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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
戦禍残ル地へ2
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諦めかけていた俺に、ジェイクがそう付け加えた。
「一つは、ベトナム……と」
「ベトナム……?ベトナムって最近までアメリカとやりあってたあの……?」
「うん」と肯定するジェイク────また随分と変わった場所が出てきたな……とぼんやり考えていた俺だったが……ベトナムと聞いてふと、あることを思い出した……
「そう言えば……以前、ケンブリッジ大学のテロリストが使っていたアサルトライフル。AK-47を解析したデータを貰った際に、明確な出どころまで正確に掴めなかったらしいが、確かベトナムで製造されたものと形式が似てるって言ってたな……」
一か月前、アメリカから丁度こっちに帰ってきた辺りで、セイナの母親であるエリザベス三世からその情報が送られてきたことを思い出した俺はそう呟いた。偶然……かもしれないけどな……
「そうなのか……?データといえば、例の君が解析を頼んでいたPCとスマートフォンの方はどうだったのだ?」
「それなら昨日ようやくロナが解析が終わったと言っていたが、あっちも大して情報は入ってなかったらしい……出てきた情報は、中国に関する経済やら、政治やらの情報だけ……それも極秘のものではなく、一般に公開されているんようなものくらいしかなかったって言ってたぜ……」
ベトナムと中国は近いということ以外、関係性はあまり感じないけどな……
「なるほど……それについてはあとで大統領に私から伝えるとして……フォルテ、ここからが電話を掛けた本題なのだが、君に頼みたいことがある」
「まさか、俺にベトナムに行ってこいって言うんじゃないだろうな……?」
「そのまさかだ……」
「マジかよ……」
後ろ手に頭を掻きながらボヤくようにそう言う俺に、あまり乗り気じゃないことを察し、ジェイクは少し申し訳なさそうに告げた。
「やはり……そういう反応をするよな……」
「まあ、な……だってそれどう考えたって99パーセント罠じゃん……俺一人ならともかく、他の二人はなるべく危険に晒したくないというか、そもそもそれに同意するかな……」
ソファーでPCを操作しているロナは文句言わないだろうが、テーブルの方の椅子に座って俺の淹れたコーヒーを飲むセイナ……一見すると優雅なお嬢様だが……セイナの周りを取り囲むようにしてメラメラと赤く燃え滾ったオーラ、陽炎のように後ろの空間が歪むほどのそれは、俺の悪魔の紅い瞳なんか比にならないくらい禍々しい物だった。
今朝の件で散々痛めつけられた後、俺とロナが互いに弁解したにも関わらず、「言い訳するなんてまだ調教が足りないのかしら!?」「ロナは黙ってなさい!」と何故かいつもより怒りの収まらないセイナの、ありがたーい説教をさっきまでずっと正座で受けていたのだが、途中この電話が掛かってきたおかげで今は中断……という形になっている。
よほど虫の居所が悪かったのか、どうしてそこまで不機嫌なのかは未だよく分からなかったが、梅雨でジメジメした空間にストーブのように熱くなっているセイナは「あれほど心配してたのに────」「折角助けてくれてお礼を────」何かぶつぶつと独り言を呟いているようだったが、オープンキッチン裏で電話している俺はその声を上手く聞き取ることができなかった。
とにかく今のセイナは、誰がどう見たって120パーセント機嫌が悪い。
果たして俺の頼みごとに耳を傾けてくれるのだろうか────
「確かに、無理なことを言っているのは百も承知だ。だが、こちらの工作員は、まだ一か月前の事件から復帰していないものが多く、君くらいした頼める人材がいないことも事実……」
「だけど、ベトナムっつったって、アメリカや中国ほどじゃないにしろ広いぞ?どこを探せばいいのかさえ俺には分からない……」
「それについては、こっちである程度目星はついているんだ……そのために必要な手続きに少々手間取ってしまってな、今回報告が遅れた大部分の原因はそこだ」
「目星、手続き……?どういうことだ……?」
そんな簡単に見つかるものなのか?それに、手続きってやつが何のことなのか?俺にはさっぱり分からなかった。
「申し訳ないが、詳しい話についてはここでは言えないんだ……だが、もし引き受けてくれるのであればそのことについての説明、及び我々からのバックアップは惜しまないつもりだが……どうかな……?」
断ることもできる……みたいだが、折角の情報を無下にはできない……何よりこれは俺一人で決めて良いことではないことはよく分かる。数か月前の時とは違い、今の俺には二人も仲間がいるのだからな……
「悪いが、少し時間をくれないか?他の二人と相談して決めたいんだ」
「……分かった、急かすようで悪いが、できれば返事は早めに頼む……それではな……」
「あーちょっと待ってくれ、確かさっき……二つアルシェが気になることを言っていたって聞いた気がしたんだが……ベトナムともう一つは何なんだ?」
「……」
俺が電話を切ろうとしていたジェイクを呼び止めてそう尋ねると、返ってきたのは返答ではなく、何故か沈黙だった。言いたくない……もしくは聞かせたくないってことか?
