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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》42
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私は電車に捕まった態勢で命一杯手を伸ばしていた。
状況が状況だけに必死だった。
1センチでも1ミリでもいいからと、無我夢中に────
「迷っているんだろう?」
その時ふと、さっき聞いた薄い水色の髪をした魔女の言葉が脳裏をよぎった。
「裏切る機会は必ず訪れる」
私が伸ばす左手の先で、二つの銀の尾が揺れる────
────もし……もし私がここで手を引いたら────セイナは────
空中を漂う少女は私の手を掴もうと必死に手を伸ばしていた。
信用しきったブルーサファイアの瞳が、真っすぐに私を見ていた。
昨日のことがあったのに不用心な奴だな……戦闘中も人のことばっか気にしやがって……と内心で思うと同時に、その瞳がひどく羨ましく、妬ましい気持ちになる。
────どうしたらそんなに真っすぐ人を見ることができるのだろう……
そこで私はようやく理解した。セイナが気に食わなかった本当の理由を。
セイナのその真っすぐな瞳が似ているんだ、あのフォルテに。色とか形という意味ではなく、志というか仲間を信頼するときの温かみ、安心感を与えてくれるその優しい瞳。
それと同時に、その瞳ができるこの少女がフォルテの隣に相応しいと、私は無意識に認めてしまっていたことが悔しかったんだ。私みたいな殺人鬼なんかよりもずっと美しく気高く、そして優しい心を持ったこの少女のことが羨ましかったんだ。
「っ……!!」
伸ばした手と手────その二つが触れる瞬間────
「っ……!?」
手がスゥッ────と遠のいた。
セイナの瞳が見開かれるのがハッキリと見えた。
私も思わずそれを見て口が開く。
手が届かない距離では無かったし、別に電車が急加速したわけでもない。ましてや私やセイナが腕を引っ込めたりしたわけではない。それなのに……伸ばしていた手と手が触れる寸前、セイナと私の間に空間でもねじ込まれたかのように、ほんの僅か数センチ、気づくか気づかないくらいの短く、そしてその絶望的数センチという距離が突然生まれた。
セイナがスローモーションの世界でゆっくりと私の眼下、ワシントンメトロの線路に落ちていく。
必死に、その突然現れた数センチに喘ぐように、全身を犬掻きのようにバタつかせたセイナが、私の見下ろす先で────
ガシッ────!
と片手で私の着ていたICコートの裾先を掴んだ。
バサッ!!
「ッ!?」
引っ張ったことでICコートが私の身体からパチンッ!と小気味いい音を立て、無情にも宙に舞う。
私は(ロナもだが)基本ICコートを羽織って戦っているのだが、敵に掴まれて拘束されることを嫌い、普段から首元にある凹凸式のスナップボタン一つで止め、着脱を簡単にしていた。
もちろんそんなスナップボタンに少女の体重を支えられるほどの強度は無く、引っ張られたことにより、残念だけど思惑通り簡単にコートは脱げてしまった。
「……!」
どうして距離が伸びたのか数瞬考えてしまった私は困惑した表情のまま、落ちていくセイナをただ茫然と眺めている……いや、奇しくも見下ろしているような態勢になっていたかもしれない。
掴んだICコートに絡まりながら、空中に、弱弱しいロウソクの火のような金髪のポニーテールが揺れる中、セイナが地下鉄の闇に引きづり込まれていくのを、私はただただ黙ってみているしかなかった。
ガンッ────!!
「ッ……!?」
掴んでいた電車に衝撃が走り、視界が上下にブレる。
コンマ数秒程度のことだったが、顔を上げた先にセイナの姿は無かった。
多分その瞬間は見えなかったけど、高速で走る電車から飛び降りたセイナは線路に叩きつけられたのかもしれない。
────悲鳴一つ無かった……まさか即死……?
最悪の答えが、考えたくなかった最悪の答えが私に訴えかけてくる。
だが、神様という奴は酷く残酷で、私がそんなこと考える余裕を与えないように次の脅威が襲い掛かる。
「また減速している!?」
最後尾と同じように減速する二両目、どうやらさっきの衝撃は、車両を切り離したときに発生したものだったらしい。
暗闇の向こうのセイナを助けに行くか────それともこのまま敵を追うか────
「クッ……!」
私は……私は────!
