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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
首輪を繋がれた悪鬼《パストメモリーズ》5
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広大な土地を照らしていた陽の光が、地平線の向こうへと堕ちようとしていた夕暮れ時。
ダダダダダッ!!
都市部から離れたペンシルベニア州郊外の一角、誰も寄りつくはずのない場所に建てられた中規模工場内では、静寂とは程遠い銃弾や怒声が飛び交っていた────
『クッソ!!なんなんだアイツは!?』
応戦するギャングの声が、インカムを通して聞こえてくる。
普通の無線やインカムは余程近くに音源があるか、あるいは銃声や爆発音といった大きな音でない限り、マイクが音を拾うことは無い。
銃声に掻き消えるはずの敵の独り言が、俺のインカムから聞こえるということはつまり────それだけ味方が敵に接近していることを意味している。
「リズ!!リィィィィィズ!?先走り過ぎぃ!!出過ぎだ止まれ!!つーか戻れぇ!!」
現場に到着するや否や、真正面から突っ込んでいった味方を懸命に呼びかけるも、返事の代わりに聞こえてくるのは敵の悲鳴と銃声だけ。
俺は気絶または負傷したギャング達が倒れる通路を走りながら、ただただ死体が転がっていないことを願うばかりだ……一つでもあれば俺が殺されるからな……
「ぎゃああああ!!!!」
狭い通路の角の先で、インカム越しではなく直接悲鳴が聞こえてきた。
リノリウムの通路の角から飛び出すと、そこには「ステア―AUG」マガジン導入部が銃の後方に付けられたアサルトライフルを持つリズが、怯えた敵に食らいついていた。
リズ、本名はリーゼリッタ・スカーレット。オーストラリア出身の15歳。身長144㎝、体重38㎏、スリーサイズは上から77.54.78のBカップ。小柄な体型。
貴族出身でありながらも、幼くして軍隊に入隊。その類稀な戦闘スキルからメキメキと頭角を現していく中、本人の希望もあって海外支部へと異動、ベアードからの勧誘もあり極秘偵察強襲特殊作戦部隊に入隊。
突撃銃を好み、作戦中一歩も引かないというスタイルから付いた二つ名は「躑躅色のラーテル」。そんな世界で一番怖いもの知らずの称号を授かった少女が、この程度のギャングに一歩も怯むはずがなかった……というのは分かるが、引かな過ぎだ!
アイツはブレーキのイかれたドラッグマシンか!?
左右に逃げ道がない一本道の通路。蛍光灯が薄暗く照らす中を駆けるリズに向かって、五人のギャングが銃を乱射した。
ダァン!!ダァン!!ダァン!!
リズはそれに対しセミオートで銃弾を発射、通路を照らし出していた蛍光灯を器用に三カ所撃ち抜く。
マズルフラッシュが線香花火のように明滅する通路を、全く臆することなくリズは突っ込んでいく。
弾は一発も当たっていない。本来弱点になる低い身長と、その特徴的な髪色で相手に残像を見せつつ銃弾を躱し、さらに正確な射撃を加えていく。
まるで銃弾の飛んでくる場所でも見えているかのような動きに、バタバタとギャング達は倒れていく。
「クソッ!!」
最後に残った一人が銃を捨て、地面に両手をつける。
「ウォーターウォール!!」
その声と共にリズの進行方向に出現したのは、魔術によって生み出された細い縦長の水柱だった。
だが、それを防御に使うにしては発動が遅く、通路を塞ぐ前にリズが水柱横を通り過ぎようとしていた。
おかしい、こんなに魔術の発動が遅いなんて────いや、意図的に遅くしているのか?
「……ッ!リズ止まれッ!!」
俺がそれの正体に気づいたころには、リズが水柱を避ける数歩手前に差し掛かっていた。
クソッ!!
パァァァァンッ!!バァァァァンッ!!
