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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》4
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正体に気づいた俺は、深いため息を漏らす。
こんなことのためにマジになっていた自分が恥ずかしい。
俺は銃をしまいながらズカズカと足音を気にせず歩いていき、カウンターキッチンの裏に潜んでいた犯人。
ニギッ
その身体の一部を掴む。
「……にゃッ!!?」
断末魔のような叫び声。
触ったのは初めてだが、悪くない。いや、寧ろ心地いい。
冷蔵庫の明かりを遮るように、ユラユラと動いていた尻尾は、俺に握られた瞬間、ビシッと!直立すると同時に、鳥肌のごとく白い毛並みを逆立てる。
「な、ななななななな……!何してんのフォルテッ!??」
犯人は、白い頬を真っ赤にして俺のことを見上げてくる。
色んな意味で警戒心の欠片もないダボっとしたTシャツとショートパンツ姿のベルは、特大サイズのカップアイスを特大級の谷間に挟み込むようにして抱え込んでいた。
「それはこっちのセリフだ。お前こそこんな時間に何してんだ?」
というのも、ベルはこの隊の中では一番就寝時間が早い。
暇さえあればしょっちゅう食っては寝て食っては寝ての繰り返しだ。それこそ本物の野良猫のように……気の赴くまま────
それでも夜行性というわけではないので、いつもならとっくに寝ているはずなのだが……
「その前に!!そのニギニギするのやめて!!」
「……ッ!」
懇願するようなベルの必死な形相。
にゃにゃ語(勝手に命名)が使えないほど必死な様子に、俺は思わず後ずさりしてしまい────
くいッ!
力の入った右手、その親指を尻尾にきつく押し付けてしまう。
「んんッ!!!」
途端、立ち上がろうとしていたベルが弓なりに身体をのけ反らせる。
そのままへなへなと力が抜けたようにへなへなと女の子座りになってしまう。
「尻尾は……ダメッ……尻尾はダメなの……」
はぁ……はぁ……荒い吐息をアイスの冷気に交えさせながら、リズは玉のような汗を体表に浮かべていた。
いつもはあんなにガキっぽいのに、虚ろな翡翠色の瞳が妙な色っぽさを演出していた。
ちょっとやり過ぎたかもしてれない……
「ご、ごめん……!まさかそんなになるとは思ってなくてよ……」
俺はようやく尻尾から手を放してやる。
ベルは、尻尾を抱えるように自分の元に手繰り寄せ、俺が握っていた辺りを優しく撫でる。
「ひどい……ひどいにゃあフォルテ……私達にとってこの尻尾は、魔術的にも、肉体的にも繊細でデリケートにゃのに……あんなに力強く握られたら……刺激に耐えられるわけがないよ……」
私達……というのは恐らく、戦死者を運ぶ者のことを指しているのだろう。
尻尾という部位のない俺にとって、他人に握られるというのがどういう感触なのかは知らないが、それでもベルの反応を見る限り、あまり気のいいことではないらしい。
しかし……さっきの懇願していた喋り方といいこの尻尾といい……ベルの意外な一面を発見してしまったらしいな。
「悪かったよ……それで?何でお前はこんなところでアイス食ってんだ?」
「パクッ!ちょっと────パクッ!休憩にゃ────パクッ!!」
喋る間にアイスをスプーンで放り込む涙目のベル。
「おいおい……みっともないから食ってる最中に喋るなよ……」
────パクッ!パクッ!パクッ!パクッ!
俺の指摘にベルは喋ることを止め、さっきのことを根に持っているのか、むすっとした表情でこっちを見たまま一心不乱にアイスを食べる。
「いやいやベル……確かに食ってる最中に喋るなとは言ったが、そこはお前、喋る方じゃなくて食う方を止めるだろ普通……」
呆れた俺が「あとアイスを食い過ぎると腹を壊すぞ……」と付け加えると、
ギラッ
涙目だった翡翠色の瞳を、ネコ科の猛獣のような鋭い眼つきに変化させたベルが「そんなこと言ってもあげないにゃ……」と胸の谷間にアイスを抱え、隠すように半身で身構えていた。
「んなことしなくても取らねーよ!」
何で俺が意地汚いやつだと思われてんだよ……寧ろそれはお前だろ!
