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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
戦禍残ル地へ6
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「だいぶ降ってきたな……」
「そうね……」
俺の言葉に、隣にいたセイナが短く相槌を打つ。
東京タワーをあとにした俺達は、アメリカで捕らえたアルシェの情報をもとにベトナムに向かうため、羽田空港のターミナルに来ていた。
ターミナルの外に見える滑走路では、さっきまでのパラパラ程度の小雨が今ではザァザァ降りの大雨と化していた。俺達は傘を持っていなかったので、土砂降り前に建物内に入れたことは運が良かった。それに、大雨と言っても風はなく、滑走路の視界も悪くなさそうなので欠便になる心配もないだろう……ただ、問題は────
「……」
「……」
ターミナルを行きかう人々の中に混じる、終始無言の俺達……さっきから会話らしい会話は無く、今のように話しを振っても長続きしない。ハッキリ言って気まずい……
なんでこんな空気になっているのかというと……正直なところ俺にもさっぱり分からないのだ……
東京タワーに行く前までは割と普通に話しをしていたはずだが、小山さんと話しをした後、「彼女」という言葉でフリーズしたセイナが正気に戻ったと思ったら、ずっとこんな調子なのだ。
────なんか、さっきのセイナの手を掴んだ時と一緒で、この気まずい状況前に確かあった気がする……あれは確か、新宿でのヤクザ狩りのあと、セイナと初めて大ケンカした時だ!そう言えばあの時も確か小山さんと話しをした後に互いの意見の食い違いからケンカに────ってまさか!?今回も俺、知らず知らずのうちにまたセイナを怒らすようなことしでかしたか?
さっきからそのことについて、俺はセイナの方をチラチラ見ながら様々な思考を巡らせていたのだが、どうにも検討がつかなかった。
「……ッ!?」
俺が再びチラ見した瞬間────何故か同じようにこちらをチラ見していたセイナと目が合った。と思ったら、俺から大袈裟に視線を逸らした。なんでだよ!?
────はぁ……今度はマジで何やらかしたんだよ……俺?
明らかにいつもと雰囲気が違う……顔を逸らしたセイナの白い頬も少し赤みが差していて、桃色に染まっていた。やはりなにか怒っているのか?
と、とにかく、触らぬ神になんとやら……こちらに害が及ばないうちは余計なことを言わないようにしないと……藪から飛び蹴り、電撃、プロレス技とバリエーション豊富なコイツを怒らすと、マジで命がいくつあっても足りない……
「に、にしてもロナのやつ遅いな……どこで何やってんだか……」
梅雨の時期の天気と同じ、全く予想のつかない女心ってやつにどんな地雷が隠されているか分からないので、俺はセイナではなく、ここにはいないロナについての話をする。
「……確かにちょっと遅いけど、もうそろそろここに着くって連絡は入ってるんでしょ?」
この話題は特に問題なかったのか、セイナは普通な様子でそう聞き返してきた。こうなると、自分の一語一句にひやひやする……黒ひげ危機一髪をやっている気分だぜ……
「そのはずなんだけどな……」
俺はスマートフォンの画面を起動して、ロナからのメッセージを確認する。
「何時にこっちに着く?」「こっちはもう着いたぞ」という簡易的な俺のメッセージに対し、「マ?もっと二人遅くなるかと思ってタピってたw今リアタイで向かってるんゴね~」といった若者言葉に、よく分からんアニメのキャラやキモカワなキャラのスタンプなどなど、ゴテゴテした文章に目が滑る……
とりあえずこっちに向かってきてることは何とか理解したのだが、そんな凝った文章打つ暇があったらとっとと来い!と思って画面を見ると、俺のメッセージとほぼ同時刻に返信が返ってきていた。流石、伊達にPCを使い込んでるだけあって、返信はやたら早い……まあ、肝心の本人がここに来てないので、人としての評価はマイナスだけどな……
そもそも、ここで今気まずい空気になっているのは「ちょっとジェイクに頼まれたことがあるから、二人は先に小山さんとやらに話聞きに行っといて~」というロナとここで合流するという手筈だったのだが、予定の時刻になってもアイツが来ないことが原因でもあるのだ……来たらあの銀髪の脳天にチョップを叩き込んでやる……!
「お~い!二人とも~!」
ターミナルの奥、行きかう人の向こうから、聞きなれた元気な声が俺達を呼んだ。
俺とセイナがその方角を見ると、なにやら大荷物のロナが手を振りながらこっちに向かってきていた。
だいぶ大きな赤いキャリーケースに小さいスイートピンクの可愛らしいキャリーケース、それと大きなジュラルミンケース二つを持ったロナが、子供みたいに(実際まだ子供だが……)大きな赤いアタッシュケースに乗っかっていた。ったく……みっともないから普通に歩いて来いよ……
「あ、こけた……」
こっちに来る最中、キャリーケースがバランスを崩してゴテンッ!と横転するロナ。持っていたアタッシュケースも地面に投げ出してしまう。何やってんだよアイツは!?
