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月下の鬼人(ワールドエネミー)下
at gunpoint (セブントリガー)1
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────部隊編成から一年後。
アメリカ、ネバダ州。
「十一時の方角から新手のキャリーが二台!ターゲットGに指定!」
荒野を駆ける六両編成列車上。
漆黒の野戦服に身を包み、髪と新装備の濃緑色のポンチョをはためかせる俺は、砂埃を上げてこちらに肉薄しようとする敵車両を見て叫ぶ。
『おいおい、ちと団体客が過ぎるんじゃないか?フォルテ』
運転席でこの車両を操作していたレクスのボヤキが返ってくる
米軍核廃棄列車。
原発、核弾頭などで使用していた劣化ウランを極秘に運び出すためのディーゼル式電気車両。見た目は運行、及び事故時の衝撃吸収用の前後車両だけ見れば普通だが、間に挟まれた四両にはコンテナサイズの巨大容器。
内部にはステンレス鋼に放射遮蔽版が巻かれ、黒い外装は日差しでギラギラと輝く様は、どこか抑圧的なものを感じる。
確認こそしていない(できるわけがない)が、この中全てにウランが敷き詰められていると思うと改めてゾッとする。
「……敵が多いのはいつものことだろ?アトミック・トレインのようにブレーキが壊れてないだけマシだと思え」
背後から、インカムと肉声の声が同時に耳に届く。
すっかり慣れた様子の流暢な英語。
振り返るとそこには俺と同じ格好をした東洋人の青年が佇んでいた。
「そっちは片付いたのか?」
後方で別部隊を対処していたアキラが、頬に付いた煤を払う。
「いや、後続の部隊はロナ、ベルに任せた」
アンタ一人じゃ手に余ると思ってな。この部隊で俺の次にNo.を持つ副隊長は、ウランコンテナを前にしても不敵な笑みを浮かべていた。
全く、自分の部下ながら頼もしい限りだな……
頬の端が吊り上がるのを抑えながら、軽く鼻を鳴らす。
「別にあの程度の連中、俺一人で事足りる」
相棒を左手で制す。
今の俺にはこいつもあるしな。
新しい左腕とマッドブラックの45口径。
肘から先に取り付けられているのは、メカニックにも詳しいロナと共に設計した義手だ。
見た目こそ本物と瓜二つだが、中身は無数の金属や精密機器で構成され、最新型の脳波を読み取るタイプを採用している。
強度もそれなりで、ハンドガン程度なら弾くことができる。
そして、その手に持つ銃も新しく設計したものだ
ベースは長年愛用してきたM1911だが、一つ一つのパーツを精製したものだ。
その使い心地はまるで、自分の体と同化してしまったのではと錯覚するほど、精巧に作られていたその銃の名は『コルト・カスタム』
コイツならどんな的すら外す気がしなかった。
「それよりも大丈夫か?あのやんちゃ二人に任せて?」
列車後方、断続的に聞こえてくる銃撃音の方へ眼をやる。
前後はただの列車だ。
ウランを奪いに来ただけあって、側面の二両目から五両目にはあまり手を出さない。その分列車に張り付くか、停車させるため前後に攻撃が集中しており、ロナ達は後方を対処するかわりに、俺は前方の二車両で待機していたんだが。
「問題ないだろ、ふざけているのがデフォルトの連中だが、この程度の仕事はキッチリこなすだろ」
アキラは特に心配した様子もなく肩を竦めた。
「いや違う、そっちじゃない────」
ドガアアアァァァァァァァン!!!!