この前俺が食ってたクッキーを、横でよだれ垂らして物欲しそうに見てたから「ちょっと食うか?」なんて聞いたら、ちょっとも食いやがったのはどこのどいつだ?全く……
「で?こんな遅くに何の休憩だ?」
「何って始末書だよ、隊長がベルに言ったんじゃないかにゃ」
ムスッと唇を尖らすベル。
あぁ……そう言えば今日の朝方に出せっつったな……
でも────
「まだ書き終わってなかったのか?アキラやリズと協力すれば半日も掛らないはずだが?」
「いや、問題を起こしたのはベルにゃし、二人に付き合ってもらうのは悪いから、パソコンの簡単な使い方を聞いただけであとは一人でやってるにゃ、全然上手くいかにゃくて苦労しているけど……」
指でタイピングの動きをしながら、苦笑を浮かべたベル。
夜中だってのに、その顔は俺にとって酷く眩しく感じた。
書類作成を一人でやるなんて、簡単そうに聞こえるかもしれないが……魔術に関しては世間でもほとんど確認されていない錬金魔術を扱えるのに対し、科学に関しては、日本製とはいえ給湯器の使い方すら分からず、数日前まで水シャワーを浴びていたほどの科学音痴であるベルにとっては、かなり難儀なことだったろう……
────まぁ、本当はそれが狙いでもあったんだが。
この部隊はさっきベアードにも話しをしたが、皆の特徴が尖りすぎている。
それぞれのパーツが合致している時はいいのだが、全ての任務がそうなるとは限らない。
必ずいつかは自分の不得意なことをしなければならない場面がでてくるはずだ。
そうなった時に苦労させないため、また、仲間のやっていることを理解し、作戦中に何がしたいのか?どうしてそのような行動を取ったのか?を考えてもらうため、なるべく交流する場を設けるように心がけていた。
今回で言うなら、ただ始末書を作成するのではなく、他のこともベルに勉強して欲しかったんだ、科学の製品についてや、リズやアキラのことを。勿論その逆も含めて。
結果としては前者のみになってしまったようだが、それでも毛嫌いせず、不得意な分野に向き合ってくれているのは素晴らしいこと……なのだが────
「ベル、前から気になっていたが────」
そんなベルの表情を見ていて気付いたことを、俺は口に出していた。
「お前はどうしていつもそんなに楽しそうなんだ?」
いや……一体何を聞いているんだ俺よ……
こいつはただの能天気で、これが自然体。別におかしいところはない。
ただ、なんだろう……たとえ怒られていようが、苦難に遭おうが、コイツはそれすらも楽しんでいるようにいつも見えるんだ……決して空元気などではない、もっと純粋に物事を楽しんでいるような……
「……隊長にはそう映っているのなら、私も少し嬉しいかな……」
真っ白な尻尾を軽く振りながら、照れ隠しするように視線を逸らしたベル。
その表情はいつもと違う……ついさっき見せたような色っぽさ、大人のような雰囲気が出ていた。
「……ッ」
さっきは焦っていてあまり意識していなかったが、軽く汗ばんだベルの甘いバニラのような香り。艶めかしい仕草、身体の凹凸を隠そうともしない薄着に、俺はドキリとしてしまう。
妙な空気がカウンター裏で流れる────変な汗が背中に流れるのを感じていた俺は、変な緊張で互いの距離が近いのか遠いのかすらよく分からなってきた。
突然のことに言葉を失っていると、チラチラとこっちを確認しながら何か言おうとするベルが、二、三、躊躇いを見せたあと、意を決して口を開いた。
「隊長は……もう私の過去については知っているの?」
「……い、一応は……ロシアで生まれた人造人間なんだってな……」
「じゃあ、年齢は?」
「……年齢?」
俺自身が九十歳ということで他人の年齢なんてあまり気にしていなかったが……そう言えば……他の連中とは違い、ベルのだけは表示されていなかった……気がする。
「私、生まれてまだ五歳なんだ」
