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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》43
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「アイススピア!」
隣にいたアルシェが右手の上に氷のツララを生成し、こちらに向かって突き出す。
「ッ……!」
私は隠れていた座席の裏から、追い出されたかのように飛び出した。
防弾ガラスやアスファルトを簡単に貫くことのできるそれは、思った通り電車の座席を深々と貫通し、私の頭のあった位置を正確に射貫いていた。
ダンッ────!と私はベネリM4を背中から取り出して発砲する。
「アイスシールド展開!」
アルシェは左手の杖を振りかざし、彩芽と自分を守るように氷の壁を展開しようとしていた。
────かかった!
思わず二ッ……と口角が上がる。
苦し紛れの反撃のようにも見えるかもしれないが、今装填している銃弾は散弾ではなく一発弾、その威力は折り紙付きだ。それにさっきアルシェが展開していた氷の壁は展開しきるまでに多少タイムラグがあり、最初の方であれば氷が薄く、強度も低下していることは何となく分かっていた。さらに完全展開していたとしても、セイナの銃弾ですら傷がついていたことを考えれば……この銃弾は────
魔術を過信した過ぎたな────魔女アルシェ!
放ったスラッグ弾が氷の壁を粉々にしながら突き破り、狙い通りアルシェの右肩に襲い掛かる。
「ッ……!?」
塵のように舞う氷の雫の向こうで、それらと同じ色をした薄い水色の瞳が見開かれる。
────まず一人。
私はそう思って視線を黒髪女こと彩芽の方に向けようとしたその先で。
バリンッ────!
放ったスラッグ弾が客室と運転席を仕切る壁についていた窓、そしてその奥の運転席の窓の両方を貫いた。
「なッ……!?」
前から突風で顔を顰めた私は、その視界の片隅に映った光景に目を丸くしながら声を漏らしてしまう。
アルシェに弾が当たっていないのだ。直撃してないとかそういう意味ではなく、文字通りかすってすらいない。
完全に不意は突けていた。現にアルシェは未だに薄い水色の瞳を丸くしていた。それなのに血しぶき一つすら飛んでいない。彼女の後ろにあったガラスは割れているというのに、まるで弾丸がアルシェを躱すよう曲がったかのようだった。
────氷に当たって軌道が逸れたのか?いやそれにしたって曲がりすぎだ。ガラスが割れた位置を見ても、私とアルシェの延長線上の二枚が割れている……
確かにこういう計算は苦手だが、射撃の腕はアイツより私の方が上だ。この距離で外すなんて考えられない……!
とにかく、今考えるのはあとだ!先のこっちを……!
ダンッ!!と再びショットガンを放つ。彩芽に向かって放った銃弾は、今度こそ直撃コースを飛んでいく。
さっきみたいに氷の壁は無い、弾が曲がる心配もない!
今度こそ一人!と思った瞬間────
────シュンッ!
「なっ!?」
彩芽の左肩に当たった弾丸が立体映像でも撃ち抜いたかのようにすり抜け、さっきのアルシェと同じで後方にあったガラス窓に当たり、破片を撒き散らした。
よく見ると、彩芽の後ろの空間が暗く、歪んで見えるような気がした。
左肩に被弾した無傷の彩芽は、私の表情を見て軽く「ふん……」と鼻を鳴らしながら銃を構える。
「グッ……!」
向けられたFNブローニング・ハイパワーの銃口が火を噴き、露出していた右肩の上を抉る。
首の根本付近から血が流れ出し、生暖かい嫌な感触が着ていた黒のキャミソールの中に入ってくる。
致命傷ではなかったが、それでも痛い……
────まさか撃ち抜いたはずの相手が撃ち返してくるなんて、想定外の攻撃に反応が若干遅れちまったぜッ……クソが……!
