SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
上 下
200 / 361
月下の鬼人(ワールドエネミー)上

maintenance(クロッシング・アンビション)3

しおりを挟む
「こ、今回の作戦は、テログループ組織における、核弾頭の回収、及び製造工場の破壊が目的です!」

 アフリカ大陸上空。
 夜中の輸送機内にロナの声が響く。
 最近では、海外派遣が当たり前になっていたことに対し文句を言う者は皆無だった。
 そして、もう一人の人格でないと戦闘が不得手なため、作戦時は主にバックアップを担当する彼女の緊張した声も、すっかり聴き馴染んでいる。
 他の隊員達も、装備を確認しながら、そんな彼女の声に耳を傾けている。

「建物は地上四階、地下一階、問題はこの地下一階に輸送用の地下鉄が掘られていることです」

「でもそれは南アフリカ国防軍特殊部隊旅団(レキ)の連中が抑えてくれるんでしょ?」

 こすれ傷のあるニーパッドを装着しながらリズが呟く。
 身体が重くなると嫌う人もいるが、スライディングなどで敵との距離を詰めるリズにとって、とても重要な装備だ。

「一応は、そうなってます。ただし、どんな不足自体が起こるか分かりません、彼らが失敗することも視野に入れ、作戦に臨んでください」

 今回の作戦は、現地の特殊部隊と協力して行うことになっていた。
 協力とはいっても、連中とは顔もあわせたこともないので、普通の専門業者と同じで書類やメールでやり取りをした程度の仲だが。

「……ッ……りょーかい……にゃ、作戦のフォーメーションはBかにゃ?」

 メロンのような胸が引っかかるのか、ベルが着にくそうにプレートキャリアを装着している。
 魔術で銃を生成するというチート持ちのベルは、他の連中に比べて比較的軽装だが、苦手な近距離戦を克服するため、今では本物(?)のハンドガンを装備している。
 腕はまだまだだが、俺の指導の甲斐あって、今では七メートル範囲は当てることができる。

「いえ、今回は誘爆の可能性を少しでも下げるため、フォーメーションCです。核弾頭なんて今時古いですが、それでも侮ることはできない。引火させれば私達どころか、レキの方々も吹っ飛ばしかねませんからね……」

 今ではフォーメンションを多少意識して動けるようになった隊員達。
 戦場は何が起こるか分からない。
 マニュアルなんてものは存在しない。
 故に簡単ではあるが、いくつかのパターンを設定し、状況によって臨機応変に対応するよう指導してある。
 ちなみにフォーメーションBは、前線、アキラ、リズ、ベル、中衛、俺、シャドー、後衛、ロナ、レクス、の通常形態となっていて、Cは俺とベルの役割が入れ替わる形になっている。
 まあ……誰とは言わないが、

「アンタこの私に後方に下がれって言うの!?男の分際でッ!」

「おいおい隊長、俺が前線に出ても大して敵を倒せないぞ?……それに臭いがつく」

「……」

 と、文句の多い奴と、文句すら言えない奴がいるため、それ以外が動くだけの本当に簡単なものだ。

「にしてもよ、今のロナの話しじゃないが、今時のテロ組織は核弾頭なんて扱っているところ本当にあるんだな……魔術爆弾の方がよっぽど扱いやすくていいと思うんだけどな……」

 輸送機を運転していたレクスが会話に割り込んできた。

「多分、コスト面を考慮しても、威力を上げたかったんじゃないかな……今回の敵である、「H.Aヘルズエンジェル」は、ここ最近かなり活発で有名だけど、そのことごとくが敗戦。組織のリーダーが焦った挙句、状況を変える切り札として、低コスト低威力の魔術爆弾ではなく、高コスト高威力の核弾頭を作らせたのかも……」

 確かに魔術爆弾は、簡易式のものだと起爆剤代わりの魔術と燃料で作れてしまう反面、威力はピンキリだ。その分、核弾頭の威力は絶対的な保証がある。
 って、あれ?
 いまコイツ……何て言った……
 H.Aヘルズエンジェルの活発?組織のリーダーだと?

「ちょっと待て、H.Aヘルズエンジェル敗戦?そんな話し一度も聞いたことないぞ?」
 レクスが運転席から振り返る。
 俺もそんな話しは一切聞いてない。
 大体、今回の相手がH.Aヘルズエンジェルだということも初耳だぞ。

「あ、あぁ……ごめんレクス。今の情報は私がネットで知ったものだから……」

「ネット……だと?」

 さらっと告げたロナ。
 そんなことまで調べられるのか……
 情報社会ってこえーな……

「うん、ダークウェブサイトとか色々使ってね……言っても、購買記録とかの情報を総括した、私の憶測も多少入ってるから……確実とは言い切れないけど……」

 えへへっ……と、いたずらがバレてしまった子供のように、銀髪の先を遊ばせ、気恥ずかしそうに答えたロナ。そのうち、俺のプライベートまで覗かれそうで怖いな。
 見せるほどのプライベートなんて無いけど……

