SEVEN TRIGGER

匿名BB

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月下の鬼人(ワールドエネミー)上

Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》2

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 ダァン!!!!

 遠方からの狙撃────レクスの放った銃弾が、分厚い二階のフロートガラスと一緒に、立て籠もり犯の一人を戦闘不能にした。

 バリリリィィィィン!!!

 砕けたフロートガラスが煌びやかに舞うスーパースローの世界────部屋の正面から注意を引いていたリズ、それに応戦する立て籠もり犯、恐怖に悲鳴を上げる人質────ガラス片が映し出した刹那の風景と共に、俺は二階に突入した。
 挟み撃ちにされた犯人が、その戸惑いから見せた隙を俺は見逃さない────
 電光石火で抜かれたコルト・ガバメントが火を噴き、覆面姿の犯人達を仕留めていく。

「う、動くんじゃねぇぇ!!」

 バタバタと倒れた犯人の中で、唯一残った一人が叫ぶ。
 俺とリズが同時にそいつへ銃を向けると、壁際へ逃げた犯人が人質のこめかみに銃口を向けていた。

「チッ……」

 リズが嫌悪を露わに舌打ちした。
 それは犯人が嫌いな男性であることもそうだが、一番の理由は自分がカバーすると言っていた犯人を撃ち漏らしたことに対してだろう。
 あの犯人は人質の近くに居ながらも、外からも狙撃できない厄介な位置取りをしていたため、本来はアキラが対処する予定だったのだが、突入を強行したリズはそれを捌き切れなかったのだ。

「お、お前ら!!早く銃を降ろ────!!」

 ドガァァァァァァァァン!!!!!!!


 叫んでいた犯人の背後の壁が、凄まじい爆音と共に砕け散った。
 ジェット機にでも煽られたかのような爆風を受け、俺とリズ身体をすくめる。
 燃え盛る灰色の煙の中から現れたのは、一匹の白猫だった。

「にゃにゃにゃっ!ヒーローは遅れて────うにゃ!?」

 腰に手を当てて高笑いを決め込んでいたベルの後頭部を踏みつけ、まだ意識のあった犯人に一人の男が飛び掛かる。トラップの解除を終えたアキラだった。
 近接戦闘の苦手なベルを押しのけて飛翔した彼の手に握られていたのは、その背丈を隠すほどの巨大な刀身。切り裂くというよりも重さでぶった切るといった両手剣クレイモアだ。
 名は確か「Hauteオートclaireクレール」とアキラは呼んでいた。

「ハァァァァッッッ!!!!」

「ヒィッ!?」

 振り下ろされた大剣に、爆風で吹き飛ばされ、四つん這いになっていた立てこもり犯が悲鳴を上げた────

 ガキンッ────!!

 爆炎を縦に切り裂いた大剣は────犯人に直撃しなかった。

「ッ……!?」

 その光景にアキラが眼を見開く。
 それは、犯人が躱したのでもアキラが外したわけでもなかった。
 人体どころか、大木すら真っ二つに切れそうな勢いを誇る攻撃を、間に割り込んでいた俺が鞘に納めたままの太刀で受け止めたのだ。それも片手で。
 重いッ……!
 チャラチャラした性格とは裏腹に、気合の乗った気持ちのいい一撃。
 思わず顔に苦悶の表情を浮かべそうになっちまう。
 だがこれくらいなら……ッ!右眼の力を使わずとも……!
 俺はクレイモアを生身の力だけで跳ねのける。
 魔眼を使えばもっと楽に弾き飛ばせたかもしれない……
 だが、今の俺にはあの力を……大切な人達を救うことのできなかったあの力を無暗に使う気にはなれなかった。
 おそらく、もう二度と使うことはないだろうな……
 それに、まだ完全にこいつらを信用していないということもあって俺は、自分についての詳しい情報や魔眼「悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイ」ついては一切教えていなかった。