その光景に呆れた俺は頭を抱える。ロナのおかげで気まずかった空気は無くなっていたが、その代わりに周りの一般人からの好奇な目に晒されるという羞恥心に襲われた。アイツとは知り合いだと思われたくないので、このまま放置して飛行機に乗りたい気分だったが……
「遅い!アンタどこで何してんのよ?」
あー……セイナがロナの方に駆けよっていってしまった……
このまま他人のふりを続けると、俺だけ薄情者扱いになってしまうので、仕方なくセイナの後ろを追いかける。
「えっへへ……ごめんごめん、荷物が重くてちょっと休憩してたんだ……ハイこれ!セイナも飲む?」
「なにこれ……ミルクティー?の中に黒いつぶつぶが見えるけど……飲んで平気なの……これ?」
「うん!タピオカ!とっても美味しいよ!」
────コイツ……遅れた言い訳に合わせてセイナを美味しいもので懐柔するといった、一見友達思いと見せかけ、仲間に引き込むという計算されつくした言い訳を考えてきたようだった。容量だけは昔から良いんだよな……
「で?この大荷物は何なんだ?……って、重!何が入ってるんだこれ……?」
倒れた大きな赤いスーツケース、軽く4、50キロはある。をよく見ると「割れ物注意」「水漏注意」「天地無用」などといったシールがたくさん張ってあった。俺はそれを起き上がらせながら、倒れていたロナに中身を尋ねる……つーか、そんなに厳重に扱わないといけないのなら、こんな雑にしたらまずいだろ────スーツケースなのに水漏注意……?
「さぁ……?なんかジェイクが今回の件に関しての情報と一緒に送ってきたらしいんだけど……ロナも中身は知~らない!奴に立つものだってジェイクからは聞いたけど……これがまた馬鹿みたいに重くて重くて……か弱いロナちゃんには重労働だよ!全く~!」
「お前のどこがか弱いんだよ……?」
ぷんぷん!と頬を膨らませて大袈裟に怒るロナに対し、俺はジト目で見下ろしながら呟いた。
戦闘時は片手でショットガンぶっ放したり、以前イヌ派ネコ派でケンカした時もセイナにブレーンバスターとか決めてたしな……おかげでリビングの机が真っ二つになったから、そのあと俺がロナをブレーンバスターで家の外にぶん投げたけどな。
「むー!ホントに重かったんだから……!そんな目で見るならあとはダーリンに任せたのだ!」
「あ、おま!?」
ロナは自分の荷物だけ持って、アメリカ大統領から借りた自家用機の搭乗口へと向かって行ってしまう。逃げ足の速い奴め……
まあ、ホントに重いようだったから持って行ってやるか、遅れたことも多めに見てやろう……
そう思って置いていった赤いスーツケースと、あとこっちもロナの荷物ではなくジェイクから送られてきたらしいジェラルミンケース一つを俺は見つめる。にしても、この中身は一体何が入っているんだ……?
「あーあとそれ!向こうに着いてから人目に付かないところで必ず開けてってジェイクが言ってたから!扱いには気を付けてねー!」
俺が好奇心からスーツケースを開けようとしたのを見たのか、遠くから元気いっぱいの声でそう告げるロナ。早口のネイティブな英語だからその辺の日本人には多分伝わらないだろうけど……人前で開けちゃいけない物ならもっと静かに教えろよ!
そんなやりたい放題のロナにため息をつく俺……さっきまでのセイナとの気まずい時間がまるで嘘みたいだった。
────そう言えば……さっきから静かだけどセイナは……?
俺が一秒でも遅刻すると一時間は説教タイムに入るセイナが、ロナが遅れてきたことにはなにも言わず、不気味なほど静かになっていることに今更気づいた。
────まさか……声にならないくらい怒っているのか……?
