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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》45
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「やっと終わり?別にこっちは時間稼げるから文句言わないけど、茶番は他でやってくれないかしら……」
黒髪女ではなく、隣でずっと黙っていた薄い水色の髪の少女が見た目通りの幼女声でそう告げて……って、うわぁ……魔女娘か……
「……なんだその顔?」
おそらく顔に出ていたのだろう。
というのも、俺の嫌いな物ランキング上位に組み込まれているだ、その……魔女服を着た奴ってのが……、
魔女娘が首を傾げて指摘してきたことに対し、俺はへの字に曲がっていった口をゆっくり開いた。
「その服装をしている奴って、ロクな奴がいないから嫌いなんだよ俺……」
と正直に教えると、魔女娘はプルプルとセイナが起こった時のように拳を握りしめ、ムキー!と効果音でも付きそうな程に腕を上下させて激昂した。
「なんですって!?このッ……バカにして……!」
どうやら向こうにもロアと同じくらい精神年齢が低い子がいるらしい……いや、見た目も中学生くらいだから歳相応と言うべきか……
「フォルテ……」
魔女娘が地団駄を踏んでいる隙に、だいぶ調子を取り戻した様子のロアが小声で耳打ちしてきた。
「いま電車の制御と運転手を奴らに奪われている。あと五分で倒さないと次の大きなカーブでこの電車は横転する、あっちの魔女は氷魔術を使い、黒いドレスの女の能力は分からない……」
「あぁ、そっちの対策はもう済んでいるから大丈夫だ」
「えっ?」
多分一番懸念していた部分だったのだろう。あっさりそう返されたロアは目をパチパチと瞬かせる。
まぁ……それが普通の反応だよな。ぶっちゃけ正直俺も自信はない。なんせ対策と言っても、仮説を頼りにぶっつけ本番でやっていることだからな。上手くいく保障は何処にも無い。
もしこの仮説が間違っていたら俺達は多分ここで死ぬだろう。だけど、今はそれに頼らざる得ない状況だ。それに、何よりその仮説を立ててくれた仲間のことを俺は信頼している。きっと上手くいくはずだ!
「とにかくロアは、いつも通り、余計なことは何も考えずに戦え。分かったか?」
俺の言葉にロアは小さくコクリ……と頷いた。
「頭来たわッ!お前たちはこの大魔術師アルシェ様が殺してあげる!」
アルシェが杖をくるりと回しながら半身の姿勢で構える。
「アイススピア!」
杖の先に人魂のような青白い光が灯り、その周りに無数のツララが空中に形成される。
「(ショットガンの)弾は!?」
「スラッグ5のみ!」
「任せろ!」
短くロアのショットガンに装填されている弾薬を確認した俺が素早く一歩前に出た。
12ゲージ弾だったら任せていたが、一発弾では分が悪い……俺は村正改を右手で抜き、アルシェと同じよう左足を軽く前に出して半身に構える。
悪魔の紅い瞳は始めから全開の10倍、バキバキと全身の筋肉が音を立て、体中に力がみなぎってくるのを感じる。
「くらえ!」
アルシェが杖を振り下ろし、射出された氷のツララがつり革や座席を貫きながら俺達に襲い掛かる。
銃弾程の速度は無いが、威力はそれに匹敵する代物らしい────なら!
