SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》1

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「な────」

 何を……?と俺が聞くよりも先に、中国山地の方から小さく。

 ターンッ!

 短く銃声が響いた。
 数キロ離れた位置から届いた、放たれた銃弾が置き去りにした音……それで全てを察した俺達三人は、倒れたグリーズの陰へと身を寄せるようにして隠れる。

「噂をすればなんとやらってか……!」

 役に立つとは思えないが、ハンドガンの弾数を無意識に数える俺。セイナやロナも同じように再びの戦闘に備えて準備している……のだが、アイリスだけはレミントンM700を片手で構えたまま。

「……んッ……」

 一本の注射器を躊躇ためらいも無く首筋の辺りに差す。
 人間が一日に消費する魔力が三十倍も込められたブースタードラッグが、アイリスの身体を再び活性化させていく。

「……良かった……これでチャップリンそいつに色々聞く手間が省けたよ……」

 ダァァァァァン!!!!

 獲物を前に琥珀色アンバーの瞳を爛々らんらんとさせたまま、一切隠れることなくその場で撃ち合いを始めた。
 激しい銃弾の差し合いの刹那、中国山地に昇っていた太陽が雲に隠れていく────その姿に俺は何となく嫌な感じを……不穏な胸騒ぎなようなものを感じた。

「待てッ!アイリス……!!」

 俺はボロボロの身体に鞭打ちながら、アイリスをグリーズの陰へと引きずり込んだ。

「……なんだいッ……!邪魔しないでよ……!」

 アイリスが俺の腕の中で身をよじらせる。
 獲物を前にしたその瞳は人間のそれではない……獣だ。血に飢えた猛獣へと成り果てた彼女に、冷静という言葉は皆無に等しい。
 昨日見た限りでは実力はほぼ互角だった。もしこんな状態でこのまま戦わせたら、確実にアイリスが負けるのは狙撃が得意でない俺の眼から見ても明白だった。

「落ち着けッ!……焦った状態じゃあ奴は倒せない……俺達も何か協力するから、一人で先走んな!」

 羽交い絞めにして頭からそう投げかけるが、アイリスはマフラー越しに唸るような声を上げたまま抵抗を止めない。コイツ……ブースタードラッグ内に何か興奮作用を引き起こす物質を混ぜてやがるな……!

「アイリスお願い……アタシ達も協力するから、話を聞いて……」

 優しく手を取りながら訴えかけたセイナの言葉に、ネコ科の猛獣のように細められていた虹彩こうさいが徐々に通常の状態へと戻っていき、抵抗する力も収まってくる。俺が言っても全く聞かなかったのは少ししゃくだが、セイナのおかげで冷静さは取り戻してくれたようだった。

「はぁ……協力って言っても……君達じゃあスナイパー相手に戦う装備が無いじゃないか……?一体どうするつもりなんだい?」

 少し苛立ちの混じったねたような子供な仕草でアイリスが嘆息をつく。

「アイリスは敵がどこにいるかは分かってるの……?」

 横からロナが話に割り込んできた。
 胸元のとんでもない位置から何事も無く取り出した電子機器を操作して、何かを調べていたが……止めろそれ……本人に悪気はないかも知れないが、それが当たり前にできないセイナ隣の人物が人を殺せるほどのガンを飛ばしていることに気づけよ……

「分かる……中国の山地の中にある一本の巨木……その根元からこっちを狙っていた……」

「この地図で言うと?」

 電子機器の画面を見せる……って、おいおい衛星写真かよ……丁度この辺を通ったどこかの国の衛星をハックしたのかもしれないが……しれっとそれをやる辺りホント手慣れてんなぁ……

「……ここだ、この位置……」

 画面内でアイリスが指し示した場所には、上からの映像でちょっと分かりにくいが、確かに他の木々よりも大きな胴体を持つ樹木が立っていた。丁度ここから見て太陽との間……対角線の辺りだ。

「向こうは完全な撃ち下ろしだから、射角的にはこっちが完全に不利ね……」

 アイリスほどではないが、一応狙撃もできるセイナが画像に対し意見を出している。
 なんだろう……協力すると言っておきながら、俺なんも役に立ってないんだが……

「不利でも……やるしかないんだ……そのために二年間……この日の為だけに耐え続けたんだから……それに今からベトナムの山地に戻ろうにも、ここから出れば奴は確実にボク達を仕留めに来る……いや、跳弾でここを狙ってくる可能性だって十分ある……」

「つまりはここにいること自体がジリ貧ってことか?」

 俺の言葉にコクリとアイリスが頷いた。
 助けようとしたつもりがどうやら足を引っ張っちまったらしいな……

「ロナ、お前のICコートは使えないのか?」

 電子機器を操作しながら何かをしているロナに俺が聞くが、彼女は画面から目を離さないで首を横に振る。

「無理だよ……迷彩加工を施していない銃は姿を直接隠すことができないし、アイリスのそれは流石に長すぎるから懐に仕舞おうとしても無理……」

 何となくICコートを使用したことがある俺はそれを分かっていたが、武器製造の専門家であるロナにそう断言されては返す言葉もない……
 カタカタとロナが電子レーザーキーボードを叩く音だけが響く中、全員黙り込んでしまう……活路を見出すことができない。

「せめて……一瞬でも隙があれば……ボクが仕留めて見せるのに……」

 ポツリと呟くアイリスの声が、より悲壮感を煽る中……ターンッとエンターを押したロナがそこでようやく顔を上げた。

「さてさてくらーい顔の皆さん、いいニュースと悪いニュース。どっちから聞きたいかな?」

 重い空気を跳ね除けるような元気いっぱいのロナの声に、俺達三人は首を傾げた。

「なによ?突然……」

 胸の件もあってどこか刺々しい声でセイナがロナを見た。

「まあまあ、どっちがいい?じゃあダーリンどうぞ!」

「お、おれ……?」

 口元を歪ませて俺が自分を指さすと、セイナとアイリスが両サイドから顔を覗き込んできた。何故か決定権を押し付けられた俺は、ダーリンについて否定することすら忘れて────

「じゃあ……俺は好物は最後まで取っておく方だから、悪いニュースから……」

「オッケー、悪いニュースはさっきまでのロナ達がやってたドンパチ、どうやら国境警備隊に気づかれたらしいから、到着まであと三十分ってとこかな?」

「めちゃくちゃ悪いじゃねーかよ」

 軽い雰囲気で言われたとんでもない情報に、俺は頭を抱える。どうやら俺達には悩む時間すら残されてはいないらしい……

「……で?いいニュースってのは何なの?」

 時間があまり残されていないことを知ったセイナが回答を急かすと、ロナはただ一言こういった。

。あのスナイパーを倒すよ……」
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