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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
首輪を繋がれた悪鬼《パストメモリーズ》2
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────ガチャリッ!
俺の首に巻き付けた。
「な、なにしやがんだッ!!」
暴れる俺を、特殊部隊の隊員が抑え込もうとするが────
「君達、彼の拘束を解いてあげなさい……」
「し、しかし……」
「首輪を付けたから大丈夫だ……」
大統領のその言葉に、兵士達が恐る恐る拘束を解いた瞬間────
バッ!!
立ち上がり様に俺はベアードへと銃を構えた。
M1911.45ACP弾を使う、何十年も愛用してきたハンドガンだ。
持っただけで残弾数、消耗具合が分かるこの銃は、もはや自分の一部と言っても過言ではない。
「ジェネラルッ!!」
周りにいた兵士達が、一斉に俺へとアサルトライフルを構えたのに対し、ベアードはそれを片手で制した。
コイツ────俺が撃たないとでも思っているのか?
指先に力を込めようとしたのと同時に、首元に残る冷たい感触を思い出す。
そこでようやく、装着された黒いベルト……チョーカーが刺繍のように首に張り付き、取れなくなっていることに気が付いた。
まさか────これは……!
「君が思っている通り、それは「魔具」だ。「贖罪の首輪」といってな、詳しい原理は省くが、簡単に言えば首輪を付けられた人間は付けた人間の言うことを聞かないとドカンッ!木っ端みじんになる寸法だ……」
ポーンッ!と手でジェスチャーを交えながら、ふざけた口調でそう告げた大統領。
流石に我慢の限界だった。
「ふざけんなぁッ!!こんな奴隷まがいの代物まで使いやがって!!一体何の目的があってこんな────!」
「World WarⅡ……」
突然、誰もが知る人類史最悪の歴史を口走ったベアードに、他の兵士達が疑問を浮かべる中、たった一人俺だけは、その単語に軽く瞼が反応してしまう。
「数十年前のこの出来事に、君は少なからず身に覚えがあるんじゃないか?」
「……」
『────こいつは俺が何とかする!!お前達は早く逃げろ────!』
『────それではフォルテ隊長が────!?』
『────いいからッ!!ここに居れば全員アイツに消されるだけだ!!早く逃げろ────!!』
伏せた瞼の裏に焼き付いた惨劇に、自然と右手に力が入る。
かつて俺がまだ人の身であったころ、血で血を洗い、勝つためではなく、生き残るために殺し合う地獄絵図……その時感じた臭い、感覚、様々な感情は、例え何年経っても忘れることのできない悲惨な記憶だ。
「マリアナ・パラオ諸島攻略作戦……名のある海兵師団の中でも、唯一公に公表されてなかった部隊…… 極秘偵察強襲特殊作戦部隊。特殊工作、敵部隊の裏取り、場合によっては味方すら消すと言われた部隊が当時存在していたらしい……」
「……」
「アメリカ軍の中でも一番優秀な部隊だったらしいが、不思議なことにその部隊はとある島ごと消失、隊員の消息は闇の中────と思われたが、実際は部隊の半数以上ががPTSDを発症したことにより部隊は解散……そして、一人行方が分からなくなった隊長は────」
「……もういい……」
俺は低い声でそう告げた。
わざわざコイツから聞かずとも、全て知っている内容だ。これ以上聞く必要はないし、聞きたくもない。
「そんな歴史の授業に興味はない。自称大統領と言う割には、話ベタすぎて本質が見えてこないぞ……」
話しを逸らすように告げた軽い煽りに対し、ベアードはムッと口と眉を寄せた。
後ろに控える兵士達もざわざわと慌てている。
演説下手という言葉は、大統領にとってはかなり言われたくないことだったらしいな……意外な弱点発見だ。
「わ、私自身そこまで上手いとは思ってはないが、ふっ……そこまでハッキリ言ってくる人間は初めてだ。これでも一応、歴代大統領の中ではトップクラスの演説力だと評判何だがなぁ……」
マジで落ち込むような表情を見せるベアード。
コイツどこまでが本音なんだ……?
