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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》3
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倒れたグリーズの脇に着地した俺達の頭上を飛んでいくセイナ達は、十、二十とグングンと上昇していき、あっという間に数百メートルの位置まで到達していた。
ダァァァァァン!!!!
上空でアイリスが発砲────同時に曇り空が円形状に吹き飛ばされる。それと同時にロナが電子機器の画面を開いた。
「……目標は最初の地点から西側斜面、キーソン川に向かって三十と下山中!!二人から見て一時の方角!!」
『────オーケー、捉えた……』
雲の切れ間からの衛星のライブ映像を基に的確な指示を出すロアに、アイリスはスコープ越しに短く告げる。
あのスナイパーと戦う上で一番の問題は地の利だった。
せめてこちらが側が高ければ幾らでも交戦しようがあったが、撃ち下ろしの状態でスナイパーに釘付けにされてしまうと勝ち目どころか逃げ道すらはない。それを覆すためにロナが講じ策がこれだ。
レーザービームで隙を作りつつ、敵の上部である東側を攻撃することで逃げ場を下部、西側の山の斜面下へ絞り込む。そこから隙に乗じてセイナの神器「タングリスニ」「タングニョースト」の力で上昇、一気に地の利を逆転させるというものだった。
その代償として、誰かが絶対必中の初弾を受ける役回りが必要だったのだが……その貧乏くじを俺が引くことになるとは……まあ役割分担的に俺にしかできないから仕方ないとして……おかげでもう動けそうにない……
座り込んだ俺の横で、ロナが電子機器のモニター越しに檄を飛ばす。よく見ると、さっき吹っ飛ばした、絶賛気絶中のチャップリンをちゃっかり靴の下敷きにしていた。飛び降りた時に隕石の糸で引きずり降ろしたのか……相変わらず抜かりない奴……
『距離約1500m、風は無し、クリック、アングル、共に自己修正……』
インカム越しにスポッター役のセイナの声が届く。とは言うものの、上空からの狙撃なんて基本やることケースは無い。
アイリスは、腰の辺りをセイナに抱えられた状態での不安定な狙撃。地の利を得たとはいえ、揺れや目標距離が不規則に動く環境下では、歴戦の軍人でも当てるのは一苦労……正直情報を聞いたところでそれを活かせる人物は世界でも一握り入るかどうか……
『……完了』
冷徹なその言葉に俺は眼を瞠る。
どれだけ狙撃に優れていたとしても、これだけの少ない情報、経験したことのない状況でそう言いきれてしまうアイリスの自信には正直感服する。
俺が今まで生きてきた数十年の生を費やしても到底到達しない域に、セイナ達と変わらぬ齢にして至っているアイリスこそ、正に狙撃における神童、俊秀の持ち主とも言えるのだろう……
それが彼女の才能でもあり、凄腕のスナイパーであった父の遺伝子を受け継いだ「家族の力」……そうした諸々が積み重なり、今の彼女の力を発揮しているのだろう。
『……いつでも……』
『……ッ!』
ダァァァァァン!!!!
遥か上空から雷鳴のような銃声が響いた!
同時に衛星のライブ映像に映った林の中で、ピカッ!とガラスの反射のような光が点灯した。
『クッ……!!』
放った銃弾は命中することは無く明後日の方角に着弾した。
アイリス達と魔術弾使いの間で散った火花に、セイナがバサリッ!と青白く輝く光翼を動かしながら旋回する。
アイリスが放った瞬間────下山中だった中国サイドのスナイパーが走りながら応戦し、見事に銃弾を弾き飛ばした。
流石……と本当は言いたくないが、狙撃に特化したアイリスと渡り合うだけはある。これだけ不利な状況下でも冷静に対応できる奴も伊達ではない。
『……セイナ……そのまま動き続けて……!』
低い声でそう告げたアイリスにセイナが頷くと、空を舞う二人は不規則な軌道で動き続けた。
ダァァァァァン!!!!ダァァァァァン!!!!ダァァァァァン!!!!
