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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》15
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アキラと同じくらい────いや、それ以上に真っ黒い格好の人物。
全身を強化骨格のような黒い鎧。武士の甲冑を近未来化させたような、ナチュラルなフォルム。顔にも戦闘機乗りが被るような漆黒のフルフェイスマスクを装着し、ミラーシールドのされた目元には、無様なアキラの姿が反射していた。
身長はベルくらいだが、人種どころか性別すら分からないアメコミヒーローのような出で立ちのそいつは、刀身が短い刀────忍者刀を一本装備していた。
「姑息な剣術ばっか使いやがって……ッ!まともにやり合う気があるのかッ!?」
アキラが激昂する中、黒ずくめの人物は肩を竦めて首を傾げる。
『何を言っているの?』と言わんばかりのポーズだ。
「ざけんなぁッ!!」
両手に持ったオートクレールを下段に構えたアキラが突っ込む。
大剣の重さを感じさせない勢いで、地面すれすれから斬り上げた一撃を黒ずくめは難なく交わす。
空ぶった大剣が大気を震わせる。
数十メートル離れている俺達のところまで風圧が来そうなくらいの勢い。それだけアキラが本気であることが伝わる。
「このッ!」
空ぶった勢いを殺さずに、くるりと身体を回しながら放った横薙ぎも、隙を無くすために振るった蹴りも、黒ずくめは難なく躱していく。
軽い────重さのある連撃を、軽やかなステップを踏む黒ずくめの動きは軽い。
それは決して身体に装着している装備のおかげではない。
寧ろその逆。あの装備は見たところ、何の仕掛けも施されていないただの防護具だ。それを全身に付けるとなると、その重量はフル装備の兵士以上のものだろう。
そんなハンデがありながら、奴はあれだけの連撃を余裕で躱しているのだ。
タダものではない……
そして、表情が見えないことがまた質が悪い。
何を考えているのか分からないその動きは、まるで幽霊を見ているようだった。
「グッ……!」
大剣を空ぶった隙に、背後を取られたアキラが、黒ずくめに蹴り飛ばされた。
野太い歓声が前後左右から響く。
決着かと思ったが、地面に倒れたアキラを黒ずくめは追撃しない。
クイクイッ
代わりに忍者刀を持っていない左手で『かかってこい』とジェスチャーした。
完全に格が違う。
俺が本気でやって勝てるかどうか……
「隊長……どうすんだよ……!?」
俺のすぐ近くで様子を見ていたレクスが急き立てる。
しかし、助けに行こうにも目の前の海兵隊員達が邪魔で近寄ることさえできない……
決断に迷う俺を他の隊員達がのぞき込む中────野太い兵士達の歓声が沸き上がった。
視線を中央に戻すと、さっきまで躱してばかりだった黒ずくめが、今度は忍者刀を使ってアキラと切り結んでいた。
アキラの繰り出す重撃を、丁寧に忍者刀で受け止める黒ずくめ。
それを「ジャパニーズチャンバラ」、「ニンジャ」、「サムライ」とか言いながら、殺陣(たて)でも鑑賞している気分の呑気な男達が騒いでいるのだ。
────そんな生易しいもんじゃねぇ……
二人の斬り合いを見ていた俺は無意識に。腰に差してい太刀の柄を握りしめていた。
一見すると互角のように見える高速の斬り合い……しかし、刃物の扱いに長けた者から見るとそれは────
完全に黒ずくめの男が手加減している……ッ!
致命傷を与えることのできる一撃を、何度も振るうチャンスがあるのに黒ずくめは見逃している。
そもそも岩を砕く大剣の一撃を、忍者刀一本で受け止めていること自体がおかしいんだ!
長さが無い分、斬り合うほどの距離で一度受けとめてしまえば、どんなに間違っても次の一撃は忍者刀の方が早い。
それでもあくまで黒ずくめは受けることのみに徹している。
まるで機械だ。
投球マシーンのような正確な動作、ただ受け止めることだけに特化したマシーン。
もちろんそれらすべてを、当事者であるアキラが一番理解している。
プライドの高いアキラの眼が、だんだんと血走っていく。
まずいな……
完全に冷静さを欠いている。
どんどん乱雑になっていく攻撃の隙を、黒ずくめが見逃すはずがなかった。
キィィィィィィィン!!
耳を塞ぎたくなるような鋭い音。
黒ずくめが振り上げた一撃に、アキラのオートクレール跳ね上がる。
無防備になった正中線目掛け、忍者刀が朝日にギラついた。
あいつ、本気だ……ッ!