ここで逃しては多分もう追いつくことはできない。
一瞬躊躇したが、小さく「ごめん」と呟いた私は、振り返りたい気持ちを我慢しながら、二両目の連結部分のスライド式扉を開けて車内へ入る。
前方に見えた最前列の車両がみるみる離れている。
私は振り返らずに二両目の中を走り抜ける。
一応この車両の中に連中がいないか確認したが、二両目には誰もいなかった。
「はぁッ!!」
私は二両目の先頭から、離れていく一両目の後部に向かって飛ぶ。
幸いまだそこまで離れてなかったので、今度は楽々扉に捕まることができた。
そのまま連結部の扉を開けて車内に入った瞬間────
「────ッ!」
飛来してきた氷のツララが私の顔目掛けて飛んできたので、身体を右に捻って車両両脇に備えてある座席の裏に隠れた。
バリンッ!と音を立てて連結部の扉のガラスに氷のツララが突き刺さっていた。
ガラスの破片が飛び散り、ツララとガラスの隙間からヒュウヒュウと空気が抜けていく音が車内に響く。
「外したか……」
車両の一番奥、運転室と客室の仕切りの前に立っていた小柄な少女、アルシェが、杖をこちらに振りかざした格好で、見た目通りの幼女声でそう呟いた。
────逃げている間に意識を取り戻したか……クソッ!
私は車両の横扉前、座席と座席の間に背中を預け、車両後部の窓に映ったその少女の姿を見て毒づいた。
「相方はどうした?まさか、予言通り本当に裏切ってきたのか?」
アルシェの隣から、対照的な大人声で黒髪女がそう投げかけてくる。
────まあ、気づくのは必然だが、空気読んで聞かないで欲しかったぜ……
「別にてめーらなんか私一人で十分だ」
「裏切ったことは否定しないのか……?」
「……」
「本当は生け捕りという話だったが、死んでしまったなら仕方ない……その程度の女だったっと上に報告するだけだ」
正直、私も自分が裏切ったのかどうか定かではなかった。
だんまりな私に、黒髪女はウィスパーボイスでさらに挑発してくる。
だが、ここで無策に飛び出していくほど私もバカじゃない。
「ふん、上に報告できると思っているお前の頭がお花畑だってことはよく分かったぜ」
「ほぉ……逆に貴様は我々二人を相手にして逃げられるとでも?」
────正直きついだろう。
ただでさえ相性の悪そうな魔術使いが相手だってのに、ここは電車。狭すぎて正面からしか戦えない。
「私が負ける?冗談は見た目だけにしてくれネクラ女。あれか?見た目がネクラだと、考えもネクラになるのか?つーか仮に私が負けたとしても、てめーらが地上に出ることは二度とない。一生地下暮らしだから安心しろ」
「言ってくれるじゃないか、このメルヘン女……」
自覚があるのか、黒髪女は静かにキレた様子で私にそう言い返してきた。
後部座席の窓から様子を伺うと、触れてはいけない言葉だったらしく、隣のアルシェが顔を背けてクスクスと笑いを堪えていた。
「まあいい……貴様がそう言うなら面白いことをしてやろう……アルシェ……」
「ㇰㇰッ────な、なに?」
「やれ……全開だ……」
噴き出していたアルシェに黒髪女が何かの指示を出す。
「えぇー私、その案は嫌だったんだけど……美しくないし」
「いいからやれ……やらないならお前はここに置いていくぞ?」
「はぁーはいはい、分かりましたよ彩芽さん」
肩を竦めたアルシェが運転席の方を向いて杖をかざす────
「ぅッ……!」
後ろの隙間風の音が大きくなる。それだけじゃない……電車の揺れが大きくなり、安定感が削がれていく。
速度を上げている────!
ガタガタと揺れが大きくなる車内────通常は確か120㎞くらいの速度だったはずが、200近くまで速度を上げている。
運転席のレバーをアルシェに弄らせたのか……!
