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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
魔術弾《マジックブレット》5
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────ま、まずい!
俺は、セイナが狙撃する前から東京タワーを彩る電飾に混じって、パチンッ────と再び光が瞬いたことに気づいて走り出していた。
俺が囮になることで、セイナから注意を引き剥がそうと思っていたが、スナイパーは敢えて俺の囮につられていたかのように狙撃しつつ、セイナを撃てる絶好の機会を伺っていた!
だが、それはあくまで予想できることだ。俺達が遠距離を戦える武器を所持していないことも、密輸品の中に遠距離を攻撃できるスナイパーライフルが含まれていることも奴は知っていた仮定とすれば、簡単にそのことに気づくだろう……ましてやセイナは本職じゃないとはいえ、俺よりもスナイピングができる狙撃手でもある。俺やロナよりも誰よりもそれに気づきそうなセイナが────それに気づかずまんまと罠にハマってしまっているのだ。
────なんでそんなに焦っているんだ……?
時間がないことは確かだが、それでもこの前のワシントンメトロ止めた時の方がよっぽど切迫していた。その時のセイナはずっと落ち着き、最善の行動がとれていたはずなのに……
それこそ、最初に俺が狙撃された時までは冷静だった……一体どこで────
と全力でセイナに駆け寄る俺の脳裏に一つの答えが思い浮かぶ。
────まさか、アイツ俺が負傷したと勘違いして焦っているのか……?
セイナが武器をトラックから探している間にも、インカム越しに奮闘する俺の声はずっと聞こえていたはず……だが、それは決して好戦的なものではなく、苦戦を強いられている様子しか伝わらなかっただろう。ましてや最後はギリギリで銃弾を防ぎ切り、息切れしながら倒れ込む形でコンテナ裏に倒れた俺を見れば、撃たれたと勘違いしても仕方ない。俺が暗闇でセイナの姿が見えにくかったように、彼女も暗視ゴーグルを付けているとはいえ、俺の姿は見えにくかったのだろう。
────それでも、今まで別に俺が負傷したことがあっても、行動に現れるまでセイナが焦ることはほとんど無かったはずなの……
とにかく今はそんなこと考えるよりも、俺は悪魔の紅い瞳を発動させ、全力で駆け寄ろうとするが────このままじゃ間に合わない……!
遠距離からの狙撃は、着弾よりも遅れて銃声が聞こえるはずなのだが、身体能力を強化している今の俺の耳には既にその音が届いている。つまり……もう銃弾はセイナのすぐ近くまで接近しているということだ……!
なら────!
俺は右眼とは反対の左眼をゆっくりと開く……
暗い部屋の扉が開き、そこから光が差し込むかのように、俺の左眼から蒼い光がこぼれ出し、煙のように夜空へと舞い上がる。
蒼き月の瞳、コンテナ街に差し込む月明かりを触媒に、右眼と同じ黙示録の瞳を発動させた俺は、全身の動きをサポートさせる。
今日の月は綺麗な半月────能力の出力は半分といったところだ。
……それだけあれば十分だ!!
左眼の補助によって、通常では出すことのできない20倍まで右眼の力を引き上げた俺は、赤い銃弾が到達するよりも先にセイナの前に躍り出た。丁度、セイナを銃弾から守るように────
身体能力を上げた俺の視力、反射神経が、コマ送りのようなスーパースローの世界を作り、飛来した赤い銃弾を捉えた。鮮血と同じスカーレット調の赤い銃弾がゆっくりと回転し、そこに刻まれた魔術の刻印までもが鮮明に見える。だが────
────距離が近すぎて、もうさっきの方法じゃ間に合わない!
そう思った俺は小太刀でも銃でもなく、着ていた八咫烏に左手をかけて、バサッ!と前方に脱ぎ捨てた。
「はぁッ!!」
八咫烏に赤い銃弾が包み込まれ、手榴弾のようにコートの中で弾けて暴れるのを、左手の義手で無理矢理抑えつつ、そのまま俺達二人の左側に受け流そうとする。
距離があるとはいえ、ハンドガンの約3倍の速度で飛来するライフル弾。まるで、大きな丸太で突かれたかのような衝撃が、義手越しに俺の腹部を襲う。
「……グゥッ!!」
ガラスのように脆そうな銃弾のくせに、普通の……いやそれ以上の衝撃がミシミシと肋骨に響き、呻き声とともに吐き気を催す。
それでも、俺は歯を食いしばって耐える。
ここで負けたら、傷つくのは俺ではなく、後ろにいるセイナだ!