俺は逆手に持った村正改を中段の位置に構えた。
そのまま両足以外は脱力し、ツララを限界まで引き付ける。
俺の後ろに隠れたロアが俺の様子を見て、思わず生唾を飲み込む音が聞こえてきたが、それ以外は何も発することは無かった。
不安な気持ちがある中、それでも信頼してくれているロアの姿。それだけで今の俺には何倍もの力を授けてくれる。
車両内のものをレンコンのように穴だらけにしながら、ツララが俺達のすぐ手前まで接近していた。
「はぁッ!!」
俺は出していた左足をさらに前に突き出した勢いを、両足、両膝、両太腿、腰、上半身、両腕と下から上へ身体をねじり込むことで、右手に持った村正改に全エネルギーを集中させる。
さらに今は身体能力を10倍まで高めてある。通常ではありえない力を溜め込んだその一撃が小さな小太刀一本に宿る。
五ノ型の居合技「皐月」の派生技。
────月影一刀流、七ノ型……
「文月!」
電車の照明に照らされ、ギラギラと光り輝いていた刀身が空中に扇形の一閃を走らせる。
なにも斬ることなく、ただ横なぎに振り払われただけの一撃……だが。
────ピタ……
俺達に向かって飛んできていた無数の氷のツララが突然動きを止めた。
「ッ!?」
アルシェが驚く前で止まっていた氷のツララが電車の地面に力なく落ちる。
さらに────
「きゃッ!?」
「ッ……!?」
電車内に散った座席やつり革、ツララの残骸を乗せた突風がアルシェ達に襲い掛かり、アルシェの紫のフリルスカートと黒髪女の黒いドレスが舞い上がった。
一瞬だけそれぞれが履いていた可愛いらしい水玉の紐パンツと黒いシースルーランジェリーが露わになるが、すぐに二人はそれぞれのスカートの裾を真下に抑え込んだ。
文月は簡単に言うと斬撃を飛ばす技。本来は数メートルくらいの距離なら首すら落とせる技……なのだが、俺の文月は正直使えているのか微妙なラインで、人の薄皮くらいなら切れるのだが……今は突風が前から吹き付けているせいで威力が減少し、アルシェ達に直接ダメージを与えることすらできなかった。
その代わり、俺の文月は通常と違い風圧を起こすことができる(ただの力任せで振るっているため)ので、いつも文月を飛来してきた物に対しての防衛手段として使っている。
「黙示録の瞳を……なんて卑猥な使い方なのかしらッ……!」
アルシェがスカートの裾をギュッと握りしめたまま、何故か若干涙目でこちらを睨みつけ、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で何かを呟いていた。
────あれ、なんか知らないけど思ったよりもダメージが入っている?
外傷は見当たらないアルシェが、何故か少し狼狽えた様子を見せたことに少し手ごたえを感じた俺の背後から、何故かロアの深いため息が聞こえてきた。
何だよ?そのため息は?
なんて考えている余裕を与えないように、ゴミを見るような目でさっきから俺を見ていた黒髪女が二発の銃弾を発砲してきた。
「……!」
身体をその場でくるりと一回転させ、着ていた八咫烏を翼のように大きく広げる。そのまま心臓付近に飛んできた9㎜弾を長いコートの裾の先に当てながら弾道を変え、人体への着弾を防ぐ。
左後方の窓に弾が着弾し、バリンッ!と車内にガラスの破片を撒き散らす音を背に、俺も左腕でHK45を引き抜いて発砲。
────シュン!
相変わらず弾は黒髪女に当たらず、後方にあるトンネルの暗闇……というより黒髪女が後方に展開している、黒い陽炎のようなオーラの中に吸い込まれていく。
────やっぱ当たらねーか……
「アイスシールド!」
思った通り遠距離の攻撃が通用しないことを再度確認した俺が、接近戦に持ち込もうとした矢先にアルシェが電車の真ん中の通路を塞ぐように半透明な氷の盾を展開していた。
「させない!」
アルシェが氷の盾を展開している間を狙って、ロアが俺の背後から飛び出てきて、持っていたショットガンを発砲しようとしたが────
バンッ!バンッ!とロアと俺を妨害する形で、氷の盾から躍り出た黒髪女が再び二発の銃弾を発砲してきた。
「チッ」
ロアの舌打ちと共に俺達は後方にバックステップしながら銃弾を回避する。
「クソ……!ただでさえ時間が無いってのに……!」
攻めきれなかったことに焦るロアが渋い表情でそう吐き捨てた。
「落ち着け、必ず勝機は来る。あと、そうやって可愛い顔にしわ寄せていると、あとでロナが怒るぞ?」
「んなこと知るか!大体フォルテ、アンタも時間が無いって時に自分の欲望を優先させる奴があるか?」
「はぁ?欲望?」
よく分からんことを言ってきたロアの方に俺が顔を向ける。
────な、なんだよ……そのジト目は……?
「確かにアンタは男だからそういうことが気になるのは分かるけどよ……せめてその……時と場所くらい考えてくれ……」
「だから何の話だよ!」
いつも物をストレートで言うコイツにしては珍しく、やけに遠回しな言い方に思わず口調が強くなる。
ロアは何故かそれに対し、少しだけ頬を赤くして俺から顔を背けた。
そして何故か恥ずかしそうな様子でもじもじしながら、チラチラとこちらの様子を伺っていた。
────お前ホントにロアか?