リズの背後に立つ俺は、M1911で咄嗟に援護射撃を放つ────リズの首の高さ、その進行方向へと二発の銃弾はすり抜けていき、一発は壁の跳弾を利用してギャングへ、もう一発は水柱の横の虚空へとすり抜けていった。
「ぐああああ!!!!」
跳弾が術者であるギャングに当たり、よろめいたところにリズの飛び膝蹴りが炸裂した。
あぶねぇ……俺が心の中で安堵していると、リズがその日初めて背後を振り返った。
「……別に今のは援護が無くてもやれたわよ」
私の獲物に手を出すな。とでも言いたげな目つきの少女に、俺は無言で首元を指さした。
怪訝顔をしていたリズが自分の首元に手を宛がうと同時にピンクがかった瞳が見開く。
知らないうちに濡れていたことに気づいたらしい。
今のギャングのウォーターウォールは、相手にぶつけるのではなく、避けさせることが目的だったんだ。
その両端、通路との隙間に張り巡らされていた水の極細糸へと導くために……
勢いよく走り抜ければ触れた個所はスパッ!と斬れるので、止まればいいだけなのだが……脳筋リズは言っても聞かなかった。
なので俺は術者を一発目で射撃し、痛みで集中力が途切れたことで弱まったウォーターカッターを二発目で切断。間一髪でリズを救うことができた。
「あ、あれくらい分かってたんだから……!!」
「じゃあ次はもっと注意深く行動してくれ、俺が毎回こうして援護できる時は構わないが、いざって時に一人で対処できないと俺の首が……じゃなくて、お前の首が落ちるぞ」
思わず本音が出かかった言葉に、「ふんっ!」と調子よく背を向けたリズは────
「その……ありが────」
バゴオオオオオオン!!!!!!!
凄まじい爆発音が、インカム越しに響いた。
「……ごめんリズ、今何か言ったか?」
インカムマイクが音割れするくらいの爆発音と重なり、聞き取ることができなかった俺がリズに再び声をかけるが……
「な、何でもないわよ!!やっぱ男なんてッ……!隊長のバカぁ!!」
えぇ……
なんで助けてやったのに罵声浴びせられているんだ……俺は……
名前と同じくらい顔を真っ赤にしたリズが、新たな敵を求めて突撃していく。
おいおい……注意したそばから突っ込んでいるし……
何が「部下である以上命令には従う」だよ、全然いうこと聞かねーじゃねーか……!
バゴオオオオオオン!!!!!!!
幸い、殺すなという命令だけはギリギリ守ってくれているみたいだけど……魔術が苦手な部分と先走りやすいところは今後要注意だな。
バゴオオオオオオン!!!!!!!
「つーかなんだよ!?さっきから聞こえるこの爆発音は……!」
インカム越しどころか直接聞こえてくる爆撃音、それも、手榴弾などの小さいものではない、建物全体が揺れるほどの爆発。知らないうちに戦争でも始まったのか?と錯覚してしまうほどの現象に、俺は嫌な予感を感じつつ、衝撃音の場所まで急行するとそこには────
「ニャーハハハッ!!!!」
高笑いを浮かべながら両肩に携えたソ連製ロケットランチャーRPG‐7をぶっ放す、ベルの姿がそこにあった。
「いやいやいやいやちょっと待てぇぇぇぇ!!?」
殺すなと伝えたはずなのに、明らかに対人装備を越えたゴテゴテの重装備にツッコミを入れる。
お前は何と一体戦おうとしているんだ……!?
