SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》13

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「やはりが狙いだったのか……フォルテ・S・エルフィー……!」

 着ていたイタリアスーツに汗を滲ませたチャップリンが、神器の入ったガラス容器にもたれかかっていた。
 牢屋で会った時の余裕綽々よゆうしゃくしゃくな態度はすっかり消え失せ、神器これについてはもう隠すつもりも無いらしい。

「おやや?逃げてたんだ?」

「ロナさーん、全員牢屋に閉じ込めてたんじゃないの?」

「詰めが甘いわね……全く」

 俺達は大した緊張感もなく口々にそう言って互いに顔を見合わせる。他の兵士と違って、牢屋の転落防止用の柵に唯一掴まっていなかったチャップリンもといボブ・スミスは、出口に一番近かったことが功を奏して閉じ込められる前に逃走できたのだろう。
 というのも、見たところボブの周りには得意の兵隊が一人もいなかった。両手には武器すら持っておらず……脅威になりそうなものは何一つなかった。
 アメリカに深く関りある人物なら大体知っている俺ですら知らなかったほど、どうしてこんなに何も出来なさそうな男がFBI副所長を務めているのか、前々から不思議に思っていたくらいだったが、一人ではこうも心細いとは……貫禄も何もあったもんじゃない。

「貴様ら……この私をコケにして、タダで帰すと思うなよ……!!」

「それはコッチのセリフだ……随分と俺のを可愛がってくれたてめぇーには、きっちり落とし前つけてもらうぞ……」

 小動物のようにキャンキャン喚くチャップリンに俺が獰猛な猛獣が如く殺気を向けると、普段感じることのない恐怖で顔を引きつらせてしまっている。おいおい……威勢がいいのは口先だけか?
 あと仲間という部分に反応したロナが隣で「きゃ~ダーリンかっこいい!」と言っているが、痛いカップルの会話のように聞こえるから止めてくれ……威圧感下がっちゃうし……
 さっきとは立場が真逆のこの状況に、俺の憤怒ふんどに満ちていた感情はすっかり鳴りを潜めていた。
 約一名を除いて────

「アンタは絶対に許さない……仮にも法執行機関に属していながら裏ではこんな悪事を働いて、一体何が目的なの!?」

 俺が見せた仮初かりそめの表情ではなく、真剣かつ鬼のような形相のセイナが、金髪のポニーテールを揺らして一歩二歩と踏みしめるのに合わせて、チャップリンも一緒に後退してしまう。まるで、見えない怒気オーラに押されているかのように……

「……こ、小娘が知ったような口を聞くな……!悪事だと?ここでの研究が、どれほど人類の為に必要か……そんなことも知らないで……!」

「知らないわよ!そんなこと!!」

 言い訳のように口から漏れるチャップリンの言葉を、セイナは一喝で抑え込んだ。
 アメリカのみならず、今では世界中の治安を守るWBI世界捜査局(World Bureau of Investigation)とも呼ばれる組織のNO.2ナンバーツーがこのような羞恥を晒していた事実が、余程ショックだったのだろう……それぐらい、今のセイナの表情には鬼気迫るものがあった。

「知らないよ……!でも、アンタがロナにしていたこと、あれは人類の為には必要なことでは無かったはずよ!そしてあの映像を見ていた時のアンタの顔は、我欲の入り混じったものだとアタシは断言できるわ!」

 詰め寄られたチャップリンがとうとう部屋の壁際にまで追い詰められてしまう。
 セイナの言っていることは正しい。法的に見れば最初に違反しているの俺達だが、それでもチャップリンがやっていたことは到底許せるものではない。それを本人も自覚しているのだろう……
 気が付けば、神器の収められた二つのガラス容器の間(三、四メートル程)からチャップリンを睨む位置に移動していたセイナ、このままだと眼光で殺しかねないと思った俺が肩を軽くポンポンと叩く。

「まあ待てセイナ。しゃべれなくなる前に聞いておきたいことがある」

 その言葉にセイナは逡巡しゅんじゅんするような仕草でうつむいたが、「分かったわ」と言うように軽く頷いてくれた。

「わ、私は貴様のような危険人物にはなにも喋らん────」

 バンァァァァンッ!!