「ゴホン────つまり、私がこうまでして言いたいのは、極秘偵察強襲特殊作戦部隊の再編成に伴い、経験のある君に是非やって欲しいのだ……!何より……私に残された時間は……もう、あまり無いんだ……」
何か事情でもあるのか?ギリッ……と歯ぎしりさせ、含みのある言葉を漏らすベアード。
それでも、そんな過去の部隊の隊長をやる気にはならない。
「断る。大体アンタ達に俺を拘束できる権利があるとでも言うのか?俺は何か悪事を働いたことも無いし、その証拠もない。武器を持つことはテキサスでは認められているし、ここでの戦闘はあくまで正当防衛だ」
「……確かに君の言う通りではあるが、だが忘れてないか?さっき話した君の過去の罪を?」
思い当たる節が無い俺が眉を顰めた。
「過去の罪?そんなものな────」
「────敵前逃亡」
喉元にナイフを突きつけるかのような、酷く冷たい言葉の響きに、俺の口が止まる。
「自覚は無いかもしれないが、君は数十年前から軍から逃亡の容疑が掛けられている。そしていま捕まった。本来なら問答無用で死刑だということころを、私の温情として、大統領任期の残り二年ちょっと、その状態で付き合ってくれれば、今までの全ての罪を許そう」
「……こじつけだらけの暴論だな……!どうしてそこまでして俺にこだわる……」
突きつけられた言葉を握り返す俺に、ベアードは冷酷だった顔を軽く和らげた。
「言っただろ?君が優秀だということ知っているからさ……」
「話しにならねえな……」
フッ……と軽く微笑んだその男の額に狙いを定め、俺は引き金に指を掛ける。
安全装置も弾倉も問題ない。
あと少し力を加えるだけでこの男は俺ごと死ぬ。
あるいは人質にとるという選択肢もある。
兵士の一人が俺の背後から(拘束しますか?)目配せを送ったようだが、ベアードはそれを首を振って拒否した。
「撃ちたければ撃てばいい、君の命と引き換えではあるが、それで私を殺してくれるなら、別にそれでも構わない……」
緊迫した状況の最中、俺は────
「クソっ……勝手にしやがれクソジジイ……」
舌打ち混じりに銃口を下げた。
それに鼻を鳴らすベアードの、少し満足気な顔にイラッ……
やっぱり撃っちまおうかと思ったが、そうすれば俺もこの場でドカンッ!となってしまうので、ここはグッと堪えつつ、不快感だけを表情に出した。
あくまで銃を引っ込めたのは、ここで仮にコイツを撃ったとしても、人質にしたとしても助からないという結論に至ったからだ。
というのも、ここにいる連中だけならまだどうにかできそうだったが……ベアードを人質に逃げても、ここは荒野だ。遮蔽物もないこの場所から足だけで逃走するのは正直キツイ。
────それに。
眼だけで左側の外壁に向けると、そこには円形状の風穴が通っていた。
外からの日光が斜めに差し込むこれは、経年劣化でできたものではない。俺を狙った狙撃の跡だ。
最初こそ優勢だった俺の戦況を覆した、たった一発の銃弾。突入してきた兵士の間を、まるですり抜けるかのようにして放たれた死角からの一撃を、俺は持ち前の反射神経と危機察知能力で何とか躱すも、大きな隙を生むきっかけになってしまった。
いったいどこのスナイパーか知らねえが、おかげでこのザマ。
左腕と左眼が同時に痛む────数年前に無くしたってのに、まだそこに神経が残っているかのように。
まあ、これだけ不利な条件が揃っている中でこれ以上抵抗するのも野暮ってもんだ……いまさら俺に生きる理由なんて無いが、こんなイケすかない奴に殺されるのだけはごめんだからな。
「契約成立だな……」
ひび割れた外壁の隙間から流れ込んむ春風が嘲笑う。
これが……数年後。伝説と呼ばれる部隊の始まりであり。俺の数の少ない友人との最悪の出会いでもあった。
俺の首に巻き付けた。
「な、なにしやがんだッ!!」
暴れる俺を、特殊部隊の隊員が抑え込もうとするが────
「君達、彼の拘束を解いてあげなさい……」
「し、しかし……」
「首輪を付けたから大丈夫だ……」
大統領のその言葉に、兵士達が恐る恐る拘束を解いた瞬間────
バッ!!