後方で上がる火柱の先でSUVが空に舞う。
たくっ……言わんこっちゃない……
『ひゃっはー!!大当たりにゃ!!』
『あぁ!ズルいッ!あれロナちゃんの獲物だったのに!』
嘆息に混じって戦闘中とは思えない能天気な会話が耳に届く。
「俺が心配しているのは敵の方だ」
「あー……確かにそれは一理あるな……」
後方を追尾していたピックアップキャリアに、隕石の如く落下したSUVとクラッシュした様に、頭を抱える俺と肩を竦めるアキラ。
あれでほんとにこの隊の制約を守れているのか心配でならない……
無意識に首元のチョーカーに指を充てる。
こっちは見ているだけで首が締まる気分だよ。
『ねえダーリン!ベルがロナの獲物取るんだけど?』
顔を見てなくても膨れっ面が眼に浮かぶような声で愚痴るロナ。
出会ったときは大人しく控え気味だった彼女は、俺が負傷したあの日を境にベルのようなやんちゃで人懐っこい性格へと変化していた。
『周りを気にせず、お前の好きなように生きてみろ』という俺の言葉に、真剣に向き合った彼女なりの答えなのだろうが、少しはっちゃけすぎではと正直思う。
でもアイツなりに人生を謳歌している姿は、頭を下げて自分を偽っていた時よりもずっと輝いていて、なにより本人が一番楽しそうだ。
ただ……俺のことをダーリン呼びするのだけは勘弁願いたい。
「ダーリンは止めろ、あとあんま派手にやり過ぎるなよ。敵さんにも基本的人権って言う神様が存在するんだから……またアイツにどやされても知らないぞ?」
『オッケーダーリン!要はいつも通り、だね!』
全然オッケーじゃない。
しかも言ったそばからダーリン言ってるし。
明るくなった分、馬鹿さが増したように感じるのは気のせいか?
『ゴラアアアアアッ!!!!』
晴天の霹靂のような怒号が鼓膜を刺激する。
言わんこっちゃない。
うちの風紀委員長様のご到着だ。
パラシュートで空から降ってきたのは、ピンク髪が特徴の少女。
トリガー4ことうちの切り込み隊長リズが、優雅とは程遠い荒々しい様子で列車へと降り立つ。
「早かったな、そっちの仕事はもう片付いたのか?」
少し長くなったピンクの髪をかき上げるリズを横目に俺が訊ねる。
「当然よ。キッチリ潰してきたわ」
列車前方の待ち伏せ部隊を始末してきたリズは、得意げに鼻を鳴らす。
最初のころはコミュニケーションを取ることすら困難だった少女が、今では会話はおろか、こうして豊かな表情を見せるくらいになったことは、彼女の劇的な成長の軌跡を表していた。
「後始末が済んだらシャドーも帰ってくるわ、で?私はどうすればいいのかしら?」
ただ闇雲に突き進むことしかしなかったはずの少女が指示を仰ぐ。
凛々しさに満ちたその表情に、迷いの二文字は皆無だった。
「好きにしろ、お前はお前の為すべきことを為せ」
「分かったわ」
頷いた少女は後方へと振り返り。
「あの二人は私に任せない」
そして、意気揚々とした様子でコンテナ群を走り出した。
「ゴラアアアアアッ!!!!あれだけ私がいない間ははしゃぐなって言ったでしょッ!!」
泣いている子供が大泣きするような大喝を上げながら……
『や、やばいにゃやばいにゃ……ピンクの悪魔が返ってきたにゃ!』
『あ、慌てることなんてわベル、ロナちゃん達は別に悪いことなんてなにも────』
『全部無線で丸聞こえよ!!このおバカッ!!』
はぐらかそうとしたことが逆鱗に触れたらしい。
相変わらず闘牛の如き猛進で駆け寄るリズに、二人の悲鳴が上がる。
ロナがバカっぽくなった分、優等生のリズと衝突することは最近よくあることだが……