私は反射的に壁にあった路線図を見る。
Dupont Circleを出てまだ次の駅を通過していない。終点のShady Groveまでは30分────
と思ったが違う。確か途中のFriendship Heights Stationには大きなカーブがあったはず……このまま速度を上げたままだと……私はアイツみたいに色々計算できないから分からないけど多分曲がれない。カーブで横転するだけだ。
────ここからFriendship Heightsまでがタイムリミット……到着時間はたったの10分。
最悪倒さなくても、私がそれまでに逃げればいいから────
「おっと、逃げようなんて思うなよ?メンヘラ女。コイツをみて見ろ……」
メンヘラ女呼ばわりされて若干イライラしていた私が、黒髪女こと彩芽と呼ばれた黒ドレスの日本人が突き出したものを見て唇を噛む。
────運転手と車掌かッ……!
おそらく逃げ遅れたのだろう……まあ運転する側だから逃げれないのは仕方ないが、気絶した二人の中年駅員を私に見せた後、乱暴に無人の運転席に押し込む。よく見ると、運転席のレバー系統が所々氷で固められていた。アルシェが全て操っているらしい。
何はともあれ、とにかく私はあの二人を10分以内に倒して電車を止めないといけなくなってしまったらしい。
────クソクソクソクソッ!!
苦虫を噛みつぶしたような表情でアタシは心の中で呟く。
不利な状況、不利な条件。装備は背中のベネリM4とその中に入ったスラッグ弾7発。他はクナイ式ナイフ2本に、あとは両手の隕石の糸のみ。防弾防刃光学迷彩付きのICコートやそこにあった予備の弾薬やナイフはもうない。それと人質二人……
何より一番の問題は────
────セイナ……
未だ自分のせいかどうかも分かっていないが、セイナが無事かどうかが気になって仕方ない。
そのせいで、心の中にクイのようなものがつっかえているような感覚がして非常に気持ち悪いんだ。
これならいっそ、思いっきり裏切っていた方がまだ気持ちが楽だった。その方が罪悪感とか感じないし……
「さぁ来い。銀髪メルヘン女。遊んでやる」
彩芽が深淵のような黒目を鋭くして私にそう呟いた。
状況が状況だけに必死だった。
1センチでも1ミリでもいいからと、無我夢中に────
「迷っているんだろう?」
その時ふと、さっき聞いた薄い水色の髪をした魔女の言葉が脳裏をよぎった。
「裏切る機会は必ず訪れる」
私が伸ばす左手の先で、二つの銀の尾が揺れる────
────もし……もし私がここで手を引いたら────セイナは────
空中を漂う少女は私の手を掴もうと必死に手を伸ばしていた。
信用しきったブルーサファイアの瞳が、真っすぐに私を見ていた。
昨日のことがあったのに不用心な奴だな……戦闘中も人のことばっか気にしやがって……と内心で思うと同時に、その瞳がひどく羨ましく、妬ましい気持ちになる。
────どうしたらそんなに真っすぐ人を見ることができるのだろう……
そこで私はようやく理解した。セイナが気に食わなかった本当の理由を。
セイナのその真っすぐな瞳が似ているんだ、あのフォルテに。色とか形という意味ではなく、志というか仲間を信頼するときの温かみ、安心感を与えてくれるその優しい瞳。
それと同時に、その瞳ができるこの少女がフォルテの隣に相応しいと、私は無意識に認めてしまっていたことが悔しかったんだ。私みたいな殺人鬼なんかよりもずっと美しく気高く、そして優しい心を持ったこの少女のことが羨ましかったんだ。
「っ……!!」
伸ばした手と手────その二つが触れる瞬間────
「っ……!?」
手がスゥッ────と遠のいた。
セイナの瞳が見開かれるのがハッキリと見えた。
私も思わずそれを見て口が開く。
手が届かない距離では無かったし、別に電車が急加速したわけでもない。ましてや私やセイナが腕を引っ込めたりしたわけではない。それなのに……伸ばしていた手と手が触れる寸前、セイナと私の間に空間でもねじ込まれたかのように、ほんの僅か数センチ、気づくか気づかないくらいの短く、そしてその絶望的数センチという距離が突然生まれた。
セイナがスローモーションの世界でゆっくりと私の眼下、ワシントンメトロの線路に落ちていく。
必死に、その突然現れた数センチに喘ぐように、全身を犬掻きのようにバタつかせたセイナが、私の見下ろす先で────
ガシッ────!