「うにゃ?フォルティー?こっちはベルの管轄じゃなかったかにゃ?」
多くの敵がボロボロの状態で倒れ、モクモク燃える黒煙と炎を背にランボーみたい装備でこっちを振り向いたベル。
「うわッ!?不本意にその砲身をこっちに向けんじゃねぇ!!」
「にゃははは!別にだいじょーぶにゃぁ!」
射線上から逃れるように右手を上げて横っ飛びする俺に、ベルは特徴的な笑い声をあげた。
ベル。本名ベルベット・アルヴィナ。生まれはロシアのとある工場。そこで世界でも禁止されている技術、人造人間技術によって生成された人造人間。
噂程度には耳にしたこともあったが、実際に人造人間を見るのは俺も初めてである。
身長163㎝、体重55kg、スリーサイズは上から100.59.91のJカップ。走ると痛くないのかな?と心配になるほど、凶悪な二つの爆弾が揺れるグラマー体型。
人造人間のモデルになったのは、北欧神話の女騎士、戦死者を運ぶ者らしく、姿形もそれに似せるため、本物の猫耳としっぽがついているらしい……正直、趣味の悪いコスプレにしか見えないのだが……
神様を信じてない俺には、その崇高さが理解できないらしい……
そんなベルには見た目以外にも、魔術の面において通常の人間よりも長けているらしく、中でも得意なのが────
「それにこれは魔術で精製した銃で威力調整しているから、別に当たっても気絶で済むにゃ!」
担いでいたロケットランチャーをこっちに見せてきたので恐る恐る確かめると……見た目はそっくりだが、長さ、質感、重量などが全然違う。
ベルの言う通り、これらロケットランチャーは全て魔力によって生成した「錬金魔術」とやらで、詳しい原理についてはさっぱりだが、要は本人のイメージに合わせ、魔力で物を作る技術らしい。
なので、本来あるべき製造企業のロゴは無く。代わりに何故か猫の肉球が表記されている。緊張感ねーな……
お前は無邪気なつもりなのかもしれんが、爆炎を背に笑う姿は完全にサイコパスのそれにしか見えないぞ。
「────このッ……」
「ッ!」
すぐ近くで倒れていた敵の中から一人、軽症のだったギャングが這い出てきた。
どうやら、たまたま近くに居た味方を盾にして爆撃を防いでいたらしい。
その男の手にはハンドガンが握られていた。「グロック17」9mm口径で精度の良い軍用銃だ。
「うそッ!?」
思わぬ敵の出現に慌てたベルが、咄嗟に持っていたロケットランチャーを構えるも────撃てない。
当たり前だ。こんな近距離の足元に放てば、幾ら威力を減少させているとはいえ、全員タダでは済まない。
「死ねぇぇ!!」
男はベルへと向けた銃の引き金を引く。
「クッ……!!」
「にゃっ……!」
距離的に自爆となってしまうため、ロケットランチャーを撃つことのできなかったベルを俺は身体で弾く。射線上に立ってしまった俺は瞬時に右手を地に付け、斜め下から放たれた銃弾の下を掻い潜るように身体を捻る。
────パスッ!
ちょうど、ギャングに背を向けた状態。
今は無き左手の位置を貫いた銃弾が、通路のコンクリート天井へと突き刺さる中、俺が繰り出した左回し蹴りはギャングの銃を横に弾き飛ばしていた。
「ぐぁッ……!」
トドメとばかりに追撃の右足を側頭部に叩き込むと、ギャングは今度こそ気絶した。
その身体捌きに、横で尻もちをついていたベルが「おぉ……」と、感心したような声を上げる。殺されかけたってのに、ほんと呑気な奴だな……
「お前、ハンドガンとか近距離の装備は持ってないのか?」
別に敵を倒すためにわざわざロケットランチャーを使う必要はない。
そもそもこんなバカスカ使うこと自体やりすぎだ。ゲームのチートじゃあるまいし……
「無理!細々したものは生成できないんだにゃ!」
即答。
細々って……お前の持っているRPG-7も十分細かい構造だと思うんだが……?魔力では何も作ることのできない俺からしたら。
「じゃ!!そう言うことで助かったにゃ隊長さん!ベルはあっちの方を潰してくるにゃあ!」
ベルはビシッと敬礼をしてから、通路奥にあった扉をロケットランチャーで吹っ飛ばしつつ、ピョンピョンピョーンと走り去ってしまう。
「あ、ちょッ!?……行っちまったか……」
せめて俺のハンドガンでも渡そうと思ったのに……
ベルは魔術に長けている分、近距離での戦闘、及び武器の取り扱いが苦手……か……
白猫が飛び出していった方向を見やる俺が、伸ばした右手を引っ込めながらそんなことを考えていると今度は────
ダダダダダッ!!