撃たれた箇所を抑える私の前で、何故か彩芽は一瞬だけキョトンと黒目を見開いてから直ぐに元の表情に戻ってから呟く。
「迷いが見えるな……」
「あぁ?」
唐突にそう言ってきた言葉に私が肩眉を上げるが、彩芽はそんな私の様子など気にせず続ける。
「裏切った仲間のことがそんなに気になるか?CIA副長官ロナ・バーナード……いや、今はロア・バーナードと言うのが正しいか?」
全身に嫌な汗が流れる。
それは傷の痛みとかそう言った類のものではなく、もっと別の意味で……
「なんでお前が私の、私達の名前を知っているッ……!?」
私は、いや私達は基本公の場に姿を現さない。表の仕事は全部ジェイクがやることになっているから、私達がCIA副長官だということは政府の中でも限られた一部の人間しか知らないはず……
つまりそれを知っているということは────
「誰が裏切った?」
私の信頼している仲間の中に、情報を流している裏切り者がいるということになる。
ヨルムンガンドと内通して、国の機密情報を横流しにしている奴が……
「さぁ?私は知らないな?トリガー3殿、あっ失礼、元トリガー3殿。だが残念だ。さっきのトリガー5といい君といい、優秀な部隊だと聞いていたが……まさか仲間を一人殺めた程度のことで動揺しているとは……それに貴様は部隊の中でも一番残虐だと言うから期待していたのに……失望したぞ?」
トリガー5、ということはレクスのことも知っていた。だから彩芽はさっきの狙撃がどこから来たのかを異常なまでに素早く察知できたということか。
それにこの口ぶりだと、世間に公表されていない私たち以外の元メンバーのことも知っているらしい……
一体誰が────
「一応貴様にもあの御方からお声が掛かっていたが、この程度なら必要ないな」
「あの御方?」
色々無い頭で考えていた私に、彩芽は問答無用で銃口の狙いを定めてくる。
クソッ……この銃弾が避けれたとしても、どうやらこいつらを10分で止めることは不可能みたいだな……
いっそもう、このまま諦めちまうか?
「あの世で裏切った王女に謝ってこい」
彩芽がそう言って、引き金にかけた指に力を込めようとした瞬間────
「ねえ、水を差して悪いんだけど」
アルシェが唐突に彩芽に声を掛けた。
「なんだ?大事な時に……」
銃口の向きを変え、やや不機嫌な彩芽がジト目でアルシェのことを見下す。
「何か聞こえない?」
そう言って耳を澄ませたアルシェに彩芽は訝し気な表情を向けたが、言われてから気づいたのか。
「確かに……これは何の音だ……?」
その音が何かを確かめるように耳に手を当てていた。
今は電車の前方の窓が割れ、突風が入り込んでいるせいで音が聞きにくかったが、私もその音に気づくことができた。
これは────エンジン音?
私たちの後方からエンジン音らしきモーター音が聞こえていた。
だがそれは電車ものではない。だんだんと大きくなっていき、意識しなくても音が聞き取れるくらいになったころ、それが姿を現した。
「あれは────バイク!?」
後方から急接近するそれを視認した彩芽が目を丸くした。
私も敵を前にして思わず振り返ってしまう。
聞きなれた1299㏄直列4気筒のエンジン音。パールミラレッドの車体と黒字で「隼」の文字が入ったSUZUKI HAYABUSAGSX1300Rだ。最高時速300㎞出る日本の傑作バイクに乗っていたのは────
「フォ、フォルテ!?」
血まみれのジーパンと黒いTシャツの上に、昔から愛用しているロングコート八咫烏をはためかせながら、フォルテはバイクを電車の後ろまでつけ────
「っと!」
バイクから飛び降りて電車に捕まり、そのまま車内に入って私の隣までスタスタと歩いてくる。
「よう、どうやら二次会には間に合ったみたいだな?」
100万円以上するバイクが線路上で暴れ牛のように跳ねまわる音を背に、フォルテは私にそう言って微笑んできた。
よく見ると、全体的に血まみれではあったが、深い傷は見当たらない。返り血……なのか?