疑問符を頭に浮かべて返答を待つ俺に、ジェイクは静かに口を開いた。
「……黙っておこうかと思っていたが……まあ、忠告も兼ねて伝えておこう……ベトナムの話と別に、アルシェからフォルテ、君への伝言を預かっている」
「俺に?なんつってたんだ?」
「君は近い将来絶対に死ぬ……と……」
「……またそれかよ……」
ワシントンメトロの時にも聞いた死刑宣告に、俺はがっくりと頭を落としてため息を漏らす。
────死ぬ死ぬって末期患者じゃあるまいし……アイツはいつから俺の担当医になったんだ?
「それと、死ぬなとも言っていた」
「なんだそりゃ……?」
死刑宣告からの根性論のような物言い……どうやら俺の担当医は錯乱しているらしいな……
「……細かく話すとアルシェはこう言っていた……「私の予言は外れたことが無い……そして、その予言の中に近い将来のフォルテの死が予言されていた……にもかかわらず、あの絶体絶命な状況を生き延びたことは奇跡に近い……そしてあの時、最後まで諦めなかったお前達三人に私は可能性のようなものを見た気がした。もしかしたら、我らの目指すものとは別の道を見出すことができるかもしれない……と。だから死ぬな……私の予言から生き延びて見せろ」と、言っていたぞ」
「────そうか……」
多分俺やセイナと比べたら一番年下のはずなのに、何故か所々アルシェが上から目線なのが気になるが……それには何も言わず、ジェイクからの伝言に俺は相槌を打つ。
ヨルムンガンドが何を目指しているのかはまだ明確には分かっていないが、別の道を見出す……か……
────一体、連中は何を目指しているのだろうか……?
「それと「あの時、窓の外に投げ出されそうになった私を助けてくれてありがとう。お礼に、占って欲しいことがあったら一回だけタダ占ってやろう。喜べ!組織でも私の占いは当たると評判で、一回1万ドルは下らないほど人気なんだ!」とも言ってたぞ?なにか占ってもらうか?」
い、1万ドルって日本円で100万円以上ってことかよ!?絶対ぼったくりじゃねーか……!?