「アキラ、この攻撃は完全に人の致死量足りうる破壊力だ……殺傷はNOダメだと言ったはずだ……それに────」

 俺は太刀を引っ込めて腰に戻す。

、この魔術で動く戦闘人形オートマタ、結構値段高いんだぞ……」

 最後まで抵抗を見せていた訓練用ロボット、エナメル質なボディをしたダブルヘキサブラム社製の戦闘人形オートマタを見下ろしながら、俺はボヤくようにそう告げた。
 ここは、新しい新居の近くにあるアメリカ海軍最大の基地「ノーフォーク海軍基地」にある実戦演習場の一つで、今日はここで五人連携による戦闘訓練をしていた。

「ケッ!一体ぐらい壊したってどうってことないだろそんな人形。大体、殺すくらいの気持ちでやらないと、こっちがられるかもしれないんだぞ……ッ!」

 途中で俺に攻撃を止められたことに対してや、殺すなというかせをずっと付けられてるせいで、日ごろから溜まっていた苛立ちを隠そうともせず、アキラは訓練場に転がっていた小石を蹴り上げる。
 コロコロと俺が侵入してきた窓から転げ落ちた石ころを、緊張感の欠片もないベルが眼で追う姿を背に、俺は難しい表情で腕を組む。

「確かにお前の言うことにも一理あるが……殺しに関してはベアードに言ってくれ、俺ではどうしようもできない……そんなことよりもだな……」

 認証の許可が降りていない非合法の組織である俺達は、部隊結成から今日までずっと殺しを禁じられていた。それもこれも仕事しないベアードのせいであり、幾らそのことについて俺が進言しても、のらりくらりと躱されるのがオチ。まるでその気が無いような口ぶりから、俺はもうそのことについて諦めており、代わりにこうして、部隊が一人も殺しをしなくても勝てるレベルまで練度を高めるべく、非番の日は大体演習をするのが日課になっていた。

「たかが一体でも、余計な支出で予算を削りたくないんだ!実戦中に予算不足で弾が無いから、敵に撃たれて死にましたなんて、死んでも死に切れんだろ?」

「……俺は別に死ぬのなんて怖くない……」

 ふて腐れたようにそう吐き捨てるアキラ。
 いや……お前は怖くなくても俺が困るんだよ……それに……

「そういう問題じゃねぇ……お前が一人で死ぬ分には構わないが、その分できた穴は誰がカバーするんだ?」

「そ、それは……」

 アキラがきまり悪そうに視線を逸らしながら、後頭部を掻く。

「そうなったら俺達がカバーしなければならなくなる。お前のたった一人の身勝手で、ここにいる全員がリスクを負わなければならなくなるんだ……日本の言い回しを引用するなら、It's justたかが one一発but it's still a big deal.だ、分かったな」

「ケッ……英語はまだ理解しきれねえって言ってんだろ……」

「ちょっとッ!!真面目な話しよ!!ちゃんと聞きなさいよ!!」

 言っていることが正論と分かり悔しかったのか、投げやりな態度のままのアキラに対し、規律を重んじるリズが、俺を押しのける勢いで、小さい身体を目一杯前のめりにさせる。

「へいへい、分かりやしたよ!お嬢様!」

 まだ完全に聞き分けられるはずがないのに、アキラは覚えたての英語で適当にそう返した。
 ここ一か月生活して分かったのだが……この二人の相性は控えめに言って最悪だ。

「……ッ!アンタの身勝手な行動一つで隊が危険に晒されるのよ!分かってるの!」

 学校の生徒で例えるなら、アキラが柄の悪い不良でリズが優等生の生徒会長というところだろうか……
 互いにサイの如く顔を突き合わせ、バチバチと火花を散らしているところで無線が入る。
 一人狙撃地点で待機中だったレクスからだ。

