166 / 361
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》7
しおりを挟む
「と、父さん……だと!?」
俺はアイリスの言っていることの意味が理解できなかった。正確にはアイリスの告げたその内容、事実を上手く飲み込むことができなかった。
四つん這いに倒れたアイリスと魔術弾使いを交互に見ると、既視感の正体に俺はようやく気が付いた。
似ているんだ、ここにいる二人が……
性別こそ違えど似ている部分は多々見つかった。髪や目の色、表情、骨格や顔のパーツ……見れば見るほど二人が親子だということが、赤の他人でもある俺にも分かってしまうほどに。
当事者でない俺ですらこの状況に冷静さを欠いてしまっているというのに、アイリス本人が正気を保っていられるわけがなかった。そう考えると、普段クールな彼女が人目を阻むことなく、大声を上げて泣いてしまうのは必然だった。
「……強くなったな……アイリス……」
木の幹に背を預けたままの魔術弾使い────そして、アイリスの父親ことルーカス・N・ハスコックが静かに口を開いた。見た目よりも若く感じるその青年声に、俺とアイリスは同時に彼を見た。
「……まさか……自分の娘に負けるとはなぁ……ぅっ……」
「父さん……!!」
撃たれた右肩を抑えて呻くルーカスに、アイリスは脱兎のごとく駆け寄った。
本来だったら感動的な親子の再開のはずが、酷く動揺したアイリスにそれを喜ぶ余裕などあるはずがなかった。
「これは……」
アイリスと一緒に駈け寄った俺が、ちぎれた右腕を見てあることに気づく。
人の腕のように見えるそれは、内部は円柱状の空洞になっていて、その内側にはいくつもの札のような物が貼り付けてあった。
「フォルテと同じ……義手……?父さん、これは一体……?」
見た目よりも出血の少ないことにようやく気付いたアイリスが、ルーカスの懐にあったそれに触れる。
外見は人の肌と同じだが、俺の左腕のような、科学を駆使した脳波を読み取るタイプではなく、機械的な装置は皆無の内部には、護符といった魔術的機能が数えきれないほど施されているようだった。
「魔力を使って動かす……魔術義手だ……二年前、ここで私が生身の右腕を撃たれた後、修復不可能とされて用意してもらった代物だ……」
なるほど……アイリスの銃弾は確かにルーカスの右肩下辺りを貫通してはいたが、血液の入っていない右腕からは出血しない……どうりで見た目よりも軽傷に見えたということか。
「二年前に用意してもらったって……じゃあやっぱりあの時に父さんの右腕は……でもどうして!?敵だったはずのボブ・スミスの下についているんですか!?」
涙目のアイリスの瞳にルーカスは渋い顔付きを浮かべながら、懐から一本の煙草を取り出した。銘柄の分からない焦げ茶の煙草葉巻きに火をつけ、一吸いする。
「……さて、どこから話したものか……」
着香された甘みと酸味の混じったような煙と一緒に、そう吐きだしたルーカス。
本来スナイパーは臭いが敵にバレるのを恐れ、作戦行動中は煙草など人工的香りのあるものは使用しない。そんな彼が煙草をふかす様はまるで、自分の任務はようやく終わったという口ぶりにも取れた気がした。
「まずは……そうだな、二年前のあの任務……あれが軍上層部と関与していたFBIが仕組んだ罠だった、ということはお前も気づいているな?」
「う、うん……」
「実はな、あれは私自ら志願したものだったんだ」
「えっ……?じゃあ父さんは、初めから敵の罠と気づいていて志願を……?」
コクリと小さく頷いたルーカスに、アイリスは垂れた眦が吊り上がるほどに大きく瞳を見開いた。
「なんでわざわざ死地に飛び込むようなことを……!?罠だと分かっていたなら、断ることだってできたはずなのに……」
「いや、そうでもしなければ奴を……FBIの上層部をあの場で殺れないと思ったのだ……そこにある、ベトナムの武器密造工場で……」
「どういうことだ?」
親子同士の会話の中、無礼なのを承知で俺が話しに割り込んだ。
「……その左眼と左腕……あぁ、君がS・Tのフォルテ・S・エルフィーか……」
「俺のことを知っているのか?」
「勿論知っているさ、君達があのFBI長官に歯向かったチームなんだろ?」
