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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》10
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銃口が指し示したのは目の前の男……ではなく、この牢屋全体を唯一照らしていた天井の証明だった。
バンァァァァンッ!!バンァァァァンッ!!
放たれた重い銃声は軟弱な蛍光灯二本を簡単に砕き、短いスパークを発生させた直後に部屋全体を暗転させた。
「フォルテッ!?」
突然の俺の強硬策に暗闇の中から、兵士達の動揺と混じってセイナが狼狽える。
照明が一つしかないことは恐らくセイナも気づいていただろう……それと同時にこの部屋を暗闇にしたところで、逃げることもほぼ不可能だということも……
理由としてはまず、上部にあるこの部屋から出る扉に向かうには、唯一この部屋に設置された折り返し階段を使う必要がある。しかしそこを上がった先には、俺達の戦闘を見ようと落下防止策に寄ってきた兵士達がいる……横をすり抜ける前に多分気づかれるだろう。上部の高さが約四メートルだから、右眼の魔眼を使えば階段を使わなくても登れなくないが、ロナは救出していないこの状況下でそもそも逃走という選択肢はない。
そういう考えでは、暗視スコープなどを持っていない俺達にとって、この暗闇は寧ろ不利な状況を作り出している。装置が無くても多少は夜目が効くがそれも完璧ではない、あくまで視野は数メートル。そんな悪状況の中、牢屋を閉じているブルドック倉庫錠を壊し、ロナが繋がれた鎖二つを取り外し、動けない彼女を担ぎつつ脱出するのは不可能だ。
その中でも一番キーマンになっているのが、目の前まで近づいてきたこの男……バオの存在。
暗闇は兵士が一番嫌うものであり、克服するうえで一番訓練させられる状況でもある。
上部で銃を持った連中は俺達を視認できていないこの状況でも、訓練や経験から何となくその場所に向けて銃を撃つことができる。一人ならまだしも、二十人にそれをやられた人間はおろか、ハエのような虫ですら銃弾に当たる。
それでも撃たないのは、俺達の目の前に来たバオに銃弾が当たる可能性があるからだ。
そして……いま奴が何かしらのアクションを起こした瞬間、高確率で俺達の死が確定する。
バオが上部に逃げ帰る、または俺達に立ち向かって死ねば兵士達は容赦なく銃を撃ってくる。仮にバオの動きを封じて人質に取ったとしても、三人の壁にはならない。
この全てをセイナは理解した上で、俺の考えが読めずに動揺していたんだろう。
そんな行き詰まりの中で俺がとった行動は────
「……セイナッ!こっちだ!」
横に居たセイナの小さな肩を片腕でグイッと抱き寄せ、膝裏にもう片方の腕を回す。
「────ッッッ!??」
真っ暗な部屋が明るくなりそうなほど赤面するセイナを、俺はお構いなしにお姫様抱っこで持ち上げた。前から思ってたけどホントに軽いな……
女子にとっては誉め言葉だが、以前体重がロナよりも軽いと知ってマウントを取っていたセイナに「胸の重さだろ」と何気なく突っ込んだら殺されかけたから……ではなく、そんなこと言えるほど余裕がなかった俺は、無言のまま出口の扉とは反対に向かって走る。
俺達がチャップリン達に背を向けたことに唯一気づいたバオが、一気に距離を詰めてきた。
「……どどどどうする気なの!?」
別の意味で動揺したセイナが、腕を緩やかな胸元に抱き寄せた格好のままヤケクソ気味に叫んだ。
後方に引き下がったところで逃げ道はない。最初使った排気ダクトに逃げる方法も無くはないが、魔眼と義手のワイヤーを使ってギリギリな上に、巻き取るのに時間を要する。そんな無防備な俺達を、きっと背後のバオは見逃さない。だが────
「大丈夫だ!……多分な!」
俺が何をしようとしているのかは特に伝えず、自信有り気にそう答えた。ぶっちゃけ言って勘を頼りに行動したので、俺もこの後なにが起こるか分かっていないんだ。
「……はぁッ!!」
両脚に魔眼で力を込めて跳躍────セイナを抱えた状態で六、七メートルは飛んだが、それでもまだ排気ダクトまでは届かない。眼下まで来ていたバオは、懐から何かを取り出そうとしていた。
残りの数メートル分を稼ごうと、セイナを片腕に持ち替えて義手のワイヤーを伸ばそうとした瞬間……背中に衝撃が走った!