飛行機やヘリコプターでは決してできない、上下左右と角度を変えながらの狙撃。
普通では有り得ないその撃ち方も、動き続けながら狙撃できるアイリスだからこそ出来ているようにも見えるがそれだけじゃない。阿吽の呼吸でアイリスの求める射撃位置にセイナが上手く入ることで、あの精度を維持し続けてられているんだ。
ターンッ!ターンッ!ターンッ!
だが、それだけの技量を以ってしても銃弾は魔術弾使いには届かない……それどころか、余裕を見せているつもりか?飛んでくる銃弾は全て普通の鉛玉で、あの拡散する緋色の魔術弾を奴はまだ一発も使ってこない。
「ちょっとまずいね……」
衛星のライブ映像からスナイパーの座標を追っていたロナが渋い表情を浮かべた。
「何かあったのか……?」
「これ見てよ」
俺の問いに、ロナは電子機器の画面を見せてきた。
密林の映像が表示された画面には現在交戦中のあのスナイパーの他に、まとまって動く人影が映っていた。
「さっき言ってた国境警備隊か?」
「そうらしいんだけど……でもおかしなことに中国人民武装警察部隊のサーバーを確認したところ、出撃命令は特に出てないんだよ」
上空で戦う二人の不安を煽らないよう、インカムのマイクを抑えながらロナがヒソヒソとそう告げた。
「出撃命令は出てない?」
俺も同じようにインカムのマイクを抑える。
「うん、他の公の組織のデータは調べてみたけどヒットしない……」
「てことは、政府が公表していない裏の組織……ということか」
ここでやっていた違法取引を中国サイドは揉み消しに来たということか。余程ここが世間にバレるのがまずいってことらしいな。
「国家安全部か?それとも北京から雪豹突撃部隊でも引っ張ってきたのか?」
「なんでも構わないけど、連中に到着されたらロナ達が殺されるのはほぼ確定だよ、それにアイリスの魔力があとどれくらい持つかも分からないし……」
上空では今も激しい狙撃戦を繰り広げ、銃弾が空中で弾け合う中ロナは、野戦服の緑で二つのメロンのように見える胸の下で腕を組む。
俺はそれに何となく引っかかりのようなものを覚えて小首を傾げた。
セイナには俺が教えたが、つい数分前に救出したばかりのロナはアイリスについての詳しい情報を知らないはず……にもかかわらず、どうして魔力を使っていることを知っているのか?
「魔力が切れる前に倒せればいいけど……」
ヒラリヒラリと妖精のように舞う二人の姿を固唾を呑んで見守るロナ。
未だ決着の様子の見えないスナイパー二人は一体何を考えているのか?狙撃に関しては素人の俺達には到底分からないことだった。
全神経を集中させ、一発一発の銃弾に祈りを込めるように放つ。
ボクの魔力によって力を得た銃弾達が空中を駆け抜け、タダ真っすぐに目標に向けて飛翔する。
過度な力は逆効果だ。ただでさえいつも使っていた愛銃ではなく、古い父の形見で魔力を込め過ぎてしまうというのに、父を殺した敵……その憎悪だけで余計に力が入りそうになってしまう。
スナイパーの銃弾は普通に喋るよりも情報を吐く。下手な動揺は悟られるだけなので、ただひたすら無心の状態で撃ち続ける。
それでも、それでもあのスナイパーには一発の銃弾を当てることができていない……
奴は密林の中を自分の庭のように走り、隠れ、狙撃し、ボクの銃弾をことごとくいなしていく。
「……ッ」
後ろからボクのことを抱えるセイナの手にも力が入る。
集中しているボクに水を差さないよう決して口には出さないが、時間、弾数、魔力など様々なものに制限があることに焦りを感じているのだろう……そう思ってしまうほど、他人の眼から見たらボク達の力は拮抗しているということだ。
────それではダメなんだ……
時間稼ぎでは国境警備隊が到着してしまう……そもそもボクの魔力と銃弾がそこまで持つかすら分からない。
────ここで奴に勝たないといけないんだ!
ボルトアクション式であるレミントンM700の銃身を持つ手に力が入る。
ダァァァァァン!!!!カチッ!カチッ!ダァァァァァン!!!!カチッ!カチッ!
