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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》11
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その背後には、大使館職員二人に両肩を掴まれたボブ・スミスが立っていた。
今回の事件の主犯として、ずっとジープのトランクに突っ込んでいたのだが、どうやら車を地下駐車場に置き行ったついでにロナが身柄を引き渡したらしい。
普段は頭の悪い犬のように、キャンキャンうるさいチャップリンも、流石に観念したのか不気味なくらいに沈黙を保っている。
「弟子……だと……?」
俺はそんなFBI副長官には目もくれず、ロナの言葉に首を傾げた。
誰が誰の……?
そう思っていた俺の横で、アイリスが小さくコクリ……と頷いた。
「レクスは、ボクが二年前に父親を失った時からの狙撃の師匠なんだ……」
その言葉に、レクスが軽く鼻を鳴らす。
「まあ……俺も師匠って言えるほどのことは教えてないですけどね……どちらかというと「保護者」みたいな感じなんですよ、フォルテ」
そうだったのか……てことはS・Tの時から面倒を見ていたってことか……
確かにそう言われてみれば、過去にそんなようなことを聞いた気がしなくもないが。なるほど……レクス関連ということもあり、当時同じ隊員として、様々な情報に精通していたロナはその関係性を知っていたんだ。だからベトナムに来てアイリスを初めて見た時も、詳しく知っているような口ぶりだったというわけか。
「でもまたどうして……レクスがそんなことを?」
無表情のままのアイリスに「保護者はやめろ……」とポカポカ殴られるレクス。確かに狙撃の腕こそ確かだが、それでも接点らしい部分は何一つ見当たらない。
「いやーそれがですね。実は俺の師匠がアイリスの父親、「ルーカス・N・ハスコック」だったわけなんですよ。師匠が亡くなったと知った俺は、保護者のいないご息女である彼女の面倒を見ようと……少しおこがましい気もしたんですが、まあそんなところです……そ・れ・よ・り・もッ!」
やけに語尾を強調させたレクスが俺からググッ!!と首をネジ切るようにして、ロナへと視線を移した。
穏やかだった表情に青筋を浮かべながら────
「よぉ……久々だなCIA副長官殿ぉ!まーた随分と面倒ごとを持ってきてくれたようで……俺はとぉっっても嬉しいよ!!」
ロナへとズカズカと歩み寄る。
「キャハッ!そうでしょ!そうでしょ!ロナちゃんはどっかの国防総省職員と違ってぇそういうとこ、とぉぉっても気が回るんだよ!」
嫌味に嫌味で返すロナもニコッ!憎たらしいまでの営業スマイルを浮かべまま、ドンッ!!近づいてきたレクスとおでこ同士をぶつける。
「ぐぬぬぬ……」とベトナムを舞台に突如始まった、年の離れた男と少女がカブトムシのように競り合う姿を、どこかみっともない物でも見るかのように、アイリス張りのジト目をしていたセイナが────
「ねぇ……フォルテ、あの二人って……」
「あーいつものことだから……気にすんなセイナ」
嘆息を漏らしつつ俺はそう答えた。
「大体なんで俺を呼ぶんだよ!!CIAの管轄なら、ペンタゴンを巻き込むんじゃねーよ!」
ロナはS・Tのだった時や、CIAの副長官に任命されてからは特に不真面目な人間の代名詞。レクスは今も昔も真面目人間。水と油である二人が衝突する光景は、最近で言うセイナとロナがケンカするくらい見慣れたものだ。
「だってしょーがないじゃん!!飛行機一機飛ばすのにもそっちの許可とか書類とかの手続き面倒だし!それに今回は外交問題だってあるんだから呼ばれて当然でしょ!!」
そもそもS・Tメンバーのほとんどが個が強すぎて、誰彼構わず衝突するのが日常茶飯事だったからな……セイナはドン引きしているが、これくらいならまだ可愛いほうだ。
「要はお前の手続きが面倒なだけじゃねーか!!こっちはそもそもお前達が何しに行ったことすら未だに詳しくは分かってないんだ!!せめてこっちが納得できる説明をだなぁあ!!」
「大・統・領からの極秘任務だったんだから!簡単に伝えられるわけないでしょ!!それくらい馬鹿なりに考えろよ!!」