「……グァッ!」
キーンッ!!と頭上で甲高い金属音がだけが響き、俺の身体が腰の位置でくの字に曲がる
「フォルテ!!」
苦悶の表情を浮かべる俺に、セイナが悲鳴を上げた。のだが……
「あ、あれ……?」
衝撃は確かに走ったが、痛みはあまりなかった。そもそも銃弾を放つ火薬音はしなかったし、背中に伝わる感触は点では横線。つまりは銃弾ではなくワイヤーのようなものが背中に数本当たっていた。
跳躍してから落下軌道に入りかけていた俺の身体を、背中からググッ!と支えるワイヤーが逆バンジーのように跳躍をサポートする。何の力が働いたのかは暗闇で分からなかったが、おかげで悠々とダクトの入り口に張り付くことができた。
「先に行け!セイナ!」
俺が抱えていたセイナをダクト押し込んで中に入ろうとすると、ブルーサファイアの瞳が不安げに振り返った。
「でも!?ロナが……!!」
ロナはまだ牢屋に捕らえられたままだ。ここに置いて行けば、またさっきの映像のような酷い拷問を繰り返され……最後は殺されてしまうかもしれない。
だが、下にいた兵士達も暗闇の中で俺達が逃げていることに気付き始めている……助けに行くことはもう出来ない……
「アイツは大丈夫だから早く!!」
「あそこだ!!」と眼下で兵士の一人が騒ぎ出し、アサルトライフルの一斉射撃が始まる。
暗闇のおかげで何とか銃弾はダクトの入り口を外しているが、当たるのも時間の問題だ。ここで細かく説明している余裕がない以上、手短に俺はそれだけを伝えたが、セイナは余計に表情を曇らせて迷ってしまっていた……逃げるべきか、無理してでも助けるべきか。
……このままだと、俺だけではなくセイナまで撃たれる可能性がある……ここは無理にでも押し込んで────
両手を伸ばしかけた俺の背後に、鋭い衝撃が二発同時に入った。
「……がは!?」
「……な!?」
撃たれた!と思ったがまた違った。
普通、銃に撃たれてそんなに吹っ飛ぶことはまず無い。
これは……よくセイナから食らうから知ってるぞ……多分ドロップキックだ!
「そんなとこで立ち往生してないで詰めてくれ」
俺とセイナが狭いダクトで抱き合う形になっていると、排気ダクトに一人の男が入ってきた。
「バオ!?」
瞳を見開いたセイナが咄嗟に銃を抜こうとした────
「ま、待て!!」
俺はセイナの太腿に装着されたレッグホルスターの上から、小っちゃいおててをガシッ!と抑え込んだ。
「な、何してんのよ!?バカッ!?」
敵が目の前にいるのに攻撃を止めさせたことや、ほっそりしているがそれでもって柔らかい太腿に触れられたことに対し、色々な感情が入り混じったパニック状態のセイナが、鼻先やおでこが触れるほどの眼前まで迫ってくる。ローズのフローラルで危険な香りに俺は顔を引っ込めようとするが、無情にも狭いダクトに阻まれてしまう……逃げ道はない。
そんな俺達をバオはジト目で睨みつつ……それでもって一切攻撃はしてこない。
「あーそういうノロケは後にしてくれるかな……そろそろ銃弾当たりそうなんだけど……」
「ノロケじゃねーよバカ!!」
親しい間柄のように反論した俺に、セイナは疑問符を浮かべたような顔で交互にこっちを見ていた。
「どういうこと?そいつ敵だったんじゃないの……?」
どうやらまだ気づいてないらしい……セイナが鈍感なのか、それとも……
────まあ、俺も最初は半信半疑だったけどな。
「だとさ、いい加減その変装解けよ……」
バンァァァァンッ!!バンァァァァンッ!!
