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月下の鬼人(ワールドエネミー)下
at gunpoint (セブントリガー)14
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「……ッ」
高窓から斜めに差し込む月光の先────正面の奥の影から姿を現した人物へと銃口を向ける。
滲んだ血痕を思わせるクリムゾンレッドのスーツ。
血濡れの狼。
「まさか、こんなところまで来るとはな……君は私の想像を遥かに上回っていたようだ」
「けっ……よく言うぜ。ずっとここで待っていたんだろう?俺がここに来ることを……」
オオカミは静かに笑う。
初めて同族を見つけたような嬉しさと、駆るべき獲物を見るような高圧感。
しかし、俺は何故かそれ以外の何かを感じ取っていた。
「うちの隊員は何処へ?」
「……彼ならそこだ」
オオカミが流し目した場所へと、僅かに視線を向けるとそこには……
(……アキラ!)
正面の強敵に気を取られ、部屋に入る前に感じていたその気配にようやく気付いた。
力なく倒れた仲間の無残とも言える姿に、喉まで出かかった叫びを下唇を噛んで留めた。
意識を失いぐったりとした身体を壁に預け、両手に繋がれた手錠には頬から流れる血が滴る。
死んではいない。ただその一点のみで何とか怒りや憎悪に感情を支配されずに済んだ。
「それを見て怒るか……鬼よ……」
オオカミが腰のイーストウッドホルスターから、スミス&ウェッソン M500。シャドーの扱う.44マグナム弾の三倍近い威力を誇る.500S&Wマグナム弾を使用できるリボルバーを二丁も引き抜いた。
「部下を傷つけられた私の気持ちが伝わるか……ッ!」
象に向けるような大砲をこちらに向ける彼の表情も、まるで鏡合わせのように俺と同じ憎悪で満ちる。
「なぁ……フォルテ・S・エルフィーッ!!」
咆哮と共に両者、銃の引き金に指を掛けた。
十メートル以上離れていた両者の中央で、銃弾が衝突する。
鳴り響く金属音。暗闇の中で眩むような火花が散る。
両者の銃声を以てして、戦いの幕が切って落とされた。
銃の威力、装弾数、どちらも劣る俺にまともに撃ち合うという選択肢はない。
なら────!
地を掴むように指先に力を籠め、前に飛び出す。
遮蔽物の無いこの場で二門の大砲と撃ち合うのは愚の骨頂。
元々、襲撃にあったせいで所持弾数はほとんど無いんだ。
一気に詰め、得意の近接戦闘で片を付ける。
並の人力では絶対に操ることのできない大砲二門を、鍛え抜かれた強靭な肉体と研ぎ澄まされた技術で放つオオカミの銃弾。
破壊力だけならライフル弾にも匹敵する.500S&Wマグナム弾は、当たったら痛いでは済まない。
幾ら防弾性のICコートや野戦服を着ていても、当たれば恐らく貫通してしまうだろう。
俺はそれを紙一重で躱し、銃弾で逸らし、距離を詰める。
「グッ……!」
躱しても近くを掠めるだけで、その容赦のない風圧の暴力に殴られた身体がよろめく。
逸れた銃弾が後方にあった両開きのドアや壁面を粉々にしていく様子が、まるで直撃した時のデモンストレーションを見せられているようで精神力が擦り減らされる。
それでも、足を止めるな……ッ!
殴られたのなら受け流せばいい。
ただ前に……!
揺さぶられる身体を気迫と精神力で立て直し、何とか自分が得意な近距離へと持ち込む。
この距離なら俺の.45ACP弾でもその趣味の悪い防弾スーツを撃ち抜ける。
そこそこデカい俺ですら覆いつくす、筋肉質な巨躯を持つオオカミの懐へと入り込んだ。
が、しかし────
「なッ……!?」
ギギンッ!!