「……」
俺はその言葉に押し黙る。知っているんだ、多分この人はなんで俺達がFBIに喧嘩を吹っ掛けたのかを……
急に話しの見えなくなったアイリスがキョトンとする中、ルーカスはさらに続ける。
「つまり……君にはあの組織の内情がどんなものか知っているはずだ。私がここで説明せずともね……」
「……俺の話しはいい、それよりも今はアンタがどうしてFBIで仕事をしていたのか、そこが一番重要だ……」
あまりアイリスにも聞かせたくない俺の話しを遮りつつ、上手くそう誘導すると、ルーカスもそれを察したかのように煙草を大きく吸った。
「私はこのベトナムの地で、何百何千と仕事をしていく内にあることに気づいた」
吐き出された煙草が宙をうねる。
「アメリカ政府が指示する任務の中で、意図的に避けられている場所が存在することに……」
「避けられている場所……?」
首を傾げたアイリスにルーカスは視線を西、ベトナムの方角を見た。
「ここだ……昔からクサイクサイと感じてはいたが、そのことを上層部に伝えても一向に偵察許可は下りなかった。だがある時、任務中に敵から逃れるためにキーソン川に飛び込んだことがあった。そして、その隠された場所へと足を踏み入れてしまったのだ……」
「それでこの工場を見つけたのか?」
俺の言葉に、ルーカスは後悔の念を抱くような表情を浮かべた。
「……工場だけなら良かったんだけどな。武器密造に加え、中国、ベトナムに武器密輸に関与していたアメリカFBI副長官を見てしまったんだ……」
やはり、推測通りこの工場はベトナムと中国に武器を密輸するための工場だったのか……
だが、一体何の目的でチャップリンそんなことをしていたんだ?
「すぐさま私が軍の上層部に訴えかけ、国内では証拠がないため工場で直接始末することを伝えると、奴らは手のひらを返したかのようにあっさり任務を受諾した……もうその時には裏で私を始末する手回しが済んでいたのだろう……」
「そこまで分かってて、どうして……!?」
掴みかかるくらいの勢いで詰め寄ったアイリスを、ルーカスは弱弱しかった眼光を鷹のように鋭くして見据える。
「祖国の為だ……」
「祖国の……?」
オウム返しのように繰り返したアイリスのその言葉に、俺は内心にチクリと棘のようなものが刺さった気がした。
祖国の為……愛国心……俺がすっかり忘れてしまっていたその言葉に。
「そうだ、私は亡くした妻やアイリスの暮らす祖国アメリカを守るため、あの男を排除しなければならなかった……だが、結果それを成し遂げることはできず……私の尻拭いまでアイリス……お前にやらせることになってしまった……」
アイリスはその言葉を聞いて「ううん……そんなことない」と告げたが、俺は少しだけ腹が立ってしまう。
「……罠だって分かっていたなら、どうしてアイリスを観測手として任務に同行させたんだ?他に幾らだって代わりは────」
「いないッ……!」
重傷を負って、今にも気絶しそうなほど弱っていたはずのその男の覇気に、俺は図らずも半歩下がるほどに気圧されてしまった。
「この子の……アイリスの代わりなどいない!フォルテ・S・エルフィー……あの時伝えこそしなかったが、これほどまで危険な任務にアイリスの同席させたのは、この子が私以上に優れた素質、狙撃の感性を持っていると判断したからだ……!その証拠に、私を撃ったスナイパーをアイリスは相打ちながらも仕留めていたのだから……!」
「仕留めていた……?ボクの最後に放った銃弾が奴に……?」
俺はアイリスの言っていることの意味が理解できなかった。正確にはアイリスの告げたその内容、事実を上手く飲み込むことができなかった。
四つん這いに倒れたアイリスと魔術弾使いを交互に見ると、既視感の正体に俺はようやく気が付いた。
似ているんだ、ここにいる二人が……
性別こそ違えど似ている部分は多々見つかった。髪や目の色、表情、骨格や顔のパーツ……見れば見るほど二人が親子だということが、赤の他人でもある俺にも分かってしまうほどに。
当事者でない俺ですらこの状況に冷静さを欠いてしまっているというのに、アイリス本人が正気を保っていられるわけがなかった。そう考えると、普段クールな彼女が人目を阻むことなく、大声を上げて泣いてしまうのは必然だった。