放たれた重い銃声は軟弱な蛍光灯二本を簡単に砕き、短いスパークを発生させた直後に部屋全体を暗転させた。
「フォルテッ!?」
突然の俺の強硬策に暗闇の中から、兵士達の動揺と混じってセイナが狼狽える。
照明が一つしかないことは恐らくセイナも気づいていただろう……それと同時にこの部屋を暗闇にしたところで、逃げることもほぼ不可能だということも……
理由としてはまず、上部にあるこの部屋から出る扉に向かうには、唯一この部屋に設置された折り返し階段を使う必要がある。しかしそこを上がった先には、俺達の戦闘を見ようと落下防止策に寄ってきた兵士達がいる……横をすり抜ける前に多分気づかれるだろう。上部の高さが約四メートルだから、右眼の魔眼を使えば階段を使わなくても登れなくないが、ロナは救出していないこの状況下でそもそも逃走という選択肢はない。
そういう考えでは、暗視スコープなどを持っていない俺達にとって、この暗闇は寧ろ不利な状況を作り出している。装置が無くても多少は夜目が効くがそれも完璧ではない、あくまで視野は数メートル。そんな悪状況の中、牢屋を閉じているブルドック倉庫錠を壊し、ロナが繋がれた鎖二つを取り外し、動けない彼女を担ぎつつ脱出するのは不可能だ。
その中でも一番キーマンになっているのが、目の前まで近づいてきたこの男……バオの存在。
暗闇は兵士が一番嫌うものであり、克服するうえで一番訓練させられる状況でもある。
上部で銃を持った連中は俺達を視認できていないこの状況でも、訓練や経験から何となくその場所に向けて銃を撃つことができる。一人ならまだしも、二十人にそれをやられた人間はおろか、ハエのような虫ですら銃弾に当たる。
それでも撃たないのは、俺達の目の前に来たバオに銃弾が当たる可能性があるからだ。
そして……いま奴が何かしらのアクションを起こした瞬間、高確率で俺達の死が確定する。
バオが上部に逃げ帰る、または俺達に立ち向かって死ねば兵士達は容赦なく銃を撃ってくる。仮にバオの動きを封じて人質に取ったとしても、三人の壁にはならない。
この全てをセイナは理解した上で、俺の考えが読めずに動揺していたんだろう。
そんな行き詰まりの中で俺がとった行動は────
「……セイナッ!こっちだ!」
横に居たセイナの小さな肩を片腕でグイッと抱き寄せ、膝裏にもう片方の腕を回す。
「────ッッッ!??」
真っ暗な部屋が明るくなりそうなほど赤面するセイナを、俺はお構いなしにお姫様抱っこで持ち上げた。前から思ってたけどホントに軽いな……
女子にとっては誉め言葉だが、以前体重がロナよりも軽いと知ってマウントを取っていたセイナに「胸の重さだろ」と何気なく突っ込んだら殺されかけたから……ではなく、そんなこと言えるほど余裕がなかった俺は、無言のまま出口の扉とは反対に向かって走る。
俺達がチャップリン達に背を向けたことに唯一気づいたバオが、一気に距離を詰めてきた。
「……どどどどうする気なの!?」
別の意味で動揺したセイナが、腕を緩やかな胸元に抱き寄せた格好のままヤケクソ気味に叫んだ。
後方に引き下がったところで逃げ道はない。最初使った排気ダクトに逃げる方法も無くはないが、魔眼と義手のワイヤーを使ってギリギリな上に、巻き取るのに時間を要する。そんな無防備な俺達を、きっと背後のバオは見逃さない。だが────
「大丈夫だ!……多分な!」
俺が何をしようとしているのかは特に伝えず、自信有り気にそう答えた。ぶっちゃけ言って勘を頼りに行動したので、俺もこの後なにが起こるか分かっていないんだ。
「……はぁッ!!」
両脚に魔眼で力を込めて跳躍────セイナを抱えた状態で六、七メートルは飛んだが、それでもまだ排気ダクトまでは届かない。眼下まで来ていたバオは、懐から何かを取り出そうとしていた。
残りの数メートル分を稼ごうと、セイナを片腕に持ち替えて義手のワイヤーを伸ばそうとした瞬間……背中に衝撃が走った!
