SEVEN TRIGGER

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月下の鬼人(ワールドエネミー)上

Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》6

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「んん……はぁ……」

「随分眠そうだな隊長……昨日は眠れなかったのか?」

 運転席にいたレクスが、欠伸をかました俺の方に振り返る。

「いや、仕事の前に仕上げておきたい書類があってな、それにちょっと時間を使っただけだ……」

 他の書類と違って修正するのに手間取ったからな……

「そもそも、こんな急な仕事を入れてくるアイツが悪いんだ……」

 怒りの矛先を大統領に向けて歯ぎしりする俺に、小型輸送機の操縦桿そうじゅうかんを握っていたレクスも同調する。

テキサス州ペンシルベニア州ときて、今度はカリフォルニア州だからな……あちこち行ったり来たりで大忙し……」

 ボヤくようにそう告げてから、緊張感無く大きな伸びをしたレクス。
 昔はアメリカ横断するのに数日かかっていたものが、飛行機これを使えば四、五時間で着いてしまう辺り、科学の発展も恐ろしいものだ。
 だが、そのせいで朝からアメリカ横断ツアーをさせられては堪ったもんではない。

「そのうち海外に行けとまで言われそうで、毎週定期報告に行くのがになっちまうよ」

 隊長である俺まで愚痴をこぼすのはどうかと思ったが、そもそもこの部隊自体が非常識なんだ。いまさら理想の隊長像だとか知ったことか、そんなもんクソくらえだ。
 寧ろこれだけくだけていた方が、隊員達も意見しやすくていいだろう……

「同感だ……遠くに行けば行くほど家に帰れなくなるし、何より飛行機での移動中は煙草タバコを吸えないことが一番問題だ……」

 いや、そこかよ……
 もっとこう、命の危険とか、そう言うところ気にするんじゃねーのか……?

「隊長……アンタいま俺にそんな理由でとか思っただろ?」

 狙撃手らしく俺の挙動から心を読んできたレクスが熱く語る。

煙草タバコはなぁ……呼吸と一緒なんだ、定期的にしないと人は死んじゃうんだ」

 レクス独自のタバコ論に、俺はまるで過去の自分を見ているような気分で、どうも耳が痛い。

「中毒者はみんなそう言うんだ、酒も煙草もやめる気があれば案外やめれるもんだぞ?」

 思わずそう告げてしまった俺は、あっ……と自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。
 がっつり聞こえていたレクスは、キラキラした瞳をこっちに向けてきた。
 まるで、無人島で仲間を見つけた時のような……そんな感じの……

「あれ、隊長もいける口だったのか!?なんだよぉ……喫煙者は俺一人だと思って肩身が狭かったんだ、この際だからまた吸おうぜ?な?」

 なにがこの際だ、一体どの際だ……

だよ、服や身体に臭いが付くと取れなくなっちまうからな」

 その言葉にレクスはニタァ……頬を緩ませた。

「じゃあ臭いがつかない酒ならオッケーだな!あの家の近くに軍の酒場があるんだぁ!今度一緒に飲み行こうな!な!」

 やられた……適当に返したのが悪かった、流石は駆け引き上手の狙撃手、見事に誘導尋問に引っかかった俺は、断る理由が見つけることができずに────

「分かったよ……今度な、俺はそんなに飲めないからな」

 渋々承諾してしまう。
 全員が全員そうだとは限らないが、流石はイタリア人。
 人付き合いに関してこういうところはちゃっかりしてるよな……

「よぉーし!ちょっとだけ任務のやる気ができぞぉ……!それでよ隊長、今回の目標亡霊はどうやって調査するんだ?」

 レクスが俺の方に振り返った。
 言われてみればまだ話してなかったな……

「えーと……それはだな────」






「はぁ!?何その雑な作戦は!?」

 輸送機から降ろしたSENTRYセントリー CIVILIANシビリアンの内部、両脇に座席と作戦指令室オペレーションルームのようにモニター等が設置された車内に、リズの怒鳴り声が超音波のように鼓膜を刺激する。

「警備を厳重にした現金輸送車を囮にして捕まえるって、もっとまともな作戦は立てられなかったの……!?」

「仕方ねーだろ!そもそも亡霊を探すっていうこと自体がおかしな話なんだ……それに、どちらにしろこの方法が一番手っ取り早いんだ、そうガミガミ文句言うなって……」

「わ、私はガミガミ言ってなぁぁぁぁい!!」

 言ってる言ってる。

「まあまあリズリー、隊長もしっかり考えがあってこの作戦にしたんだから、そう怒らないにゃぁ……」

 半月目を吊り上げて地団駄を踏むリズを、いつもの能天気な笑い声とともに宥めるベル。
 その顔には、昨日の夜に見た悲し気な表情はもう映っていない。

「フォルテ……この脳筋ピンク「誰が脳筋ですってッ!!」「リズリー落ち着いて……!」に同調するわけじゃねーけどよ、確かにこんな作戦でその亡霊とやらが本当に姿を現すと思うのか?」

 暴れるリズをベルが羽交い絞めにしているのを背に、腕組していたアキラが片眉を寄せる。
 お前も英語が少し堪能になってきたことを良いことに、いちいち仲間を煽んじゃねーよ……