眼の醒めるような一撃に、咄嗟に構えた義手がそれを受け止める。
銃弾なんか比じゃないような重い一撃が、決死の覚悟で詰めた俺の距離を無下に返した。
耳に残る甲高い音と、義手の表面を運動エネルギーから熱に変えた焦ける臭い。
オオカミの肩口から抜き放った美しい刀身が、外光を吸収し薄く煌めいていた。
デカい図体で鈍いと思っていた巨躯からは想像もつかない一撃は、無意識に油断していた俺の心を引き締めるには十分すぎる威力と破壊力だった。
てっきりナイフの延長で刀を使っているのかと思ったが、その剣筋は並大抵のものではない。
シャドーといい、コイツといい、やはり最近はアメリカでサムライブームでも流行っているのか?
たった一撃で無駄にされたワンマガジンを交換しようとするも、右手は物を持つどころか感覚すらない。
比べて奴は両手を器用に使い、刀を収め、二丁の大砲へスピードローダーを用いて銃弾を装填する。
一丁それを終えたと同時に発砲。
片腕でもたつく俺へと牽制を入れる。
クソ……9mmならまだしも.500S&Wマグナム弾じゃあ流石に無視できない……ッ!
態勢を崩され、思うように自分のリズムへと持ち込むことができない俺は、小さく歯噛みする。
今の攻防で分かったが奴は両利きだ。
対する今の俺は片腕、しかも利き腕とは反対の左腕な上に義手だ。
双刀と双銃で死角のない奴には、手数では完全に負けている。
おまけにデカい図体のくせに動きも俊敏だ。
「どうした?最強部隊の隊長も、一人では大したことないのか?」
見え透いた挑発に応じる余裕さえない。
側方回転しながらリロードし、即座に牽制射撃。
「そんなものなのか、貴様の実力はっ!」
憤懣をぶつけるように銃弾を切り払い、怒号に似た銃声が俺を狙い撃つ。
相手の手数と攻防一体の技に押され、こちらは防戦一方。
決して戦況を覆す方法が無いわけではない。
悪魔の紅い瞳。
超人的な力を引き起こす魔眼。
だが、今朝からずっと連戦続きの消耗しきった身体には、数分どころか数秒持つかどうか……
だからこそ、使うタイミングは見計らわなければならない。
まるで糸の上で綱渡りさせられているような、一歩でも間違えば死に直結する感覚。
微塵も余裕のない俺は────
「……!」
オオカミの射線上にいた味方の存在に気づくのが遅れた。
誘われた……!
奴の殺意の籠っていた銃弾はオトリで、獲物である俺を誘導して優位に立つための手段だったのだ。
哀れにも、状況に直面するまでそのことに気づかなかった俺の動きが止まる。
戦場ではそのほんの僅かな一瞬が命取り。
放たれた大砲に、ほぼ条件反射で撃ち返すも……
「っ……」
空中で散る火花とほぼ同時に、鋭くも重い鈍痛が右肩に走った。
自分の銃弾では軌道を変えきれなかった相手の銃弾が右肩に直撃したのだ。
威力こそ多少軽減して貫通こそしなかったが、それがかえって仇となる。
変則回転した銃弾の側面が当たったせいで衝撃が突き抜けることなく、もろにダメージを受けてしまった。
そのあまりの激痛に声も出ない。
それに……
────これは……折れたな。
右手の平から肩までの感覚が一気に消え失せていた。
動かそうにも、鉛のように重くなった腕はピクリとも動かない。
「この程度なのか?私の仲間を傷つけた貴様の実力というやつは!?」
憎悪と怨恨を表す二つの銃口が向けられた。
俺は、そんな復讐で業を煮やす彼の姿に既視感を覚える。
あぁ……そうか……
彼の言葉に、感情に、思いに、先に感じた違和感の正体にようやく気づく。
同じなんだ、コイツと俺は。
電話の時に感じたのと同じ、コイツは立場が違うだけで俺と同じ。
使命に身を焦がし、仲間の身を案じ、仕える者へと誠意を示す。
違うのは思想だけ。
でも、もし本当にそうだとしたら、尚のこと引くことはできない。
俺にも果たすべき使命がある。
オオカミに呼応するように、俺も左腕一本で銃を構える。
「まだ抵抗するか……そのボロボロの身体で」
「当たり……まえだろ……ッ」