そう思うと、身体の芯からさらに力が溢れ出してくる────!
力を欲する俺に答えるようにして、両目の魔眼はさらに力を与え、グググッと力任せに腰と腕を回転させていく。
こんなインチキ銃弾でセイナを傷つけられてたまるか……!!
「ッッ!……うらぁッ!!」
回転扉のように右から左に身体を回転させ、赤い銃弾は俺達の左後ろにあったアルミ製箱形の側面に着弾した。
バケツに入った赤いペンキをぶちまけたかのように、アルミ製箱形を赤い銃弾が抉るように無数の切り傷をつける。
一回限定とはいえ、俺は何とか魔術弾を防ぐことに成功したが────
「ごめんッ!!数センチ外した!!」
L96A1のボルトを操作し、排莢と同時に次弾を装填するセイナがそう叫んだ。
流石に強化してしていても2km先は見えないので、どの辺に着弾したまでは分からなかったが、土壇場で初めて使う武器と装備、さらにスコープの着弾位置を調整するゼロインや敵の位置、状況を知らせるスポッター無しでそこまでできるのは、優秀を通り越して最早天才の域に達しているだろう。
「うッ……ぁッ……!!」
「フォルテッ!?」
電流のような激痛が全身に走った!
意図していない急激な能力上昇による反動────いつもなら数時間後にくるはずの痛みが全身の神経を這いずり回る。つい、セイナを守ろうと過剰なまで力を引き上げてしまったらしい……
嗚咽を漏らし、痛みに耐え切れずに地面に両膝をついた俺の背後から、動揺したセイナの声が聞こえる。
「俺に構うなセイナ!!いくらでも俺はお前の盾になる!だからお前は狙撃にだけ集中しろ!!」
乱れた呼吸の中、文字通り血反吐を吐く勢いで俺がそう叫ぶと、セイナは焦った表情を押し殺すように小さく頷いてから、再び銃を構えてスコープを覗く。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……!」
焦らずに深呼吸しつつ、それでも最速で狙いを定めたセイナが、白く繊細な人差し指をトリガーにかけた────
バゴォォォォォォォォン!!!!
一瞬、俺は何が起きたのか分からなかった。
闇夜が一瞬で真っ白な世界に反転し、両耳からはキーンッ!!と耳鳴りがする。
鈍器で頭をぶん殴られた時と同じ光景に、俺は撃たれたのか────とグラグラする思考の中思っていたが……
「えっ……?」
後方で銃弾を放ったセイナが驚嘆するような声と共に、バチバチと白い光を放つバスケットボールサイズの光弾がL96A1から放たれる。
「うッ!キャッ!?」
可愛らしい悲鳴と共に、銃口を跳ね上げながらセイナは尻餅を着いた。
L96A1から放たれた大きな光弾は、彗星のように白い尾を引きながら俺達の前方────東京タワーに飛んでいき────
ドガァァァァン!!!!
その先端部分を吹き飛ばした。
「……」
「……」
俺とセイナは東京タワーの先端が崩れるといった非現実的過ぎる状況を前に、壊れた機械人形のようにギギギ……と顔を動かして互いの顔を見合わせた。
なんでそんなことになってしまったのか?状況が全く理解できていない俺達は目と口を大きく開いたまま、石像のように降着している。
『ふ、二人とも!?急に声が聞こえなくなったけど大丈夫!?』
インカム越しにロナの声が聞こえてきたが、今の俺達では返事どころか、声すら発せずにいた。
そんな中、訓練で染み付いていたのか、何故か銃身がラッパのように広がっていたL96A1を持つセイナがボルトを引いた。
排莢口から、魔術の刻印の入った真っ白な薬莢がコンクリートの地面に落ち────急に静かになったコンテナ街に、カランカランッと音を立てて転がった。
俺は、セイナが狙撃する前から東京タワーを彩る電飾に混じって、パチンッ────と再び光が瞬いたことに気づいて走り出していた。
俺が囮になることで、セイナから注意を引き剥がそうと思っていたが、スナイパーは敢えて俺の囮につられていたかのように狙撃しつつ、セイナを撃てる絶好の機会を伺っていた!