次弾をボルトハンドルで再装填させて放った弾丸の行方を追うが、まるで鏡合わせのように銃弾は全て叩き落とされる。
分かっていたことだ……いつものボクでは奴には勝てないと……
そのために持ってきていたお守りは、さっき使ってしまった。
それでもあの時、タングステン合金弾を撃っていなければ今頃フォルテ達はあの機械人形に殺されていただろう……だとしても意外だった。秘密兵器を使ってまで、最初ボクが利用しようとしていた連中を助けるだなんて……
────彼らには、不思議なものを感じる。
幼くして母を病気で失い、その影響から生きていくための術として、父からは狙撃のことばかりを叩き込まれていた。幼くして山に籠る日々────仲のいい友人なんていなかったが、それでもボクは嬉しかった。父と一緒に仕事ができることを……
その父を失い、何もなくなったボクに手を差し伸べてくれるお人好しなんていなかった。
待っていたのは、腕の立つ父のことを嫉んでいた周りの大人達から後ろ指を差され、嘲笑われる日々。それをボクは半日と我慢できなかった。
上司である将校を半殺しにしたあの時から、ボクはきっと変わってしまった。周りにいる人間は全て利用するためだけの存在。そうとしか思わなくなってしまった。
だが、彼らは違かった。
いいように利用しようとしたボクのことを助け、偽りの気持ち無しに接してくれた。
あれほど嫌になっていた人付き合いが、楽しいと思えたくらいに……
なにより彼が……フォルテが作っていた筍の蒸し焼き。味なんて大して施してない、普通の蒸し焼き。でもそれを食べた時、ものすごく美味しく感じた。
最初はそれが不思議だった、何か特殊なスパイスでも使ったのか?そう思ったくらいに……
でもそうじゃないと途中で気づいた。あれは「愛情」だ。その人のことを思って作る、人の「愛情」の味だったんだ。馬鹿な話しと思うがそれでもあれは……昔食べた父の料理と同じ味がしたんだ。
────そんな彼らに気持ちに応えたい……!
憎悪とは異なる感情に魔力を銃弾に込め過ぎてしまい、弾道が少し跳ね上がってしまったしてしまった。
────焦るな、チャンスは必ず来る……
ボクが自分にそう言い聞かせた時だった────真下の地上から数発の銃声が響いたのは。
ダァァァァァン!!!!
上空でアイリスが発砲────同時に曇り空が円形状に吹き飛ばされる。それと同時にロナが電子機器の画面を開いた。
「……目標は最初の地点から西側斜面、キーソン川に向かって三十と下山中!!二人から見て一時の方角!!」
『────オーケー、捉えた……』
雲の切れ間からの衛星のライブ映像を基に的確な指示を出すロアに、アイリスはスコープ越しに短く告げる。
あのスナイパーと戦う上で一番の問題は地の利だった。
せめてこちらが側が高ければ幾らでも交戦しようがあったが、撃ち下ろしの状態でスナイパーに釘付けにされてしまうと勝ち目どころか逃げ道すらはない。それを覆すためにロナが講じ策がこれだ。
レーザービームで隙を作りつつ、敵の上部である東側を攻撃することで逃げ場を下部、西側の山の斜面下へ絞り込む。そこから隙に乗じてセイナの神器「タングリスニ」「タングニョースト」の力で上昇、一気に地の利を逆転させるというものだった。
その代償として、誰かが絶対必中の初弾を受ける役回りが必要だったのだが……その貧乏くじを俺が引くことになるとは……まあ役割分担的に俺にしかできないから仕方ないとして……おかげでもう動けそうにない……
座り込んだ俺の横で、ロナが電子機器のモニター越しに檄を飛ばす。よく見ると、さっき吹っ飛ばした、絶賛気絶中のチャップリンをちゃっかり靴の下敷きにしていた。飛び降りた時に隕石の糸で引きずり降ろしたのか……相変わらず抜かりない奴……
『距離約1500m、風は無し、クリック、アングル、共に自己修正……』
インカム越しにスポッター役のセイナの声が届く。とは言うものの、上空からの狙撃なんて基本やることケースは無い。
アイリスは、腰の辺りをセイナに抱えられた状態での不安定な狙撃。地の利を得たとはいえ、揺れや目標距離が不規則に動く環境下では、歴戦の軍人でも当てるのは一苦労……正直情報を聞いたところでそれを活かせる人物は世界でも一握り入るかどうか……
『……完了』
冷徹なその言葉に俺は眼を瞠る。
どれだけ狙撃に優れていたとしても、これだけの少ない情報、経験したことのない状況でそう言いきれてしまうアイリスの自信には正直感服する。
俺が今まで生きてきた数十年の生を費やしても到底到達しない域に、セイナ達と変わらぬ齢にして至っているアイリスこそ、正に狙撃における神童、俊秀の持ち主とも言えるのだろう……
それが彼女の才能でもあり、凄腕のスナイパーであった父の遺伝子を受け継いだ「家族の力」……そうした諸々が積み重なり、今の彼女の力を発揮しているのだろう。
『……いつでも……』
『……ッ!』
ダァァァァァン!!!!