「……強くなったな……アイリス……」
木の幹に背を預けたままの魔術弾使い────そして、アイリスの父親ことルーカス・N・ハスコックが静かに口を開いた。見た目よりも若く感じるその青年声に、俺とアイリスは同時に彼を見た。
「……まさか……自分の娘に負けるとはなぁ……ぅっ……」
「父さん……!!」
撃たれた右肩を抑えて呻くルーカスに、アイリスは脱兎のごとく駆け寄った。
本来だったら感動的な親子の再開のはずが、酷く動揺したアイリスにそれを喜ぶ余裕などあるはずがなかった。
「これは……」
アイリスと一緒に駈け寄った俺が、ちぎれた右腕を見てあることに気づく。
人の腕のように見えるそれは、内部は円柱状の空洞になっていて、その内側にはいくつもの札のような物が貼り付けてあった。
「フォルテと同じ……義手……?父さん、これは一体……?」
見た目よりも出血の少ないことにようやく気付いたアイリスが、ルーカスの懐にあったそれに触れる。
外見は人の肌と同じだが、俺の左腕のような、科学を駆使した脳波を読み取るタイプではなく、機械的な装置は皆無の内部には、護符といった魔術的機能が数えきれないほど施されているようだった。
「魔力を使って動かす……魔術義手だ……二年前、ここで私が生身の右腕を撃たれた後、修復不可能とされて用意してもらった代物だ……」
なるほど……アイリスの銃弾は確かにルーカスの右肩下辺りを貫通してはいたが、血液の入っていない右腕からは出血しない……どうりで見た目よりも軽傷に見えたということか。
「二年前に用意してもらったって……じゃあやっぱりあの時に父さんの右腕は……でもどうして!?敵だったはずのボブ・スミスの下についているんですか!?」
涙目のアイリスの瞳にルーカスは渋い顔付きを浮かべながら、懐から一本の煙草を取り出した。銘柄の分からない焦げ茶の煙草葉巻きに火をつけ、一吸いする。
「……さて、どこから話したものか……」
着香された甘みと酸味の混じったような煙と一緒に、そう吐きだしたルーカス。
本来スナイパーは臭いが敵にバレるのを恐れ、作戦行動中は煙草など人工的香りのあるものは使用しない。そんな彼が煙草をふかす様はまるで、自分の任務はようやく終わったという口ぶりにも取れた気がした。
「まずは……そうだな、二年前のあの任務……あれが軍上層部と関与していたFBIが仕組んだ罠だった、ということはお前も気づいているな?」
「う、うん……」
「実はな、あれは私自ら志願したものだったんだ」
「えっ……?じゃあ父さんは、初めから敵の罠と気づいていて志願を……?」
コクリと小さく頷いたルーカスに、アイリスは垂れた眦が吊り上がるほどに大きく瞳を見開いた。
「なんでわざわざ死地に飛び込むようなことを……!?罠だと分かっていたなら、断ることだってできたはずなのに……」
「いや、そうでもしなければ奴を……FBIの上層部をあの場で殺れないと思ったのだ……そこにある、ベトナムの武器密造工場で……」
「どういうことだ?」
親子同士の会話の中、無礼なのを承知で俺が話しに割り込んだ。
「……その左眼と左腕……あぁ、君がS・Tのフォルテ・S・エルフィーか……」
「俺のことを知っているのか?」
「勿論知っているさ、君達があのFBI長官に歯向かったチームなんだろ?」
「……」
俺はその言葉に押し黙る。知っているんだ、多分この人はなんで俺達がFBIに喧嘩を吹っ掛けたのかを……
急に話しの見えなくなったアイリスがキョトンとする中、ルーカスはさらに続ける。
「つまり……君にはあの組織の内情がどんなものか知っているはずだ。私がここで説明せずともね……」
「……俺の話しはいい、それよりも今はアンタがどうしてFBIで仕事をしていたのか、そこが一番重要だ……」
あまりアイリスにも聞かせたくない俺の話しを遮りつつ、上手くそう誘導すると、ルーカスもそれを察したかのように煙草を大きく吸った。
「私はこのベトナムの地で、何百何千と仕事をしていく内にあることに気づいた」
吐き出された煙草が宙をうねる。
「アメリカ政府が指示する任務の中で、意図的に避けられている場所が存在することに……」
「避けられている場所……?」
