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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》41
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「ハァ……ハァ……クソ……」
俺は建物の壁に背を向けてそう呟く。
ここはさっき爆弾が爆発した場所から少し離れた小さな広場。
俺はその一角で荒れた呼吸を整えようとしていた。HK45ハンドガンを持ったまま膝に手を置き、地面を見ると履いていたジーンズの両側が真っ赤に染まっていた。さらにそこからポタポタと、地面に生えていた天然芝に赤い雫を垂らしていた。
痛みは感じない。何故なら────
「ぅ……」
背中に背負っていた人物。CIA職員の牧師が、傷が痛むのか、額に玉のような汗を掻きながら呻き声を漏す。
「おい、しっかりしろッ……!」
傷が痛まないように軽く揺すって声を掛けたが返事は帰ってこない……
────まずいな……
一応俺が撃ち抜いた二つの足の傷は、牧師本人が持っていた応急処置セットで止まった……が、どうやら少々乱暴に俺が担いでいたせいでまた傷が開いてしまったらしい……
早く病院に連れて行ってやりたいが、それも難しい……
というのも────
「いたぞッ!散開して囲え!」
小さいテニスコート程のサイズの広場を囲うように生えていた街路樹の向こう側から、若い男の声が聞こえた。
「へッ……」
その光景を前に、思わず苦笑が漏れた。
若い男の声の後、街路樹の隙間から銃などで武装した屈強な男たちが出るわ出るわ……何人いるんだよ、おい。
建物の壁を背にした俺を囲うようにして、三方向が巨大な男たちで埋め尽くされた。その数ざっと30人以上。
────逃げ場ねぇ……
どこかに隙は無いかと膝に手を置いたまま辺りを見渡したが、人どころかアリ一匹すら逃さないって感じだな……
と思っていると、俺の真正面のマッチョ達が人一人分のスペースを開けた。
その奥から一人の中年男性がやってくる。
「ようやく追い詰めたぞ、大罪人フォルテ」
鼻にかかる高い声、屈強な男たちとは二回り以上も小さい、小太りな体型をした男。
黒く短い髪は脂っぽくべたつき、鼻下にチョビ髭、着ていた紺の高級スーツがダボダボで全く似合っていない。ダサいのフルコースを決めた間抜け面の男が俺に声を掛けてきた。
この声は確か……空港の時と、それとさっきの爆弾を爆破した時にスピーカーで怒鳴ってたやつか。
「誰だお前……?こんな小さな広場にぞろぞろ男集めて……ここはラグビー場じゃねーぞ?」
いかにもこの男たちのリーダーっぽく登場したその中年男に俺が吐き捨てる。
「ふん、ラグビーね……それなら私は差し詰め、南アフリカ代表を率いたフランソワ・ピナールとでも言ったところか……罪人でも見る目があるじゃないか」
「はぁ?何処がだよ?精々お前はコメディ映画のチャップリンだろう」
「な、なんだとッ……!?」
セイナよりも低い身長の小太りの男は、耳障りな高い声で大袈裟に怒って見せる。
よく見ると、周りの巨漢たちはチャップリンと聞いて全員冷や汗のようなものを垂らしていた。
「周りを見ろ、みんなお前のことをチャップリンだと思っているらしいぞ?」
「本当か?貴様たち……私を、この高貴な私をチャップリンだと思っているのか!?」
キョロキョロと周りの巨漢たちに金切り声を上げたチャップリンに、全員が「思っていません」と口々に答える。
珍竹林な見た目の上司に首を振る部下の図は、まさに坊ちゃまと世話役のやり取りそのものだった。
「誰一人そう思ってないと言っているぞ?さては貴様私を騙そうとしたな?」
「してねーよ。思ったからそう言ったんだよチャップリン。で?俺に何の用だよチャップリン?」
「チャップリンではないッ!!私には、ボブ・スミスという高貴な名前があるのだ!」
高貴どころかモブみたいな名前だな……
「そして貴様には、数々の凶悪な犯罪についての容儀が掛かっている。殺人、強盗、放火、脅迫、住居侵入、公務執行妨害、爆破テロなどなど……そして、かの偉大なFBI長官殿を毒牙にかけるだけでなく、私というFBI副長官に対しての名誉棄損という最も凶悪な犯罪を犯している!今すぐその背に背負った男共々大人しく投降しろ!さもなくば────」
俺を囲んでいた屈強な男たちが一斉に銃を構えた。
「ここで死ぬがいい!」
「へったくそ!全然距離が詰まんねーじゃなーか!」
「うるっさいわね!文句があるなら今すぐ運転変わりなさいよ!」
黒髪女が運転するオープンカーを追いかけて、ワシントンのビル街を黒いセダンが駆け抜けていく。
市民のほとんどは、もう既にミサイル関係で避難したのかほとんど姿は見受けられなかった。だが、その代わりに道路にはその市民が乗り捨てた車が散在していた。
その車を躱しながら追いかけているせいでオープンカーとは一向に距離が詰まらず、それどころか寧ろ差が開いているように感じて助手席に乗ったロアがさっきから文句を言ってくるのがうざい……
「そこ左曲がったぞ!」
「分かってるわよ!」
ビル街の先、ワシントンの道がぶつかり合った円形の環状交差点を左折したオープンカーを追いかけ、アタシ達もセダンを左折させると────
「あれ────?」
オープンカーが止まっていた。
しかも無人────誰も乗っていない。
こんなところで車の捨てたの?