恐る恐る視線をセイナの方に落とすと────ロナから受け取ったタピオカミルクティーを一心不乱にストローでチューチュー吸いこんでいた。余程気に入った様子で、目をパチパチとさせながら、吸引機のようにもの凄い勢いで、プラスチックカップの中身を飲み干していく。
「ん……ん……ぷはぁッ……フォルテ、今すぐこれをアンタの店でも出しましょう。これはきっと日本ではなく世界でも売れる代物だわ」
「うちの店にはもう置いてあるよ……」
タピオカミルクティーはセイナの機嫌すら直すマジカルドリンクだったようだ。
「そうね……」
俺の言葉に、隣にいたセイナが短く相槌を打つ。
東京タワーをあとにした俺達は、アメリカで捕らえたアルシェの情報をもとにベトナムに向かうため、羽田空港のターミナルに来ていた。
ターミナルの外に見える滑走路では、さっきまでのパラパラ程度の小雨が今ではザァザァ降りの大雨と化していた。俺達は傘を持っていなかったので、土砂降り前に建物内に入れたことは運が良かった。それに、大雨と言っても風はなく、滑走路の視界も悪くなさそうなので欠便になる心配もないだろう……ただ、問題は────
「……」
「……」
ターミナルを行きかう人々の中に混じる、終始無言の俺達……さっきから会話らしい会話は無く、今のように話しを振っても長続きしない。ハッキリ言って気まずい……
なんでこんな空気になっているのかというと……正直なところ俺にもさっぱり分からないのだ……
東京タワーに行く前までは割と普通に話しをしていたはずだが、小山さんと話しをした後、「彼女」という言葉でフリーズしたセイナが正気に戻ったと思ったら、ずっとこんな調子なのだ。
────なんか、さっきのセイナの手を掴んだ時と一緒で、この気まずい状況前に確かあった気がする……あれは確か、新宿でのヤクザ狩りのあと、セイナと初めて大ケンカした時だ!そう言えばあの時も確か小山さんと話しをした後に互いの意見の食い違いからケンカに────ってまさか!?今回も俺、知らず知らずのうちにまたセイナを怒らすようなことしでかしたか?
さっきからそのことについて、俺はセイナの方をチラチラ見ながら様々な思考を巡らせていたのだが、どうにも検討がつかなかった。
「……ッ!?」
俺が再びチラ見した瞬間────何故か同じようにこちらをチラ見していたセイナと目が合った。と思ったら、俺から大袈裟に視線を逸らした。なんでだよ!?
────はぁ……今度はマジで何やらかしたんだよ……俺?
明らかにいつもと雰囲気が違う……顔を逸らしたセイナの白い頬も少し赤みが差していて、桃色に染まっていた。やはりなにか怒っているのか?
と、とにかく、触らぬ神になんとやら……こちらに害が及ばないうちは余計なことを言わないようにしないと……藪から飛び蹴り、電撃、プロレス技とバリエーション豊富なコイツを怒らすと、マジで命がいくつあっても足りない……
「に、にしてもロナのやつ遅いな……どこで何やってんだか……」
梅雨の時期の天気と同じ、全く予想のつかない女心ってやつにどんな地雷が隠されているか分からないので、俺はセイナではなく、ここにはいないロナについての話をする。
「……確かにちょっと遅いけど、もうそろそろここに着くって連絡は入ってるんでしょ?」
この話題は特に問題なかったのか、セイナは普通な様子でそう聞き返してきた。こうなると、自分の一語一句にひやひやする……黒ひげ危機一髪をやっている気分だぜ……
「そのはずなんだけどな……」
俺はスマートフォンの画面を起動して、ロナからのメッセージを確認する。
「何時にこっちに着く?」「こっちはもう着いたぞ」という簡易的な俺のメッセージに対し、「マ?もっと二人遅くなるかと思ってタピってたw今リアタイで向かってるんゴね~」といった若者言葉に、よく分からんアニメのキャラやキモカワなキャラのスタンプなどなど、ゴテゴテした文章に目が滑る……
とりあえずこっちに向かってきてることは何とか理解したのだが、そんな凝った文章打つ暇があったらとっとと来い!と思って画面を見ると、俺のメッセージとほぼ同時刻に返信が返ってきていた。流石、伊達にPCを使い込んでるだけあって、返信はやたら早い……まあ、肝心の本人がここに来てないので、人としての評価はマイナスだけどな……
そもそも、ここで今気まずい空気になっているのは「ちょっとジェイクに頼まれたことがあるから、二人は先に小山さんとやらに話聞きに行っといて~」というロナとここで合流するという手筈だったのだが、予定の時刻になってもアイツが来ないことが原因でもあるのだ……来たらあの銀髪の脳天にチョップを叩き込んでやる……!
「お~い!二人とも~!」
ターミナルの奥、行きかう人の向こうから、聞きなれた元気な声が俺達を呼んだ。
俺とセイナがその方角を見ると、なにやら大荷物のロナが手を振りながらこっちに向かってきていた。
だいぶ大きな赤いキャリーケースに小さいスイートピンクの可愛らしいキャリーケース、それと大きなジュラルミンケース二つを持ったロナが、子供みたいに(実際まだ子供だが……)大きな赤いアタッシュケースに乗っかっていた。ったく……みっともないから普通に歩いて来いよ……
「あ、こけた……」
こっちに来る最中、キャリーケースがバランスを崩してゴテンッ!と横転するロナ。持っていたアタッシュケースも地面に投げ出してしまう。何やってんだよアイツは!?