こんなことのためにマジになっていた自分が恥ずかしい。
俺は銃をしまいながらズカズカと足音を気にせず歩いていき、カウンターキッチンの裏に潜んでいた犯人。
ニギッ
その身体の一部を掴む。
「……にゃッ!!?」
断末魔のような叫び声。
触ったのは初めてだが、悪くない。いや、寧ろ心地いい。
冷蔵庫の明かりを遮るように、ユラユラと動いていた尻尾は、俺に握られた瞬間、ビシッと!直立すると同時に、鳥肌のごとく白い毛並みを逆立てる。
「な、ななななななな……!何してんのフォルテッ!??」
犯人は、白い頬を真っ赤にして俺のことを見上げてくる。
色んな意味で警戒心の欠片もないダボっとしたTシャツとショートパンツ姿のベルは、特大サイズのカップアイスを特大級の谷間に挟み込むようにして抱え込んでいた。
「それはこっちのセリフだ。お前こそこんな時間に何してんだ?」
というのも、ベルはこの隊の中では一番就寝時間が早い。
暇さえあればしょっちゅう食っては寝て食っては寝ての繰り返しだ。それこそ本物の野良猫のように……気の赴くまま────
それでも夜行性というわけではないので、いつもならとっくに寝ているはずなのだが……
「その前に!!そのニギニギするのやめて!!」
「……ッ!」
懇願するようなベルの必死な形相。
にゃにゃ語(勝手に命名)が使えないほど必死な様子に、俺は思わず後ずさりしてしまい────
くいッ!
力の入った右手、その親指を尻尾にきつく押し付けてしまう。
「んんッ!!!」
途端、立ち上がろうとしていたベルが弓なりに身体をのけ反らせる。
そのままへなへなと力が抜けたようにへなへなと女の子座りになってしまう。
「尻尾は……ダメッ……尻尾はダメなの……」
はぁ……はぁ……荒い吐息をアイスの冷気に交えさせながら、リズは玉のような汗を体表に浮かべていた。
いつもはあんなにガキっぽいのに、虚ろな翡翠色の瞳が妙な色っぽさを演出していた。
ちょっとやり過ぎたかもしてれない……
「ご、ごめん……!まさかそんなになるとは思ってなくてよ……」
俺はようやく尻尾から手を放してやる。
ベルは、尻尾を抱えるように自分の元に手繰り寄せ、俺が握っていた辺りを優しく撫でる。
「ひどい……ひどいにゃあフォルテ……私達にとってこの尻尾は、魔術的にも、肉体的にも繊細でデリケートにゃのに……あんなに力強く握られたら……刺激に耐えられるわけがないよ……」
私達……というのは恐らく、戦死者を運ぶ者のことを指しているのだろう。
尻尾という部位のない俺にとって、他人に握られるというのがどういう感触なのかは知らないが、それでもベルの反応を見る限り、あまり気のいいことではないらしい。
しかし……さっきの懇願していた喋り方といいこの尻尾といい……ベルの意外な一面を発見してしまったらしいな。
「悪かったよ……それで?何でお前はこんなところでアイス食ってんだ?」
「パクッ!ちょっと────パクッ!休憩にゃ────パクッ!!」
喋る間にアイスをスプーンで放り込む涙目のベル。
「おいおい……みっともないから食ってる最中に喋るなよ……」
────パクッ!パクッ!パクッ!パクッ!
俺の指摘にベルは喋ることを止め、さっきのことを根に持っているのか、むすっとした表情でこっちを見たまま一心不乱にアイスを食べる。
「いやいやベル……確かに食ってる最中に喋るなとは言ったが、そこはお前、喋る方じゃなくて食う方を止めるだろ普通……」
呆れた俺が「あとアイスを食い過ぎると腹を壊すぞ……」と付け加えると、
ギラッ
涙目だった翡翠色の瞳を、ネコ科の猛獣のような鋭い眼つきに変化させたベルが「そんなこと言ってもあげないにゃ……」と胸の谷間にアイスを抱え、隠すように半身で身構えていた。
「んなことしなくても取らねーよ!」
何で俺が意地汚いやつだと思われてんだよ……寧ろそれはお前だろ!
