SEVEN TRIGGER

匿名BB

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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》

揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》44

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 俺がここに来る数分前────


「ここで死ぬがいい!」
 チャップリンの右手を上げながら高らかに宣言したのに対し、周りの部下たちが一斉にアサルトライフルを構えた。
「ッ……」
 逃げ場のない状態で30近い銃口を向けられた俺は、背負った牧師パスターを庇うようにして右眼レッドデーモンアイ一つでFBI職員達を牽制する。
 決して何か策があるわけでないが……突破口を探すため、できる限り時間稼ぎをする。
 ────いっそのこと両目を開くか?いや、そんなことして、もし右眼レッドデーモンアイ制御リミッターに失敗して左眼ブルームーンアイが暴走でもしたら……
 目の前のチャップリンを始末する程度で済むくらいならまだいい。だが他の部下の中にはきっと、FBIも数多くいるはずだ。それだけじゃない。こいつら30人で俺が止まらなかったら被害を受けるのはアメリカの善良な一般市民だ。そう考えると俺は左眼を開けることができなかった。
「ほぉ……賢明な判断だ」
 俺が抵抗する意思を見せなかったことに対して、憎たらしいニンマリ顔を浮かべたチャップリンが嬉しそうにそう告げた。クソうぜぇ……
 無意識に左手が銃に伸びていたことに気づき、俺は手を引っ込めた。
「よしッ!お前達、拘束しろ!」
 チャップリンが両脇にいた職員にそう命じ、四人の職員が返事、からの銃を構えてゆっくりとこちらに近づいてくる。

 ピリリリリリリリリ!!

 近づいてきた職員が動きを止める。
 張りつめた空気の中、突然電話のベル音が鳴り響いた。
 広場にいた全員がその音源を探してキョロキョロと辺りを見渡す。
 俺はさっき壊したから違うし、背負っていた牧師パスターはスマートフォンは持っていなかったので違う。反応を見る限り、周りの職員の物でもないらしい……
 耳を澄ますと、音は近づいてきた四人の職員の奥から聞こえてきていた。
 どうやらチャップリンのスマートフォンの音らしい。
「私だ、何かあったか?」
 ダボダボのイタリアスーツの胸元からスマートフォンを取り出してチャップリンは電話に出た。
 小広場にいた全員がチャップリンの方を向く。
 ────今なら不意を突けるか?
 と俺が様子を伺っていると……
「なに!?包囲網を突破された!?」
 チャップリンが鼻にかかる高い声で電話越しに叫ぶ。
 チビなせいで前に出てきたゴツイ職員と被って表情こそ見えないが、ひどく慌てているということは伝わってくる。その様子に周りのFBI職員達にも動揺の色が見え始める。
「他のものでどうにかできんのか!?……うん……それなら他の部隊を先回りさせ────」
 その時、3倍強化状態の俺の耳に、チャップリンの声とは別の音に近づいてきていることに気づいた。
 ────エンジン音?これは……バイクか?
 ミサイル警報の関係で、すっかり閑静な街と化したワシントンに猛獣の唸り声のような重低音が響いてくる。しだいにその音は強化してない聴覚でも聞き取れるくらいの距離まで近づいてくる。
 小広場にいた全員がその音源に方角、ホワイトハウスのある北西の方角に顔を向けた。

 ポンッポンッポンッ!