首を傾げたアイリスにルーカスは視線を西、ベトナムの方角を見た。
「ここだ……昔からクサイクサイと感じてはいたが、そのことを上層部に伝えても一向に偵察許可は下りなかった。だがある時、任務中に敵から逃れるためにキーソン川に飛び込んだことがあった。そして、その隠された場所へと足を踏み入れてしまったのだ……」
「それでこの工場を見つけたのか?」
俺の言葉に、ルーカスは後悔の念を抱くような表情を浮かべた。
「……工場だけなら良かったんだけどな。武器密造に加え、中国、ベトナムに武器密輸に関与していたアメリカFBI副長官を見てしまったんだ……」
やはり、推測通りこの工場はベトナムと中国に武器を密輸するための工場だったのか……
だが、一体何の目的でチャップリンそんなことをしていたんだ?
「すぐさま私が軍の上層部に訴えかけ、国内では証拠がないため工場で直接始末することを伝えると、奴らは手のひらを返したかのようにあっさり任務を受諾した……もうその時には裏で私を始末する手回しが済んでいたのだろう……」
「そこまで分かってて、どうして……!?」
掴みかかるくらいの勢いで詰め寄ったアイリスを、ルーカスは弱弱しかった眼光を鷹のように鋭くして見据える。
「祖国の為だ……」
「祖国の……?」
オウム返しのように繰り返したアイリスのその言葉に、俺は内心にチクリと棘のようなものが刺さった気がした。
祖国の為……愛国心……俺がすっかり忘れてしまっていたその言葉に。
「そうだ、私は亡くした妻やアイリスの暮らす祖国アメリカを守るため、あの男を排除しなければならなかった……だが、結果それを成し遂げることはできず……私の尻拭いまでアイリス……お前にやらせることになってしまった……」
アイリスはその言葉を聞いて「ううん……そんなことない」と告げたが、俺は少しだけ腹が立ってしまう。
「……罠だって分かっていたなら、どうしてアイリスを観測手として任務に同行させたんだ?他に幾らだって代わりは────」
「いないッ……!」
重傷を負って、今にも気絶しそうなほど弱っていたはずのその男の覇気に、俺は図らずも半歩下がるほどに気圧されてしまった。
「この子の……アイリスの代わりなどいない!フォルテ・S・エルフィー……あの時伝えこそしなかったが、これほどまで危険な任務にアイリスの同席させたのは、この子が私以上に優れた素質、狙撃の感性を持っていると判断したからだ……!その証拠に、私を撃ったスナイパーをアイリスは相打ちながらも仕留めていたのだから……!」
「仕留めていた……?ボクの最後に放った銃弾が奴に……?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~
花田 一劫
歴史・時代
東北大地震が発生した1週間後、小笠原清秀と言う青年と長岡与一郎と言う老人が道路巡回車で仕事のために東北自動車道を走っていた。
この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。
長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。
~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。
船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。
輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。
その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。
それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。
~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。
この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。
桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる