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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
バンゾック・フォールズ7
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「……」
バカみたいに快晴な空、昨日の嵐が嘘のような日差しに向かって、俺は今できる最大限の渋面を作る。本来は喜ぶべき日本晴れ、いや、ベトナム晴れと言うべきか、約半日振りに陽を浴びる植物は、皆が光合成するために、命一杯自分その手足を広げて嬉しそうにしているが、俺は人間だ。こんな高温多湿の環境なんて、ちっとも嬉しくない。
「……ん……多分こっち……」
俺の前を歩くアイリスがそう呟きながら、目の前の茂みをかき分けていく。
一体何を目印に「こっち」なのかは知らないが、ここ一帯の地形を知らない俺は、渋々ついて行くしかない。
洞窟で一夜を過ごした俺達は、嵐が止んだので外に出た。
とりあえず今向かっているのは、アイリスに昨日乗せてもらった、ジープが隠してある場所だ。
なんでも俺をキーソン川から助ける際、アイリスは唯一の武器である、リボルバーライフルを失ったとのこと……そのためにまずは、そのジープの中に保管してある別の武器を、一緒に取りに行くということで話が纏まった。
「ホントにこっちであっているのか?」
先が分からないことで不安に駆られた俺が、その頼りない撫で肩の背中に訊き返す。
先導してもらっているくせに文句言うな、と思う奴もいるかもしれないが、誰だって経験あるだろ?学校の授業や部活の懲罰を、先生がいいって言うまでやるアレ。軍隊でよく教官が死ぬまで永遠に走らせるヤツ。先が分からないってことは人間にとってかなりの苦痛なんだ。
そんな、俺の情けない問いかけに対し、アイリスは振り返ることなく呟いた。
「たぶんそろそろ見えてくると思うよ……あと数キロくらいかな……」
「……マジ?」
その言葉にがっくり肩を落とす俺に、アイリスは見向きもせずに進んでいく。
整備された道を数キロならまだしも、塗装もクソも無いジャングルの数キロはまた別物だ。
モアモアと纏わりつく空気は、まるでスチームサウナの気分。なんで夜の洞窟はあんなに寒かったのに、今はこんなにも暑いのだろうか……
ベトナムの気候に嘆く俺は、昨日の夜のこと。洞窟でアイリスに話してもらった内容について思い出していた。
「二年前のあの日、当時、二等軍曹だったボクと、父親であるルーカス・N・ハスコック一等軍曹は、軍の上層部から、極秘任務が言い渡された」
突風で小さくなってしまった焚き火を若木の薪で弄りながら、アイリスは燃えカスになった竹の灰を見つめていた。
「内容は、ベトナムで兵器を密造しているというアメリカ人の暗殺、人物が人物なだけに、ボク達二人だけに告げられた任務だった」
「その要人は、なんていう奴だったんだ……?」
仮にも数年は軍に属していた身、そんなに有名な人物なら、俺でも知っている人物かもしれない。
燃え屑を掻きまわしていた手を止め、アイリスは何か思い出すかのような、焚き火から小さく上がる灰煙の先を、その琥珀色の瞳で見据えた。
「名前は……もう忘れた……確かアメリカ警察組織の重役だった人だ……」
「えぇ……そいつが親父の仇なんじゃないのか?普通忘れるか?」
結構重要なことのはずなのに、大して興味なさそうなその態度を見た俺が目を眇めると、アイリスは視線を上からこっちに落とし、何故か目を細める。甘栗色のマフラーで顔半分隠れているせいで分かりにくいが、どうやら笑っているらしい。