セイナよりもぺったんこな胸を張って、舌ったらずなロリ声でそう宣言する、魔女服姿のアルシェを想像した俺が脳内でツッコミを入れつつ……
「いや、占いはあまり信じてないからいいよ……それよりも、アルシェは今後どうなるんだ?」
神の加護の存在は見ているはずなのに、未だ無神論者の俺が興味なさそうにそう告げると、ジェイクは唸り声を上げる。
「それなんだが、本人の要望で司法取引ができないか検討中だ……身柄についてその取引の内容次第ってところだ……」
「そうか、じゃあ俺からもアルシェに伝言頼めるか?」
「……構わないが?なんと伝える?」
意外そうな様子でそう聞き返してくるジェイクに、俺はスマートフォン越しに両頬を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべながらこう宣言した。
「この世に絶対って言葉は絶対に存在しない。お前に言われなくても、予言の一つや二つ。軽く乗り越えて見せるさ」
「一つは、ベトナム……と」
「ベトナム……?ベトナムって最近までアメリカとやりあってたあの……?」
「うん」と肯定するジェイク────また随分と変わった場所が出てきたな……とぼんやり考えていた俺だったが……ベトナムと聞いてふと、あることを思い出した……
「そう言えば……以前、ケンブリッジ大学のテロリストが使っていたアサルトライフル。AK-47を解析したデータを貰った際に、明確な出どころまで正確に掴めなかったらしいが、確かベトナムで製造されたものと形式が似てるって言ってたな……」
一か月前、アメリカから丁度こっちに帰ってきた辺りで、セイナの母親であるエリザベス三世からその情報が送られてきたことを思い出した俺はそう呟いた。偶然……かもしれないけどな……
「そうなのか……?データといえば、例の君が解析を頼んでいたPCとスマートフォンの方はどうだったのだ?」
「それなら昨日ようやくロナが解析が終わったと言っていたが、あっちも大して情報は入ってなかったらしい……出てきた情報は、中国に関する経済やら、政治やらの情報だけ……それも極秘のものではなく、一般に公開されているんようなものくらいしかなかったって言ってたぜ……」
ベトナムと中国は近いということ以外、関係性はあまり感じないけどな……
「なるほど……それについてはあとで大統領に私から伝えるとして……フォルテ、ここからが電話を掛けた本題なのだが、君に頼みたいことがある」
「まさか、俺にベトナムに行ってこいって言うんじゃないだろうな……?」
「そのまさかだ……」
「マジかよ……」
後ろ手に頭を掻きながらボヤくようにそう言う俺に、あまり乗り気じゃないことを察し、ジェイクは少し申し訳なさそうに告げた。
「やはり……そういう反応をするよな……」
「まあ、な……だってそれどう考えたって99パーセント罠じゃん……俺一人ならともかく、他の二人はなるべく危険に晒したくないというか、そもそもそれに同意するかな……」
ソファーでPCを操作しているロナは文句言わないだろうが、テーブルの方の椅子に座って俺の淹れたコーヒーを飲むセイナ……一見すると優雅なお嬢様だが……セイナの周りを取り囲むようにしてメラメラと赤く燃え滾ったオーラ、陽炎のように後ろの空間が歪むほどのそれは、俺の悪魔の紅い瞳なんか比にならないくらい禍々しい物だった。
今朝の件で散々痛めつけられた後、俺とロナが互いに弁解したにも関わらず、「言い訳するなんてまだ調教が足りないのかしら!?」「ロナは黙ってなさい!」と何故かいつもより怒りの収まらないセイナの、ありがたーい説教をさっきまでずっと正座で受けていたのだが、途中この電話が掛かってきたおかげで今は中断……という形になっている。
よほど虫の居所が悪かったのか、どうしてそこまで不機嫌なのかは未だよく分からなかったが、梅雨でジメジメした空間にストーブのように熱くなっているセイナは「あれほど心配してたのに────」「折角助けてくれてお礼を────」何かぶつぶつと独り言を呟いているようだったが、オープンキッチン裏で電話している俺はその声を上手く聞き取ることができなかった。
とにかく今のセイナは、誰がどう見たって120パーセント機嫌が悪い。
果たして俺の頼みごとに耳を傾けてくれるのだろうか────
「確かに、無理なことを言っているのは百も承知だ。だが、こちらの工作員は、まだ一か月前の事件から復帰していないものが多く、君くらいした頼める人材がいないことも事実……」
「だけど、ベトナムっつったって、アメリカや中国ほどじゃないにしろ広いぞ?どこを探せばいいのかさえ俺には分からない……」
「それについては、こっちである程度目星はついているんだ……そのために必要な手続きに少々手間取ってしまってな、今回報告が遅れた大部分の原因はそこだ」
「目星、手続き……?どういうことだ……?」
そんな簡単に見つかるものなのか?それに、手続きってやつが何のことなのか?俺にはさっぱり分からなかった。
「申し訳ないが、詳しい話についてはここでは言えないんだ……だが、もし引き受けてくれるのであればそのことについての説明、及び我々からのバックアップは惜しまないつもりだが……どうかな……?」
断ることもできる……みたいだが、折角の情報を無下にはできない……何よりこれは俺一人で決めて良いことではないことはよく分かる。数か月前の時とは違い、今の俺には二人も仲間がいるのだからな……
「悪いが、少し時間をくれないか?他の二人と相談して決めたいんだ」
「……分かった、急かすようで悪いが、できれば返事は早めに頼む……それではな……」
「あーちょっと待ってくれ、確かさっき……二つアルシェが気になることを言っていたって聞いた気がしたんだが……ベトナムともう一つは何なんだ?」
「……」
俺が電話を切ろうとしていたジェイクを呼び止めてそう尋ねると、返ってきたのは返答ではなく、何故か沈黙だった。言いたくない……もしくは聞かせたくないってことか?