『まあまあ二人とも、その辺にしておけ』

 熱くなる二人をなだめるように割って入ってきたレクスは、差し詰め空気の読める三枚目だろう。
 本人だけは二枚目のつもりらしいけど……

『それにリズ、フォルテがアキラに言っていたこと、それはお前にも当てはまるんだぞ?』

「私にも……?」

 意外な指摘に片眉をひそめたリズ。
 ほう……レクスは気づいていたのか……
 流石はスナイパーなだけあって、人を見る観察眼は一目置くところがあるな。

「レクスの言う通りだ、リズ。お前はさっきアキラが間に合わないと判断して突っ込んだ。現場の人間には確かに臨機応変な判断力が必要だ……だがな、勇敢は聞こえこそいいが、それを言い換えれば無謀になる……もう少し仲間を信頼してもいいんじゃないか?」

「うぐっ……」

 人に言っていた言葉が自分に返ってきたことが、余程ショックだったらしい────リズは顔を伏せて薄いピンクの唇を噛み締めていた。

「────誰が男のことなんて……」

 呟いた言葉が、未だ消えぬ炎の音にかき消されていく中、場違いな笑い声が響いた。
 演習が中断してからずっと、のほほーんとしていたベルだ。

「にゃはは!二人とも隊長に言われるなんてドジだにゃあ、どんな時もベルみたいにスマートに任務をこなさないとぉ!」

「そうだな、お前の言う通りだな」

 得意顔で自慢の巨乳をブルンッ!と揺らしたベルに、俺はうんうんと頷きながら、肩に手を置きにっこりと笑い────

「言い忘れてたけどベル、お前減俸げんぽうな」

「にゃッ!?」

 得意顔が一瞬で、面食らった表情へと切り替わる。
 気づいてなかったのかよ……ッ

「当たり前だぁ!!お前の役目は隣の部屋で外からの増援を抑えるのが仕事であって!誰が演習で壁を爆破しろなんて言ったぁ!?ビル解体の作業を頼んだ覚えはないぞぉ!!」

「にゃぁぁぁぁ!!でもそんなこと言ったらレクスだって窓ガラスを割ったにゃあ!!」

 ビシッ!と割れたフロートガラス指差すベルに、俺はイライラで頭を掻きむしる。

「あれは事前に打ち合わせで割るという話だったろ!!さっきアキラに話した通りだ!備品を壊したからにはそれ相応の罰を受けてもらうぞ!」

「そ、そんにゃぁ……」

 シュンッ……と頭と一緒にベルの白い耳としっぽが垂れさがる。
 まったく……こいつは天然の問題児キャラってところだな。学校で例えると。

「始末書についてはあとでリズにでも教えてもらえ」

「な、なんで私がッ!?」

 思いもよらないとばっちりを受けたリズが、ピンクがかった瞳を見開いた。

「元々ベルが壁を爆破するに至ったのは、お前が独断専行したのが悪いからな、連帯責任だ。それとついでにアキラもベルの状況や動きを第三者視点で評価してやれ、自分のミスは他人からの視点の方が勉強になることもある」

「チッ!俺もかよ……」

 教師的存在である俺の命令には逆らえず、アキラも渋々それを承諾した。
 とりあえずこんなところか……
 評価を言い終えた俺は、ふと、真面目に指導している自分自身に気が付いた。
 真面目なんて……ここ最近の自分からは絶対に想像できない言葉だな。
 常に気を張っていて疲れるし、一か月前の俺が見たら、気持ち悪すぎて発疹ほっしんでもできるんじゃないだろうか……
 だがそれも仕方ない。こっちは命が掛かっているからな。
 でも……あれだけ軽視していた自分の命一つで、ここまで変化することができるのだろうか?

「よしッ!!次は個別にスキルを磨くぞ!!各自指示した通りにバディを組めぇ!!」

 いや、それだけだろう……
 今も昔も、俺にあるものなんて……
 煙立ちこめた廃墟に響いた俺の指示に、各隊員達の声が反響した。






 そんな硝煙臭い毎日が俺達の日常になりつつあった頃だった────
 二つの大きな出来事が訪れたのは……
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