遥か上空から雷鳴のような銃声が響いた!
同時に衛星のライブ映像に映った林の中で、ピカッ!とガラスの反射のような光が点灯した。
『クッ……!!』
放った銃弾は命中することは無く明後日の方角に着弾した。
アイリス達と魔術弾使いの間で散った火花に、セイナがバサリッ!と青白く輝く光翼を動かしながら旋回する。
アイリスが放った瞬間────下山中だった中国サイドのスナイパーが走りながら応戦し、見事に銃弾を弾き飛ばした。
流石……と本当は言いたくないが、狙撃に特化したアイリスと渡り合うだけはある。これだけ不利な状況下でも冷静に対応できる奴も伊達ではない。
『……セイナ……そのまま動き続けて……!』
低い声でそう告げたアイリスにセイナが頷くと、空を舞う二人は不規則な軌道で動き続けた。
ダァァァァァン!!!!ダァァァァァン!!!!ダァァァァァン!!!!
飛行機やヘリコプターでは決してできない、上下左右と角度を変えながらの狙撃。
普通では有り得ないその撃ち方も、動き続けながら狙撃できるアイリスだからこそ出来ているようにも見えるがそれだけじゃない。阿吽の呼吸でアイリスの求める射撃位置にセイナが上手く入ることで、あの精度を維持し続けてられているんだ。
ターンッ!ターンッ!ターンッ!
だが、それだけの技量を以ってしても銃弾は魔術弾使いには届かない……それどころか、余裕を見せているつもりか?飛んでくる銃弾は全て普通の鉛玉で、あの拡散する緋色の魔術弾を奴はまだ一発も使ってこない。
「ちょっとまずいね……」
衛星のライブ映像からスナイパーの座標を追っていたロナが渋い表情を浮かべた。
「何かあったのか……?」
「これ見てよ」
俺の問いに、ロナは電子機器の画面を見せてきた。
密林の映像が表示された画面には現在交戦中のあのスナイパーの他に、まとまって動く人影が映っていた。
「さっき言ってた国境警備隊か?」
「そうらしいんだけど……でもおかしなことに中国人民武装警察部隊のサーバーを確認したところ、出撃命令は特に出てないんだよ」
上空で戦う二人の不安を煽らないよう、インカムのマイクを抑えながらロナがヒソヒソとそう告げた。
「出撃命令は出てない?」
俺も同じようにインカムのマイクを抑える。
「うん、他の公の組織のデータは調べてみたけどヒットしない……」
「てことは、政府が公表していない裏の組織……ということか」
ここでやっていた違法取引を中国サイドは揉み消しに来たということか。余程ここが世間にバレるのがまずいってことらしいな。
「国家安全部か?それとも北京から雪豹突撃部隊でも引っ張ってきたのか?」
「なんでも構わないけど、連中に到着されたらロナ達が殺されるのはほぼ確定だよ、それにアイリスの魔力があとどれくらい持つかも分からないし……」
上空では今も激しい狙撃戦を繰り広げ、銃弾が空中で弾け合う中ロナは、野戦服の緑で二つのメロンのように見える胸の下で腕を組む。
俺はそれに何となく引っかかりのようなものを覚えて小首を傾げた。
セイナには俺が教えたが、つい数分前に救出したばかりのロナはアイリスについての詳しい情報を知らないはず……にもかかわらず、どうして魔力を使っていることを知っているのか?