 研究所に響いた一発の銃声が、チャップリンの言葉を悲鳴へと変える。
 発砲した俺の隣にいたセイナは驚きで眼を見開いていた。ロナはニコニコしたまま……何となくこうすることを察していたようだ。

「あああああ!!」

 撃たれた右太腿みぎふとももを抑えながら倒れたチャップリンの前に、.45ACP弾が地面に落ちる。ここの研究所内は全体がコンクリートで作られているのに対し、神器の容器のあるここ一帯は鋼鉄な鉄板になっていたため金属音がよく聞こえた。

「……アンタが思っている通り俺は危険人物だ。セイナコイツよりも行儀が悪い分なにするか分からんぞ?」

 チャップリンは虫が藻掻くように這いつくばった姿勢のまま、こっちを睨み上げてくる。
 流石はイタリア製。血が出てないところを見る限り、防弾仕様のスーツはしっかりと弾丸を抑えたようだな。それでもバットで殴られたような鈍痛は防げないので、軟弱なチャップリンの骨は折れたかも知れない。
 横で何かを訴えるように見上げてくるセイナの瞳が痛い。もちろん物理的な意味ではなく……心が辛い。
 ロナは薄々こうなることに気づいていたようで、ケラケラと笑って
 は殺しが嫌いだ。怒りで我を忘れてしまうことも恥ずかしながらあるが、それでもってしまった後は後悔する。それが例えどんなに憎んだ相手だとしても、正常な人なら同じ人を痛めつける行為はあまり清々しいものではない。
 それでも俺は心を鬼にして聞く。聞かなければならないことを。

「ここの研究所は一体何のために作られたものだ?」

「……神器それを研究するために我々が作ったもので────」

「で?その情報は誰に流している?|のFBI長官か?それともヨルムンガンドか?」

「……え?」

 それを聞いたセイナの口から驚愕で声が漏れた。
 世間一般では、「S.Tセブントリガー」に襲撃されたFBI長官は、病院で入院の末にリハビリ中というのが表向きの情報だった。それが一年も前から失踪中と聞けば、そのことを知っているロナと違って驚くのも無理は無いだろう。
 当然、FBINO.2ナンバーツーであるチャップリンがそのことを知らないわけがない。
 痛む右足を抑えながら、チャップリンは眼を逸らして舌打ちした。やはり図星か?

「……クソ……こんなことなら、あの魔女娘を始末しておくべきだったか……!」

 銃弾の痛みが効いたのか、余計なとぼけや否定は無かった。
 小声で呻くように言ったチャップリンの言動から、アルシェ・マーリン魔女娘と接触があったことを間接的に認めた。これは……かなりの有益な情報だぞ!
 思い返してみれば一か月前のアメリカでも、FBIが通報前から俺を追いかけてくることが多々あったが、あれは多分アルシェ達が密告でもしていたんだろう。

「詳しい話しはに帰ってからにしようか……身の振り方については飛行機の中でゆっくりと考えるがいい……」

 抜いていた銃をホルスターに収めつつ、身柄を拘束しようとしたところで────

「────クックックック……身の振り方……だと?」

 痛みでおかしくなったのか、壊れた人形のような笑みを浮かべるチャップリンが、鋼鉄の床に顔を付けたまま肩を震わせていた。
 戦闘慣れしていない素人がやる行動は決まって────

「死ねぇぇ!!」

 ほらな。

 バンァァァァンッ!!

「ぎゃああああ!!」

 懐に隠していたハンドガンをよっこしょと抜いたチャップリンの腕を、俺のハンドガンが弾き飛ばした。
 三人の視線が、膝をついたチャップリンの持つ銃に自然と視線が向く。
 その一瞬の隙を突いてチャップリンは────ポチッ……!足元の鉄板に隠してあった操作盤ののボタンを押した。

「お前ッ……!」

 チャップリンはワザと大げな仕草で銃を抜き、撃たれることを承知でこっちの隙を作った。
 俺は咄嗟に銃を撃とうとしたが、チャップリンは足元に突如開かれた小さな開口部へと落下し姿を眩ませた。

「なッ……!?」

 あとを追いかけようと三人が踏み出そうとした足が安定せず、態勢が崩されてしまう。いや、足ではなくこの研究所全体が地震のように大きく揺れているんだ。

「……な、なに!?」

 震度五弱程度の地震にセイナが狼狽うろたえる中、開口部が閉まっていく。クソ……!ここまで追い詰めて、今更どこに逃げる気だ!

「わわわわわ!!上がってない!?床が上がってない!?」

 振動に合わせて声を上げるロナが指摘した通り、俺達の立っていた鋼鉄の床が研究所のコンクリートの床から遠ざかっていく。このまま行くと天井に押しつぶされてしまうので何とか三人で飛び降り、コンクリートの床に着地した。

『まさか試作段階のコイツを使うことになるとはな……』

 パラパラとコンクリートの破片が降り注ぐ中、背後から聞こえてきたスピーカー越しのチャップリンの声に、振り向いた俺達の先にあったのは────

「「「きょ……巨人!?」」」
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