柄頭を右手の平で抑えた突きに、僅かながらの殺気を感じた俺は、咄嗟に銃を抜こうとしたところで────
ギギンッ!!
金属同士を擦りつけるような摩擦音。
忍者刀が寸でのところで、アキラの胸元の前で止まる。
二人の間に誰かが割って入ったのだ。
あれは────
「ロナ!?」
ベルに肩車してもらい、様子を見ていたリズがそれに気づいて眼を見開く。
さっきまですぐ近くにいたはずのロナが、いつの間にか円の中央で黒ずくめの忍者刀を、ピアノ線で絡めとるようにして受け止めていた。
よく見ると、すぐ近くにあった夜間演習時用の照明付き電柱に、半透明な糸が巻き付いていた。
どうやら、その電柱にピアノ線を巻き付け、空中ブランコのように移動しながら兵士達の頭上を越えていったらしい。
だが、もしそうだとしても、戦闘に関してはあまり得意でないロナが、あれほどの一撃を止められるとは思わなかった……
つまりそれは────彼女が彼女でないことを表していた。
「なに二人で楽しそうなことしてるんだよ……俺も混ぜろよ?」
普段の物静かな様子のかき消えた、低く尖った声。
吊り上がった眼と頬が、今朝の微笑とは全く違うニヒルな笑みを浮かべていた。
一度見たら忘れるはずがない……あれはロナではなく。
「……ロア……ッ」
「なんだって……!?じゃあ、あれが隊長の言っていたロナのもう一つの人格って奴か!?」
レクスの言葉に俺は無言で肯定する。
演習中では何故か一度も姿を見せなかったのに、どうしてこんな時に限って……ッ!
味方なのか敵なのかも分からない第三の勢力。
ハッキリ言って、あの三人を俺一人で止めるのは難しい……
やはり……使うしかないのか……?
右眼が力に反応して疼いた。
心音が一回、ドクンッ!大きく脈を打つ。
もう……こんな力を使いたくないってのにッ……!
頭の中で俺が決断できずに逡巡していると、膠着状態だった三人に動きがあった。
黒ずくめが握っていた忍者刀を手放したのだ。
舌打ち交じりに忍者刀を放るロア。
黒ずくめはそれに構うことなく、バックステップを踏みながら距離を取り、背後に手を回す。
取り出したのは、黒く輝く星型のような物体。
それを見た俺の後頭部に、鈍器でぶっ叩かれたような衝撃が走った。
全身を強化骨格のような黒い鎧。武士の甲冑を近未来化させたような、ナチュラルなフォルム。顔にも戦闘機乗りが被るような漆黒のフルフェイスマスクを装着し、ミラーシールドのされた目元には、無様なアキラの姿が反射していた。
身長はベルくらいだが、人種どころか性別すら分からないアメコミヒーローのような出で立ちのそいつは、刀身が短い刀────忍者刀を一本装備していた。
「姑息な剣術ばっか使いやがって……ッ!まともにやり合う気があるのかッ!?」
アキラが激昂する中、黒ずくめの人物は肩を竦めて首を傾げる。
『何を言っているの?』と言わんばかりのポーズだ。
「ざけんなぁッ!!」
両手に持ったオートクレールを下段に構えたアキラが突っ込む。
大剣の重さを感じさせない勢いで、地面すれすれから斬り上げた一撃を黒ずくめは難なく交わす。
空ぶった大剣が大気を震わせる。
数十メートル離れている俺達のところまで風圧が来そうなくらいの勢い。それだけアキラが本気であることが伝わる。
「このッ!」
空ぶった勢いを殺さずに、くるりと身体を回しながら放った横薙ぎも、隙を無くすために振るった蹴りも、黒ずくめは難なく躱していく。
軽い────重さのある連撃を、軽やかなステップを踏む黒ずくめの動きは軽い。
それは決して身体に装着している装備のおかげではない。
寧ろその逆。あの装備は見たところ、何の仕掛けも施されていないただの防護具だ。それを全身に付けるとなると、その重量はフル装備の兵士以上のものだろう。
そんなハンデがありながら、奴はあれだけの連撃を余裕で躱しているのだ。
タダものではない……
そして、表情が見えないことがまた質が悪い。
何を考えているのか分からないその動きは、まるで幽霊を見ているようだった。
「グッ……!」
大剣を空ぶった隙に、背後を取られたアキラが、黒ずくめに蹴り飛ばされた。
野太い歓声が前後左右から響く。
決着かと思ったが、地面に倒れたアキラを黒ずくめは追撃しない。
クイクイッ
代わりに忍者刀を持っていない左手で『かかってこい』とジェスチャーした。
完全に格が違う。
俺が本気でやって勝てるかどうか……
「隊長……どうすんだよ……!?」
俺のすぐ近くで様子を見ていたレクスが急き立てる。
しかし、助けに行こうにも目の前の海兵隊員達が邪魔で近寄ることさえできない……
決断に迷う俺を他の隊員達がのぞき込む中────野太い兵士達の歓声が沸き上がった。
視線を中央に戻すと、さっきまで躱してばかりだった黒ずくめが、今度は忍者刀を使ってアキラと切り結んでいた。
アキラの繰り出す重撃を、丁寧に忍者刀で受け止める黒ずくめ。
それを「ジャパニーズチャンバラ」、「ニンジャ」、「サムライ」とか言いながら、殺陣(たて)でも鑑賞している気分の呑気な男達が騒いでいるのだ。
────そんな生易しいもんじゃねぇ……
二人の斬り合いを見ていた俺は無意識に。腰に差してい太刀の柄を握りしめていた。
一見すると互角のように見える高速の斬り合い……しかし、刃物の扱いに長けた者から見るとそれは────
完全に黒ずくめの男が手加減している……ッ!