と片手で私の着ていたICコートの裾先を掴んだ。
バサッ!!
「ッ!?」
引っ張ったことでICコートが私の身体からパチンッ!と小気味いい音を立て、無情にも宙に舞う。
私は(ロナもだが)基本ICコートを羽織って戦っているのだが、敵に掴まれて拘束されることを嫌い、普段から首元にある凹凸式のスナップボタン一つで止め、着脱を簡単にしていた。
もちろんそんなスナップボタンに少女の体重を支えられるほどの強度は無く、引っ張られたことにより、残念だけど思惑通り簡単にコートは脱げてしまった。
「……!」
どうして距離が伸びたのか数瞬考えてしまった私は困惑した表情のまま、落ちていくセイナをただ茫然と眺めている……いや、奇しくも見下ろしているような態勢になっていたかもしれない。
掴んだICコートに絡まりながら、空中に、弱弱しいロウソクの火のような金髪のポニーテールが揺れる中、セイナが地下鉄の闇に引きづり込まれていくのを、私はただただ黙ってみているしかなかった。
ガンッ────!!
「ッ……!?」
掴んでいた電車に衝撃が走り、視界が上下にブレる。
コンマ数秒程度のことだったが、顔を上げた先にセイナの姿は無かった。
多分その瞬間は見えなかったけど、高速で走る電車から飛び降りたセイナは線路に叩きつけられたのかもしれない。
────悲鳴一つ無かった……まさか即死……?
最悪の答えが、考えたくなかった最悪の答えが私に訴えかけてくる。
だが、神様という奴は酷く残酷で、私がそんなこと考える余裕を与えないように次の脅威が襲い掛かる。
「また減速している!?」
最後尾と同じように減速する二両目、どうやらさっきの衝撃は、車両を切り離したときに発生したものだったらしい。
暗闇の向こうのセイナを助けに行くか────それともこのまま敵を追うか────
「クッ……!」
私は……私は────!
ここで逃しては多分もう追いつくことはできない。
一瞬躊躇したが、小さく「ごめん」と呟いた私は、振り返りたい気持ちを我慢しながら、二両目の連結部分のスライド式扉を開けて車内へ入る。
前方に見えた最前列の車両がみるみる離れている。
私は振り返らずに二両目の中を走り抜ける。
一応この車両の中に連中がいないか確認したが、二両目には誰もいなかった。
「はぁッ!!」
私は二両目の先頭から、離れていく一両目の後部に向かって飛ぶ。
幸いまだそこまで離れてなかったので、今度は楽々扉に捕まることができた。
そのまま連結部の扉を開けて車内に入った瞬間────
「────ッ!」
飛来してきた氷のツララが私の顔目掛けて飛んできたので、身体を右に捻って車両両脇に備えてある座席の裏に隠れた。
バリンッ!と音を立てて連結部の扉のガラスに氷のツララが突き刺さっていた。
ガラスの破片が飛び散り、ツララとガラスの隙間からヒュウヒュウと空気が抜けていく音が車内に響く。
「外したか……」
車両の一番奥、運転室と客室の仕切りの前に立っていた小柄な少女、アルシェが、杖をこちらに振りかざした格好で、見た目通りの幼女声でそう呟いた。
────逃げている間に意識を取り戻したか……クソッ!