都市部から離れたペンシルベニア州郊外の一角、誰も寄りつくはずのない場所に建てられた中規模工場内では、静寂とは程遠い銃弾や怒声が飛び交っていた────
『クッソ!!なんなんだアイツは!?』
応戦するギャングの声が、インカムを通して聞こえてくる。
普通の無線やインカムは余程近くに音源があるか、あるいは銃声や爆発音といった大きな音でない限り、マイクが音を拾うことは無い。
銃声に掻き消えるはずの敵の独り言が、俺のインカムから聞こえるということはつまり────それだけ味方が敵に接近していることを意味している。
「リズ!!リィィィィィズ!?先走り過ぎぃ!!出過ぎだ止まれ!!つーか戻れぇ!!」
現場に到着するや否や、真正面から突っ込んでいった味方を懸命に呼びかけるも、返事の代わりに聞こえてくるのは敵の悲鳴と銃声だけ。
俺は気絶または負傷したギャング達が倒れる通路を走りながら、ただただ死体が転がっていないことを願うばかりだ……一つでもあれば俺が殺されるからな……
「ぎゃああああ!!!!」
狭い通路の角の先で、インカム越しではなく直接悲鳴が聞こえてきた。
リノリウムの通路の角から飛び出すと、そこには「ステア―AUG」マガジン導入部が銃の後方に付けられたアサルトライフルを持つリズが、怯えた敵に食らいついていた。
リズ、本名はリーゼリッタ・スカーレット。オーストラリア出身の15歳。身長144㎝、体重38㎏、スリーサイズは上から77.54.78のBカップ。小柄な体型。
貴族出身でありながらも、幼くして軍隊に入隊。その類稀な戦闘スキルからメキメキと頭角を現していく中、本人の希望もあって海外支部へと異動、ベアードからの勧誘もあり極秘偵察強襲特殊作戦部隊に入隊。
突撃銃を好み、作戦中一歩も引かないというスタイルから付いた二つ名は「躑躅色のラーテル」。そんな世界で一番怖いもの知らずの称号を授かった少女が、この程度のギャングに一歩も怯むはずがなかった……というのは分かるが、引かな過ぎだ!
アイツはブレーキのイかれたドラッグマシンか!?
左右に逃げ道がない一本道の通路。蛍光灯が薄暗く照らす中を駆けるリズに向かって、五人のギャングが銃を乱射した。
ダァン!!ダァン!!ダァン!!
リズはそれに対しセミオートで銃弾を発射、通路を照らし出していた蛍光灯を器用に三カ所撃ち抜く。
マズルフラッシュが線香花火のように明滅する通路を、全く臆することなくリズは突っ込んでいく。
弾は一発も当たっていない。本来弱点になる低い身長と、その特徴的な髪色で相手に残像を見せつつ銃弾を躱し、さらに正確な射撃を加えていく。
まるで銃弾の飛んでくる場所でも見えているかのような動きに、バタバタとギャング達は倒れていく。
「クソッ!!」
最後に残った一人が銃を捨て、地面に両手をつける。
「ウォーターウォール!!」
その声と共にリズの進行方向に出現したのは、魔術によって生み出された細い縦長の水柱だった。
だが、それを防御に使うにしては発動が遅く、通路を塞ぐ前にリズが水柱横を通り過ぎようとしていた。
おかしい、こんなに魔術の発動が遅いなんて────いや、意図的に遅くしているのか?
「……ッ!リズ止まれッ!!」
俺がそれの正体に気づいたころには、リズが水柱を避ける数歩手前に差し掛かっていた。
クソッ!!
パァァァァンッ!!バァァァァンッ!!