「一体どこに……?」
アルシェはさっき倒れた衝撃で気絶していた。その姿が車に無いということは、おそらくあの黒髪女が背負っている可能性が高い。ということはまだ遠くに行っていないはずなのにその姿はどこにも見えなかった。
「セイナ!地下鉄だ!連中はおそらくそこの地下鉄に下って行ったんだ!」
ロアが指さす先、クリーム色のオープンカーの横に、地下へと続くエスカレーターがあった。
よく見ると、エスカレーター上部の屋根に付いていた看板に「Dupont Circle Station」と書かれていた。
「早く追いかけましょう!」
「待て!」
車を降りようとしたアタシの手を掴んで、ロアが静止してきた。
「何よ!?早くしないと入り組んだ地下道の方に逃げられちゃうわよ!」
焦るアタシがロアの手を振り払って降りようとした瞬間────ロアが何も言わずに左足を上げ、車のセンターコンソールに跨ぐような態勢を取った。そして────
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
「ちょ!?なにしてんのロア!?」
アタシの右足ごと左座席のアクセル踏み込んだ!
セダンは急発進して地下鉄の入り口に突っ込んでいく。
「こっちの方がはえーよ!!」
セダンが三本あるエスカレータにぶつかる前に、ロアはハンドルに付いていた赤い長方形のスイッチ押し込んだ。すると、セダンは急加速と同時にその車体が────
────浮いた!?
前輪がバイクのウィリーのように宙に浮き、エスカレーターの手すり二本にセダンのタイヤが乗った。
「ッ……!」
そのままクラクションを響かせたセダンがエスカレーターを急下降していく。
以前任務でやったパラシュート降下よりも怖いと感じたアタシは思わず顔や身体が硬直した。
隣のロアは「ヒャッホ~!」と声を上げて楽しんでいる様子……コイツ、やっぱ狂っているわ……
ガシャンッ!と45度の角度から地面に顔をぶつけたセダンのバンパーが外れた。
ミサイル警報で地下に避難していた市民たちが暴走するアタシ達を見て、慌てて改札口の脇に避けていく。
そんな中、未だにアクセル全開のセダンが、改札口の横の鉄柵を吹っ飛ばし、ホームの上、丁度線路上の歩道橋までやってきた。
「ぅぅ……」
衝撃や、めちゃくちゃな運転で目が回る。
「いた!あそこだ!」
座席で上下に揺れて目をぐるぐるとさせていたアタシの足から、ようやく左足を離してくれたロアがホームから丁度走り出した三両編成の電車を指さした。最後尾に薄い水色の髪の少女を背負った黒髪女が一瞬だけ見える。
「こっから走っても間に合わない!コイツで飛ぶぞセイナ!」
「飛ぶって……どういう────て、ウソでしょ!?」
混乱したアタシが質問するよりも先に、ロアが行動でそれを示した。
さっきの押したハンドルの赤いボタンを押し込み、急加速!
歩道橋の柵を突き破り、黒いセダンが宙を舞う。
10m程の高さから飛んだセダンの中で、束の間の浮遊感を感じていたアタシは、一瞬、そう……ほんの一瞬だけ、ロアの言った飛ぶという言葉を信用し、アメリカの科学力なら空飛ぶ車もあるんだわ、きっと。と思ったが、残念ながらそこまでの技術力はまだアメリカにも無いらしい……急に真下の地面に向かってグイグイとセダンは引っ張られていき────
ドォォォォン!!ガシャァァァァン!!
