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月下の鬼人(ワールドエネミー)下
at gunpoint (セブントリガー)19
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────それは決して比喩や例えでは無かった。
複合構造の外側を食い破った先、大口径の銃弾の閃光とは別に、球団装置の方から小さく火柱が上がった。
小さく尾を引く導火線のように多弾倉ケースへと着火し、ヘリが左フックを貰ったように大きくよろめく。
一体何が起こったのか!?
俺やアキラ、ミチェルでさえも状況が理解できない。
態勢を崩して呆気なく急下降していくヘリ。
その暴発で漂う黒煙を、斜め下から飛翔してきた別の軍用ヘリ、UH-60ブラックホークが突っ切っていく。
どうやら今、目の前を過ぎていったそのヘリが、EC665 ティーガーを撃ち落してくれたらしい。
眼の前を過ぎていったブラックホークを、撃ち下ろされた機体とは別の戦闘ヘリ群が数機、編隊を組んで猛追していった。
「なんだ……?あのヘリは!?どこの所属だ!?」
突如として始まった空中戦に眼を剥くミチェル。食い入るように張り付いた窓の外では、逃げるヘリが宙返りで追跡する機体の死角を取っていく。
性能と普通の運転技術では不可能な動作を繰り返すヘリの側面、開いた扉から白い何かが
転げ出て、ヘリの降下装置ランディングスキッドに捕まる。
『にゃあああああああああああああ!!!!』
鼓膜が千切れんばかりの悲鳴が、インカムを通じて鳴り響く。
叫喚に俺とアキラは渋面を作るが、それと同時に聞き慣れたその声に内心では歓喜が上がる。
『落ちる落ちる!!!!レクス落ちちゃうからあああ!!!!』
『もうーベルったら。だからあれだけしがみ付いてなさいって言ったのに……シャドー、アンタ引き上げてやりなさい』
『いいよいいよシャドー!おもしれえからそのままにしておけよ。それよりも賭けようぜ?ベルが下着を濡らすかどうか?勿論私は粗相する方だ』
『あんたってサイッテイね!そんな下品なこと言ってないで、とっととロナに戻りなさいよこの戦闘狂』
『無理無理、こんなに興奮しているのに戻れなんて……それとも、お前が私のこの高ぶった気持ちを鎮めてくれるのか……?』
『……っっっ!!』
『んだよ?顔真っ赤にして、もしかしてお前がちびったか?』
『うるさいうるさい!!この馬鹿!!大馬鹿!!その顔でそんなこと言うなんて……最低、ほんとサイッテイよ!!』
『何をそんなにキーキー騒いでるんだよ?ちっとはそこでだまーって佇んでるシャドーを見習えよ優等生ちゃん。それに最低ってのはアイツのことを言うだぜ?』
『ワシントン上空でドッグファイトとか!!ハリウッド映画みたいでテンション上がるぜチクショウッ!!』
『……アンタの存在は認めたくないけど確かにそうね……こんなことなら、戦車の鹵獲に挙手すればよかったわ……』
『だろー?私とベルは戦車派だったのに、お前達がヘリで挙手するから、アイツはあんなひどい目に遭ってるんだぞ?お前が助けてやれよ』
『それは無理。こんな地と空がグルグル回っている状況で動けるわけないでしょ?アンタこそ、お得意の操り人形師みたいに助けなさいよ』
『わたしーアイツと違ってきよーじゃないからなー』
『なにそのやる気のない言い方、絶対嘘ね早くやりなさいよ』
『やだ』
『やれ』
『やーだ』
『誰でもいいから早く助けてにゃあああああ!!!!』
あ、落ちた。
『にゃあああああ!!!!』
四十五度旋回中に、一滴の涙のようにワシントンの上空を舞うベル。
その一瞬を突いて、追手のヘリ四機が囲うように包囲に掛かる。
『今だ!!六の六、三四の九、七の三、五の十二!!』
矢継ぎ早に飛んだレクスの指示に全員が反応する。
十二時方向をレクスがヘリの機銃で撃ち落し、九時方向をロアとリズ、三時方向をシャドーがそれぞれの銃で迎撃し、死角の六時方向は機体から投げ出されたベルが涙目でロケットランチャーを精製する。
積み重ねた鍛錬により生み出された連携は、一呼吸の内に四機全てを墜落して見せた。
『何故だ……何故たかが一機を撃ち落すことができない……ッ!?』
通常、空戦機動に適さないヘリ同士でのドッグファイト、ましてや四対一の状況でやるものではない。
それでも撃ち落すことのできないたったの一機にミチェルが激昂する中、空中でロアが吊り上げていたベルを拾い直し────あろうことか、俺達の方に向かって突っ込んできた!