「分かっているんだぞ、もう貴様が替えのマガジンを持っていないことも、その銃口にあと一発しか入っていないことも」
「お前だって……残っているのは今構えている一発ずつだろ……」
弾数を数えていたのはお前だけじゃない。
「だが、それでも二発。最後の銃弾を弾いた瞬間がお前の最期」
オオカミは肩幅程に足を開き、照準を定める。
下手に躱して跳弾などの間違いが起きないように、または、完全な勝利を掴むために、俺の銃口に意識を集中させ、最後の銃弾が放たれるのをじっと待つ。
その立ち振る舞いは、まるで居合を構える武士のよう。
「まだその右手や左眼が使えれば私に一矢報いることができたかもしれない……だが、たった一本の腕ではどうすることもできない。外にいる貴様の仲間達も今でこそ優勢だが、呼びつけた援軍が到着すればすぐに抑えることができる。小学生でもできる単純計算だ。結局のところ数に勝るものは無いんだ……」
まるでそれが世界の理でもあるかのように語るオオカミ。
その表情に、驕りは一片もない。
いつの間にか、外の喧騒も収まりだしていたのと合わせて静まり返る会議室。
俺はつい耐え切れなくなって……
「……何が可笑しい?」
絶望的な状況で笑っていた俺に、オオカミが訝る。
「お前の頭が見た目通りの石頭だったってことに……な」
決して言っていることは間違っていない。
普通に計算すれば一が二に勝てる道理は無い。
だが、それはあくまで一という概念が全て同一であればの話しだ。
この世にな、百に勝る一があれば、一に劣る百もある。
少数の俺達が数多の敵を相手取ってきたようにな。
それになオオカミ。
やはりお前は大きな勘違いをしている。
「私のこの頭を笑った罪はデカいぞ……」
オオカミの両の人差し指に力が篭められる。
僅か七~八メートルという近距離で二発。
もう俺に躱すほどの体力は残っていない。
赦されたのは、この引き金を引くことのみ。
右手が使えない?左眼が見えない?
それがどうした……
連中が世界の警察を名乗っているように、こっちだって世界一の部隊を名乗っているんだ。
これくらいのハンデがあって当然だろ!
────引き金を引いた。
高窓から斜めに差し込む月光の先────正面の奥の影から姿を現した人物へと銃口を向ける。
滲んだ血痕を思わせるクリムゾンレッドのスーツ。
血濡れの狼。
「まさか、こんなところまで来るとはな……君は私の想像を遥かに上回っていたようだ」
「けっ……よく言うぜ。ずっとここで待っていたんだろう?俺がここに来ることを……」
オオカミは静かに笑う。
初めて同族を見つけたような嬉しさと、駆るべき獲物を見るような高圧感。
しかし、俺は何故かそれ以外の何かを感じ取っていた。
「うちの隊員は何処へ?」
「……彼ならそこだ」
オオカミが流し目した場所へと、僅かに視線を向けるとそこには……
(……アキラ!)
正面の強敵に気を取られ、部屋に入る前に感じていたその気配にようやく気付いた。
力なく倒れた仲間の無残とも言える姿に、喉まで出かかった叫びを下唇を噛んで留めた。
意識を失いぐったりとした身体を壁に預け、両手に繋がれた手錠には頬から流れる血が滴る。
死んではいない。ただその一点のみで何とか怒りや憎悪に感情を支配されずに済んだ。
「それを見て怒るか……鬼よ……」
オオカミが腰のイーストウッドホルスターから、スミス&ウェッソン M500。シャドーの扱う.44マグナム弾の三倍近い威力を誇る.500S&Wマグナム弾を使用できるリボルバーを二丁も引き抜いた。
「部下を傷つけられた私の気持ちが伝わるか……ッ!」
象に向けるような大砲をこちらに向ける彼の表情も、まるで鏡合わせのように俺と同じ憎悪で満ちる。
「なぁ……フォルテ・S・エルフィーッ!!」
咆哮と共に両者、銃の引き金に指を掛けた。
十メートル以上離れていた両者の中央で、銃弾が衝突する。
鳴り響く金属音。暗闇の中で眩むような火花が散る。
両者の銃声を以てして、戦いの幕が切って落とされた。
銃の威力、装弾数、どちらも劣る俺にまともに撃ち合うという選択肢はない。
なら────!