 街路樹の向こう側から空気砲のような音が聞こえたと思うと、頭上から三発の銃弾、ではなくそれよりもはるかに大きな砲弾が放物線を描いて小広場に着弾した。
 ────40㎜グレネード弾だ!
 一瞬爆発を警戒して身構えたが、その三発の砲弾は地面に着弾しても爆発することは無かった。そのかわりにプシュー!と音を立てて白い煙を巻き上げ始める。
「スモークだ!!」
 FBI職員の一人が叫ぶ。
 放たれた非殺傷のスモークグレネード弾によって、見る見るうちに視界全体が白い濃煙で包まれる。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
 突然小広場に誰かの悲鳴が上がった。
 それも一人じゃない、二人、三人と四方八方で悲鳴が誰かの悲鳴が上がる上がる。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「撃て撃て!!」
 小広場がパニック化す。煙で視界が遮られた中、仲間の悲鳴で錯乱したFBI職員達が叫喚と共に銃をむやみに撃つ。
「ッ……!」
 煙の中、線香花火のように光るマズルフラッシュを前に、俺は牧師パスターの背負ったまま天然芝の地面に仰向けに倒れ込んだ。
「ッぶね!?」
 俺のすぐ頬の辺りに銃弾が飛び、思わず声が出た。
 地面だけでなく、背中の建物の壁に弾が跳弾したり、むやみに撃った銃弾が仲間に当たって倒れるなど、もう無茶苦茶だ!
「な、なにが起きている!?今すぐ銃撃を止めるッ!」
 銃声の中でも響くチャップリンの声が煙の向こうから聞こえる中、タンッ!と俺の背後に誰かが着地した。
「ッ!?」
「落ち着け、私だ」
 咄嗟に左腕で銃を抜き、振り返ろうした俺の腕を上から軽く押さえ、その人物は声を掛けてきた。
「ジェ、ジェイクか……助かったぜ」
 振り返った先にワインレッドのスーツを着たスキンヘッドの見知った黒人が、右手に太刀、左手には回転式グレネードランチャーのダネルMGLを持ち。何故かいつものサングラスではなく、不気味な笑みを浮かべた白塗りの仮面。1600年代に処刑されたガイ・フォークスのマスクを付けた、ジェイク・ウォルコットが立っていた。
「なんだ、そのマスク……?」
「私も顔がバレるとあれなのでな、ロナの部屋から拝借した」
 膝立ちの姿勢で感情のない不気味な仮面を耳元まで近づけてきたジェイクが告げる。
 あーなるほど。確かロナの所属しているアノニマスが公の場に姿現す時につけるんだっけ?そのマスク。
 ただジェイクさん。正直めっちゃ怖いから、その仮面つけた状態であまり近づかないで欲しいな……
牧師パスターは私が預かろう……ここはなんとかするから、君は今すぐ北西の方角にいるロアとセイナ君のところに向かって欲しい。私のバイクが小広場外に止めてあるからそれを使ってくれ、君の荷物とも用意してある」
 銃声と煙の中、早口で手短にジェイクが耳打ちしてくる。
「てことはやっぱりヨルムンガンドか?」
 ということは多分そうなのだろうと思った俺が聞き返すと、ジェイクが軽く頷いた。
「あぁ……詳しい話についてはバイクにある電話で説明してくれる。さぁ、早く」
「説明?誰が?」
「君がよく知っている国防総省ペンタゴンのお偉いさんさ、結構落ち込んでたから慰めてやってくれ」
 ジェイクはそう言って左手に持ったダネルMGLのスモークグレネードを辺りにぶっ放した。


 と、俺はジェイクが場を混乱させてくれている間に小広場を抜け出し、憂鬱になっていたトリガー5を慰めながらバイクでここまで来たんだが……
「ところでセイナも一緒と聞いていたが、ここにはいないのか?」
 トリガー5ことレクスの話しだと、セイナ女神もロアと一緒にいたという話しだったが、辺りにいなかったので俺は右に立つロアの方を向きながらそう尋ねると、何故かロアは顔を俯かせて言葉を詰まらせた。
「何かあったのか?」
 普段からオラオラ系のロアにしては珍しい反応を前に俺が優しくそう聞くと、ロアではなく、前方にいた例の黒髪女が鼻を鳴らした。
「ふん、そいつが裏切って王女様を殺したのさ」
「ッ……」
 その言葉を聞いてロアはさらに顔を俯かせ、何かを言おうとしては止め、言おうとしては止めと口元をわなつかせていた。
 銀のツインテールがだらんと力なく垂れさがり、前髪の下に隠れたその表情は、まるで子供がとてつもなく悪いことをした時にするような、不安や後悔をない交ぜにしたかのような怯えた表情になっていた。
 さらにそれに追い打ちをかけるように、嘲笑混じりに黒髪女は続ける。
「そんな裏切り者と協力することができるのか?フォルテ・S・エルフィー。貴様のパートナーを殺したそいつとッ!」

 バンッ!!