立ち上がり様に俺はベアードへと銃を構えた。
M1911.45ACP弾を使う、何十年も愛用してきたハンドガンだ。
持っただけで残弾数、消耗具合が分かるこの銃は、もはや自分の一部と言っても過言ではない。
「ジェネラルッ!!」
周りにいた兵士達が、一斉に俺へとアサルトライフルを構えたのに対し、ベアードはそれを片手で制した。
コイツ────俺が撃たないとでも思っているのか?
指先に力を込めようとしたのと同時に、首元に残る冷たい感触を思い出す。
そこでようやく、装着された黒いベルト……チョーカーが刺繍のように首に張り付き、取れなくなっていることに気が付いた。
まさか────これは……!
「君が思っている通り、それは「魔具」だ。「贖罪の首輪」といってな、詳しい原理は省くが、簡単に言えば首輪を付けられた人間は付けた人間の言うことを聞かないとドカンッ!木っ端みじんになる寸法だ……」
ポーンッ!と手でジェスチャーを交えながら、ふざけた口調でそう告げた大統領。
流石に我慢の限界だった。
「ふざけんなぁッ!!こんな奴隷まがいの代物まで使いやがって!!一体何の目的があってこんな────!」
「World WarⅡ……」
突然、誰もが知る人類史最悪の歴史を口走ったベアードに、他の兵士達が疑問を浮かべる中、たった一人俺だけは、その単語に軽く瞼が反応してしまう。
「数十年前のこの出来事に、君は少なからず身に覚えがあるんじゃないか?」
「……」
『────こいつは俺が何とかする!!お前達は早く逃げろ────!』
『────それではフォルテ隊長が────!?』
『────いいからッ!!ここに居れば全員アイツに消されるだけだ!!早く逃げろ────!!』
伏せた瞼の裏に焼き付いた惨劇に、自然と右手に力が入る。
かつて俺がまだ人の身であったころ、血で血を洗い、勝つためではなく、生き残るために殺し合う地獄絵図……その時感じた臭い、感覚、様々な感情は、例え何年経っても忘れることのできない悲惨な記憶だ。
「マリアナ・パラオ諸島攻略作戦……名のある海兵師団の中でも、唯一公に公表されてなかった部隊…… 極秘偵察強襲特殊作戦部隊。特殊工作、敵部隊の裏取り、場合によっては味方すら消すと言われた部隊が当時存在していたらしい……」
「……」
「アメリカ軍の中でも一番優秀な部隊だったらしいが、不思議なことにその部隊はとある島ごと消失、隊員の消息は闇の中────と思われたが、実際は部隊の半数以上ががPTSDを発症したことにより部隊は解散……そして、一人行方が分からなくなった隊長は────」
「……もういい……」
俺は低い声でそう告げた。
わざわざコイツから聞かずとも、全て知っている内容だ。これ以上聞く必要はないし、聞きたくもない。
「そんな歴史の授業に興味はない。自称大統領と言う割には、話ベタすぎて本質が見えてこないぞ……」
話しを逸らすように告げた軽い煽りに対し、ベアードはムッと口と眉を寄せた。
後ろに控える兵士達もざわざわと慌てている。
演説下手という言葉は、大統領にとってはかなり言われたくないことだったらしいな……意外な弱点発見だ。
「わ、私自身そこまで上手いとは思ってはないが、ふっ……そこまでハッキリ言ってくる人間は初めてだ。これでも一応、歴代大統領の中ではトップクラスの演説力だと評判何だがなぁ……」
マジで落ち込むような表情を見せるベアード。
コイツどこまでが本音なんだ……?