この前俺が食ってたクッキーを、横でよだれ垂らして物欲しそうに見てたから「ちょっと食うか?」なんて聞いたら、ちょっとも食いやがったのはどこのどいつだ?全く……
「で?こんな遅くに何の休憩だ?」
「何って始末書だよ、隊長がベルに言ったんじゃないかにゃ」
ムスッと唇を尖らすベル。
あぁ……そう言えば今日の朝方に出せっつったな……
でも────
「まだ書き終わってなかったのか?アキラやリズと協力すれば半日も掛らないはずだが?」
「いや、問題を起こしたのはベルにゃし、二人に付き合ってもらうのは悪いから、パソコンの簡単な使い方を聞いただけであとは一人でやってるにゃ、全然上手くいかにゃくて苦労しているけど……」
指でタイピングの動きをしながら、苦笑を浮かべたベル。
夜中だってのに、その顔は俺にとって酷く眩しく感じた。
書類作成を一人でやるなんて、簡単そうに聞こえるかもしれないが……魔術に関しては世間でもほとんど確認されていない錬金魔術を扱えるのに対し、科学に関しては、日本製とはいえ給湯器の使い方すら分からず、数日前まで水シャワーを浴びていたほどの科学音痴であるベルにとっては、かなり難儀なことだったろう……
────まぁ、本当はそれが狙いでもあったんだが。
この部隊はさっきベアードにも話しをしたが、皆の特徴が尖りすぎている。
それぞれのパーツが合致している時はいいのだが、全ての任務がそうなるとは限らない。
必ずいつかは自分の不得意なことをしなければならない場面がでてくるはずだ。
そうなった時に苦労させないため、また、仲間のやっていることを理解し、作戦中に何がしたいのか?どうしてそのような行動を取ったのか?を考えてもらうため、なるべく交流する場を設けるように心がけていた。
今回で言うなら、ただ始末書を作成するのではなく、他のこともベルに勉強して欲しかったんだ、科学の製品についてや、リズやアキラのことを。勿論その逆も含めて。
結果としては前者のみになってしまったようだが、それでも毛嫌いせず、不得意な分野に向き合ってくれているのは素晴らしいこと……なのだが────
「ベル、前から気になっていたが────」
そんなベルの表情を見ていて気付いたことを、俺は口に出していた。
「お前はどうしていつもそんなに楽しそうなんだ?」
いや……一体何を聞いているんだ俺よ……
こいつはただの能天気で、これが自然体。別におかしいところはない。
ただ、なんだろう……たとえ怒られていようが、苦難に遭おうが、コイツはそれすらも楽しんでいるようにいつも見えるんだ……決して空元気などではない、もっと純粋に物事を楽しんでいるような……
「……隊長にはそう映っているのなら、私も少し嬉しいかな……」
真っ白な尻尾を軽く振りながら、照れ隠しするように視線を逸らしたベル。
その表情はいつもと違う……ついさっき見せたような色っぽさ、大人のような雰囲気が出ていた。
「……ッ」
さっきは焦っていてあまり意識していなかったが、軽く汗ばんだベルの甘いバニラのような香り。艶めかしい仕草、身体の凹凸を隠そうともしない薄着に、俺はドキリとしてしまう。
妙な空気がカウンター裏で流れる────変な汗が背中に流れるのを感じていた俺は、変な緊張で互いの距離が近いのか遠いのかすらよく分からなってきた。
突然のことに言葉を失っていると、チラチラとこっちを確認しながら何か言おうとするベルが、二、三、躊躇いを見せたあと、意を決して口を開いた。
「隊長は……もう私の過去については知っているの?」
「……い、一応は……ロシアで生まれた人造人間なんだってな……」
「じゃあ、年齢は?」
「……年齢?」
俺自身が九十歳ということで他人の年齢なんてあまり気にしていなかったが……そう言えば……他の連中とは違い、ベルのだけは表示されていなかった……気がする。
「私、生まれてまだ五歳なんだ」
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