時折ロナが俺に見せる、何考えているのかよく分かんない時の反応をしているぞ?お前……
「いや、その……女性の……下着が気になるのは分かるけどよ……こんな時にそんな力技使ってまで見たいか普通……それに、左は年齢的にギリセーフでも、右の幼女の方が気になるのは流石に犯罪だぜ?」
「は、はぁ!?な、なな、何言ってんだよお前!?」
ツララから守ってやった攻撃のことを、ロアはスカート捲りの技と勘違いされたらしい……
確かに傍から見たら本来の綺麗な型と違って、俺のはただ力任せに振るっているだけ(実際そうなので何とも言えないが)のようにしか見えないので、必死に風を起こしているだけにしか見えないかもしれいが、それにしたって不本意すぎる……
「そんなに見たければ、私のあとで見せてやるから……そういうの今は我慢してくれ……」
「今でもあとでも見ねーよ!って、いま捲って確かめなくていいから!?」
ロアが「そう言えば何履いてたっけ?」と言いながら、右肩の血が着いた白いショートパンツを引っ張って、下着を確認していたので俺がすかさず止めに入る。
ロアを落ち着かせようとしていたはずが、気づいたら俺が取り乱してしまっていた。
────って、こらこら、お前らもそんな目で俺を見るんじゃねーよ。
俺達のやり取りを見て、前にいた黒髪女はがゴミ以下、汚物でも見るような蔑んだ瞳で、そしてアルシェは何故かさっきと同じようにプルプルと拳を震わせ、こちらを(主に俺を)見ていた。
「……と、とにかく、アレを使える準備だけはしておけよ……?」
銀のツインテールを縛っているリボンと同じ、アメジスト色のランジェリーから目を逸らした俺が、ロアにさりげなく耳打ちする。
「大丈夫、もう準備できてる」
ロアはそれに対し、前の二人にバレないくらい小さな声で頷く。
────よし、これで連中を倒す準備は整った。
「さっきから黙って聞いていれば……魔女はろくでなしとか、幼女、幼女、って私のこと好き放題に言って……」
半透明の氷のシールドの向こうで、アルシェがぐぬぬ……と歯を食いしばっていた。
「そんなに死に急ぎたいなら見せてあげるわ……私のような魔術師にしか扱うことのできないとっておき魔術────詠唱魔術で逝かせてあげる」
「な、なんだと?詠唱魔術だと!?」
通常、魔術は術の難度や術者の経験、技術によって、無詠唱か短い言葉、または魔術の技命に自分の魔力を乗せることで発動する。詠唱魔術は簡単に言うとその上位版。長い言葉に魔力を大量に込めることで、現実離れした現象を起こすことのできる魔術の一種だ。言葉が長い分魔力を乗せるのが難しく、さらに全ての言葉の意味を全て正しく理解していないと発動することのできない高等魔術なため、その存在は知っていても、俺は見たことがほとんどないおとぎ話のような魔術だ。
アルシェは氷の盾の前で杖を地面に付き、目を閉じる。
そして、杖の先端に灯った青白い光に、詠唱に乗せた魔術を注ぎ込むようにして、静かに詠唱を始めた。
「四大元素の一つにして水の生まれ変わり、氷よ」
────こんなに若い娘が本当に詠唱魔術扱うのか!?
「ロア!」
「あぁ!」
詠唱魔術は発動まで時間が掛かる。
その前に俺とロアが距離を詰めようとした瞬間────
バン!バン!
氷の盾から手だけを出して、黒髪女が俺達を牽制する。
────クソ、迂闊に近づけねぇ……!