だが、それはあくまで予想できることだ。俺達が遠距離を戦える武器を所持していないことも、密輸品の中に遠距離を攻撃できるスナイパーライフルが含まれていることも奴は知っていた仮定とすれば、簡単にそのことに気づくだろう……ましてやセイナは本職じゃないとはいえ、俺よりもスナイピングができる狙撃手でもある。俺やロナよりも誰よりもそれに気づきそうなセイナが────それに気づかずまんまと罠にハマってしまっているのだ。
────なんでそんなに焦っているんだ……?
時間がないことは確かだが、それでもこの前のワシントンメトロ止めた時の方がよっぽど切迫していた。その時のセイナはずっと落ち着き、最善の行動がとれていたはずなのに……
それこそ、最初に俺が狙撃された時までは冷静だった……一体どこで────
と全力でセイナに駆け寄る俺の脳裏に一つの答えが思い浮かぶ。
────まさか、アイツ俺が負傷したと勘違いして焦っているのか……?
セイナが武器をトラックから探している間にも、インカム越しに奮闘する俺の声はずっと聞こえていたはず……だが、それは決して好戦的なものではなく、苦戦を強いられている様子しか伝わらなかっただろう。ましてや最後はギリギリで銃弾を防ぎ切り、息切れしながら倒れ込む形でコンテナ裏に倒れた俺を見れば、撃たれたと勘違いしても仕方ない。俺が暗闇でセイナの姿が見えにくかったように、彼女も暗視ゴーグルを付けているとはいえ、俺の姿は見えにくかったのだろう。
────それでも、今まで別に俺が負傷したことがあっても、行動に現れるまでセイナが焦ることはほとんど無かったはずなの……
とにかく今はそんなこと考えるよりも、俺は悪魔の紅い瞳を発動させ、全力で駆け寄ろうとするが────このままじゃ間に合わない……!
遠距離からの狙撃は、着弾よりも遅れて銃声が聞こえるはずなのだが、身体能力を強化している今の俺の耳には既にその音が届いている。つまり……もう銃弾はセイナのすぐ近くまで接近しているということだ……!
なら────!
俺は右眼とは反対の左眼をゆっくりと開く……
暗い部屋の扉が開き、そこから光が差し込むかのように、俺の左眼から蒼い光がこぼれ出し、煙のように夜空へと舞い上がる。
蒼き月の瞳、コンテナ街に差し込む月明かりを触媒に、右眼と同じ黙示録の瞳を発動させた俺は、全身の動きをサポートさせる。
今日の月は綺麗な半月────能力の出力は半分といったところだ。
……それだけあれば十分だ!!
左眼の補助によって、通常では出すことのできない20倍まで右眼の力を引き上げた俺は、赤い銃弾が到達するよりも先にセイナの前に躍り出た。丁度、セイナを銃弾から守るように────
身体能力を上げた俺の視力、反射神経が、コマ送りのようなスーパースローの世界を作り、飛来した赤い銃弾を捉えた。鮮血と同じスカーレット調の赤い銃弾がゆっくりと回転し、そこに刻まれた魔術の刻印までもが鮮明に見える。だが────
────距離が近すぎて、もうさっきの方法じゃ間に合わない!
そう思った俺は小太刀でも銃でもなく、着ていた八咫烏に左手をかけて、バサッ!と前方に脱ぎ捨てた。
「はぁッ!!」
八咫烏に赤い銃弾が包み込まれ、手榴弾のようにコートの中で弾けて暴れるのを、左手の義手で無理矢理抑えつつ、そのまま俺達二人の左側に受け流そうとする。
距離があるとはいえ、ハンドガンの約3倍の速度で飛来するライフル弾。まるで、大きな丸太で突かれたかのような衝撃が、義手越しに俺の腹部を襲う。
「……グゥッ!!」
ガラスのように脆そうな銃弾のくせに、普通の……いやそれ以上の衝撃がミシミシと肋骨に響き、呻き声とともに吐き気を催す。
それでも、俺は歯を食いしばって耐える。
ここで負けたら、傷つくのは俺ではなく、後ろにいるセイナだ!
