SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

魔術弾《マジックブレット》2

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 バンッ!バンッ!バンッ!

 俺は走りながら持っていたHK45を連射した。
 その銃声に合わせ、取引現場にいた中年男のボディーガードの二人が被弾した肩や足を抑えて悲鳴を上げる。

「て、敵襲!?」

 取り巻きの二人が倒れたことで中年男は慌てた様子でその場にしゃがみ込んだ。

「てめぇ……さてはハメやがったな!?」

「私は何も知らない……!組織からはここで待てとしか言われてないぞ!?」

「クソッ!てめえら仕事だ!」

 突然の襲撃に作業着の男が中年男に罵声を浴びせながら、ポケットから無線を取り出してそう呼びかける。
 途端────大型トラックのアルミ製箱形バンボディからぞろぞろと武装した兵士が出てきた。
 人がいるのは分かっていたが、なんだあの武装────国の特殊部隊並みの装備じゃねーか……!
 俺と同じ黒い戦闘服を身に着け、ガスマスクを顔につけた兵士、合計で6人。いつかのセイナたちSAS訓練小隊を思わせるその兵士たちが、一斉に俺の方に向けて持っていたアサルトライフル、真っ黒い塗装の施されたベルギー製のFN SCARスカーを構える。
 さらに、視界を遮るように積まれていたコンテナの上から、お客の中年男サイドのボディーガード達が数人現れ、丁度俺のことを撃ち下ろすような角度で銃を構えた。

 ────ダン……

 コンテナ街を照らしていた街灯が突然消え、辺りを暗黒が包み込んだ。

「こ、今度は何だ!?」

 暗闇の中で、しゃがみ込んでいたお客の中年男性が状況を理解できずに一人で叫んだ。
 だがそれに対し、誰もなにも答えない……
 さっきまで周りにたくさん人がいたにもかかわらず、聞こえてくるのは夜の海風がコンテナを吹き付ける音と、人口島に打ちつけるさざなみの音だけ……

「ギャァァァァ!!」

 急に静かなになった夜のコンテナ街をつんざくように男の悲鳴が上がる。
 しかし、悲鳴はコンテナに反響し、さらに視界は暗闇が支配しているせいでどこから聞こえてきたのか分からない。
 あらかじめ設置してあった通信機を妨害のする電磁パルスE M Pも作動させてあるから仲間の安否を確認することさえ許さない。
 再びの静寂────夜風やさざなみに合わせ、今度は悲鳴に対する怯えや緊張の声、跳ね上がる心臓の音が混じり始める。
 俺は右眼の魔眼レッドデーモンアイで強化した聴覚を使い、その音だけを頼りに視界が遮られた中、的確に敵を無力化していく。
 各地で上がる悲鳴────隣、後ろ、上、下。もうどこで悲鳴が上がっているのか、自分がどの位置にいるのさえ彼らには分からないだろう……

「ヒィィィィ!?」

 地面に伏せた中年男の悲鳴────それを皮切りに狂想曲きょうそうきょくはクライマックスに入る。
 恐怖で錯乱した兵士たちが持っていた銃を乱射し、暗闇の中でマズルフラッシュが動き回る。
 スクープに群がるマスコミのカメラフラッシュのような光と爆音が、イルミネーションに包まれていた幻想的な夜を火薬の臭いと共にぶっ壊していく。
 一か月前にFBIを掻きまわしたジェイクの時と状況はほぼ同じだが、訓練されてないチンピラでは収まりがつけられない分、余計タチが悪いな。

『────フォルテ、あと三人』

 また一人敵を倒していた俺の耳に、同じくコンテナ上の敵を無力化していたセイナから通信が入る。

「おう、こっちもあと二人だ」

 答えてから俺は胸倉をつかんで伸びていた兵士の一人を地面に放り捨て、業者の作業着の男とそのお客の中年男がしゃがみ混んでいた場所まで向かう。

「だ、誰だ!?」

 足音で気配を感じたのか、中年男がしゃがんだまま叫んだ。

「────ただの亡霊さ」

 地面を這うようにして逃げ出そうとしていた作業着の男に、俺が両足で飛び乗って動きを止めてから、中年男に手刀を叩き込んだ。




「ロナ、電気つけてくれ」

『ほいほーい!』

 コンテナ街の敵を全員片付けた俺が、対電磁パルスE M P処置のされているインカムにそう告げると、元気な返事と一緒に消えていた街灯に光が灯る。
 ロナが電力会社のシステムをハックしたおかげで、思ってたよりも簡単にことが終わったことに俺は小さくため息を漏らしてから辺りを見渡す。
 銃弾で穴の開いたコンテナ────幸いこの辺に置かれている物の中には可燃性の液体や粉塵、誤作動を引き起こす可能性のある魔術の護符などはなく、全て金属系の資材が入っているとのこと。
 差し詰め、ここを密輸品の取引場所に使っていたコイツらが、襲撃された際の防護壁とでも考えて配置していたんだろうな。

「これでッ……!全員ね!」

 付けていた暗視ゴーグルを外して、トラックの横、密輸品の取引に関わっていた兵士や業者を全員づるづると引きづり、持ち前の怪力でポイポイとゴミ袋みたいに山積みにしていたセイナはパチパチと手を払った。鬼だな……

「ああ、あとは電話だけすれば全員回収してくれるはずだ、ロナ、頼めるか?」

『おっけー!ちょっと待っててダーリン!』

「ダーリンはやめろって……」

「むぅ……!」と少し頬を膨らませたセイナがキロッ!とこちらを睨みつけた。
 うちの調教師は何故か色恋沙汰にも厳しいのだ。俺は昔のアイドルか?