銃弾を避けながら応戦するが、黒髪女は絶妙なタイミングで氷の盾の裏に引っ込んだり、隙を見てさらに牽制加えてくる。
そうしているうちにも、アルシェはまるで神様に祈りを捧げるかの如く、幼女声に乗せた詠唱を杖に捧げる。
「雹舞う空の下、この大地に、不可能の花を咲かせて見せろ……」
全ての詠唱を終え、青白い光が星の瞬きのようにパァッ……と光の奔流を見せる。
見る見るうちに光を杖が、電車内や地下鉄全体を照らす光と化し、俺達の足元を身震いするような冷気が包み込んだ瞬間────アルシェはその魔術を唱えた。
「咲き誇れ奇跡の花!!」
黒髪女ではなく、隣でずっと黙っていた薄い水色の髪の少女が見た目通りの幼女声でそう告げて……って、うわぁ……魔女娘か……
「……なんだその顔?」
おそらく顔に出ていたのだろう。
というのも、俺の嫌いな物ランキング上位に組み込まれているだ、その……魔女服を着た奴ってのが……、
魔女娘が首を傾げて指摘してきたことに対し、俺はへの字に曲がっていった口をゆっくり開いた。
「その服装をしている奴って、ロクな奴がいないから嫌いなんだよ俺……」
と正直に教えると、魔女娘はプルプルとセイナが起こった時のように拳を握りしめ、ムキー!と効果音でも付きそうな程に腕を上下させて激昂した。
「なんですって!?このッ……バカにして……!」
どうやら向こうにもロアと同じくらい精神年齢が低い子がいるらしい……いや、見た目も中学生くらいだから歳相応と言うべきか……
「フォルテ……」
魔女娘が地団駄を踏んでいる隙に、だいぶ調子を取り戻した様子のロアが小声で耳打ちしてきた。
「いま電車の制御と運転手を奴らに奪われている。あと五分で倒さないと次の大きなカーブでこの電車は横転する、あっちの魔女は氷魔術を使い、黒いドレスの女の能力は分からない……」
「あぁ、そっちの対策はもう済んでいるから大丈夫だ」
「えっ?」
多分一番懸念していた部分だったのだろう。あっさりそう返されたロアは目をパチパチと瞬かせる。
まぁ……それが普通の反応だよな。ぶっちゃけ正直俺も自信はない。なんせ対策と言っても、仮説を頼りにぶっつけ本番でやっていることだからな。上手くいく保障は何処にも無い。
もしこの仮説が間違っていたら俺達は多分ここで死ぬだろう。だけど、今はそれに頼らざる得ない状況だ。それに、何よりその仮説を立ててくれた仲間のことを俺は信頼している。きっと上手くいくはずだ!
「とにかくロアは、いつも通り、余計なことは何も考えずに戦え。分かったか?」
俺の言葉にロアは小さくコクリ……と頷いた。
「頭来たわッ!お前たちはこの大魔術師アルシェ様が殺してあげる!」
アルシェが杖をくるりと回しながら半身の姿勢で構える。
「アイススピア!」
杖の先に人魂のような青白い光が灯り、その周りに無数のツララが空中に形成される。
「(ショットガンの)弾は!?」
「スラッグ5のみ!」
「任せろ!」
短くロアのショットガンに装填されている弾薬を確認した俺が素早く一歩前に出た。
12ゲージ弾だったら任せていたが、一発弾では分が悪い……俺は村正改を右手で抜き、アルシェと同じよう左足を軽く前に出して半身に構える。
悪魔の紅い瞳は始めから全開の10倍、バキバキと全身の筋肉が音を立て、体中に力がみなぎってくるのを感じる。
「くらえ!」
アルシェが杖を振り下ろし、射出された氷のツララがつり革や座席を貫きながら俺達に襲い掛かる。
銃弾程の速度は無いが、威力はそれに匹敵する代物らしい────なら!