そう思うと、身体の芯からさらに力が溢れ出してくる────!
力を欲する俺に答えるようにして、両目の魔眼はさらに力を与え、グググッと力任せに腰と腕を回転させていく。
こんなインチキ銃弾でセイナを傷つけられてたまるか……!!
「ッッ!……うらぁッ!!」
回転扉のように右から左に身体を回転させ、赤い銃弾は俺達の左後ろにあったアルミ製箱形の側面に着弾した。
バケツに入った赤いペンキをぶちまけたかのように、アルミ製箱形を赤い銃弾が抉るように無数の切り傷をつける。
一回限定とはいえ、俺は何とか魔術弾を防ぐことに成功したが────
「ごめんッ!!数センチ外した!!」
L96A1のボルトを操作し、排莢と同時に次弾を装填するセイナがそう叫んだ。
流石に強化してしていても2km先は見えないので、どの辺に着弾したまでは分からなかったが、土壇場で初めて使う武器と装備、さらにスコープの着弾位置を調整するゼロインや敵の位置、状況を知らせるスポッター無しでそこまでできるのは、優秀を通り越して最早天才の域に達しているだろう。
「うッ……ぁッ……!!」
「フォルテッ!?」
電流のような激痛が全身に走った!
意図していない急激な能力上昇による反動────いつもなら数時間後にくるはずの痛みが全身の神経を這いずり回る。つい、セイナを守ろうと過剰なまで力を引き上げてしまったらしい……
嗚咽を漏らし、痛みに耐え切れずに地面に両膝をついた俺の背後から、動揺したセイナの声が聞こえる。
「俺に構うなセイナ!!いくらでも俺はお前の盾になる!だからお前は狙撃にだけ集中しろ!!」
乱れた呼吸の中、文字通り血反吐を吐く勢いで俺がそう叫ぶと、セイナは焦った表情を押し殺すように小さく頷いてから、再び銃を構えてスコープを覗く。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……!」
焦らずに深呼吸しつつ、それでも最速で狙いを定めたセイナが、白く繊細な人差し指をトリガーにかけた────
バゴォォォォォォォォン!!!!
一瞬、俺は何が起きたのか分からなかった。
闇夜が一瞬で真っ白な世界に反転し、両耳からはキーンッ!!と耳鳴りがする。
鈍器で頭をぶん殴られた時と同じ光景に、俺は撃たれたのか────とグラグラする思考の中思っていたが……
「えっ……?」
後方で銃弾を放ったセイナが驚嘆するような声と共に、バチバチと白い光を放つバスケットボールサイズの光弾がL96A1から放たれる。
「うッ!キャッ!?」
可愛らしい悲鳴と共に、銃口を跳ね上げながらセイナは尻餅を着いた。
L96A1から放たれた大きな光弾は、彗星のように白い尾を引きながら俺達の前方────東京タワーに飛んでいき────
ドガァァァァン!!!!
その先端部分を吹き飛ばした。
「……」
「……」
俺とセイナは東京タワーの先端が崩れるといった非現実的過ぎる状況を前に、壊れた機械人形のようにギギギ……と顔を動かして互いの顔を見合わせた。
なんでそんなことになってしまったのか?状況が全く理解できていない俺達は目と口を大きく開いたまま、石像のように降着している。
『ふ、二人とも!?急に声が聞こえなくなったけど大丈夫!?』
インカム越しにロナの声が聞こえてきたが、今の俺達では返事どころか、声すら発せずにいた。
そんな中、訓練で染み付いていたのか、何故か銃身がラッパのように広がっていたL96A1を持つセイナがボルトを引いた。
排莢口から、魔術の刻印の入った真っ白な薬莢がコンクリートの地面に落ち────急に静かになったコンテナ街に、カランカランッと音を立てて転がった。
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