「にしても、この人達は一体何者なのかしら……?」

「と言うと?」

「お客一人に対して付ける護衛にしてはちょっと多すぎないかと思ったのよ……業者側の方も、護衛を多くするのはまだ分かるけど、それにしたって装備が潤沢し過ぎよ。これなんてよく見たら軍用モデルのフルオート可能なアサルトライフルじゃない」

 セイナの持つFN SCARスカーは確かにフルオート射撃が可能なタイプだった。日本では一応銃は申請さえ出せば誰でも手に入る割と身近な物にはなったが、流石に軍用モデル。通常のルートで攻撃力の高いフルオート銃や威力の高い50口径などを入手するのはかなり困難だ。
 それを何丁も所持しているということは、かなりの金持ちか権力者、もしくは俺のような抜け道を利用している人物くらいだろう。
少なくとも、ロクな奴ではないことだけは確かだ。

「好奇心は猫を殺すって言葉知ってるか?」

Cat has猫には九つ nine livesの命があるのこと?もちろん知ってるわよ。それアタシの祖国イギリスのことわざじゃない」

 俺の言葉に、胸をバーンと張って得意げにそう言ったセイナ。あれ、ホントに胸張ってるよな……?

「確かにセイナの言う通りコイツらの護衛の人数、装備は普通じゃないと俺も思う。でもだからこそ、余計な詮索すると後で面倒事に巻き込まれるぞ」

「そうだけど……んーやっぱり気になるわね」

 俺と違って生真面目なセイナは、そのツリ目気味の碧眼を細め、探偵が事件を推理するようにあごに手を当てながら何かを考えている。

「アタシが9人、フォルテがにーしーろーの8人、政治家の護衛よりも多いじゃない」

 色々分析していたセイナがそう呟く……ん?

「ちょっと待て、俺は10人倒したはずだぞ?」

 聞き捨てならない一言に俺は思わず聞き返した。
 俺は確かに8人の兵士とお客に業者を合わせた10人を無力化したはずだった。にもかかわらず8人だって?

「何言ってのよ?最後の2人は武器持ってないんだからノーカンでしょ?」

「いやいや、関係ないだろ。俺の方が1人多い!」

「あるわよ、1人少ない!」

「多い!!」

「少ない!!」

 俺とセイナは、互いのおでこがくっつきそうな距離まで詰め寄り、言い争いに発展する。
 互いに一切譲らない為、次第にヒートアップしていき、コンテナ街に響く俺とセイナの声はだんだん力を増していく。
 ────俺はなんでこんなことでムキになっているんだ?
 とも思ったが、ここまできたら引くに引けず、俺は今の話しとは全然関係の無いことまで引っ張り出してしまう。

「だいたいセイナ!お前はいつも細かいんだよ!」

「アタシのどこが細かいって言うのよ!」

「この前なんて「洗濯物のたたむ向きが気に入らないって」言って、わざわざ俺のたたんだ洗濯物たたみ直してたじゃねーか!普通あんなこと気にしねーよ!」

「せ、折角洗ったんだからちゃんとたたみたかったのよ!アタシが細かいんじゃなくてアンタが大雑把過ぎるのよ!」

 負けじとセイナもポニーテールを逆立てながら、両手の拳をブンブン振り回して食ってかかる。
 が、俺が言い返す前に、セイナは馬鹿みたいと言わんばかりにため息一つついてそっぽを向き────

「────そんなんだから……今日だって……色々変えたのに一つも気づかないじゃない……」

 ボソリ……と何かを呟いた。

「なんか言ったか?」

「べ、別に!何でもないわよバカッ!」

 フン!と不機嫌を隠そうとせずにそっぽを向いたセイナ。
 全く……よく分からんやつだな……

『あのー痴話喧嘩の最中に悪いんだけど……』

「誰が痴話喧嘩だ「よ」!」

 インカム越しのロナの言葉に、俺とセイナは気持ち悪いくらいにハモってしまい、それがまた気まずい空気を作って俺達は再び フン!と顔を背けた。

『もおー……警察には連絡したから……痴話喧嘩は犬でもロナでも食べないから程々にしてね!』

「だから痴話喧嘩じゃ────ッ!?」

 インカムに言いかけた俺の左足に激痛が走ったかと思うと、体勢を崩してコンクリートの地面に叩きつけられた。
 よく見ると、セイナが俺に電光石火の足払いをかけていたところだった!

「何する(んだよ!セイナ)────!」

 ダァァァァン!!

 イライラが溜まりすぎて、いつもの鉄拳制裁やつあたりを始めたのかと思った俺の言葉を遮り、さっきまで頭のあった位置を銃弾が通過、そのまますぐ近くのコンクリートの地面に着弾した。
 真っ赤な銃弾が粉々に砕け、着弾箇所に紅い薔薇バラを咲かすように金属片が飛び散っていた。

 そ、狙撃────!?
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