その光景に呆れた俺は頭を抱える。ロナのおかげで気まずかった空気は無くなっていたが、その代わりに周りの一般人からの好奇な目に晒されるという羞恥心に襲われた。アイツとは知り合いだと思われたくないので、このまま放置して飛行機に乗りたい気分だったが……
「遅い!アンタどこで何してんのよ?」
あー……セイナがロナの方に駆けよっていってしまった……
このまま他人のふりを続けると、俺だけ薄情者扱いになってしまうので、仕方なくセイナの後ろを追いかける。
「えっへへ……ごめんごめん、荷物が重くてちょっと休憩してたんだ……ハイこれ!セイナも飲む?」
「なにこれ……ミルクティー?の中に黒いつぶつぶが見えるけど……飲んで平気なの……これ?」
「うん!タピオカ!とっても美味しいよ!」
────コイツ……遅れた言い訳に合わせてセイナを美味しいもので懐柔するといった、一見友達思いと見せかけ、仲間に引き込むという計算されつくした言い訳を考えてきたようだった。容量だけは昔から良いんだよな……
「で?この大荷物は何なんだ?……って、重!何が入ってるんだこれ……?」
倒れた大きな赤いスーツケース、軽く4、50キロはある。をよく見ると「割れ物注意」「水漏注意」「天地無用」などといったシールがたくさん張ってあった。俺はそれを起き上がらせながら、倒れていたロナに中身を尋ねる……つーか、そんなに厳重に扱わないといけないのなら、こんな雑にしたらまずいだろ────スーツケースなのに水漏注意……?
「さぁ……?なんかジェイクが今回の件に関しての情報と一緒に送ってきたらしいんだけど……ロナも中身は知~らない!奴に立つものだってジェイクからは聞いたけど……これがまた馬鹿みたいに重くて重くて……か弱いロナちゃんには重労働だよ!全く~!」
「お前のどこがか弱いんだよ……?」
ぷんぷん!と頬を膨らませて大袈裟に怒るロナに対し、俺はジト目で見下ろしながら呟いた。
戦闘時は片手でショットガンぶっ放したり、以前イヌ派ネコ派でケンカした時もセイナにブレーンバスターとか決めてたしな……おかげでリビングの机が真っ二つになったから、そのあと俺がロナをブレーンバスターで家の外にぶん投げたけどな。
「むー!ホントに重かったんだから……!そんな目で見るならあとはダーリンに任せたのだ!」
「あ、おま!?」
ロナは自分の荷物だけ持って、アメリカ大統領から借りた自家用機の搭乗口へと向かって行ってしまう。逃げ足の速い奴め……
まあ、ホントに重いようだったから持って行ってやるか、遅れたことも多めに見てやろう……
そう思って置いていった赤いスーツケースと、あとこっちもロナの荷物ではなくジェイクから送られてきたらしいジェラルミンケース一つを俺は見つめる。にしても、この中身は一体何が入っているんだ……?
「あーあとそれ!向こうに着いてから人目に付かないところで必ず開けてってジェイクが言ってたから!扱いには気を付けてねー!」
俺が好奇心からスーツケースを開けようとしたのを見たのか、遠くから元気いっぱいの声でそう告げるロナ。早口のネイティブな英語だからその辺の日本人には多分伝わらないだろうけど……人前で開けちゃいけない物ならもっと静かに教えろよ!
そんなやりたい放題のロナにため息をつく俺……さっきまでのセイナとの気まずい時間がまるで嘘みたいだった。
────そう言えば……さっきから静かだけどセイナは……?
俺が一秒でも遅刻すると一時間は説教タイムに入るセイナが、ロナが遅れてきたことにはなにも言わず、不気味なほど静かになっていることに今更気づいた。
────まさか……声にならないくらい怒っているのか……?
恐る恐る視線をセイナの方に落とすと────ロナから受け取ったタピオカミルクティーを一心不乱にストローでチューチュー吸いこんでいた。余程気に入った様子で、目をパチパチとさせながら、吸引機のようにもの凄い勢いで、プラスチックカップの中身を飲み干していく。
「ん……ん……ぷはぁッ……フォルテ、今すぐこれをアンタの店でも出しましょう。これはきっと日本ではなく世界でも売れる代物だわ」
「うちの店にはもう置いてあるよ……」
タピオカミルクティーはセイナの機嫌すら直すマジカルドリンクだったようだ。
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