「……スナイパーに必要なことは感情を捨てること。撃つ理由を考えず、ただ目標に対して引き金を引ける人間が最も優秀であり、最も難しいことである。ボクはこの父の教えに沿って、かつての父と同じように、撃った相手のことにはついて、興味を持たないように心がけているんだ……それに、直接父に手を下したのは奴じゃない……」
「……それが、例の魔術弾使いのスナイパーか……?」
笑っていた瞳が曇る────アイリスはその問いを肯定するかのように、無言のまま、再び小さく揺れる灯へと目を伏せる。
「……父が中距離、千百三十メートルにいたその要人を、狙撃しようとした瞬間、中国大陸にいた狙撃手にカウンタースナイプを受けた、距離約三キロの超遠距離狙撃だった」
「さ、三キロ……!?」
信じられない……仮にもしそれがホントだとしても、数十発撃って一回でも当たるなら、奇跡と呼べるレベルのことだ。それをたった一回の狙撃で当てるなど、普通の人間には不可能だ。
驚愕で眇めていた右眼を見開く俺に、アイリスはさらに続ける。
「うん、普通じゃ考えられない……魔術を使ってようやく届くか届かないかくらいのその距離なんて、スポッティングスコープを覗いていたボクは……正直、全く無警戒だった……裏で手を引いていた警察組織の要人が、こっちを見て笑うまでそのスナイパーどころか、この任務が罠であることすら気づくことができなかったんだ……」
アイリスのその生気を感じない声と相まって、その遣る瀬ない思いが痛いほどに伝わってくる。
先日の戦闘を見る限り、アイリスも二キロ程度なら動いていても当てることのできる超人だ。
狙撃技術能力なら、元部下であり、以前アメリカで世話になったトリガー5ことレクス・アンジェロも、同じくらいのことはやってのける。
だが、上には上がいるという言葉がある通り、俺達やアイリス達に立ちはだかったあのスナイパーは、魔術弾を使っているとはいえ、その1.5倍もの距離を当てることのできる、それこそ神の領域に匹敵する腕前だ。
俺でさえ、百メートル前後くらいしか警戒できないのに、三キロ先の敵なんて意識したって分かりっこない。それくらいにヤバい奴だったのか、アイツは……
「でも、どうして親父さんとアイリスは罠に嵌められたんだ?」
そもそも同じ軍の人間。同じ釜の飯を食う、家族にも等しい存在をわざわざ殺める必要性を感じない。
アイリスはその問いかけに、何か思いつめたように、美形の顔にシワを寄せた。
「……それが……分からないんだ……」
「え?」
「父はボクなんて足元にも及ばない程に優秀なスナイパーだった。軍の中でもその腕を認められ、かつて、祖父も活躍していたこの地で、様々なコネクションを持ち、誰も成しえないミッションを一回で成功させる狙撃手として、数えきれない勲章を総なめにしていた……そんなホワイトフェザーの異名を受け継いだ父が、敵ではなく、味方に騙される理由なんて、想像がつかないよ……」
解けない問題を数時間考えた末に出す、子供のような泣き混じりの声で嘆くアイリスが、マフラーの鮮紅色の羽根を見つめる……その甘栗色のマフラーに挿される前はきっと、白かったはずの羽根。
その琥珀色の瞳には、絶対に解くことのできない問題に対して、ずっと抱え込んでいた二年間の苦難の色が滲み出ていた。
殺される何かの事情、例えば、知ってはならないことを知ってしまったとか、誰かの暗殺計画を企てている、作戦において切り捨てた、機密情報を多く所有した味方とかなど、余程の理由が無い限り殺されることはまあ無い。ましてや、アイリス以上に優秀なスナイパーをみすみす殺すなんてするだろうか……?
