SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
上 下
219 / 361
月下の鬼人(ワールドエネミー)下

at gunpoint (セブントリガー)1

しおりを挟む
 ────部隊編成から一年後。

 アメリカ、ネバダ州。

「十一時の方角から新手のキャリーが二台!ターゲットGに指定!」

 荒野を駆ける六両編成列車上。
 漆黒の野戦服に身を包み、髪と新装備の濃緑色のポンチョをはためかせる俺は、砂埃を上げてこちらに肉薄しようとする敵車両を見て叫ぶ。

『おいおい、ちと団体客が過ぎるんじゃないか?フォルテトリガー1

 運転席でこの車両を操作していたレクストリガー5のボヤキが返ってくる
 米軍核廃棄列車。
 原発、核弾頭などで使用していた劣化ウランを極秘に運び出すためのディーゼル式電気車両。見た目は運行、及び事故時の衝撃吸収用の前後車両だけ見れば普通だが、間に挟まれた四両にはコンテナサイズの巨大容器。
 内部にはステンレス鋼に放射遮蔽版が巻かれ、黒い外装は日差しでギラギラと輝く様は、どこか抑圧的なものを感じる。
 確認こそしていない(できるわけがない)が、この中全てにウランが敷き詰められていると思うと改めてゾッとする。

「……敵が多いのはいつものことだろ?アトミック・トレインのようにブレーキが壊れてないだけマシだと思え」

 背後から、インカムと肉声の声が同時に耳に届く。
 すっかり慣れた様子の流暢りゅうちょうな英語。
 振り返るとそこには俺と同じ格好をした東洋人の青年が佇んでいた。

「そっちは片付いたのか?」

 後方で別部隊を対処していたアキラトリガー2が、頬に付いた煤を払う。

「いや、後続の部隊はロナトリガー3ベルトリガー6に任せた」

 アンタ一人じゃ手に余ると思ってな。この部隊で俺の次にNo.ナンバーを持つ副隊長は、ウランコンテナを前にしても不敵な笑みを浮かべていた。
 全く、自分の部下ながら頼もしい限りだな……
 頬の端が吊り上がるのを抑えながら、軽く鼻を鳴らす。

「別にあの程度の連中、俺一人で事足りる」

 相棒を左手で制す。
 今の俺にはこいつもあるしな。
 新しい左腕とマッドブラックの45口径。
 肘から先に取り付けられているのは、メカニックにも詳しいロナと共に設計した義手だ。
 見た目こそ本物と瓜二つだが、中身は無数の金属や精密機器で構成され、最新型の脳波を読み取るタイプを採用している。
 強度もそれなりで、ハンドガン程度なら弾くことができる。
 そして、その手に持つ銃も新しく設計オーダーメイドしたものだ
 ベースは長年愛用してきたM1911コルトガバメントだが、一つ一つのパーツを精製リファインしたものだ。
 その使い心地はまるで、自分の体と同化してしまったのではと錯覚するほど、精巧に作られていたその銃の名は『コルト・カスタム』
 コイツならどんな的すら外す気がしなかった。

「それよりも大丈夫か?あのやんちゃ二人に任せて?」

 列車後方、断続的に聞こえてくる銃撃音の方へ眼をやる。
 前後はただの列車だ。
 ウランコイツを奪いに来ただけあって、側面の二両目から五両目にはあまり手を出さない。その分列車に張り付くか、停車させるため前後に攻撃が集中しており、ロナ達は後方を対処するかわりに、俺は前方の二車両で待機していたんだが。

「問題ないだろ、ふざけているのがデフォルトの連中だが、この程度の仕事はキッチリこなすだろ」

 アキラは特に心配した様子もなく肩を竦めた。

「いや違う、そっちじゃない────」

 ドガアアアァァァァァァァン!!!!