おいおいおいおいおい……まじかよ……ッ!
眼下に広がるワシントンの街の一角で煌めきが走る。
援軍で配備されていた戦車からの砲撃が、ヘリのテールローターに直撃した。
制御を失ったヘリが、側面を向けたままビルに衝突!銃弾は耐えれても流石にヘリは防ぐことのできなかった特殊強化ガラスが呆気なく砕け散り、淡く燃えるヘリのローター部で星屑のように輝く。
あーあ、折角の調度品類も全部ぐちゃぐちゃだ……
部屋の半分を埋め尽くすように突っ込んできたヘリに、俺とアキラがあきれ顔、ミチェルが唖然とした表情で佇んでいると、運転席からレクスが滑り降りてきた。
「さあ……目的地に到着いたしました、お嬢様がッ!?」
リムジンの運転手のように、気取った様子で片膝を着き、お出迎えの格好をしていた後頭部を容赦のないバズーカー砲が叩きつけた。
「バカ!バカバカバカ!!ほんとに死ぬかと思ったわよ!!」
いつもの口調を忘れるほどに怖かったのだろう。
一秒でも早く地に足着けたいと、機体から飛び出してきたベルが震え声で訴える。
「アンタがじゃんけんで負けたからでしょベル。レクスに文句を言わないの」
「そうだぜ、そんなに怒ることじゃないだろ?それとも本気でちびっちまったか?」
「ちびってにゃい!!」
「……」
他の隊員達も、続々とヘリから降機してくる。
皆、纏っていた黒の野戦服と深緑色のICコートをボロボロにしてはいたが、大きな怪我はなさそうだ。
「イテテ……で?終着点はここで良かったのかい?隊長」
「あぁ……これ以上無いってくらいオーライだ。最高かよお前達……ッ!」
主客転倒。
千の敵と対等に渡り合い、増援として駆け付けた仲間達と共に、七つの銃口がミチェルへと集結する。
「今度こそ終わりだミチェル……アンタの言う数の力も、俺達を相手にするには桁が一つ足りなかったな」
割れた特殊強化ガラスの手前、吹き入る風下に佇むミチェルは俯いたまま……
「……フッフッフッフッ……」
ヘリの上げる爆炎の炎光に、顔を覆う指との隙間に血走った眼光を見せ、俺の言葉を、俺達の姿に向けて乾いた嗤いを漏らす。
ここまで来てもう手は残っていないはずなのに、たった独りのその不気味なまでの面持ちが、部屋の温度を奪っていく。
「そうか……愚兄が何故、貴様を選んだのかようやく分かったぞ……フォルテ・S・エルフィー……」
「……一体何の話だ?」
僅かな困惑を見せる俺を愉しむように、だらりと両腕を下げてこっちを見たミチェルは、フッと引き攣る笑みを消して────
ババッ!
音が途切れた刹那、腰に隠していた銃に手を掛けようとした。
ダァァァァァァン!!
「グァッ……!」
ミチェルが悲鳴と共に右手を血で濡らす。
大して早くもない動作に遅れを取るはずもなく、俺の放った銃弾が無謀とも言えるその愚行を阻止していた。
が、ミチェルは撃たれることを覚悟していたかのように、再び口の端を吊り上げて……
ピッ!