今度は俺が顔にシワを寄せて腕を組む。
────いや、絶対何か理由があったはずだ……きっと、アイリスの知らないところで、父親に何かが起きていたのかもしれないな……
「……父親が、その……撃たれた後はどうなったんだ……」
色々な情報が揃い出し、繋がりそうで繋がらない歯がゆく、もどかしい今の状態に、悩んでいても仕方ないと俺はさらに話しを進めた。
「父は、ボクが混乱する餌として、わざと腕を撃ち抜かれた挙句、おそらく出血多量で死亡……」
「おそらく……?」
「うん……父が撃たれた後、ボクは三キロの距離にいたスナイパーに対し、これで反撃した」
そう言ってまたその魔法の袋、パーカーのフロントポケットから取り出したのは、一発の銃弾。
焚き火の明かりに照らされた、艶黒な銃弾からは、妙な威圧感のようなものを感じる。
「劣化ウラン弾?」
劣化ウラン弾とは、本来鉛で生成する銃弾を、非常に硬いウランで精製したもので、通常のライフル弾が、対戦車ライフルに化けるほどの威力を持っているものだ。
ただし、着弾時に有害な放射線を発生させる問題があるとして、作ることは世界的に禁止になっているはずだが……
「確かに黒いけど、劣化ウラン弾ではないよ。これは、タングステン合金弾、加工時に黒くなってしまうらしいんだけど、比重は鉛の1.7倍。性能は劣化ウラン弾とほぼ同等の銃弾だよ……」
適当に答えた俺に、アイリスは丁寧な説明を加えてくれた。
「へぇ~確かにそれなら放射線の心配は無いな……わざわざ遠い相手に対してそんな銃弾を使ったのは、命中精度上げるためか?」
「うん、距離があると雨や風、気温といった自然環境に影響を受けやすいからね……」
「でも銃弾が重すぎたら、途中で弾道が自由落下しないか?」
「……そうならないために、ボクは魔術で銃弾を撃っているんだ……」
そう言ったアイリスが、親指で銃弾を宙に弾いた。
だが、タングステン合金弾はそのまま真下に落ちることなく、小さなつむじ風に乗り、空中をふわふわと漂っていた。まるで、焚き火の上に架かる橋を渡るかのような軌道で、ゆっくりと俺の手元に落ちてきた。
「さっき言っていた風の魔術────もしかして、この力を弾丸に与えているのか……?」
手にかかるズシッとした重い感触。普段は小石くらいにし感じない銃弾が、スマートフォンくらいはありそうな艶黒の銃弾を観察しながら、そう答える。
「んー……半分正解かな。正確には、銃弾の回転数を上げて空気抵抗を減らし、銃弾の通り道に風の道を作ってやることで、正確無比な射撃を実現しているんだ。でも────」
バカみたいに快晴な空、昨日の嵐が嘘のような日差しに向かって、俺は今できる最大限の渋面を作る。本来は喜ぶべき日本晴れ、いや、ベトナム晴れと言うべきか、約半日振りに陽を浴びる植物は、皆が光合成するために、命一杯自分その手足を広げて嬉しそうにしているが、俺は人間だ。こんな高温多湿の環境なんて、ちっとも嬉しくない。
「……ん……多分こっち……」
俺の前を歩くアイリスがそう呟きながら、目の前の茂みをかき分けていく。
一体何を目印に「こっち」なのかは知らないが、ここ一帯の地形を知らない俺は、渋々ついて行くしかない。
洞窟で一夜を過ごした俺達は、嵐が止んだので外に出た。
とりあえず今向かっているのは、アイリスに昨日乗せてもらった、ジープが隠してある場所だ。
なんでも俺をキーソン川から助ける際、アイリスは唯一の武器である、リボルバーライフルを失ったとのこと……そのためにまずは、そのジープの中に保管してある別の武器を、一緒に取りに行くということで話が纏まった。
「ホントにこっちであっているのか?」
先が分からないことで不安に駆られた俺が、その頼りない撫で肩の背中に訊き返す。
先導してもらっているくせに文句言うな、と思う奴もいるかもしれないが、誰だって経験あるだろ?学校の授業や部活の懲罰を、先生がいいって言うまでやるアレ。軍隊でよく教官が死ぬまで永遠に走らせるヤツ。先が分からないってことは人間にとってかなりの苦痛なんだ。