「「っっっ~~~~!!」」
地面へと二バウンドくらいしながら着地、いや、墜落した。
車の中でアタシ達の身体がロックバンドの首振りように、金と銀の髪が激しく上下する。
だがそこは流石アメリカの技術力と言うべきか、凄まじい衝撃にもかかわらず、セダンはギリギリ大破を免れ、加速してく電車のすぐ真後ろまで猛追していく。が、しかし……
ブッブブブブブ……
「げ、減速してる!?」
エンジンから鈍い、空気が抜けるような音が響き、加速していた速度をみるみる落としていく。
アタシがアクセルをべた踏みしたままハンドルの赤い加速ボタンを何度か押し直してみたが、車はみるみる速度を落とし、電車から距離を離していく。
「ニトロが切れかかっているんだ!飛ぶぞ!」
そう言ってロアは素早く助手席から這い出て、セダンのボンネットを経由して電車の最後尾に飛び移る。
「ッ……!!」
アタシもタイミングを見計らって運転席から素早く飛び出して、ロアと同じように捕まった。
何とか電車にたどり着くことができたと、ため息一つ漏らそうとしたアタシとロアはすぐにその異変に気付いた。
「ねぇこの電車!?」
「あぁ減速している!多分切り離された!」
捕まっていた電車が乗り捨てたセダンと一緒に減速していた。
よく見ると、さっき見た時よりも最後尾の乗客の数が増え、あの黒髪女たちの姿は消えていた。
多分乗客全てを最後尾の車両に移して切り離したのだろう。
アタシ達は懸垂の要領で車両の天井まで登り、前の車両を目指して走る。
やっぱり車両は切り離されていて、二両目の扉が三両目から離れていく最中だった。
「ッ!!」
ロアが先に車両から飛ぶ。
空中で懐からクナイ式ナイフを投げて二両目の車体に突き刺し、そこについた隕石の糸を使って二両目後ろに張り付いた。
「ッ!!」
アタシも同じように飛んだ!
だけど、最初に飛んだロアを見て分かっていたけど、距離が足りない。
「セイナッ!」
その足りない分を、ロアが片手を伸ばして稼ぐ。
「ッ……!」
手を取る一瞬が、スロー再生のようにコマ送りにされていく。
限界まで伸ばしたアタシとロアの手はギリギリで届く距離にあった。
────これならッ!
そう思って伸ばしたアタシの手がロアの手に触れる瞬間────
────え?
ほんの数センチ……その致命的な数センチ、ロアは伸ばした片手を引っ込めた。
俺は建物の壁に背を向けてそう呟く。
ここはさっき爆弾が爆発した場所から少し離れた小さな広場。
俺はその一角で荒れた呼吸を整えようとしていた。HK45ハンドガンを持ったまま膝に手を置き、地面を見ると履いていたジーンズの両側が真っ赤に染まっていた。さらにそこからポタポタと、地面に生えていた天然芝に赤い雫を垂らしていた。
痛みは感じない。何故なら────
「ぅ……」
背中に背負っていた人物。CIA職員の牧師が、傷が痛むのか、額に玉のような汗を掻きながら呻き声を漏す。
「おい、しっかりしろッ……!」
傷が痛まないように軽く揺すって声を掛けたが返事は帰ってこない……
────まずいな……
一応俺が撃ち抜いた二つの足の傷は、牧師本人が持っていた応急処置セットで止まった……が、どうやら少々乱暴に俺が担いでいたせいでまた傷が開いてしまったらしい……
早く病院に連れて行ってやりたいが、それも難しい……
というのも────
「いたぞッ!散開して囲え!」
小さいテニスコート程のサイズの広場を囲うように生えていた街路樹の向こう側から、若い男の声が聞こえた。
「へッ……」
その光景を前に、思わず苦笑が漏れた。
若い男の声の後、街路樹の隙間から銃などで武装した屈強な男たちが出るわ出るわ……何人いるんだよ、おい。
建物の壁を背にした俺を囲うようにして、三方向が巨大な男たちで埋め尽くされた。その数ざっと30人以上。
────逃げ場ねぇ……
どこかに隙は無いかと膝に手を置いたまま辺りを見渡したが、人どころかアリ一匹すら逃さないって感じだな……
と思っていると、俺の真正面のマッチョ達が人一人分のスペースを開けた。
その奥から一人の中年男性がやってくる。
「ようやく追い詰めたぞ、大罪人フォルテ」
鼻にかかる高い声、屈強な男たちとは二回り以上も小さい、小太りな体型をした男。
黒く短い髪は脂っぽくべたつき、鼻下にチョビ髭、着ていた紺の高級スーツがダボダボで全く似合っていない。ダサいのフルコースを決めた間抜け面の男が俺に声を掛けてきた。
