SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》14

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 視界に収まりきらないほど巨大な鋼鉄の怪物が研究所の下部から姿を現した。無機質な鈍色のはがね装甲ボディに身を包んだ人型の巨人が、地響きをさせながら立ち上がる。が、あまりにもデカすぎて首から上は天井の部分でぶつかってしまい、直立することができずに少し不格好なヤンキーのような姿勢をとった。

「タイタンッ……!?いや、そんなレベルじゃないわよ……!?」

 見たこともない兵器と思しき巨人に、セイナもそのブルーサファイアの瞳を目一杯見開いていた。
 セイナの言う通り世間でも認知度の高いパワードスーツ「タイタン」の大きさは、だいたい人よりも二回り程度、つまりは二メートルから三メートル程度しかないのに対し、こっちは小体育館程の研究所を狭く感じさせるくらいでかい……目測で十二メートルほどはありそうだ……!
 ブチブチと研究所内の機材に繋がれていたケーブルが引き千切れ、重くゆったりとした動きで踏み出した普通車並みの大きな足が、置いてあったデスクをプレス機の如くペラペラに押しつぶした。武器らしいものはなにも持っていなかったが、巨体と言うだけで充分脅威になりえるその「ロボット」は、舞い上がった砂煙の中から黄色い一つ目を不気味に光らせ、俺達を見下ろした。

『どうだ……!これが我々の研究の成果!!戦闘騎兵せんとうきへいGríðrグリーズだ」!!この兵器に、貴様らごとき人間が何人束になったところで止めることはできないぞ!!』

 グリーズ……確か北欧神話にも出てくる、セイナの有する雷神トールとも関係のある女巨人の名前だ。
 顔はまだ未完成なのか?円柱形の簡易な作りのポッド型頭部から、スピーカー越しのチャップリンの声が響く。さっきの押したボタンはこのグリーズに乗るための搭乗ボタンだってことかッ……!

「神の力を動力!?そうか……!だからこんなアンバランスな兵器が成り立っているんだ……」

「どういうことだ?」

 グリーズを見たまま何か考え込んでいたロナが、トリックに気づいた探偵のようにどこかおぼろげな口調で呟いていた。

「どう計算しても、こんな兵器が動けるわけがないんだよ!科学でも魔術でも、どっちの技術を使っても不可能。でもチャップリンは神の力……つまりは「神器」に宿った力を動力にしているって言っていた。つまり────」

「神の加護を利用した兵器ってこと!?」

 説明の最中さなか、セイナの発した言葉に深く頷くロナ。
 神の加護は魔力を使う点では魔術と一緒だが、違いは簡単に言うと明確な詠唱無しに使え、さらに魔術にはできない魔法のような現象を起こせること。
 つまりそれ以外は魔術と比較的に似ていることは、一か月前のアメリカでロナが証明し、魔術放出を抑える鎖で見事アルシェを捕らえる実績すら残していた。
 そして、外で待機中のアイリスがやっていた物体から魔力を吸収することから、生き物以外の「物」にも魔力が込めることができる以上……それを言い換えれば、神の加護も何らかの方法で別の物体に譲渡することが可能ということか……?
 バラバラだったパズルの小片ピースが面白いように繋がっていく。
 数日前にセイナが港区で放った銃弾……あれも魔術ではなく、神の加護を練り込んだものだったとしたら……この工場は武器密造密売に紛れ、神器を利用した兵器を作ることが真の目的……あの時の港区での密売、あれはなんの変哲へんてつもない銃を取引していたように見せかけて、本当はマガジンの二発目以降に隠していたあの銃弾を買うことが目的だったということか!?