「分かった分かった、シンプルな方がいいと思って説明を省いていたが、お前達がそこまで言うなら話してやる」

 レクスが走らせる車内の中で立ち上がった俺が、モニターに算出されたデータを交えて説明する。

「まず、今回の一連の騒動……その犯人の動機について考えてみた……」

 大統領に渡された会社ごとの被害総額などが表示された棒グラフや、犯行日時について分かるデータを、隊員達が真面目な顔つきで見る。仕事の眼だ。

「おそらくコイツらは純粋にが欲しいのだろう……と俺は思った」

「そんなこと当たり前でしょ?金が欲しいから強盗する、それ以外にどんな理由があるってのよ?」

 呆れ顔でぶんぶんとピンク髪を左右に振ったリズ。

「いや……そうとも限らないんだリズ。必ずしも犯人の動機が「金」だけに固執しているというわけじゃない……」

 操縦桿そうじゅうかんから今度は車のハンドルを握っていたレクスが会話に割り込んできた。

「どういう事よ?」

 リズが首を傾げつつ、納得のいかない様子で腕を組んだ。
 それに対しレクスはハンドルを握ったまま、子供に勉強を教える教師のような感じで、犯人の動機について一つ一つ説明していく。

「そうだな……例えを上げるとしたら復讐目的で強盗をする、企業、人物、何かしらに恨みを持った人物が強盗殺人をするなんてことはよくある話だ、他にはスリルを求める輩だな、盗み事態に快感を見出し、盗んだ金ではなく、金を盗む場所に固執するタイプ、分かりやすく言うなら「怪盗」のたぐいだな……そうした理由から犯罪に手を染める奴もいるってことだ、そして今回の犯人の目的は「金」。金さえあれば場所はどこでもいい、とにかく早急に大金が欲しい奴の手口ってわけだな……」

 俺の説明をあらかた代弁してくれたレクス。
 本当にコイツは人のことをよく観察しているんだな……
 それに、説明の仕方も上手い。
 見た目や雰囲気はあれだが、流石は元中佐と言ったところか。

「ふん……犯人の考える気持ちなんて知りたくないわよ……どうせこんなことをする奴は男に決まってる……」

 その逆で、人の気持ち(特に男のこと)を全く考えないリズは、唇を尖らせて拗ねる。
 リズは真面目ではあるが、自分の融通の利かないことに関しては割と不真面目だ。
 この辺はやはり、年の功って奴なんだろうな……
 と、俺は自分の年齢ことは棚に上げておき、説明を再開する。

「レクスの言う通りだ、これを見て欲しい……犯行日時と盗んだ場所についてだが────」

「んー……規則性が見当たらないにゃ……」

 金額、日時、場所、手段。全てがバラバラに表示されているグラフに、ベルは素直な感想を漏らした。

「そう、そう感じるだろう……だが、これはおおやけにされていない話しだが、これら全ての金にはとんでもない共通点が隠されていたんだ……」

「なんだよ、全部裏金だったとか言うんじゃねーだろーな?」

「……正解……アキラ、お前よく分かったな……」

 頭の後ろで手を組み、冗談交じりにそう言ったアキラが、車道の亀裂で一瞬よろけた車内に合わせ、座席からずり落ちた。

「マ、マジかよ……じゃあ、その亡霊は汚い金だけをターゲットに強盗をしてるってことかよ……石川五右衛門かよ……」

「なによその……イシカワゴエモンって?」

「何百年も前にいた日本の義賊……つってもリズ達には分かんねーよな……要はあれだ、悪人から金をせしめて弱者に分け与える義賊ヒーローみたいなもんだ。だから企業サイドもあまり亡霊のことをおおやけにできず困っているんだと……」

「なるほど、それで俺達の出番ってわけか隊長」

「そういうことだレクス……全く、面倒ではあるがな……」

 俺は嘆息混じりにそう告げた。
 ほんと……部隊結成以来、ベアードアイツにいいように使われえている気がするな……

「話しを戻そう……金が目的で悪人ばかりを狙う亡霊さんの傾向から見て、裏金ならすぐに尻尾を出すと俺はふんだ……その策の一つとして、あの現金輸送車ってわけだ」

 俺が首でSENTRYセントリー CIVILIANシビリアンの前方を走る、何の変哲もない現金輸送車を示した。

「あれはまだ被害の少ない企業が用意した裏金専用の車両……という設定になっている。厳重なセキュリティによって隠された裏でのやり取り、金の流れを偽造し、あたかもあれが裏金であるかのように見せている。企業内のお金だと裏金と分かりにくいから、ちゃんと外部から取り寄せたお金を使ってな」

「へぇ……そんなお金どこから取り寄せたのかゃ?」

 能天気にそんなことを聞いてきたベル。
「どこにベル達のような部隊に金を貸してくれるところがあったの?」という意味を含んだその言葉に対し、俺は至極真っ当な様子でこう言った。

「んなもんあるわけねーだろ、あそこに積んであるのはお前達の給料だ」

「「「は?」」」
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