この声は確か……空港の時と、それとさっきの爆弾を爆破した時にスピーカーで怒鳴ってたやつか。
「誰だお前……?こんな小さな広場にぞろぞろ男集めて……ここはラグビー場じゃねーぞ?」
いかにもこの男たちのリーダーっぽく登場したその中年男に俺が吐き捨てる。
「ふん、ラグビーね……それなら私は差し詰め、南アフリカ代表を率いたフランソワ・ピナールとでも言ったところか……罪人でも見る目があるじゃないか」
「はぁ?何処がだよ?精々お前はコメディ映画のチャップリンだろう」
「な、なんだとッ……!?」
セイナよりも低い身長の小太りの男は、耳障りな高い声で大袈裟に怒って見せる。
よく見ると、周りの巨漢たちはチャップリンと聞いて全員冷や汗のようなものを垂らしていた。
「周りを見ろ、みんなお前のことをチャップリンだと思っているらしいぞ?」
「本当か?貴様たち……私を、この高貴な私をチャップリンだと思っているのか!?」
キョロキョロと周りの巨漢たちに金切り声を上げたチャップリンに、全員が「思っていません」と口々に答える。
珍竹林な見た目の上司に首を振る部下の図は、まさに坊ちゃまと世話役のやり取りそのものだった。
「誰一人そう思ってないと言っているぞ?さては貴様私を騙そうとしたな?」
「してねーよ。思ったからそう言ったんだよチャップリン。で?俺に何の用だよチャップリン?」
「チャップリンではないッ!!私には、ボブ・スミスという高貴な名前があるのだ!」
高貴どころかモブみたいな名前だな……
「そして貴様には、数々の凶悪な犯罪についての容儀が掛かっている。殺人、強盗、放火、脅迫、住居侵入、公務執行妨害、爆破テロなどなど……そして、かの偉大なFBI長官殿を毒牙にかけるだけでなく、私というFBI副長官に対しての名誉棄損という最も凶悪な犯罪を犯している!今すぐその背に背負った男共々大人しく投降しろ!さもなくば────」
俺を囲んでいた屈強な男たちが一斉に銃を構えた。
「ここで死ぬがいい!」
「へったくそ!全然距離が詰まんねーじゃなーか!」
「うるっさいわね!文句があるなら今すぐ運転変わりなさいよ!」
黒髪女が運転するオープンカーを追いかけて、ワシントンのビル街を黒いセダンが駆け抜けていく。
市民のほとんどは、もう既にミサイル関係で避難したのかほとんど姿は見受けられなかった。だが、その代わりに道路にはその市民が乗り捨てた車が散在していた。
その車を躱しながら追いかけているせいでオープンカーとは一向に距離が詰まらず、それどころか寧ろ差が開いているように感じて助手席に乗ったロアがさっきから文句を言ってくるのがうざい……
「そこ左曲がったぞ!」
「分かってるわよ!」
ビル街の先、ワシントンの道がぶつかり合った円形の環状交差点を左折したオープンカーを追いかけ、アタシ達もセダンを左折させると────
「あれ────?」
オープンカーが止まっていた。
しかも無人────誰も乗っていない。
こんなところで車の捨てたの?
「一体どこに……?」
アルシェはさっき倒れた衝撃で気絶していた。その姿が車に無いということは、おそらくあの黒髪女が背負っている可能性が高い。ということはまだ遠くに行っていないはずなのにその姿はどこにも見えなかった。
「セイナ!地下鉄だ!連中はおそらくそこの地下鉄に下って行ったんだ!」
ロアが指さす先、クリーム色のオープンカーの横に、地下へと続くエスカレーターがあった。
よく見ると、エスカレーター上部の屋根に付いていた看板に「Dupont Circle Station」と書かれていた。
「早く追いかけましょう!」
「待て!」
車を降りようとしたアタシの手を掴んで、ロアが静止してきた。
「何よ!?早くしないと入り組んだ地下道の方に逃げられちゃうわよ!」
焦るアタシがロアの手を振り払って降りようとした瞬間────ロアが何も言わずに左足を上げ、車のセンターコンソールに跨ぐような態勢を取った。そして────
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
「ちょ!?なにしてんのロア!?」
アタシの右足ごと左座席のアクセル踏み込んだ!
セダンは急発進して地下鉄の入り口に突っ込んでいく。
「こっちの方がはえーよ!!」
セダンが三本あるエスカレータにぶつかる前に、ロアはハンドルに付いていた赤い長方形のスイッチ押し込んだ。すると、セダンは急加速と同時にその車体が────
────浮いた!?