「だ、だとしてもよ……あんな運用しにくい殺戮兵器使って、一体何を攻撃したいんだか……どこかの国でも滅ぼしたいのか?」

「それが……不思議なことに敵対してるのは「一人」みたいなんだよね……」

「一人?なんじゃそりゃ?」

 バカげた冗談のような話しに、レクスが鼻で笑う。
 だが、ロナは至って真面目な表情のまま続ける。

「うん、嘘みたいな話しだけど……最近H,A内で頻繁に上がっている名前があるの、確か「紫水晶の豹アメジストランパード」だったかな……」

 一度も聞いたことのない通り名だ。
 そいつが一体何が目的でH・Aに敵対しているかは知らんが、おかげでこうして俺達が駆り出される羽目になるとは……
 全く、傍迷惑な奴もいたもんだ。

「ほんとッ……男の考えるようなことは本当に愚かね、幾ら強力でもたかが一人でしょ?それこそ魔術爆弾の方が効果的だと私も思うわ。数年前にも何回かあったじゃない。アメリカで魔術爆弾が使われたテロ」

「何回か……?」

 俺の知っている有名な爆破テロは一つしかない。
 数年前にあったアメリカ連続テロ爆破事件。
 機密性の高い爆弾を使った巧妙な手口で、次々とアメリカの主要箇所を爆破した事件は、世間から身を引いていた俺でも知っているほど有名だ
 なんせ、その結果が今の社会。危険な魔術に対抗すべく、世界的に銃の使用が緩和された社会だ。
 しかし、その事件自体は割と耳に新しいだが……それ以外の事件なんて知らないし、聞いたこともなかった。


「あーあれだろ?模倣犯か何かが似たような手口で大使館に爆弾を仕掛け、起爆させる寸前で止めたやつな。あれって確か、アジア人の二人組とかで、まだ捕まってないんじゃなかったか?」

「う、うん……レクスの言っているのは「アメリカ大使館爆破未遂テロ事件」だね。確か……ロシア、中国の大使館が標的にされたんだよね……わ、私は詳しく知らないけど……」

 そう思った俺とは対照的に、皆がそれを知っているような表情で話しを進めている。
 その時、雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡った。
 もしやこれが、若者の話しについていけない老人……って奴のなのか!?
 思わず真顔になる俺。
 いざ経験してみると、そのショックはデカい。かなりデカい。
 sのせいで俺は、一言も発してなかったアキラだけが、一瞬だけピクリッ……と身体を反応させたことに気づかなかった。

「アジア人の二人組ねぇ……」

 流し目でリズが俺とアキラを見る。

「な、なんだよ?俺達がやったとでも言いたいのか?」

 ジェネレーションギャップのようなものを勝手に感じていた俺が、バツの悪そうな眼つきで見返してやる。

「……下らねえ……」

 隣に座っていたアキラは短くそう告げた。
 以前のやんちゃさは消え失せ、据えた瞳でMP7の弾薬を数えている。
 あれ以来、任務中はずっとこんな調子だ。

「べっつにー……男って基本バカばっかりだから、まさかって思っただけよ?」

 プイッとピンクの瞳を逸らし、リズは軽く鼻を鳴らす。
 男という理由だけでなく、単純にアキラのしけた態度が気に入らないのだろう。
 しかし、あからさまな挑発にも関わらず、アキラは反応しない。
 誰も何も発しない、気まずい空気が輸送機を包み込む────

「……で、でも、二人は模倣犯じゃないよ。そのアジア人の二人組は、確か男女組だったし……だから……」

 ロナにしては珍しく必死になって否定する様に、リズは大袈裟な嘆息を漏らす。

「冗談よ、何でアンタがそんなに動揺してんのよロナ。あと、言いたいことがあるならハッキリと言いなさい!後半の方は小さすぎて何て言ってるか分からなかったわよ?」

 場の空気を緩和させようとしたロナのおかげで、何とか沈黙を破ることができたが……
 やっぱり……隊の雰囲気が悪くなっているな……
 どうしたものか……と悩む俺は、その元凶とも言える人物の方に目をやる。
 俺の隣、右隣のアキラとは反対、輸送機のベンチに腰かけていたシャドー。
 もともと存在が装備装着済みであるシャドーは、腕組したまま動かない。
 コイツ……起きているのか?
 微動だにしないシャドーにそぉーと手を伸ばすと────

 ぺチンッ……!

「イテッ……!?」

 手を叩かれた。
 動作なしで。
 コイツ……ッ!

 それでも無言で触れようとすると────

 ぺチぺチベチッ!

 全部叩き落とされる。
 イラッ……
 ムキになった俺がまた手を出そうとしたところで……

 スッ────

 シャドーが人差し指を立てた。

『しつこい』

 俺の眼前、シャドーは右手でそう答えてから、

『あと、それ、ギャップじゃない』

 と、手話で表現してきた。
 どういう意味だ……?
 想像力の乏しい俺には、手話は難しくて困るな……

「隊長!戯れもいいが!そろそろ降下地点に到着するぞ!」

 隊の空気に張りを持たせるため、レクスから檄が飛ぶ。

「よぉしッ!!各隊員ッ!!降下準備ッ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~

花田 一劫
歴史・時代
東北大地震が発生した1週間後、小笠原清秀と言う青年と長岡与一郎と言う老人が道路巡回車で仕事のために東北自動車道を走っていた。 この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。 長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。 ~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。 船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。 輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。 その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。 それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。 ~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。 この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。 桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...