俺は逆手に持った村正改を中段の位置に構えた。
そのまま両足以外は脱力し、ツララを限界まで引き付ける。
俺の後ろに隠れたロアが俺の様子を見て、思わず生唾を飲み込む音が聞こえてきたが、それ以外は何も発することは無かった。
不安な気持ちがある中、それでも信頼してくれているロアの姿。それだけで今の俺には何倍もの力を授けてくれる。
車両内のものをレンコンのように穴だらけにしながら、ツララが俺達のすぐ手前まで接近していた。
「はぁッ!!」
俺は出していた左足をさらに前に突き出した勢いを、両足、両膝、両太腿、腰、上半身、両腕と下から上へ身体をねじり込むことで、右手に持った村正改に全エネルギーを集中させる。
さらに今は身体能力を10倍まで高めてある。通常ではありえない力を溜め込んだその一撃が小さな小太刀一本に宿る。
五ノ型の居合技「皐月」の派生技。
────月影一刀流、七ノ型……
「文月!」
電車の照明に照らされ、ギラギラと光り輝いていた刀身が空中に扇形の一閃を走らせる。
なにも斬ることなく、ただ横なぎに振り払われただけの一撃……だが。
────ピタ……
俺達に向かって飛んできていた無数の氷のツララが突然動きを止めた。
「ッ!?」
アルシェが驚く前で止まっていた氷のツララが電車の地面に力なく落ちる。
さらに────
「きゃッ!?」
「ッ……!?」
電車内に散った座席やつり革、ツララの残骸を乗せた突風がアルシェ達に襲い掛かり、アルシェの紫のフリルスカートと黒髪女の黒いドレスが舞い上がった。
一瞬だけそれぞれが履いていた可愛いらしい水玉の紐パンツと黒いシースルーランジェリーが露わになるが、すぐに二人はそれぞれのスカートの裾を真下に抑え込んだ。
文月は簡単に言うと斬撃を飛ばす技。本来は数メートルくらいの距離なら首すら落とせる技……なのだが、俺の文月は正直使えているのか微妙なラインで、人の薄皮くらいなら切れるのだが……今は突風が前から吹き付けているせいで威力が減少し、アルシェ達に直接ダメージを与えることすらできなかった。
その代わり、俺の文月は通常と違い風圧を起こすことができる(ただの力任せで振るっているため)ので、いつも文月を飛来してきた物に対しての防衛手段として使っている。
「黙示録の瞳を……なんて卑猥な使い方なのかしらッ……!」
アルシェがスカートの裾をギュッと握りしめたまま、何故か若干涙目でこちらを睨みつけ、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で何かを呟いていた。
────あれ、なんか知らないけど思ったよりもダメージが入っている?
外傷は見当たらないアルシェが、何故か少し狼狽えた様子を見せたことに少し手ごたえを感じた俺の背後から、何故かロアの深いため息が聞こえてきた。
何だよ?そのため息は?
なんて考えている余裕を与えないように、ゴミを見るような目でさっきから俺を見ていた黒髪女が二発の銃弾を発砲してきた。
「……!」
身体をその場でくるりと一回転させ、着ていた八咫烏を翼のように大きく広げる。そのまま心臓付近に飛んできた9㎜弾を長いコートの裾の先に当てながら弾道を変え、人体への着弾を防ぐ。
左後方の窓に弾が着弾し、バリンッ!と車内にガラスの破片を撒き散らす音を背に、俺も左腕でHK45を引き抜いて発砲。
────シュン!
相変わらず弾は黒髪女に当たらず、後方にあるトンネルの暗闇……というより黒髪女が後方に展開している、黒い陽炎のようなオーラの中に吸い込まれていく。
────やっぱ当たらねーか……
「アイスシールド!」
思った通り遠距離の攻撃が通用しないことを再度確認した俺が、接近戦に持ち込もうとした矢先にアルシェが電車の真ん中の通路を塞ぐように半透明な氷の盾を展開していた。
「させない!」
アルシェが氷の盾を展開している間を狙って、ロアが俺の背後から飛び出てきて、持っていたショットガンを発砲しようとしたが────
バンッ!バンッ!とロアと俺を妨害する形で、氷の盾から躍り出た黒髪女が再び二発の銃弾を発砲してきた。
「チッ」
ロアの舌打ちと共に俺達は後方にバックステップしながら銃弾を回避する。
「クソ……!ただでさえ時間が無いってのに……!」
攻めきれなかったことに焦るロアが渋い表情でそう吐き捨てた。
「落ち着け、必ず勝機は来る。あと、そうやって可愛い顔にしわ寄せていると、あとでロナが怒るぞ?」
「んなこと知るか!大体フォルテ、アンタも時間が無いって時に自分の欲望を優先させる奴があるか?」
「はぁ?欲望?」
よく分からんことを言ってきたロアの方に俺が顔を向ける。
────な、なんだよ……そのジト目は……?
「確かにアンタは男だからそういうことが気になるのは分かるけどよ……せめてその……時と場所くらい考えてくれ……」
「だから何の話だよ!」
いつも物をストレートで言うコイツにしては珍しく、やけに遠回しな言い方に思わず口調が強くなる。
ロアは何故かそれに対し、少しだけ頬を赤くして俺から顔を背けた。
そして何故か恥ずかしそうな様子でもじもじしながら、チラチラとこちらの様子を伺っていた。
────お前ホントにロアか?