 後方で上がる火柱の先でSUVが空に舞う。
 たくっ……言わんこっちゃない……

『ひゃっはー!!大当たりボナンザにゃ!!』

『あぁ!ズルいッ!あれロナちゃんの獲物だったのに!』

 嘆息に混じって戦闘中とは思えない能天気な会話が耳に届く。

「俺が心配しているのは敵の方だ」

「あー……確かにそれは一理あるな……」

 後方を追尾していたピックアップキャリアに、隕石の如く落下したSUVとクラッシュした様に、頭を抱える俺と肩を竦めるアキラ。
 あれでほんとにを守れているのか心配でならない……
 無意識に首元のチョーカーに指を充てる。
 こっちは見ているだけで首が締まる気分だよ。

『ねえダーリン!ベルトリガー6がロナの獲物取るんだけど?』

 顔を見てなくても膨れっ面が眼に浮かぶような声で愚痴るロナ。
 出会ったときは大人しく控え気味だった彼女は、俺が負傷したあの日を境にベルのようなやんちゃで人懐っこい性格へと変化していた。
『周りを気にせず、お前の好きなように生きてみろ』という俺の言葉に、真剣に向き合った彼女なりの答えなのだろうが、少しはっちゃけすぎではと正直思う。
 でもアイツなりに人生を謳歌している姿は、頭を下げて自分を偽っていた時よりもずっと輝いていて、なにより本人が一番楽しそうだ。
 ただ……俺のことをダーリン呼びするのだけは勘弁願いたい。

「ダーリンは止めろ、あとあんま派手にやり過ぎるなよ。敵さんにも基本的人権って言う神様が存在するんだから……またアイツにどやされても知らないぞ?」

『オッケーダーリン!要はいつも通り、だね!』

 全然オッケーじゃない。
 しかも言ったそばからダーリン言ってるし。
 明るくなった分、馬鹿さが増したように感じるのは気のせいか?

『ゴラアアアアアッ!!!!』

 晴天の霹靂のような怒号が鼓膜を刺激する。
 言わんこっちゃない。
 うちの風紀委員長様のご到着だ。
 パラシュートで空から降ってきたのは、ピンク髪が特徴の少女。
 トリガー4ことうちの切り込み隊長リズが、優雅とは程遠い荒々しい様子で列車へと降り立つ。

「早かったな、そっちの仕事はもう片付いたのか?」

 少し長くなったピンクの髪をかき上げるリズを横目に俺が訊ねる。

「当然よ。キッチリ潰してきたわ」

 列車前方の待ち伏せ部隊を始末してきたリズは、得意げに鼻を鳴らす。
 最初のころはコミュニケーションを取ることすら困難だった少女が、今では会話はおろか、こうして豊かな表情を見せるくらいになったことは、彼女の劇的な成長の軌跡を表していた。

「後始末が済んだらシャドートリガー7も帰ってくるわ、で?私はどうすればいいのかしら?」

 ただ闇雲に突き進むことしかしなかったはずの少女が指示を仰ぐ。
 凛々しさに満ちたその表情に、迷いの二文字は皆無だった。

「好きにしろ、お前はお前の為すべきことを為せ」

「分かったわ」

 頷いた少女は後方へと振り返り。

「あの二人は私に任せない」

 そして、意気揚々とした様子でコンテナ群を走り出した。

「ゴラアアアアアッ!!!!あれだけ私がいない間ははしゃぐなって言ったでしょッ!!」

 泣いている子供が大泣きするような大喝を上げながら……

『や、やばいにゃやばいにゃ……ピンクの悪魔が返ってきたにゃ!』

『あ、慌てることなんてわベル、ロナちゃん達は別に悪いことなんてなにも────』

『全部無線で丸聞こえよ!!このおバカッ!!』

 はぐらかそうとしたことが逆鱗に触れたらしい。
 相変わらず闘牛の如き猛進で駆け寄るリズに、二人の悲鳴が上がる。
 ロナがバカっぽくなった分、優等生のリズと衝突することは最近よくあることだが……
 アイツなりに仲間として気遣っているのだろう。
 端から見れば仲睦なかむつまじい姉妹に見えなくもないが……

『フンッ!!』

『ぐはッ!?』

 無線越しにも響く鈍い打撃音と悶絶。
 まあ……殺人級の打撃を猛然と叩き込むことを除けば……な。

『あぁ!ベルがボディ一発で空中を一回転した!?ちょッ!?リズリーどうしてロナちゃんの方にも────!』

 断末魔の悲鳴。
 俺とアキラはそっとインカムから手を離した。

「さぁ!行くぜ相棒!」

「おうよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~

花田 一劫
歴史・時代
東北大地震が発生した1週間後、小笠原清秀と言う青年と長岡与一郎と言う老人が道路巡回車で仕事のために東北自動車道を走っていた。 この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。 長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。 ~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。 船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。 輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。 その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。 それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。 ~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。 この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。 桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...