「確かに……さっきこの部屋全体から感じていた神器の力が……!」

 そう言って砂煙が晴れた先でセイナが指さしたのは、グリーズの頭部周辺。そのポット型頭部の両脇……人で言うところの両肩の位置にあった同じ円柱形をしたガラス容器二つ。
 タングリスニとタングニョースト。
 つい数秒前まで俺達と同じ位置にあったそれは遥か頭上へと押し上げられ、中に入っている金銀のブレスレットは米粒のように小さく見える。
 たぶん力を供給していたケーブルが寸断されたことにより、神器の力はグリーズのみに集中したということだろう。
 今更だが、さっき鋼鉄な地面と思っていた部分……あれはどうやらグリーズの首の付け根で直立姿勢に首を垂直に曲げて状態で地面に埋まっていた。そしてそのうなじ部分からチャップリンは、グリーズの胸部にでもある運転席コックピットに乗り込んだということらしい。

「何にせよこんな相手、人の力でどうにかできんのか……!?」

 ここまでの巨大な相手とは戦ったことのない俺は、相手が戦闘の素人であるチャップリンだと分かっていてもそう言わざる得なかった。戦車や戦闘機があれば話は別だが、生身でビルの三階ほど図体のある相手と戦えなど、アリが人間に勝負を挑むようなもんだ。

「でも、弱点は丸見えだけどねッ!」

 ロナが突然、さっきここの研究所で回収していたベネリM4を斜め上に発砲した。
 ダンッ!!と心地いい火薬音を一発響かせ放たれた銃弾────単発スラッグ弾が、グリーズの右肩にあった容器に着弾した。

「……あれ?」

 神器の力の供給源を直接絶とうとしたらしいが、見た目に反して強度が高いガラス容器に弾かれた弾丸を前に、ロナが間の抜けた声を上げる。
 単発スラッグ弾は番径ゲージにもよるが、強化ガラスだって砕けるほど威力がある。それを傷一つなく弾けるとは、弱点なだけあって相当頑丈にしてあるらしいな……尚更今の俺達の装備じゃどうすることも出来ねーぞこれは……!

『ロナ・バーナードッ……!貴様には随分と引っ掻き回されたな……!』

 グリーズが大樹のような太い左腕を振り上げた。

『ここでその銀の髪、血で真っ赤に染めてやるッ!!』

「クッ!!」

「ぁっ……!」

 風圧を伴う威力で振り落とされた一撃を、足を負傷中のロナを抱えた俺とセイナが辛うじて避ける。だが、その凄まじい衝撃の余波で研究所が上下に大きく揺れた。
 非常に高価なDoubleダブル Hexadramヘキサグラム製の機材が一瞬でスクラップと化した光景に、工事現場でジブクレーンが点灯した時の現象を連想させた。クソッ!!無茶苦茶だ!!
 怒りで研究所のことなどどうでもよくなったのか、チャップリンはさらに右腕を振り落とした。
 なんとかかわすもガラス片が舞い、激しい縦揺れに平衡感覚を失って膝をつく俺に、態勢を崩したセイナが寄りかかる。
 グリーズの背から飛び降りる時から感じていたが、日本での生活が短いセイナにとっては経験したことのない振動に彼女自身耐性が無いらしく、足元がだいぶ覚束おぼない。
 コアラのようにくっついたロナを右腕で抱え、セイナを左腕で支えてやると、土下座の姿勢のようになっていたグリーズが両腕を閉じ始めた!

「クソったれッ!!」

 両脇から火花を散らして潰しにかかる絶壁に、俺は躊躇なく悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイを開放────瞬時に五倍まで高めた身体能力を生かして、二人を抱きかかえたまま大きくバックステップを取る。

 ギギギギギィィィィィ!!!!ガシャァァァァァァン!!!!

 電車の車体同士がぶつかったような衝撃に、粉々になった機材達が綺麗に圧縮されていた。
 あんなのに挟まれたらミンチどころの話しじゃねーぞ……!
 狭いとはいえ、それを関係無しに暴れまわるグリーズはミキサーのやいばと同じ……空間内にあるものが何であろうと関係なく粉々にするだろう。かくなる上は……

「セイナ、一旦引くぞッ!!」
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