前輪がバイクのウィリーのように宙に浮き、エスカレーターの手すり二本にセダンのタイヤが乗った。
「ッ……!」
そのままクラクションを響かせたセダンがエスカレーターを急下降していく。
以前任務でやったパラシュート降下よりも怖いと感じたアタシは思わず顔や身体が硬直した。
隣のロアは「ヒャッホ~!」と声を上げて楽しんでいる様子……コイツ、やっぱ狂っているわ……
ガシャンッ!と45度の角度から地面に顔をぶつけたセダンのバンパーが外れた。
ミサイル警報で地下に避難していた市民たちが暴走するアタシ達を見て、慌てて改札口の脇に避けていく。
そんな中、未だにアクセル全開のセダンが、改札口の横の鉄柵を吹っ飛ばし、ホームの上、丁度線路上の歩道橋までやってきた。
「ぅぅ……」
衝撃や、めちゃくちゃな運転で目が回る。
「いた!あそこだ!」
座席で上下に揺れて目をぐるぐるとさせていたアタシの足から、ようやく左足を離してくれたロアがホームから丁度走り出した三両編成の電車を指さした。最後尾に薄い水色の髪の少女を背負った黒髪女が一瞬だけ見える。
「こっから走っても間に合わない!コイツで飛ぶぞセイナ!」
「飛ぶって……どういう────て、ウソでしょ!?」
混乱したアタシが質問するよりも先に、ロアが行動でそれを示した。
さっきの押したハンドルの赤いボタンを押し込み、急加速!
歩道橋の柵を突き破り、黒いセダンが宙を舞う。
10m程の高さから飛んだセダンの中で、束の間の浮遊感を感じていたアタシは、一瞬、そう……ほんの一瞬だけ、ロアの言った飛ぶという言葉を信用し、アメリカの科学力なら空飛ぶ車もあるんだわ、きっと。と思ったが、残念ながらそこまでの技術力はまだアメリカにも無いらしい……急に真下の地面に向かってグイグイとセダンは引っ張られていき────
ドォォォォン!!ガシャァァァァン!!
「「っっっ~~~~!!」」
地面へと二バウンドくらいしながら着地、いや、墜落した。
車の中でアタシ達の身体がロックバンドの首振りように、金と銀の髪が激しく上下する。
だがそこは流石アメリカの技術力と言うべきか、凄まじい衝撃にもかかわらず、セダンはギリギリ大破を免れ、加速してく電車のすぐ真後ろまで猛追していく。が、しかし……
ブッブブブブブ……
「げ、減速してる!?」
エンジンから鈍い、空気が抜けるような音が響き、加速していた速度をみるみる落としていく。
アタシがアクセルをべた踏みしたままハンドルの赤い加速ボタンを何度か押し直してみたが、車はみるみる速度を落とし、電車から距離を離していく。
「ニトロが切れかかっているんだ!飛ぶぞ!」
そう言ってロアは素早く助手席から這い出て、セダンのボンネットを経由して電車の最後尾に飛び移る。
「ッ……!!」
アタシもタイミングを見計らって運転席から素早く飛び出して、ロアと同じように捕まった。
何とか電車にたどり着くことができたと、ため息一つ漏らそうとしたアタシとロアはすぐにその異変に気付いた。
「ねぇこの電車!?」
「あぁ減速している!多分切り離された!」
捕まっていた電車が乗り捨てたセダンと一緒に減速していた。
よく見ると、さっき見た時よりも最後尾の乗客の数が増え、あの黒髪女たちの姿は消えていた。
多分乗客全てを最後尾の車両に移して切り離したのだろう。
アタシ達は懸垂の要領で車両の天井まで登り、前の車両を目指して走る。
やっぱり車両は切り離されていて、二両目の扉が三両目から離れていく最中だった。
「ッ!!」
ロアが先に車両から飛ぶ。
空中で懐からクナイ式ナイフを投げて二両目の車体に突き刺し、そこについた隕石の糸を使って二両目後ろに張り付いた。
「ッ!!」
アタシも同じように飛んだ!
だけど、最初に飛んだロアを見て分かっていたけど、距離が足りない。
「セイナッ!」
その足りない分を、ロアが片手を伸ばして稼ぐ。
「ッ……!」
手を取る一瞬が、スロー再生のようにコマ送りにされていく。
限界まで伸ばしたアタシとロアの手はギリギリで届く距離にあった。
────これならッ!
そう思って伸ばしたアタシの手がロアの手に触れる瞬間────
────え?
ほんの数センチ……その致命的な数センチ、ロアは伸ばした片手を引っ込めた。
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