アイツなりに仲間として気遣っているのだろう。
端から見れば仲睦まじい姉妹に見えなくもないが……
『フンッ!!』
『ぐはッ!?』
無線越しにも響く鈍い打撃音と悶絶。
まあ……殺人級の打撃を猛然と叩き込むことを除けば……な。
『あぁ!ベルがボディ一発で空中を一回転した!?ちょッ!?リズリーどうしてロナちゃんの方にも────!』
断末魔の悲鳴。
俺とアキラはそっとインカムから手を離した。
「さぁ!行くぜ相棒!」
「おうよ!」
アメリカ、ネバダ州。
「十一時の方角から新手のキャリーが二台!ターゲットGに指定!」
荒野を駆ける六両編成列車上。
漆黒の野戦服に身を包み、髪と新装備の濃緑色のポンチョをはためかせる俺は、砂埃を上げてこちらに肉薄しようとする敵車両を見て叫ぶ。
『おいおい、ちと団体客が過ぎるんじゃないか?フォルテ』
運転席でこの車両を操作していたレクスのボヤキが返ってくる
米軍核廃棄列車。
原発、核弾頭などで使用していた劣化ウランを極秘に運び出すためのディーゼル式電気車両。見た目は運行、及び事故時の衝撃吸収用の前後車両だけ見れば普通だが、間に挟まれた四両にはコンテナサイズの巨大容器。
内部にはステンレス鋼に放射遮蔽版が巻かれ、黒い外装は日差しでギラギラと輝く様は、どこか抑圧的なものを感じる。
確認こそしていない(できるわけがない)が、この中全てにウランが敷き詰められていると思うと改めてゾッとする。
「……敵が多いのはいつものことだろ?アトミック・トレインのようにブレーキが壊れてないだけマシだと思え」
背後から、インカムと肉声の声が同時に耳に届く。
すっかり慣れた様子の流暢な英語。
振り返るとそこには俺と同じ格好をした東洋人の青年が佇んでいた。
「そっちは片付いたのか?」
後方で別部隊を対処していたアキラが、頬に付いた煤を払う。
「いや、後続の部隊はロナ、ベルに任せた」
アンタ一人じゃ手に余ると思ってな。この部隊で俺の次にNo.を持つ副隊長は、ウランコンテナを前にしても不敵な笑みを浮かべていた。
全く、自分の部下ながら頼もしい限りだな……
頬の端が吊り上がるのを抑えながら、軽く鼻を鳴らす。
「別にあの程度の連中、俺一人で事足りる」
相棒を左手で制す。
今の俺にはこいつもあるしな。
新しい左腕とマッドブラックの45口径。
肘から先に取り付けられているのは、メカニックにも詳しいロナと共に設計した義手だ。
見た目こそ本物と瓜二つだが、中身は無数の金属や精密機器で構成され、最新型の脳波を読み取るタイプを採用している。
強度もそれなりで、ハンドガン程度なら弾くことができる。
そして、その手に持つ銃も新しく設計したものだ
ベースは長年愛用してきたM1911だが、一つ一つのパーツを精製したものだ。
その使い心地はまるで、自分の体と同化してしまったのではと錯覚するほど、精巧に作られていたその銃の名は『コルト・カスタム』
コイツならどんな的すら外す気がしなかった。
「それよりも大丈夫か?あのやんちゃ二人に任せて?」
列車後方、断続的に聞こえてくる銃撃音の方へ眼をやる。
前後はただの列車だ。
ウランを奪いに来ただけあって、側面の二両目から五両目にはあまり手を出さない。その分列車に張り付くか、停車させるため前後に攻撃が集中しており、ロナ達は後方を対処するかわりに、俺は前方の二車両で待機していたんだが。
「問題ないだろ、ふざけているのがデフォルトの連中だが、この程度の仕事はキッチリこなすだろ」
アキラは特に心配した様子もなく肩を竦めた。
「いや違う、そっちじゃない────」
ドガアアアァァァァァァァン!!!!