私は車両の横扉前、座席と座席の間に背中を預け、車両後部の窓に映ったその少女の姿を見て毒づいた。
「相方はどうした?まさか、予言通り本当に裏切ってきたのか?」
アルシェの隣から、対照的な大人声で黒髪女がそう投げかけてくる。
────まあ、気づくのは必然だが、空気読んで聞かないで欲しかったぜ……
「別にてめーらなんか私一人で十分だ」
「裏切ったことは否定しないのか……?」
「……」
「本当は生け捕りという話だったが、死んでしまったなら仕方ない……その程度の女だったっと上に報告するだけだ」
正直、私も自分が裏切ったのかどうか定かではなかった。
だんまりな私に、黒髪女はウィスパーボイスでさらに挑発してくる。
だが、ここで無策に飛び出していくほど私もバカじゃない。
「ふん、上に報告できると思っているお前の頭がお花畑だってことはよく分かったぜ」
「ほぉ……逆に貴様は我々二人を相手にして逃げられるとでも?」
────正直きついだろう。
ただでさえ相性の悪そうな魔術使いが相手だってのに、ここは電車。狭すぎて正面からしか戦えない。
「私が負ける?冗談は見た目だけにしてくれネクラ女。あれか?見た目がネクラだと、考えもネクラになるのか?つーか仮に私が負けたとしても、てめーらが地上に出ることは二度とない。一生地下暮らしだから安心しろ」
「言ってくれるじゃないか、このメルヘン女……」
自覚があるのか、黒髪女は静かにキレた様子で私にそう言い返してきた。
後部座席の窓から様子を伺うと、触れてはいけない言葉だったらしく、隣のアルシェが顔を背けてクスクスと笑いを堪えていた。
「まあいい……貴様がそう言うなら面白いことをしてやろう……アルシェ……」
「ㇰㇰッ────な、なに?」
「やれ……全開だ……」
噴き出していたアルシェに黒髪女が何かの指示を出す。
「えぇー私、その案は嫌だったんだけど……美しくないし」
「いいからやれ……やらないならお前はここに置いていくぞ?」
「はぁーはいはい、分かりましたよ彩芽さん」
肩を竦めたアルシェが運転席の方を向いて杖をかざす────
「ぅッ……!」
後ろの隙間風の音が大きくなる。それだけじゃない……電車の揺れが大きくなり、安定感が削がれていく。
速度を上げている────!
ガタガタと揺れが大きくなる車内────通常は確か120㎞くらいの速度だったはずが、200近くまで速度を上げている。
運転席のレバーをアルシェに弄らせたのか……!
私は反射的に壁にあった路線図を見る。
Dupont Circleを出てまだ次の駅を通過していない。終点のShady Groveまでは30分────
と思ったが違う。確か途中のFriendship Heights Stationには大きなカーブがあったはず……このまま速度を上げたままだと……私はアイツみたいに色々計算できないから分からないけど多分曲がれない。カーブで横転するだけだ。
────ここからFriendship Heightsまでがタイムリミット……到着時間はたったの10分。
最悪倒さなくても、私がそれまでに逃げればいいから────
「おっと、逃げようなんて思うなよ?メンヘラ女。コイツをみて見ろ……」
メンヘラ女呼ばわりされて若干イライラしていた私が、黒髪女こと彩芽と呼ばれた黒ドレスの日本人が突き出したものを見て唇を噛む。
────運転手と車掌かッ……!
おそらく逃げ遅れたのだろう……まあ運転する側だから逃げれないのは仕方ないが、気絶した二人の中年駅員を私に見せた後、乱暴に無人の運転席に押し込む。よく見ると、運転席のレバー系統が所々氷で固められていた。アルシェが全て操っているらしい。
何はともあれ、とにかく私はあの二人を10分以内に倒して電車を止めないといけなくなってしまったらしい。
────クソクソクソクソッ!!
苦虫を噛みつぶしたような表情でアタシは心の中で呟く。
不利な状況、不利な条件。装備は背中のベネリM4とその中に入ったスラッグ弾7発。他はクナイ式ナイフ2本に、あとは両手の隕石の糸のみ。防弾防刃光学迷彩付きのICコートやそこにあった予備の弾薬やナイフはもうない。それと人質二人……
何より一番の問題は────
────セイナ……
未だ自分のせいかどうかも分かっていないが、セイナが無事かどうかが気になって仕方ない。
そのせいで、心の中にクイのようなものがつっかえているような感覚がして非常に気持ち悪いんだ。
これならいっそ、思いっきり裏切っていた方がまだ気持ちが楽だった。その方が罪悪感とか感じないし……
「さぁ来い。銀髪メルヘン女。遊んでやる」
彩芽が深淵のような黒目を鋭くして私にそう呟いた。
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