リズの背後に立つ俺は、M1911で咄嗟に援護射撃を放つ────リズの首の高さ、その進行方向へと二発の銃弾はすり抜けていき、一発は壁の跳弾を利用してギャングへ、もう一発は水柱の横の虚空へとすり抜けていった。
「ぐああああ!!!!」
跳弾が術者であるギャングに当たり、よろめいたところにリズの飛び膝蹴りが炸裂した。
あぶねぇ……俺が心の中で安堵していると、リズがその日初めて背後を振り返った。
「……別に今のは援護が無くてもやれたわよ」
私の獲物に手を出すな。とでも言いたげな目つきの少女に、俺は無言で首元を指さした。
怪訝顔をしていたリズが自分の首元に手を宛がうと同時にピンクがかった瞳が見開く。
知らないうちに濡れていたことに気づいたらしい。
今のギャングのウォーターウォールは、相手にぶつけるのではなく、避けさせることが目的だったんだ。
その両端、通路との隙間に張り巡らされていた水の極細糸へと導くために……
勢いよく走り抜ければ触れた個所はスパッ!と斬れるので、止まればいいだけなのだが……脳筋リズは言っても聞かなかった。
なので俺は術者を一発目で射撃し、痛みで集中力が途切れたことで弱まったウォーターカッターを二発目で切断。間一髪でリズを救うことができた。
「あ、あれくらい分かってたんだから……!!」
「じゃあ次はもっと注意深く行動してくれ、俺が毎回こうして援護できる時は構わないが、いざって時に一人で対処できないと俺の首が……じゃなくて、お前の首が落ちるぞ」
思わず本音が出かかった言葉に、「ふんっ!」と調子よく背を向けたリズは────
「その……ありが────」
バゴオオオオオオン!!!!!!!
凄まじい爆発音が、インカム越しに響いた。
「……ごめんリズ、今何か言ったか?」
インカムマイクが音割れするくらいの爆発音と重なり、聞き取ることができなかった俺がリズに再び声をかけるが……
「な、何でもないわよ!!やっぱ男なんてッ……!隊長のバカぁ!!」
えぇ……
なんで助けてやったのに罵声浴びせられているんだ……俺は……
名前と同じくらい顔を真っ赤にしたリズが、新たな敵を求めて突撃していく。
おいおい……注意したそばから突っ込んでいるし……
何が「部下である以上命令には従う」だよ、全然いうこと聞かねーじゃねーか……!
バゴオオオオオオン!!!!!!!
幸い、殺すなという命令だけはギリギリ守ってくれているみたいだけど……魔術が苦手な部分と先走りやすいところは今後要注意だな。
バゴオオオオオオン!!!!!!!
「つーかなんだよ!?さっきから聞こえるこの爆発音は……!」
インカム越しどころか直接聞こえてくる爆撃音、それも、手榴弾などの小さいものではない、建物全体が揺れるほどの爆発。知らないうちに戦争でも始まったのか?と錯覚してしまうほどの現象に、俺は嫌な予感を感じつつ、衝撃音の場所まで急行するとそこには────
「ニャーハハハッ!!!!」
高笑いを浮かべながら両肩に携えたソ連製ロケットランチャーRPG‐7をぶっ放す、ベルの姿がそこにあった。
「いやいやいやいやちょっと待てぇぇぇぇ!!?」
殺すなと伝えたはずなのに、明らかに対人装備を越えたゴテゴテの重装備にツッコミを入れる。
お前は何と一体戦おうとしているんだ……!?