後方で上がる火柱の先でSUVが空に舞う。
たくっ……言わんこっちゃない……
『ひゃっはー!!大当たりにゃ!!』
『あぁ!ズルいッ!あれロナちゃんの獲物だったのに!』
嘆息に混じって戦闘中とは思えない能天気な会話が耳に届く。
「俺が心配しているのは敵の方だ」
「あー……確かにそれは一理あるな……」
後方を追尾していたピックアップキャリアに、隕石の如く落下したSUVとクラッシュした様に、頭を抱える俺と肩を竦めるアキラ。
あれでほんとにこの隊の制約を守れているのか心配でならない……
無意識に首元のチョーカーに指を充てる。
こっちは見ているだけで首が締まる気分だよ。
『ねえダーリン!ベルがロナの獲物取るんだけど?』
顔を見てなくても膨れっ面が眼に浮かぶような声で愚痴るロナ。
出会ったときは大人しく控え気味だった彼女は、俺が負傷したあの日を境にベルのようなやんちゃで人懐っこい性格へと変化していた。
『周りを気にせず、お前の好きなように生きてみろ』という俺の言葉に、真剣に向き合った彼女なりの答えなのだろうが、少しはっちゃけすぎではと正直思う。
でもアイツなりに人生を謳歌している姿は、頭を下げて自分を偽っていた時よりもずっと輝いていて、なにより本人が一番楽しそうだ。
ただ……俺のことをダーリン呼びするのだけは勘弁願いたい。
「ダーリンは止めろ、あとあんま派手にやり過ぎるなよ。敵さんにも基本的人権って言う神様が存在するんだから……またアイツにどやされても知らないぞ?」
『オッケーダーリン!要はいつも通り、だね!』
全然オッケーじゃない。
しかも言ったそばからダーリン言ってるし。
明るくなった分、馬鹿さが増したように感じるのは気のせいか?
『ゴラアアアアアッ!!!!』
晴天の霹靂のような怒号が鼓膜を刺激する。
言わんこっちゃない。
うちの風紀委員長様のご到着だ。
パラシュートで空から降ってきたのは、ピンク髪が特徴の少女。
トリガー4ことうちの切り込み隊長リズが、優雅とは程遠い荒々しい様子で列車へと降り立つ。
「早かったな、そっちの仕事はもう片付いたのか?」
少し長くなったピンクの髪をかき上げるリズを横目に俺が訊ねる。
「当然よ。キッチリ潰してきたわ」
列車前方の待ち伏せ部隊を始末してきたリズは、得意げに鼻を鳴らす。
最初のころはコミュニケーションを取ることすら困難だった少女が、今では会話はおろか、こうして豊かな表情を見せるくらいになったことは、彼女の劇的な成長の軌跡を表していた。
「後始末が済んだらシャドーも帰ってくるわ、で?私はどうすればいいのかしら?」
ただ闇雲に突き進むことしかしなかったはずの少女が指示を仰ぐ。
凛々しさに満ちたその表情に、迷いの二文字は皆無だった。
「好きにしろ、お前はお前の為すべきことを為せ」
「分かったわ」
頷いた少女は後方へと振り返り。
「あの二人は私に任せない」
そして、意気揚々とした様子でコンテナ群を走り出した。
「ゴラアアアアアッ!!!!あれだけ私がいない間ははしゃぐなって言ったでしょッ!!」
泣いている子供が大泣きするような大喝を上げながら……
『や、やばいにゃやばいにゃ……ピンクの悪魔が返ってきたにゃ!』
『あ、慌てることなんてわベル、ロナちゃん達は別に悪いことなんてなにも────』
『全部無線で丸聞こえよ!!このおバカッ!!』
はぐらかそうとしたことが逆鱗に触れたらしい。
相変わらず闘牛の如き猛進で駆け寄るリズに、二人の悲鳴が上がる。
ロナがバカっぽくなった分、優等生のリズと衝突することは最近よくあることだが……
アイツなりに仲間として気遣っているのだろう。
端から見れば仲睦まじい姉妹に見えなくもないが……
『フンッ!!』
『ぐはッ!?』
無線越しにも響く鈍い打撃音と悶絶。
まあ……殺人級の打撃を猛然と叩き込むことを除けば……な。
『あぁ!ベルがボディ一発で空中を一回転した!?ちょッ!?リズリーどうしてロナちゃんの方にも────!』
断末魔の悲鳴。
俺とアキラはそっとインカムから手を離した。
「さぁ!行くぜ相棒!」
「おうよ!」
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