そんな、俺の情けない問いかけに対し、アイリスは振り返ることなく呟いた。
「たぶんそろそろ見えてくると思うよ……あと数キロくらいかな……」
「……マジ?」
その言葉にがっくり肩を落とす俺に、アイリスは見向きもせずに進んでいく。
整備された道を数キロならまだしも、塗装もクソも無いジャングルの数キロはまた別物だ。
モアモアと纏わりつく空気は、まるでスチームサウナの気分。なんで夜の洞窟はあんなに寒かったのに、今はこんなにも暑いのだろうか……
ベトナムの気候に嘆く俺は、昨日の夜のこと。洞窟でアイリスに話してもらった内容について思い出していた。
「二年前のあの日、当時、二等軍曹だったボクと、父親であるルーカス・N・ハスコック一等軍曹は、軍の上層部から、極秘任務が言い渡された」
突風で小さくなってしまった焚き火を若木の薪で弄りながら、アイリスは燃えカスになった竹の灰を見つめていた。
「内容は、ベトナムで兵器を密造しているというアメリカ人の暗殺、人物が人物なだけに、ボク達二人だけに告げられた任務だった」
「その要人は、なんていう奴だったんだ……?」
仮にも数年は軍に属していた身、そんなに有名な人物なら、俺でも知っている人物かもしれない。
燃え屑を掻きまわしていた手を止め、アイリスは何か思い出すかのような、焚き火から小さく上がる灰煙の先を、その琥珀色の瞳で見据えた。
「名前は……もう忘れた……確かアメリカ警察組織の重役だった人だ……」
「えぇ……そいつが親父の仇なんじゃないのか?普通忘れるか?」
結構重要なことのはずなのに、大して興味なさそうなその態度を見た俺が目を眇めると、アイリスは視線を上からこっちに落とし、何故か目を細める。甘栗色のマフラーで顔半分隠れているせいで分かりにくいが、どうやら笑っているらしい。
「……スナイパーに必要なことは感情を捨てること。撃つ理由を考えず、ただ目標に対して引き金を引ける人間が最も優秀であり、最も難しいことである。ボクはこの父の教えに沿って、かつての父と同じように、撃った相手のことにはついて、興味を持たないように心がけているんだ……それに、直接父に手を下したのは奴じゃない……」
「……それが、例の魔術弾使いのスナイパーか……?」
笑っていた瞳が曇る────アイリスはその問いを肯定するかのように、無言のまま、再び小さく揺れる灯へと目を伏せる。
「……父が中距離、千百三十メートルにいたその要人を、狙撃しようとした瞬間、中国大陸にいた狙撃手にカウンタースナイプを受けた、距離約三キロの超遠距離狙撃だった」
「さ、三キロ……!?」
信じられない……仮にもしそれがホントだとしても、数十発撃って一回でも当たるなら、奇跡と呼べるレベルのことだ。それをたった一回の狙撃で当てるなど、普通の人間には不可能だ。
驚愕で眇めていた右眼を見開く俺に、アイリスはさらに続ける。
「うん、普通じゃ考えられない……魔術を使ってようやく届くか届かないかくらいのその距離なんて、スポッティングスコープを覗いていたボクは……正直、全く無警戒だった……裏で手を引いていた警察組織の要人が、こっちを見て笑うまでそのスナイパーどころか、この任務が罠であることすら気づくことができなかったんだ……」
アイリスのその生気を感じない声と相まって、その遣る瀬ない思いが痛いほどに伝わってくる。
先日の戦闘を見る限り、アイリスも二キロ程度なら動いていても当てることのできる超人だ。
狙撃技術能力なら、元部下であり、以前アメリカで世話になったトリガー5ことレクス・アンジェロも、同じくらいのことはやってのける。
だが、上には上がいるという言葉がある通り、俺達やアイリス達に立ちはだかったあのスナイパーは、魔術弾を使っているとはいえ、その1.5倍もの距離を当てることのできる、それこそ神の領域に匹敵する腕前だ。
俺でさえ、百メートル前後くらいしか警戒できないのに、三キロ先の敵なんて意識したって分かりっこない。それくらいにヤバい奴だったのか、アイツは……
「でも、どうして親父さんとアイリスは罠に嵌められたんだ?」