「うにゃ?フォルティー?こっちはベルの管轄じゃなかったかにゃ?」
多くの敵がボロボロの状態で倒れ、モクモク燃える黒煙と炎を背にランボーみたい装備でこっちを振り向いたベル。
「うわッ!?不本意にその砲身をこっちに向けんじゃねぇ!!」
「にゃははは!別にだいじょーぶにゃぁ!」
射線上から逃れるように右手を上げて横っ飛びする俺に、ベルは特徴的な笑い声をあげた。
ベル。本名ベルベット・アルヴィナ。生まれはロシアのとある工場。そこで世界でも禁止されている技術、人造人間技術によって生成された人造人間。
噂程度には耳にしたこともあったが、実際に人造人間を見るのは俺も初めてである。
身長163㎝、体重55kg、スリーサイズは上から100.59.91のJカップ。走ると痛くないのかな?と心配になるほど、凶悪な二つの爆弾が揺れるグラマー体型。
人造人間のモデルになったのは、北欧神話の女騎士、戦死者を運ぶ者らしく、姿形もそれに似せるため、本物の猫耳としっぽがついているらしい……正直、趣味の悪いコスプレにしか見えないのだが……
神様を信じてない俺には、その崇高さが理解できないらしい……
そんなベルには見た目以外にも、魔術の面において通常の人間よりも長けているらしく、中でも得意なのが────
「それにこれは魔術で精製した銃で威力調整しているから、別に当たっても気絶で済むにゃ!」
担いでいたロケットランチャーをこっちに見せてきたので恐る恐る確かめると……見た目はそっくりだが、長さ、質感、重量などが全然違う。
ベルの言う通り、これらロケットランチャーは全て魔力によって生成した「錬金魔術」とやらで、詳しい原理についてはさっぱりだが、要は本人のイメージに合わせ、魔力で物を作る技術らしい。
なので、本来あるべき製造企業のロゴは無く。代わりに何故か猫の肉球が表記されている。緊張感ねーな……
お前は無邪気なつもりなのかもしれんが、爆炎を背に笑う姿は完全にサイコパスのそれにしか見えないぞ。
「────このッ……」
「ッ!」
すぐ近くで倒れていた敵の中から一人、軽症のだったギャングが這い出てきた。
どうやら、たまたま近くに居た味方を盾にして爆撃を防いでいたらしい。
その男の手にはハンドガンが握られていた。「グロック17」9mm口径で精度の良い軍用銃だ。
「うそッ!?」
思わぬ敵の出現に慌てたベルが、咄嗟に持っていたロケットランチャーを構えるも────撃てない。
当たり前だ。こんな近距離の足元に放てば、幾ら威力を減少させているとはいえ、全員タダでは済まない。
「死ねぇぇ!!」
男はベルへと向けた銃の引き金を引く。
「クッ……!!」
「にゃっ……!」
距離的に自爆となってしまうため、ロケットランチャーを撃つことのできなかったベルを俺は身体で弾く。射線上に立ってしまった俺は瞬時に右手を地に付け、斜め下から放たれた銃弾の下を掻い潜るように身体を捻る。
────パスッ!
ちょうど、ギャングに背を向けた状態。
今は無き左手の位置を貫いた銃弾が、通路のコンクリート天井へと突き刺さる中、俺が繰り出した左回し蹴りはギャングの銃を横に弾き飛ばしていた。
「ぐぁッ……!」
トドメとばかりに追撃の右足を側頭部に叩き込むと、ギャングは今度こそ気絶した。
その身体捌きに、横で尻もちをついていたベルが「おぉ……」と、感心したような声を上げる。殺されかけたってのに、ほんと呑気な奴だな……
「お前、ハンドガンとか近距離の装備は持ってないのか?」
別に敵を倒すためにわざわざロケットランチャーを使う必要はない。
そもそもこんなバカスカ使うこと自体やりすぎだ。ゲームのチートじゃあるまいし……
「無理!細々したものは生成できないんだにゃ!」
即答。
細々って……お前の持っているRPG-7も十分細かい構造だと思うんだが……?魔力では何も作ることのできない俺からしたら。
「じゃ!!そう言うことで助かったにゃ隊長さん!ベルはあっちの方を潰してくるにゃあ!」
ベルはビシッと敬礼をしてから、通路奥にあった扉をロケットランチャーで吹っ飛ばしつつ、ピョンピョンピョーンと走り去ってしまう。
「あ、ちょッ!?……行っちまったか……」
せめて俺のハンドガンでも渡そうと思ったのに……
ベルは魔術に長けている分、近距離での戦闘、及び武器の取り扱いが苦手……か……
白猫が飛び出していった方向を見やる俺が、伸ばした右手を引っ込めながらそんなことを考えていると今度は────
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