「ゴホン────つまり、私がこうまでして言いたいのは、極秘偵察強襲特殊作戦部隊の再編成に伴い、経験のある君に是非やって欲しいのだ……!何より……私に残された時間は……もう、あまり無いんだ……」
何か事情でもあるのか?ギリッ……と歯ぎしりさせ、含みのある言葉を漏らすベアード。
それでも、そんな過去の部隊の隊長をやる気にはならない。
「断る。大体アンタ達に俺を拘束できる権利があるとでも言うのか?俺は何か悪事を働いたことも無いし、その証拠もない。武器を持つことはテキサスでは認められているし、ここでの戦闘はあくまで正当防衛だ」
「……確かに君の言う通りではあるが、だが忘れてないか?さっき話した君の過去の罪を?」
思い当たる節が無い俺が眉を顰めた。
「過去の罪?そんなものな────」
「────敵前逃亡」
喉元にナイフを突きつけるかのような、酷く冷たい言葉の響きに、俺の口が止まる。
「自覚は無いかもしれないが、君は数十年前から軍から逃亡の容疑が掛けられている。そしていま捕まった。本来なら問答無用で死刑だということころを、私の温情として、大統領任期の残り二年ちょっと、その状態で付き合ってくれれば、今までの全ての罪を許そう」
「……こじつけだらけの暴論だな……!どうしてそこまでして俺にこだわる……」
突きつけられた言葉を握り返す俺に、ベアードは冷酷だった顔を軽く和らげた。
「言っただろ?君が優秀だということ知っているからさ……」
「話しにならねえな……」
フッ……と軽く微笑んだその男の額に狙いを定め、俺は引き金に指を掛ける。
安全装置も弾倉も問題ない。
あと少し力を加えるだけでこの男は俺ごと死ぬ。
あるいは人質にとるという選択肢もある。
兵士の一人が俺の背後から(拘束しますか?)目配せを送ったようだが、ベアードはそれを首を振って拒否した。
「撃ちたければ撃てばいい、君の命と引き換えではあるが、それで私を殺してくれるなら、別にそれでも構わない……」
緊迫した状況の最中、俺は────
「クソっ……勝手にしやがれクソジジイ……」
舌打ち混じりに銃口を下げた。
それに鼻を鳴らすベアードの、少し満足気な顔にイラッ……
やっぱり撃っちまおうかと思ったが、そうすれば俺もこの場でドカンッ!となってしまうので、ここはグッと堪えつつ、不快感だけを表情に出した。
あくまで銃を引っ込めたのは、ここで仮にコイツを撃ったとしても、人質にしたとしても助からないという結論に至ったからだ。
というのも、ここにいる連中だけならまだどうにかできそうだったが……ベアードを人質に逃げても、ここは荒野だ。遮蔽物もないこの場所から足だけで逃走するのは正直キツイ。
────それに。
眼だけで左側の外壁に向けると、そこには円形状の風穴が通っていた。
外からの日光が斜めに差し込むこれは、経年劣化でできたものではない。俺を狙った狙撃の跡だ。
最初こそ優勢だった俺の戦況を覆した、たった一発の銃弾。突入してきた兵士の間を、まるですり抜けるかのようにして放たれた死角からの一撃を、俺は持ち前の反射神経と危機察知能力で何とか躱すも、大きな隙を生むきっかけになってしまった。
いったいどこのスナイパーか知らねえが、おかげでこのザマ。
左腕と左眼が同時に痛む────数年前に無くしたってのに、まだそこに神経が残っているかのように。
まあ、これだけ不利な条件が揃っている中でこれ以上抵抗するのも野暮ってもんだ……いまさら俺に生きる理由なんて無いが、こんなイケすかない奴に殺されるのだけはごめんだからな。
「契約成立だな……」
ひび割れた外壁の隙間から流れ込んむ春風が嘲笑う。
これが……数年後。伝説と呼ばれる部隊の始まりであり。俺の数の少ない友人との最悪の出会いでもあった。
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