時折ロナが俺に見せる、何考えているのかよく分かんない時の反応をしているぞ?お前……
「いや、その……女性の……下着が気になるのは分かるけどよ……こんな時にそんな力技使ってまで見たいか普通……それに、左は年齢的にギリセーフでも、右の幼女の方が気になるのは流石に犯罪だぜ?」
「は、はぁ!?な、なな、何言ってんだよお前!?」
ツララから守ってやった攻撃のことを、ロアはスカート捲りの技と勘違いされたらしい……
確かに傍から見たら本来の綺麗な型と違って、俺のはただ力任せに振るっているだけ(実際そうなので何とも言えないが)のようにしか見えないので、必死に風を起こしているだけにしか見えないかもしれいが、それにしたって不本意すぎる……
「そんなに見たければ、私のあとで見せてやるから……そういうの今は我慢してくれ……」
「今でもあとでも見ねーよ!って、いま捲って確かめなくていいから!?」
ロアが「そう言えば何履いてたっけ?」と言いながら、右肩の血が着いた白いショートパンツを引っ張って、下着を確認していたので俺がすかさず止めに入る。
ロアを落ち着かせようとしていたはずが、気づいたら俺が取り乱してしまっていた。
────って、こらこら、お前らもそんな目で俺を見るんじゃねーよ。
俺達のやり取りを見て、前にいた黒髪女はがゴミ以下、汚物でも見るような蔑んだ瞳で、そしてアルシェは何故かさっきと同じようにプルプルと拳を震わせ、こちらを(主に俺を)見ていた。
「……と、とにかく、アレを使える準備だけはしておけよ……?」
銀のツインテールを縛っているリボンと同じ、アメジスト色のランジェリーから目を逸らした俺が、ロアにさりげなく耳打ちする。
「大丈夫、もう準備できてる」
ロアはそれに対し、前の二人にバレないくらい小さな声で頷く。
────よし、これで連中を倒す準備は整った。
「さっきから黙って聞いていれば……魔女はろくでなしとか、幼女、幼女、って私のこと好き放題に言って……」
半透明の氷のシールドの向こうで、アルシェがぐぬぬ……と歯を食いしばっていた。
「そんなに死に急ぎたいなら見せてあげるわ……私のような魔術師にしか扱うことのできないとっておき魔術────詠唱魔術で逝かせてあげる」
「な、なんだと?詠唱魔術だと!?」
通常、魔術は術の難度や術者の経験、技術によって、無詠唱か短い言葉、または魔術の技命に自分の魔力を乗せることで発動する。詠唱魔術は簡単に言うとその上位版。長い言葉に魔力を大量に込めることで、現実離れした現象を起こすことのできる魔術の一種だ。言葉が長い分魔力を乗せるのが難しく、さらに全ての言葉の意味を全て正しく理解していないと発動することのできない高等魔術なため、その存在は知っていても、俺は見たことがほとんどないおとぎ話のような魔術だ。
アルシェは氷の盾の前で杖を地面に付き、目を閉じる。
そして、杖の先端に灯った青白い光に、詠唱に乗せた魔術を注ぎ込むようにして、静かに詠唱を始めた。
「四大元素の一つにして水の生まれ変わり、氷よ」
────こんなに若い娘が本当に詠唱魔術扱うのか!?
「ロア!」
「あぁ!」
詠唱魔術は発動まで時間が掛かる。
その前に俺とロアが距離を詰めようとした瞬間────
バン!バン!
氷の盾から手だけを出して、黒髪女が俺達を牽制する。
────クソ、迂闊に近づけねぇ……!
銃弾を避けながら応戦するが、黒髪女は絶妙なタイミングで氷の盾の裏に引っ込んだり、隙を見てさらに牽制加えてくる。
そうしているうちにも、アルシェはまるで神様に祈りを捧げるかの如く、幼女声に乗せた詠唱を杖に捧げる。
「雹舞う空の下、この大地に、不可能の花を咲かせて見せろ……」
全ての詠唱を終え、青白い光が星の瞬きのようにパァッ……と光の奔流を見せる。
見る見るうちに光を杖が、電車内や地下鉄全体を照らす光と化し、俺達の足元を身震いするような冷気が包み込んだ瞬間────アルシェはその魔術を唱えた。
「咲き誇れ奇跡の花!!」
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船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。
輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。
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大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
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