「ど、どうしてここに隊長が!?牧師はどうしたの!?それにあのバイクって!?」
突然の乱入者を前に、彩芽とアルシェが驚く中。私も軽くパニックで気になったことを片っ端から尋ねてしまうと、フォルテは視線を前方の敵に向けながら、微笑みからキリッとした表情を作って答えた。
「ま、色々あったんだ」
隣にいたアルシェが右手の上に氷のツララを生成し、こちらに向かって突き出す。
「ッ……!」
私は隠れていた座席の裏から、追い出されたかのように飛び出した。
防弾ガラスやアスファルトを簡単に貫くことのできるそれは、思った通り電車の座席を深々と貫通し、私の頭のあった位置を正確に射貫いていた。
ダンッ────!と私はベネリM4を背中から取り出して発砲する。
「アイスシールド展開!」
アルシェは左手の杖を振りかざし、彩芽と自分を守るように氷の壁を展開しようとしていた。
────かかった!
思わず二ッ……と口角が上がる。
苦し紛れの反撃のようにも見えるかもしれないが、今装填している銃弾は散弾ではなく一発弾、その威力は折り紙付きだ。それにさっきアルシェが展開していた氷の壁は展開しきるまでに多少タイムラグがあり、最初の方であれば氷が薄く、強度も低下していることは何となく分かっていた。さらに完全展開していたとしても、セイナの銃弾ですら傷がついていたことを考えれば……この銃弾は────
魔術を過信した過ぎたな────魔女アルシェ!
放ったスラッグ弾が氷の壁を粉々にしながら突き破り、狙い通りアルシェの右肩に襲い掛かる。
「ッ……!?」
塵のように舞う氷の雫の向こうで、それらと同じ色をした薄い水色の瞳が見開かれる。
────まず一人。
私はそう思って視線を黒髪女こと彩芽の方に向けようとしたその先で。
バリンッ────!
放ったスラッグ弾が客室と運転席を仕切る壁についていた窓、そしてその奥の運転席の窓の両方を貫いた。
「なッ……!?」
前から突風で顔を顰めた私は、その視界の片隅に映った光景に目を丸くしながら声を漏らしてしまう。
アルシェに弾が当たっていないのだ。直撃してないとかそういう意味ではなく、文字通りかすってすらいない。
完全に不意は突けていた。現にアルシェは未だに薄い水色の瞳を丸くしていた。それなのに血しぶき一つすら飛んでいない。彼女の後ろにあったガラスは割れているというのに、まるで弾丸がアルシェを躱すよう曲がったかのようだった。
────氷に当たって軌道が逸れたのか?いやそれにしたって曲がりすぎだ。ガラスが割れた位置を見ても、私とアルシェの延長線上の二枚が割れている……
確かにこういう計算は苦手だが、射撃の腕はアイツより私の方が上だ。この距離で外すなんて考えられない……!
とにかく、今考えるのはあとだ!先のこっちを……!
ダンッ!!と再びショットガンを放つ。彩芽に向かって放った銃弾は、今度こそ直撃コースを飛んでいく。
さっきみたいに氷の壁は無い、弾が曲がる心配もない!
今度こそ一人!と思った瞬間────
────シュンッ!
「なっ!?」
彩芽の左肩に当たった弾丸が立体映像でも撃ち抜いたかのようにすり抜け、さっきのアルシェと同じで後方にあったガラス窓に当たり、破片を撒き散らした。
よく見ると、彩芽の後ろの空間が暗く、歪んで見えるような気がした。
左肩に被弾した無傷の彩芽は、私の表情を見て軽く「ふん……」と鼻を鳴らしながら銃を構える。
「グッ……!」
向けられたFNブローニング・ハイパワーの銃口が火を噴き、露出していた右肩の上を抉る。
首の根本付近から血が流れ出し、生暖かい嫌な感触が着ていた黒のキャミソールの中に入ってくる。
致命傷ではなかったが、それでも痛い……
────まさか撃ち抜いたはずの相手が撃ち返してくるなんて、想定外の攻撃に反応が若干遅れちまったぜッ……クソが……!