「魔力が切れる前に倒せればいいけど……」
ヒラリヒラリと妖精のように舞う二人の姿を固唾を呑んで見守るロナ。
未だ決着の様子の見えないスナイパー二人は一体何を考えているのか?狙撃に関しては素人の俺達には到底分からないことだった。
全神経を集中させ、一発一発の銃弾に祈りを込めるように放つ。
ボクの魔力によって力を得た銃弾達が空中を駆け抜け、タダ真っすぐに目標に向けて飛翔する。
過度な力は逆効果だ。ただでさえいつも使っていた愛銃ではなく、古い父の形見で魔力を込め過ぎてしまうというのに、父を殺した敵……その憎悪だけで余計に力が入りそうになってしまう。
スナイパーの銃弾は普通に喋るよりも情報を吐く。下手な動揺は悟られるだけなので、ただひたすら無心の状態で撃ち続ける。
それでも、それでもあのスナイパーには一発の銃弾を当てることができていない……
奴は密林の中を自分の庭のように走り、隠れ、狙撃し、ボクの銃弾をことごとくいなしていく。
「……ッ」
後ろからボクのことを抱えるセイナの手にも力が入る。
集中しているボクに水を差さないよう決して口には出さないが、時間、弾数、魔力など様々なものに制限があることに焦りを感じているのだろう……そう思ってしまうほど、他人の眼から見たらボク達の力は拮抗しているということだ。
────それではダメなんだ……
時間稼ぎでは国境警備隊が到着してしまう……そもそもボクの魔力と銃弾がそこまで持つかすら分からない。
────ここで奴に勝たないといけないんだ!
ボルトアクション式であるレミントンM700の銃身を持つ手に力が入る。
ダァァァァァン!!!!カチッ!カチッ!ダァァァァァン!!!!カチッ!カチッ!
次弾をボルトハンドルで再装填させて放った弾丸の行方を追うが、まるで鏡合わせのように銃弾は全て叩き落とされる。
分かっていたことだ……いつものボクでは奴には勝てないと……
そのために持ってきていたお守りは、さっき使ってしまった。
それでもあの時、タングステン合金弾を撃っていなければ今頃フォルテ達はあの機械人形に殺されていただろう……だとしても意外だった。秘密兵器を使ってまで、最初ボクが利用しようとしていた連中を助けるだなんて……
────彼らには、不思議なものを感じる。
幼くして母を病気で失い、その影響から生きていくための術として、父からは狙撃のことばかりを叩き込まれていた。幼くして山に籠る日々────仲のいい友人なんていなかったが、それでもボクは嬉しかった。父と一緒に仕事ができることを……
その父を失い、何もなくなったボクに手を差し伸べてくれるお人好しなんていなかった。
待っていたのは、腕の立つ父のことを嫉んでいた周りの大人達から後ろ指を差され、嘲笑われる日々。それをボクは半日と我慢できなかった。
上司である将校を半殺しにしたあの時から、ボクはきっと変わってしまった。周りにいる人間は全て利用するためだけの存在。そうとしか思わなくなってしまった。
だが、彼らは違かった。
いいように利用しようとしたボクのことを助け、偽りの気持ち無しに接してくれた。
あれほど嫌になっていた人付き合いが、楽しいと思えたくらいに……
なにより彼が……フォルテが作っていた筍の蒸し焼き。味なんて大して施してない、普通の蒸し焼き。でもそれを食べた時、ものすごく美味しく感じた。
最初はそれが不思議だった、何か特殊なスパイスでも使ったのか?そう思ったくらいに……
でもそうじゃないと途中で気づいた。あれは「愛情」だ。その人のことを思って作る、人の「愛情」の味だったんだ。馬鹿な話しと思うがそれでもあれは……昔食べた父の料理と同じ味がしたんだ。
────そんな彼らに気持ちに応えたい……!
憎悪とは異なる感情に魔力を銃弾に込め過ぎてしまい、弾道が少し跳ね上がってしまったしてしまった。
────焦るな、チャンスは必ず来る……
ボクが自分にそう言い聞かせた時だった────真下の地上から数発の銃声が響いたのは。
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