まあ言いたいことを直球で言い合える仲……と言えなくもないが。この二人の場合はそちらかというとクレームを直接言い合う仲。というのが正解だろうな。うん。
あと極秘を大声で叫んでは、秘匿性もへったくれも無いだろロナ。
心の中で俺はそうツッコミをしつつ、これ以上喋らすと余計なことまでしゃべりかねないので、いつも通り二人を止めに入ろうとしたタイミングで突然────
「ククククッ……ハッハッハッハッ!!」
耳障りな嗤い声が響いてきた。
この場に居た全員が動きを止め、そいつを────急に嗤い出したボブ・スミスを見る。
「さっきから話しを聞いていれば、書面や手続きなどと……所詮その程度の下らない悩みしかない持たぬお前達が、今更あの工場を潰し、私を捕まえたところで結果はもう変わらない……!全員皆殺しにされるのがオチだ────」
唐突にそう話し出したチャップリンの顔つきは、精神崩壊したのかのような表情を浮かべていた。
皆がそれに怪訝顔を浮かべるも、チャップリンは意に介さず、焦点の合っていない眼を剥き出しにしたまま嗤い続ける。まるで壊れたピエロ人形のように。
「そう、貴様の父親と同じようなぁ!!」
「……」
ぎょろりと動かした目玉がアイリスを捉えた。
「所詮は奴も二流スナイパー、代品風情が本物に勝てるわけが無かったんだよ!!二年前、あんな小物に命を狙われていたと思うと今でも笑いが止まらない!!自分を正義のヒーローとでも勘違いした大間抜けだったんだよ!!お前の父親はぁ!!」
「……」
捲し立てるように吐かれた父への暴言に、アイリスは何も言い返さない。
父親を侮辱されても、ただただ黙ったまま、品の欠片も無い哀れな男をじっと見ているだけ……
何で言い返さないのか……それとも父を失ったことへの絶望から、言い返す気力すらもうアイリスには残っていないのか……
その真意を俺は読み取ることはできなかったが、何にせよ、その声が不快である事実は変わりない。
「お前……!」
職員に掴まれたままのチャップリンを、俺は一発殴ろうと歩み出た。
「おおっと!私はもうすでにだいぶボロボロなうえ、貴様のように頑丈じゃないんだ!下手に殴って死んでしまったら、情報が聞き出すことができないぞ?それにここはアメリカだ!私は罪人ではあると同時に人権もある!ここで貴様が殴ったら、それこそここにいる職員達が黙ってないぞ?」
「……ッ」
チャップリンの両脇に居た男達が半歩前に出たのに、俺は拳を握ったまま立ち止まる。
いまさら罪の一つや二つはどうってことない。そう、俺だけならな。
というのも、ここにはCIA副長官。国防総省のお偉いさんがいる以上、他の職員がいる手前で堂々と犯罪を犯した俺を黙認すれば、それこそ示しがつかない。
何より俺が一発で我慢できる保証もないしな。
本当……最後の最後までゴミ屑なやるだな……
心の中でそう唾を吐き捨て、煮えたぎっていた感情を抑える。
そうだ……コイツの戯言は所詮負け犬の遠吠え、俺もそこにいるアイリスのように大人になろう。
と思いかけていた俺の横をザザッ────!何かが飛び出していった。
陽の沈みかけた曇り空の下、黄金に駆ける一筋の光が視界の端を横切っていく。
小っこく、フローラルなローズの香りを纏ったそれは猪突猛進!そのままギュインッ!と跳ね上がる拳が、熊すら失神させる強烈な右アッパーを繰り出した。
「がはッ!!」
バキバキッ!とまるでアニメのような効果音が、跳ね上げられたチャップリンの顎から鳴り響いたかと思うと、その背後からは二つの銀尾を羽根のように羽ばたかせながら、同じく猪突猛進!腰の辺りに向かってドロップキックを見舞った。
「ぐぁ……!!」
跳ね上げられた顔から嗚咽のような物を漏らしながら、腰からもグギィッ!!と音を出したチャップリンが膝から崩れ落ちた。
「あーあ……やっちまったなぁ……」
その光景を傍から見ていたレクスは、やれやれと頭を振りつつ呑気な様子でそう答えた。
今回の事件の主犯として、ずっとジープのトランクに突っ込んでいたのだが、どうやら車を地下駐車場に置き行ったついでにロナが身柄を引き渡したらしい。
普段は頭の悪い犬のように、キャンキャンうるさいチャップリンも、流石に観念したのか不気味なくらいに沈黙を保っている。
「弟子……だと……?」
俺はそんなFBI副長官には目もくれず、ロナの言葉に首を傾げた。
誰が誰の……?