そもそも同じ軍の人間。同じ釜の飯を食う、家族にも等しい存在をわざわざ殺める必要性を感じない。
アイリスはその問いかけに、何か思いつめたように、美形の顔にシワを寄せた。
「……それが……分からないんだ……」
「え?」
「父はボクなんて足元にも及ばない程に優秀なスナイパーだった。軍の中でもその腕を認められ、かつて、祖父も活躍していたこの地で、様々なコネクションを持ち、誰も成しえないミッションを一回で成功させる狙撃手として、数えきれない勲章を総なめにしていた……そんなホワイトフェザーの異名を受け継いだ父が、敵ではなく、味方に騙される理由なんて、想像がつかないよ……」
解けない問題を数時間考えた末に出す、子供のような泣き混じりの声で嘆くアイリスが、マフラーの鮮紅色の羽根を見つめる……その甘栗色のマフラーに挿される前はきっと、白かったはずの羽根。
その琥珀色の瞳には、絶対に解くことのできない問題に対して、ずっと抱え込んでいた二年間の苦難の色が滲み出ていた。
殺される何かの事情、例えば、知ってはならないことを知ってしまったとか、誰かの暗殺計画を企てている、作戦において切り捨てた、機密情報を多く所有した味方とかなど、余程の理由が無い限り殺されることはまあ無い。ましてや、アイリス以上に優秀なスナイパーをみすみす殺すなんてするだろうか……?
今度は俺が顔にシワを寄せて腕を組む。
────いや、絶対何か理由があったはずだ……きっと、アイリスの知らないところで、父親に何かが起きていたのかもしれないな……
「……父親が、その……撃たれた後はどうなったんだ……」
色々な情報が揃い出し、繋がりそうで繋がらない歯がゆく、もどかしい今の状態に、悩んでいても仕方ないと俺はさらに話しを進めた。
「父は、ボクが混乱する餌として、わざと腕を撃ち抜かれた挙句、おそらく出血多量で死亡……」
「おそらく……?」
「うん……父が撃たれた後、ボクは三キロの距離にいたスナイパーに対し、これで反撃した」
そう言ってまたその魔法の袋、パーカーのフロントポケットから取り出したのは、一発の銃弾。
焚き火の明かりに照らされた、艶黒な銃弾からは、妙な威圧感のようなものを感じる。
「劣化ウラン弾?」
劣化ウラン弾とは、本来鉛で生成する銃弾を、非常に硬いウランで精製したもので、通常のライフル弾が、対戦車ライフルに化けるほどの威力を持っているものだ。
ただし、着弾時に有害な放射線を発生させる問題があるとして、作ることは世界的に禁止になっているはずだが……
「確かに黒いけど、劣化ウラン弾ではないよ。これは、タングステン合金弾、加工時に黒くなってしまうらしいんだけど、比重は鉛の1.7倍。性能は劣化ウラン弾とほぼ同等の銃弾だよ……」
適当に答えた俺に、アイリスは丁寧な説明を加えてくれた。
「へぇ~確かにそれなら放射線の心配は無いな……わざわざ遠い相手に対してそんな銃弾を使ったのは、命中精度上げるためか?」
「うん、距離があると雨や風、気温といった自然環境に影響を受けやすいからね……」
「でも銃弾が重すぎたら、途中で弾道が自由落下しないか?」
「……そうならないために、ボクは魔術で銃弾を撃っているんだ……」
そう言ったアイリスが、親指で銃弾を宙に弾いた。
だが、タングステン合金弾はそのまま真下に落ちることなく、小さなつむじ風に乗り、空中をふわふわと漂っていた。まるで、焚き火の上に架かる橋を渡るかのような軌道で、ゆっくりと俺の手元に落ちてきた。
「さっき言っていた風の魔術────もしかして、この力を弾丸に与えているのか……?」
手にかかるズシッとした重い感触。普段は小石くらいにし感じない銃弾が、スマートフォンくらいはありそうな艶黒の銃弾を観察しながら、そう答える。
「んー……半分正解かな。正確には、銃弾の回転数を上げて空気抵抗を減らし、銃弾の通り道に風の道を作ってやることで、正確無比な射撃を実現しているんだ。でも────」
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