疑問符を頭に浮かべて返答を待つ俺に、ジェイクは静かに口を開いた。
「……黙っておこうかと思っていたが……まあ、忠告も兼ねて伝えておこう……ベトナムの話と別に、アルシェからフォルテ、君への伝言を預かっている」
「俺に?なんつってたんだ?」
「君は近い将来絶対に死ぬ……と……」
「……またそれかよ……」
ワシントンメトロの時にも聞いた死刑宣告に、俺はがっくりと頭を落としてため息を漏らす。
────死ぬ死ぬって末期患者じゃあるまいし……アイツはいつから俺の担当医になったんだ?
「それと、死ぬなとも言っていた」
「なんだそりゃ……?」
死刑宣告からの根性論のような物言い……どうやら俺の担当医は錯乱しているらしいな……
「……細かく話すとアルシェはこう言っていた……「私の予言は外れたことが無い……そして、その予言の中に近い将来のフォルテの死が予言されていた……にもかかわらず、あの絶体絶命な状況を生き延びたことは奇跡に近い……そしてあの時、最後まで諦めなかったお前達三人に私は可能性のようなものを見た気がした。もしかしたら、我らの目指すものとは別の道を見出すことができるかもしれない……と。だから死ぬな……私の予言から生き延びて見せろ」と、言っていたぞ」
「────そうか……」
多分俺やセイナと比べたら一番年下のはずなのに、何故か所々アルシェが上から目線なのが気になるが……それには何も言わず、ジェイクからの伝言に俺は相槌を打つ。
ヨルムンガンドが何を目指しているのかはまだ明確には分かっていないが、別の道を見出す……か……
────一体、連中は何を目指しているのだろうか……?
「それと「あの時、窓の外に投げ出されそうになった私を助けてくれてありがとう。お礼に、占って欲しいことがあったら一回だけタダ占ってやろう。喜べ!組織でも私の占いは当たると評判で、一回1万ドルは下らないほど人気なんだ!」とも言ってたぞ?なにか占ってもらうか?」
い、1万ドルって日本円で100万円以上ってことかよ!?絶対ぼったくりじゃねーか……!?
セイナよりもぺったんこな胸を張って、舌ったらずなロリ声でそう宣言する、魔女服姿のアルシェを想像した俺が脳内でツッコミを入れつつ……
「いや、占いはあまり信じてないからいいよ……それよりも、アルシェは今後どうなるんだ?」
神の加護の存在は見ているはずなのに、未だ無神論者の俺が興味なさそうにそう告げると、ジェイクは唸り声を上げる。
「それなんだが、本人の要望で司法取引ができないか検討中だ……身柄についてその取引の内容次第ってところだ……」
「そうか、じゃあ俺からもアルシェに伝言頼めるか?」
「……構わないが?なんと伝える?」
意外そうな様子でそう聞き返してくるジェイクに、俺はスマートフォン越しに両頬を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべながらこう宣言した。
「この世に絶対って言葉は絶対に存在しない。お前に言われなくても、予言の一つや二つ。軽く乗り越えて見せるさ」
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