撃たれた箇所を抑える私の前で、何故か彩芽は一瞬だけキョトンと黒目を見開いてから直ぐに元の表情に戻ってから呟く。
「迷いが見えるな……」
「あぁ?」
唐突にそう言ってきた言葉に私が肩眉を上げるが、彩芽はそんな私の様子など気にせず続ける。
「裏切った仲間のことがそんなに気になるか?CIA副長官ロナ・バーナード……いや、今はロア・バーナードと言うのが正しいか?」
全身に嫌な汗が流れる。
それは傷の痛みとかそう言った類のものではなく、もっと別の意味で……
「なんでお前が私の、私達の名前を知っているッ……!?」
私は、いや私達は基本公の場に姿を現さない。表の仕事は全部ジェイクがやることになっているから、私達がCIA副長官だということは政府の中でも限られた一部の人間しか知らないはず……
つまりそれを知っているということは────
「誰が裏切った?」
私の信頼している仲間の中に、情報を流している裏切り者がいるということになる。
ヨルムンガンドと内通して、国の機密情報を横流しにしている奴が……
「さぁ?私は知らないな?トリガー3殿、あっ失礼、元トリガー3殿。だが残念だ。さっきのトリガー5といい君といい、優秀な部隊だと聞いていたが……まさか仲間を一人殺めた程度のことで動揺しているとは……それに貴様は部隊の中でも一番残虐だと言うから期待していたのに……失望したぞ?」
トリガー5、ということはレクスのことも知っていた。だから彩芽はさっきの狙撃がどこから来たのかを異常なまでに素早く察知できたということか。
それにこの口ぶりだと、世間に公表されていない私たち以外の元メンバーのことも知っているらしい……
一体誰が────
「一応貴様にもあの御方からお声が掛かっていたが、この程度なら必要ないな」
「あの御方?」
色々無い頭で考えていた私に、彩芽は問答無用で銃口の狙いを定めてくる。
クソッ……この銃弾が避けれたとしても、どうやらこいつらを10分で止めることは不可能みたいだな……
いっそもう、このまま諦めちまうか?
「あの世で裏切った王女に謝ってこい」
彩芽がそう言って、引き金にかけた指に力を込めようとした瞬間────
「ねえ、水を差して悪いんだけど」
アルシェが唐突に彩芽に声を掛けた。
「なんだ?大事な時に……」
銃口の向きを変え、やや不機嫌な彩芽がジト目でアルシェのことを見下す。
「何か聞こえない?」
そう言って耳を澄ませたアルシェに彩芽は訝し気な表情を向けたが、言われてから気づいたのか。
「確かに……これは何の音だ……?」
その音が何かを確かめるように耳に手を当てていた。
今は電車の前方の窓が割れ、突風が入り込んでいるせいで音が聞きにくかったが、私もその音に気づくことができた。
これは────エンジン音?
私たちの後方からエンジン音らしきモーター音が聞こえていた。
だがそれは電車ものではない。だんだんと大きくなっていき、意識しなくても音が聞き取れるくらいになったころ、それが姿を現した。
「あれは────バイク!?」
後方から急接近するそれを視認した彩芽が目を丸くした。
私も敵を前にして思わず振り返ってしまう。
聞きなれた1299㏄直列4気筒のエンジン音。パールミラレッドの車体と黒字で「隼」の文字が入ったSUZUKI HAYABUSAGSX1300Rだ。最高時速300㎞出る日本の傑作バイクに乗っていたのは────
「フォ、フォルテ!?」
血まみれのジーパンと黒いTシャツの上に、昔から愛用しているロングコート八咫烏をはためかせながら、フォルテはバイクを電車の後ろまでつけ────
「っと!」
バイクから飛び降りて電車に捕まり、そのまま車内に入って私の隣までスタスタと歩いてくる。
「よう、どうやら二次会には間に合ったみたいだな?」
100万円以上するバイクが線路上で暴れ牛のように跳ねまわる音を背に、フォルテは私にそう言って微笑んできた。
よく見ると、全体的に血まみれではあったが、深い傷は見当たらない。返り血……なのか?
「ど、どうしてここに隊長が!?牧師はどうしたの!?それにあのバイクって!?」
突然の乱入者を前に、彩芽とアルシェが驚く中。私も軽くパニックで気になったことを片っ端から尋ねてしまうと、フォルテは視線を前方の敵に向けながら、微笑みからキリッとした表情を作って答えた。
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