そう思っていた俺の横で、アイリスが小さくコクリ……と頷いた。
「レクスは、ボクが二年前に父親を失った時からの狙撃の師匠なんだ……」
その言葉に、レクスが軽く鼻を鳴らす。
「まあ……俺も師匠って言えるほどのことは教えてないですけどね……どちらかというと「保護者」みたいな感じなんですよ、フォルテ」
そうだったのか……てことはS・Tの時から面倒を見ていたってことか……
確かにそう言われてみれば、過去にそんなようなことを聞いた気がしなくもないが。なるほど……レクス関連ということもあり、当時同じ隊員として、様々な情報に精通していたロナはその関係性を知っていたんだ。だからベトナムに来てアイリスを初めて見た時も、詳しく知っているような口ぶりだったというわけか。
「でもまたどうして……レクスがそんなことを?」
無表情のままのアイリスに「保護者はやめろ……」とポカポカ殴られるレクス。確かに狙撃の腕こそ確かだが、それでも接点らしい部分は何一つ見当たらない。
「いやーそれがですね。実は俺の師匠がアイリスの父親、「ルーカス・N・ハスコック」だったわけなんですよ。師匠が亡くなったと知った俺は、保護者のいないご息女である彼女の面倒を見ようと……少しおこがましい気もしたんですが、まあそんなところです……そ・れ・よ・り・もッ!」
やけに語尾を強調させたレクスが俺からググッ!!と首をネジ切るようにして、ロナへと視線を移した。
穏やかだった表情に青筋を浮かべながら────
「よぉ……久々だなCIA副長官殿ぉ!まーた随分と面倒ごとを持ってきてくれたようで……俺はとぉっっても嬉しいよ!!」
ロナへとズカズカと歩み寄る。
「キャハッ!そうでしょ!そうでしょ!ロナちゃんはどっかの国防総省職員と違ってぇそういうとこ、とぉぉっても気が回るんだよ!」
嫌味に嫌味で返すロナもニコッ!憎たらしいまでの営業スマイルを浮かべまま、ドンッ!!近づいてきたレクスとおでこ同士をぶつける。
「ぐぬぬぬ……」とベトナムを舞台に突如始まった、年の離れた男と少女がカブトムシのように競り合う姿を、どこかみっともない物でも見るかのように、アイリス張りのジト目をしていたセイナが────
「ねぇ……フォルテ、あの二人って……」
「あーいつものことだから……気にすんなセイナ」
嘆息を漏らしつつ俺はそう答えた。
「大体なんで俺を呼ぶんだよ!!CIAの管轄なら、ペンタゴンを巻き込むんじゃねーよ!」
ロナはS・Tのだった時や、CIAの副長官に任命されてからは特に不真面目な人間の代名詞。レクスは今も昔も真面目人間。水と油である二人が衝突する光景は、最近で言うセイナとロナがケンカするくらい見慣れたものだ。
「だってしょーがないじゃん!!飛行機一機飛ばすのにもそっちの許可とか書類とかの手続き面倒だし!それに今回は外交問題だってあるんだから呼ばれて当然でしょ!!」
そもそもS・Tメンバーのほとんどが個が強すぎて、誰彼構わず衝突するのが日常茶飯事だったからな……セイナはドン引きしているが、これくらいならまだ可愛いほうだ。
「要はお前の手続きが面倒なだけじゃねーか!!こっちはそもそもお前達が何しに行ったことすら未だに詳しくは分かってないんだ!!せめてこっちが納得できる説明をだなぁあ!!」
「大・統・領からの極秘任務だったんだから!簡単に伝えられるわけないでしょ!!それくらい馬鹿なりに考えろよ!!」
まあ言いたいことを直球で言い合える仲……と言えなくもないが。この二人の場合はそちらかというとクレームを直接言い合う仲。というのが正解だろうな。うん。
あと極秘を大声で叫んでは、秘匿性もへったくれも無いだろロナ。