撃たれた方とは逆の手で、ポケットの中の何かを操作した。
複合構造の外側を食い破った先、大口径の銃弾の閃光とは別に、球団装置の方から小さく火柱が上がった。
小さく尾を引く導火線のように多弾倉ケースへと着火し、ヘリが左フックを貰ったように大きくよろめく。
一体何が起こったのか!?
俺やアキラ、ミチェルでさえも状況が理解できない。
態勢を崩して呆気なく急下降していくヘリ。
その暴発で漂う黒煙を、斜め下から飛翔してきた別の軍用ヘリ、UH-60ブラックホークが突っ切っていく。
どうやら今、目の前を過ぎていったそのヘリが、EC665 ティーガーを撃ち落してくれたらしい。
眼の前を過ぎていったブラックホークを、撃ち下ろされた機体とは別の戦闘ヘリ群が数機、編隊を組んで猛追していった。
「なんだ……?あのヘリは!?どこの所属だ!?」
突如として始まった空中戦に眼を剥くミチェル。食い入るように張り付いた窓の外では、逃げるヘリが宙返りで追跡する機体の死角を取っていく。
性能と普通の運転技術では不可能な動作を繰り返すヘリの側面、開いた扉から白い何かが
転げ出て、ヘリの降下装置ランディングスキッドに捕まる。
『にゃあああああああああああああ!!!!』
鼓膜が千切れんばかりの悲鳴が、インカムを通じて鳴り響く。
叫喚に俺とアキラは渋面を作るが、それと同時に聞き慣れたその声に内心では歓喜が上がる。
『落ちる落ちる!!!!レクス落ちちゃうからあああ!!!!』
『もうーベルったら。だからあれだけしがみ付いてなさいって言ったのに……シャドー、アンタ引き上げてやりなさい』
『いいよいいよシャドー!おもしれえからそのままにしておけよ。それよりも賭けようぜ?ベルが下着を濡らすかどうか?勿論私は粗相する方だ』
『あんたってサイッテイね!そんな下品なこと言ってないで、とっととロナに戻りなさいよこの戦闘狂』
『無理無理、こんなに興奮しているのに戻れなんて……それとも、お前が私のこの高ぶった気持ちを鎮めてくれるのか……?』
『……っっっ!!』
『んだよ?顔真っ赤にして、もしかしてお前がちびったか?』
『うるさいうるさい!!この馬鹿!!大馬鹿!!その顔でそんなこと言うなんて……最低、ほんとサイッテイよ!!』
『何をそんなにキーキー騒いでるんだよ?ちっとはそこでだまーって佇んでるシャドーを見習えよ優等生ちゃん。それに最低ってのはアイツのことを言うだぜ?』
『ワシントン上空でドッグファイトとか!!ハリウッド映画みたいでテンション上がるぜチクショウッ!!』
『……アンタの存在は認めたくないけど確かにそうね……こんなことなら、戦車の鹵獲に挙手すればよかったわ……』
『だろー?私とベルは戦車派だったのに、お前達がヘリで挙手するから、アイツはあんなひどい目に遭ってるんだぞ?お前が助けてやれよ』
『それは無理。こんな地と空がグルグル回っている状況で動けるわけないでしょ?アンタこそ、お得意の操り人形師みたいに助けなさいよ』
『わたしーアイツと違ってきよーじゃないからなー』
『なにそのやる気のない言い方、絶対嘘ね早くやりなさいよ』
『やだ』
『やれ』
『やーだ』
『誰でもいいから早く助けてにゃあああああ!!!!』
あ、落ちた。
『にゃあああああ!!!!』
四十五度旋回中に、一滴の涙のようにワシントンの上空を舞うベル。
その一瞬を突いて、追手のヘリ四機が囲うように包囲に掛かる。
『今だ!!六の六、三四の九、七の三、五の十二!!』
矢継ぎ早に飛んだレクスの指示に全員が反応する。
十二時方向をレクスがヘリの機銃で撃ち落し、九時方向をロアとリズ、三時方向をシャドーがそれぞれの銃で迎撃し、死角の六時方向は機体から投げ出されたベルが涙目でロケットランチャーを精製する。
積み重ねた鍛錬により生み出された連携は、一呼吸の内に四機全てを墜落して見せた。
『何故だ……何故たかが一機を撃ち落すことができない……ッ!?』
通常、空戦機動に適さないヘリ同士でのドッグファイト、ましてや四対一の状況でやるものではない。
それでも撃ち落すことのできないたったの一機にミチェルが激昂する中、空中でロアが吊り上げていたベルを拾い直し────あろうことか、俺達の方に向かって突っ込んできた!
