SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

バンゾック・フォールズ1

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「ぅ……」

 照り付ける太陽に、肌をジリジリと焼かれている感覚……
 ザァァァァ!!と、テレビの砂嵐スノーノイズのような地響きが聞こえる中、俺はうめくように目を開けた────最初に見えたのは、湿った泥の地面。どうやら俺はうつぶせの状態で倒れているらしい。ここは……?俺は一体……

「……はっ……!」

 急激な能力使用で痛む頭に、気を失う前の出来事が鮮明にフラッシュバックされる。工場偵察のための山登り、襲撃、応戦、逃走、飛び降りた先、迫りくる水面と銃弾……それらの全ての情報で一気に目の覚めた俺が両腕を突き、冷たい泥の地面に立ち上がろうとした瞬間────

「ぐぅっ……!?」

 首に激痛が走り、右眼が涙でかすんだ。
 水の上とはいえ三十メートルの落下エネルギー、普通の人なら骨折、最悪の場合死亡も考えられるその衝撃が、首の一部分に大きく伸し掛かってきたんだ。身体を強化していたとはいえ、効いたぜマジで……
 日ごろ……セイナに鍛えてもらってなかったらマジでヤバかったかもな。
 プロレス技の鬼であるセイナは、ちょっとしたことですぐに、パイルドライバーやらジャーマンスープレックスといった、首に負担が掛かるような技を問答無用で仕掛けてくる。
 最初は回復するのに時間が掛かったが、最近は割と速いスピードで回復できるあたり、知らず知らずの内に打たれ強くなっていたのかもしれないな。まさか……こんなことでセイナに感謝する日が来るとは……
 勘違いされないために言っておくが、俺は別に痛めつけられる趣味はない。たとえ、頭をフランケンシュタイナーで、セイナの黒ニーソ太ももに挟んでもらうとしても、待っているのは地獄への片道切符。羨ましいと感じるなら、是非ともタダで差し上げたいくらいだね。
 アイツらは無事に逃げ切ったかな……?
 ロナが怪我をしているとはいえ、あの二人は水と油、仲の悪い犬猫コンビだ。仲良くやってくれているといいんだが……
 首を抑えながら俺は、これ以上痛めないようにゆっくりと立ち上がる。自分の装備を確認すると、銃と小太刀は、飛び込む際にホルスターと鞘にしまっていたので無事だった。首の骨も幸い折れては無さそう(折れてたら動けるはずないが)だが、激しい戦闘は今すぐできそうにない、少し休む必要があるな……

「そう言えば、アイリスは?」

 戦闘という言葉で、俺は抱えていたはずの人物がいないことを思い出し、ここがまだどこか分かっていないまま、四つん這いの姿勢で辺りを見渡そうとした。するとそこには……

「……これは……」

 うつ伏せから振り返った先に広がる光景を前に、思わず言葉が漏れた。
 切り立った崖の間に流れる幅数百メートルはある大きな川、エメラルドグリーンに煌めくその激しい水流が、派手な水しぶきを上げ、大きな音と共に落下していく。霧のような白い水しぶきへと姿を変えた水流の上に、差し込んだの光が反射して綺麗な虹がかかっていた。その先には、のどかな湖畔こはんのような場所と、それを囲うように地平線の先まで埋め尽くすされた密林が広がっていた。
 切り立ったベトナム、中国との大陸の間を落ちる巨大な滝、俺達はその瀑布ばくふの数十メートル手前にあった、自然の力で作られた岸辺のような場所に打ちあがっていた。丁度、滝つぼになっていた湖畔と、その周りに広がる密林を見下ろせる場所だ。
 さっきから聞こえていた、この砂嵐スノーノイズのような地響きはこれだったのか……!
 目の前に広がる大自然を前に、俺は数秒間見入ってしまう。
 別に滝に大した思い入れがあるわけでもないし、自然に関する知識を多く所有しているわけでもない。アメリカで見たことのあるナイアガラの滝と比べれば、大きさや迫力だって劣る……それでも俺はこの景色に、何かかれるものを感じていた。
 その理由はハッキリとしないが、たぶん……人の手が混入していないからだろう。
 ここ一帯は確か、数年前から一般人の出入りが封鎖されているとアイリスは言っていた。そのおかげか、ナイアガラの滝のような観光地としての建物、安全のための柵といった人工物が一切存在しない。言わばありのままの自然の姿だ。それはまるで、人間社会に隠された幻想の地を見ているような気分だった。
 って、そんなことやってる場合じゃなかった……!
 俺は、大自然の神秘で釘付けにされていた視線を戻し、甘栗色の髪の少年を探すため、辺りを確認する。
 すると────俺が倒れていた位置よりもさらに川から離れた位置に、グレーのパーカーにマフラーをした人物が、うつ伏せになって倒れているのを発見した。間違いない、アイリスだ!

「おい、大丈夫か……!」

 駆け寄った俺が、アイリスのそばにひざまずいて身体をするが反応はない……まさか、溺れて呼吸してないのか……!?
 鼓動を確認するため、アイリスの身体を優しくひっくり返す。琥珀色アンバーの瞳は閉じ、だらん……と力なく垂れる腕、パーカーの胸元に耳を押し付けると、着やせするタイプなのか、随分と分厚い胸板の感触が伝わる……あれ、胸板にしてはやけにぷにぷにと柔らかい気がするが……

「クソ……!」

 着ていたパーカーと、アイリスの胸板が思ったよりも厚いせいで、呼吸の音が上手く聞き取れない。パーカーを脱がそうにも、意識を失った人間を脱がせるのは、身体を起こして支えたりと一人では結構面倒だ。最悪、パーカーの正面を切ると言った手段もある。だが、ここは人里から離れた秘境の地、下手に衣類を失いたくないので、手っ取り早く俺は、アイリスの口元を隠していた甘栗色のマフラーに手を掛けた。

「……ッ!?こ、これは……」

 マフラーの下に隠れていたアイリスの素顔、を見た俺は、思わず息を呑んだ。
 上半分に元々覗いていた顔と遜色そんしょくない、薄く儚い印象の綺麗な中性的な顔。それをわざわざこんなクソ暑い中、マフラーをしてまで隠したかった理由……それが何となく分かってしまった。
 俺は……無防備なアイリスにこんなことをしている自分に、どこか罪悪感のようなものを感じた。それでも、死んでしまっては元も子も無いのは事実、内心で「ごめん……」と謝りつつ、アイリスの唇と鼻に耳を近づけた。
 僅かではあるが、スー……スー……と呼吸している音がする。どうやら気を失ってはいるが、生きているようだった。
 安堵のため息混じりに、俺はすぐにマフラーを元の位置に戻した。
 誰の目にも、アイリスの素顔が見えないように……
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