 暴走する電車内を吹き抜ける突風の中、一発の銃弾が黒髪女の側頭部すれすれを飛んでいく。
 常人が反応できない早撃ち。日本でセイナと勝負した時に出した0.13という速度で抜いた俺のHK45が火を噴いた。
「うるせぇぞ」
 話している最中に耳障りだった黒髪女に俺がそう告げた。
 別に声を張り上げたわけでも、わざと怖い口調で言ったわけでもないその一言に黒髪女はツーと冷や汗を一滴垂らした。当然だ。俺が本気で殺意を込めて発した言葉だ。チビらなかっただけ誇っていいぞ。
 だがその言葉は同時にロアの恐怖心も煽ってしまったらしく、顔だけでなく、少しだけ手先の方も震えだしていた。
「ふぅ……」
「ッ……!?」
 左腕で抜いたHK45をしまいつつ、俺は息を吐きながら右手をロアの方に伸ばした。
 ロアはそれに驚いて軽く後じさったが、処罰が下ることを受け入れたかのようにグッと堪え、我慢するようにギュッとハニーイエローの瞳を瞑った。
 昔からそうだが、ロナよりもロアの方がオラオラ系で大人に近い印象を受けることもあるが、実際はそうではなく、ロナよりも表に出てくる時間が少ない分、ロアの方が精神年齢が未発達で子供に近いんだ。
 悪いことをしたと思った時にするロアのこの表情は、子供っぽいロナよりもさらに子供っぽく、幼い印象をいつも受ける。
 そんな怯え切ったロアに俺は────

 ポンッ!

 銀髪の上に優しく手を置き、軽くなでてやる。
「ッ!?」
 一瞬ロアが、俺がセイナに電流を流された時のように身体をビクつかせたが、ゆっくりと恐る恐るその綺麗な瞳を開ける。
「フォ、フォルテ……?」
 多分あまり予想してなかった反応だったのだろう。ロアは未だ怯えた様子で声を震わせていた。
「ロア、よく聞け。お前が簡単に仲間を裏切るような奴じゃないってことは良く知っている。何があったんだ?」
 口調の強さはさっき黒髪女の時と同じくらいだったが、今度は殺意を全く込めずに優しく問うと、ロアは少し泣きそうな表情でゆっくり告げた。
「私も……よく分かってないんだ……本当に自分が裏切ったのかどうかも……命一杯頑張ったつもりだけど、でも気づいたら────ッ!?」
 俺はしゃべっている最中のロアのプルンとした唇に人差し指を当てて遮る。
 少しキザすぎるかなとも思ったが、落ち着かせるにはこれくらいがちょうどいいだろう。
「それだけ分かれば十分だ。コイツを」
 俺は持っていたオリーブ色のポーチを取り出し、何故か顔を真っ赤にしてさっきと同じように口元をわなわなさせていたロアに渡す。
「こ、これは……?」
「よく見ろ、お前の部屋にあった奴だ。今朝までロナが調べていた……」
「あ、あーうん。あ、あれね……」
 渡された袋の中を見ずに、俺の顔をじっと見たままのロアがつっかえながら聞き返してきた。
 なんか……さっきとだいぶ様子が変わったような気がするけど、何かまずかったか?
「使い方は大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫……」
「よし、今は細かいことは気にするな!目の前のことだけ集中していればいい……行くぞ!」
 俺とロアは正面に向き帰ってヨルムンガンド構成員の二人の方を向いた。
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