「……グァッ!」
キーンッ!!と頭上で甲高い金属音がだけが響き、俺の身体が腰の位置でくの字に曲がる
「フォルテ!!」
苦悶の表情を浮かべる俺に、セイナが悲鳴を上げた。のだが……
「あ、あれ……?」
衝撃は確かに走ったが、痛みはあまりなかった。そもそも銃弾を放つ火薬音はしなかったし、背中に伝わる感触は点では横線。つまりは銃弾ではなくワイヤーのようなものが背中に数本当たっていた。
跳躍してから落下軌道に入りかけていた俺の身体を、背中からググッ!と支えるワイヤーが逆バンジーのように跳躍をサポートする。何の力が働いたのかは暗闇で分からなかったが、おかげで悠々とダクトの入り口に張り付くことができた。
「先に行け!セイナ!」
俺が抱えていたセイナをダクト押し込んで中に入ろうとすると、ブルーサファイアの瞳が不安げに振り返った。
「でも!?ロナが……!!」
ロナはまだ牢屋に捕らえられたままだ。ここに置いて行けば、またさっきの映像のような酷い拷問を繰り返され……最後は殺されてしまうかもしれない。
だが、下にいた兵士達も暗闇の中で俺達が逃げていることに気付き始めている……助けに行くことはもう出来ない……
「アイツは大丈夫だから早く!!」
「あそこだ!!」と眼下で兵士の一人が騒ぎ出し、アサルトライフルの一斉射撃が始まる。
暗闇のおかげで何とか銃弾はダクトの入り口を外しているが、当たるのも時間の問題だ。ここで細かく説明している余裕がない以上、手短に俺はそれだけを伝えたが、セイナは余計に表情を曇らせて迷ってしまっていた……逃げるべきか、無理してでも助けるべきか。
……このままだと、俺だけではなくセイナまで撃たれる可能性がある……ここは無理にでも押し込んで────
両手を伸ばしかけた俺の背後に、鋭い衝撃が二発同時に入った。
「……がは!?」
「……な!?」
撃たれた!と思ったがまた違った。
普通、銃に撃たれてそんなに吹っ飛ぶことはまず無い。
これは……よくセイナから食らうから知ってるぞ……多分ドロップキックだ!
「そんなとこで立ち往生してないで詰めてくれ」
俺とセイナが狭いダクトで抱き合う形になっていると、排気ダクトに一人の男が入ってきた。
「バオ!?」
瞳を見開いたセイナが咄嗟に銃を抜こうとした────
「ま、待て!!」
俺はセイナの太腿に装着されたレッグホルスターの上から、小っちゃいおててをガシッ!と抑え込んだ。
「な、何してんのよ!?バカッ!?」
敵が目の前にいるのに攻撃を止めさせたことや、ほっそりしているがそれでもって柔らかい太腿に触れられたことに対し、色々な感情が入り混じったパニック状態のセイナが、鼻先やおでこが触れるほどの眼前まで迫ってくる。ローズのフローラルで危険な香りに俺は顔を引っ込めようとするが、無情にも狭いダクトに阻まれてしまう……逃げ道はない。
そんな俺達をバオはジト目で睨みつつ……それでもって一切攻撃はしてこない。
「あーそういうノロケは後にしてくれるかな……そろそろ銃弾当たりそうなんだけど……」
「ノロケじゃねーよバカ!!」
親しい間柄のように反論した俺に、セイナは疑問符を浮かべたような顔で交互にこっちを見ていた。
「どういうこと?そいつ敵だったんじゃないの……?」
どうやらまだ気づいてないらしい……セイナが鈍感なのか、それとも……
────まあ、俺も最初は半信半疑だったけどな。
「だとさ、いい加減その変装解けよ……」
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