おいおいおいおいおい……まじかよ……ッ!
眼下に広がるワシントンの街の一角で煌めきが走る。
援軍で配備されていた戦車からの砲撃が、ヘリのテールローターに直撃した。
制御を失ったヘリが、側面を向けたままビルに衝突!銃弾は耐えれても流石にヘリは防ぐことのできなかった特殊強化ガラスが呆気なく砕け散り、淡く燃えるヘリのローター部で星屑のように輝く。
あーあ、折角の調度品類も全部ぐちゃぐちゃだ……
部屋の半分を埋め尽くすように突っ込んできたヘリに、俺とアキラがあきれ顔、ミチェルが唖然とした表情で佇んでいると、運転席からレクスが滑り降りてきた。
「さあ……目的地に到着いたしました、お嬢様がッ!?」
リムジンの運転手のように、気取った様子で片膝を着き、お出迎えの格好をしていた後頭部を容赦のないバズーカー砲が叩きつけた。
「バカ!バカバカバカ!!ほんとに死ぬかと思ったわよ!!」
いつもの口調を忘れるほどに怖かったのだろう。
一秒でも早く地に足着けたいと、機体から飛び出してきたベルが震え声で訴える。
「アンタがじゃんけんで負けたからでしょベル。レクスに文句を言わないの」
「そうだぜ、そんなに怒ることじゃないだろ?それとも本気でちびっちまったか?」
「ちびってにゃい!!」
「……」
他の隊員達も、続々とヘリから降機してくる。
皆、纏っていた黒の野戦服と深緑色のICコートをボロボロにしてはいたが、大きな怪我はなさそうだ。
「イテテ……で?終着点はここで良かったのかい?隊長」
「あぁ……これ以上無いってくらいオーライだ。最高かよお前達……ッ!」
主客転倒。
千の敵と対等に渡り合い、増援として駆け付けた仲間達と共に、七つの銃口がミチェルへと集結する。
「今度こそ終わりだミチェル……アンタの言う数の力も、俺達を相手にするには桁が一つ足りなかったな」
割れた特殊強化ガラスの手前、吹き入る風下に佇むミチェルは俯いたまま……
「……フッフッフッフッ……」
ヘリの上げる爆炎の炎光に、顔を覆う指との隙間に血走った眼光を見せ、俺の言葉を、俺達の姿に向けて乾いた嗤いを漏らす。
ここまで来てもう手は残っていないはずなのに、たった独りのその不気味なまでの面持ちが、部屋の温度を奪っていく。
「そうか……愚兄が何故、貴様を選んだのかようやく分かったぞ……フォルテ・S・エルフィー……」
「……一体何の話だ?」
僅かな困惑を見せる俺を愉しむように、だらりと両腕を下げてこっちを見たミチェルは、フッと引き攣る笑みを消して────
ババッ!
音が途切れた刹那、腰に隠していた銃に手を掛けようとした。
ダァァァァァァン!!
「グァッ……!」
ミチェルが悲鳴と共に右手を血で濡らす。
大して早くもない動作に遅れを取るはずもなく、俺の放った銃弾が無謀とも言えるその愚行を阻止していた。
が、ミチェルは撃たれることを覚悟していたかのように、再び口の端を吊り上げて……
ピッ!
撃たれた方とは逆の手で、ポケットの中の何かを操作した。
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