた俺やレクスにベル、そして、当事者であるロナやリズも状況を正しく把握できている者はおらず、ただ一人、アキラだけが士気旺盛とばかりに銃を構える。
「説明は後だ!俺が援護している間に階下層の出口へ!」
執務室のフロア下、瓦礫の海と化した階下層のフロアに着地した俺達は、後から降り立ったオオカミへと牽制射撃を加えつつ、出口に向けて散開。
多少の混乱があっても身体が動くのは、数々の修羅場を潜り抜けてきた場数による経験か……それとも血の滲むような訓練のおかげか……
理由なんて何でもいいが、こうして身体が動いてくれるだけで今は十分だ。
上層階にも仕掛けが施してあったらしく、爆発で生じた火柱が真上から降り注ぐ。
それをオオカミは事も無げに軽い咆哮でいなしてしまう。
二股に分かれた火柱の下、瞳孔の狭められた金色の瞳が俺達を嬲るように見下ろした。
夜はまだまだ終わらない……
応援ありがとうございます!
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