心の中で俺はそうツッコミをしつつ、これ以上喋らすと余計なことまでしゃべりかねないので、いつも通り二人を止めに入ろうとしたタイミングで突然────
「ククククッ……ハッハッハッハッ!!」
耳障りな嗤い声が響いてきた。
この場に居た全員が動きを止め、そいつを────急に嗤い出したボブ・スミスを見る。
「さっきから話しを聞いていれば、書面や手続きなどと……所詮その程度の下らない悩みしかない持たぬお前達が、今更あの工場を潰し、私を捕まえたところで結果はもう変わらない……!全員皆殺しにされるのがオチだ────」
唐突にそう話し出したチャップリンの顔つきは、精神崩壊したのかのような表情を浮かべていた。
皆がそれに怪訝顔を浮かべるも、チャップリンは意に介さず、焦点の合っていない眼を剥き出しにしたまま嗤い続ける。まるで壊れたピエロ人形のように。
「そう、貴様の父親と同じようなぁ!!」
「……」
ぎょろりと動かした目玉がアイリスを捉えた。
「所詮は奴も二流スナイパー、代品風情が本物に勝てるわけが無かったんだよ!!二年前、あんな小物に命を狙われていたと思うと今でも笑いが止まらない!!自分を正義のヒーローとでも勘違いした大間抜けだったんだよ!!お前の父親はぁ!!」
「……」
捲し立てるように吐かれた父への暴言に、アイリスは何も言い返さない。
父親を侮辱されても、ただただ黙ったまま、品の欠片も無い哀れな男をじっと見ているだけ……
何で言い返さないのか……それとも父を失ったことへの絶望から、言い返す気力すらもうアイリスには残っていないのか……
その真意を俺は読み取ることはできなかったが、何にせよ、その声が不快である事実は変わりない。
「お前……!」
職員に掴まれたままのチャップリンを、俺は一発殴ろうと歩み出た。
「おおっと!私はもうすでにだいぶボロボロなうえ、貴様のように頑丈じゃないんだ!下手に殴って死んでしまったら、情報が聞き出すことができないぞ?それにここはアメリカだ!私は罪人ではあると同時に人権もある!ここで貴様が殴ったら、それこそここにいる職員達が黙ってないぞ?」
「……ッ」
チャップリンの両脇に居た男達が半歩前に出たのに、俺は拳を握ったまま立ち止まる。
いまさら罪の一つや二つはどうってことない。そう、俺だけならな。
というのも、ここにはCIA副長官。国防総省のお偉いさんがいる以上、他の職員がいる手前で堂々と犯罪を犯した俺を黙認すれば、それこそ示しがつかない。
何より俺が一発で我慢できる保証もないしな。
本当……最後の最後までゴミ屑なやるだな……
心の中でそう唾を吐き捨て、煮えたぎっていた感情を抑える。
そうだ……コイツの戯言は所詮負け犬の遠吠え、俺もそこにいるアイリスのように大人になろう。
と思いかけていた俺の横をザザッ────!何かが飛び出していった。
陽の沈みかけた曇り空の下、黄金に駆ける一筋の光が視界の端を横切っていく。
小っこく、フローラルなローズの香りを纏ったそれは猪突猛進!そのままギュインッ!と跳ね上がる拳が、熊すら失神させる強烈な右アッパーを繰り出した。
「がはッ!!」
バキバキッ!とまるでアニメのような効果音が、跳ね上げられたチャップリンの顎から鳴り響いたかと思うと、その背後からは二つの銀尾を羽根のように羽ばたかせながら、同じく猪突猛進!腰の辺りに向かってドロップキックを見舞った。
「ぐぁ……!!」
跳ね上げられた顔から嗚咽のような物を漏らしながら、腰からもグギィッ!!と音を出したチャップリンが膝から崩れ落ちた。
「あーあ……やっちまったなぁ……」
その光景を傍から見ていたレクスは、やれやれと頭を振りつつ呑気な様子でそう答えた。
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