致命傷を与えることのできる一撃を、何度も振るうチャンスがあるのに黒ずくめは見逃している。
そもそも岩を砕く大剣の一撃を、忍者刀一本で受け止めていること自体がおかしいんだ!
長さが無い分、斬り合うほどの距離で一度受けとめてしまえば、どんなに間違っても次の一撃は忍者刀の方が早い。
それでもあくまで黒ずくめは受けることのみに徹している。
まるで機械だ。
投球マシーンのような正確な動作、ただ受け止めることだけに特化したマシーン。
もちろんそれらすべてを、当事者であるアキラが一番理解している。
プライドの高いアキラの眼が、だんだんと血走っていく。
まずいな……
完全に冷静さを欠いている。
どんどん乱雑になっていく攻撃の隙を、黒ずくめが見逃すはずがなかった。
キィィィィィィィン!!
耳を塞ぎたくなるような鋭い音。
黒ずくめが振り上げた一撃に、アキラのオートクレール跳ね上がる。
無防備になった正中線目掛け、忍者刀が朝日にギラついた。
あいつ、本気だ……ッ!
柄頭を右手の平で抑えた突きに、僅かながらの殺気を感じた俺は、咄嗟に銃を抜こうとしたところで────
ギギンッ!!
金属同士を擦りつけるような摩擦音。
忍者刀が寸でのところで、アキラの胸元の前で止まる。
二人の間に誰かが割って入ったのだ。
あれは────
「ロナ!?」
ベルに肩車してもらい、様子を見ていたリズがそれに気づいて眼を見開く。
さっきまですぐ近くにいたはずのロナが、いつの間にか円の中央で黒ずくめの忍者刀を、ピアノ線で絡めとるようにして受け止めていた。
よく見ると、すぐ近くにあった夜間演習時用の照明付き電柱に、半透明な糸が巻き付いていた。
どうやら、その電柱にピアノ線を巻き付け、空中ブランコのように移動しながら兵士達の頭上を越えていったらしい。
だが、もしそうだとしても、戦闘に関してはあまり得意でないロナが、あれほどの一撃を止められるとは思わなかった……
つまりそれは────彼女が彼女でないことを表していた。
「なに二人で楽しそうなことしてるんだよ……俺も混ぜろよ?」
普段の物静かな様子のかき消えた、低く尖った声。
吊り上がった眼と頬が、今朝の微笑とは全く違うニヒルな笑みを浮かべていた。
一度見たら忘れるはずがない……あれはロナではなく。
「……ロア……ッ」
「なんだって……!?じゃあ、あれが隊長の言っていたロナのもう一つの人格って奴か!?」
レクスの言葉に俺は無言で肯定する。
演習中では何故か一度も姿を見せなかったのに、どうしてこんな時に限って……ッ!
味方なのか敵なのかも分からない第三の勢力。
ハッキリ言って、あの三人を俺一人で止めるのは難しい……
やはり……使うしかないのか……?
右眼が力に反応して疼いた。
心音が一回、ドクンッ!大きく脈を打つ。
もう……こんな力を使いたくないってのにッ……!
頭の中で俺が決断できずに逡巡していると、膠着状態だった三人に動きがあった。
黒ずくめが握っていた忍者刀を手放したのだ。
舌打ち交じりに忍者刀を放るロア。
黒ずくめはそれに構うことなく、バックステップを踏みながら距離を取り、背後に手を回す。
取り出したのは、黒く輝く星型のような物体。
それを見た俺の後頭部に、鈍器でぶっ叩かれたような衝撃が走った。
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