地を掴むように指先に力を籠め、前に飛び出す。
遮蔽物の無いこの場で二門の大砲と撃ち合うのは愚の骨頂。
元々、襲撃にあったせいで所持弾数はほとんど無いんだ。
一気に詰め、得意の近接戦闘で片を付ける。
並の人力では絶対に操ることのできない大砲二門を、鍛え抜かれた強靭な肉体と研ぎ澄まされた技術で放つオオカミの銃弾。
破壊力だけならライフル弾にも匹敵する.500S&Wマグナム弾は、当たったら痛いでは済まない。
幾ら防弾性のICコートや野戦服を着ていても、当たれば恐らく貫通してしまうだろう。
俺はそれを紙一重で躱し、銃弾で逸らし、距離を詰める。
「グッ……!」
躱しても近くを掠めるだけで、その容赦のない風圧の暴力に殴られた身体がよろめく。
逸れた銃弾が後方にあった両開きのドアや壁面を粉々にしていく様子が、まるで直撃した時のデモンストレーションを見せられているようで精神力が擦り減らされる。
それでも、足を止めるな……ッ!
殴られたのなら受け流せばいい。
ただ前に……!
揺さぶられる身体を気迫と精神力で立て直し、何とか自分が得意な近距離へと持ち込む。
この距離なら俺の.45ACP弾でもその趣味の悪い防弾スーツを撃ち抜ける。
そこそこデカい俺ですら覆いつくす、筋肉質な巨躯を持つオオカミの懐へと入り込んだ。
が、しかし────
「なッ……!?」
ギギンッ!!
眼の醒めるような一撃に、咄嗟に構えた義手がそれを受け止める。
銃弾なんか比じゃないような重い一撃が、決死の覚悟で詰めた俺の距離を無下に返した。
耳に残る甲高い音と、義手の表面を運動エネルギーから熱に変えた焦ける臭い。
オオカミの肩口から抜き放った美しい刀身が、外光を吸収し薄く煌めいていた。
デカい図体で鈍いと思っていた巨躯からは想像もつかない一撃は、無意識に油断していた俺の心を引き締めるには十分すぎる威力と破壊力だった。
てっきりナイフの延長で刀を使っているのかと思ったが、その剣筋は並大抵のものではない。
シャドーといい、コイツといい、やはり最近はアメリカでサムライブームでも流行っているのか?
たった一撃で無駄にされたワンマガジンを交換しようとするも、右手は物を持つどころか感覚すらない。
比べて奴は両手を器用に使い、刀を収め、二丁の大砲へスピードローダーを用いて銃弾を装填する。
一丁それを終えたと同時に発砲。
片腕でもたつく俺へと牽制を入れる。
クソ……9mmならまだしも.500S&Wマグナム弾じゃあ流石に無視できない……ッ!
態勢を崩され、思うように自分のリズムへと持ち込むことができない俺は、小さく歯噛みする。
今の攻防で分かったが奴は両利きだ。
対する今の俺は片腕、しかも利き腕とは反対の左腕な上に義手だ。
双刀と双銃で死角のない奴には、手数では完全に負けている。
おまけにデカい図体のくせに動きも俊敏だ。
「どうした?最強部隊の隊長も、一人では大したことないのか?」
見え透いた挑発に応じる余裕さえない。
側方回転しながらリロードし、即座に牽制射撃。
「そんなものなのか、貴様の実力はっ!」
憤懣をぶつけるように銃弾を切り払い、怒号に似た銃声が俺を狙い撃つ。
相手の手数と攻防一体の技に押され、こちらは防戦一方。
決して戦況を覆す方法が無いわけではない。
悪魔の紅い瞳。
超人的な力を引き起こす魔眼。
だが、今朝からずっと連戦続きの消耗しきった身体には、数分どころか数秒持つかどうか……
だからこそ、使うタイミングは見計らわなければならない。
まるで糸の上で綱渡りさせられているような、一歩でも間違えば死に直結する感覚。
微塵も余裕のない俺は────
「……!」
オオカミの射線上にいた味方の存在に気づくのが遅れた。
誘われた……!
奴の殺意の籠っていた銃弾はオトリで、獲物である俺を誘導して優位に立つための手段だったのだ。
哀れにも、状況に直面するまでそのことに気づかなかった俺の動きが止まる。
戦場ではそのほんの僅かな一瞬が命取り。
放たれた大砲に、ほぼ条件反射で撃ち返すも……
「っ……」
空中で散る火花とほぼ同時に、鋭くも重い鈍痛が右肩に走った。
自分の銃弾では軌道を変えきれなかった相手の銃弾が右肩に直撃したのだ。
威力こそ多少軽減して貫通こそしなかったが、それがかえって仇となる。
変則回転した銃弾の側面が当たったせいで衝撃が突き抜けることなく、もろにダメージを受けてしまった。
そのあまりの激痛に声も出ない。
それに……
────これは……折れたな。
右手の平から肩までの感覚が一気に消え失せていた。
動かそうにも、鉛のように重くなった腕はピクリとも動かない。
「この程度なのか?私の仲間を傷つけた貴様の実力というやつは!?」
憎悪と怨恨を表す二つの銃口が向けられた。
俺は、そんな復讐で業を煮やす彼の姿に既視感を覚える。
あぁ……そうか……
彼の言葉に、感情に、思いに、先に感じた違和感の正体にようやく気づく。
同じなんだ、コイツと俺は。
電話の時に感じたのと同じ、コイツは立場が違うだけで俺と同じ。
使命に身を焦がし、仲間の身を案じ、仕える者へと誠意を示す。
違うのは思想だけ。
でも、もし本当にそうだとしたら、尚のこと引くことはできない。
俺にも果たすべき使命がある。
オオカミに呼応するように、俺も左腕一本で銃を構える。
「まだ抵抗するか……そのボロボロの身体で」
「当たり……まえだろ……ッ」
「分かっているんだぞ、もう貴様が替えのマガジンを持っていないことも、その銃口にあと一発しか入っていないことも」
「お前だって……残っているのは今構えている一発ずつだろ……」
弾数を数えていたのはお前だけじゃない。
「だが、それでも二発。最後の銃弾を弾いた瞬間がお前の最期」
オオカミは肩幅程に足を開き、照準を定める。
下手に躱して跳弾などの間違いが起きないように、または、完全な勝利を掴むために、俺の銃口に意識を集中させ、最後の銃弾が放たれるのをじっと待つ。
その立ち振る舞いは、まるで居合を構える武士のよう。
「まだその右手や左眼が使えれば私に一矢報いることができたかもしれない……だが、たった一本の腕ではどうすることもできない。外にいる貴様の仲間達も今でこそ優勢だが、呼びつけた援軍が到着すればすぐに抑えることができる。小学生でもできる単純計算だ。結局のところ数に勝るものは無いんだ……」
まるでそれが世界の理でもあるかのように語るオオカミ。
その表情に、驕りは一片もない。
いつの間にか、外の喧騒も収まりだしていたのと合わせて静まり返る会議室。
俺はつい耐え切れなくなって……
「……何が可笑しい?」
絶望的な状況で笑っていた俺に、オオカミが訝る。
「お前の頭が見た目通りの石頭だったってことに……な」
決して言っていることは間違っていない。
普通に計算すれば一が二に勝てる道理は無い。
だが、それはあくまで一という概念が全て同一であればの話しだ。
この世にな、百に勝る一があれば、一に劣る百もある。
少数の俺達が数多の敵を相手取ってきたようにな。
それになオオカミ。
やはりお前は大きな勘違いをしている。
「私のこの頭を笑った罪はデカいぞ……」
オオカミの両の人差し指に力が篭められる。
僅か七~八メートルという近距離で二発。
もう俺に躱すほどの体力は残っていない。
赦されたのは、この引き金を引くことのみ。
右手が使えない?左眼が見えない?
それがどうした……
連中が世界の警察を名乗っているように、こっちだって世界一の部隊を名乗っているんだ。
これくらいのハンデがあって当然だろ!
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