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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》20
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「そ、それは本当ですか大統領……!?その神器は今どこにあるのですか……?」
俺は再び身体を前のめりにさせてベアード大統領に質問した。
が、俺は興奮のあまり、自分の口から思わず出てしまったその質問が悪手であったことにすぐ気づいた。
「その反応から察するに、君はやはり神器について何かしらの知識があるということだね?」
しまった……つい寝耳に水な話しに、まるで知っていて当たり前のように話しを進めていた……
だが、もうそのことを悔やんでも仕方ない。ここまできたらこちらもある程度は隠していたカードを切ったほうが良さそうだな。
と開き直ってから俺はこう言った。
「自分も知ったのは最近で多少ではありますが……そして、自分は訳あってセイナと共にヨルムンガンドの情報の他にも、その神器を探しています。それも、いま話で出たその雷神トールの神器を……」
もしここでポーカーフェイスのポの字もできてない今の俺の姿をセイナが見ていたら、きっとブチギレられながら電撃をくらわされるんだろうな……
頭の片隅でそう苦笑していると、ベアード大統領は「そうか……」と短く答えてから何かを考えるように顎に手を当てながら唸り声をあげていた。
多分向こうもまだ隠しているカードが何枚かあるはずだ。
俺の情報を聞き出すためにそれを切るのか切らないのかベアード大統領は迷っている様子だった。
「大統領、例の物を持ってきました」
ノックしてからガチャッと扉を開けたジェイクが、ビジネスバッグくらいのサイズのジェラルミンケースをその太い電柱のような片腕で軽々と運びながらオーヴァルオフィスに帰ってきた。
「おお、ちょうどナイスタイミングだジェイク君、それを彼に見せてやってくれ」
「はい」
大統領の言葉にジェイクが短く返事してから、そのケースを俺の前にあったテーブルの上に置いた。
「これは……?」
置かれたケースの中身が全く見当つかない俺が首を傾げてそう聞く。
「それは、我々が君にお願いするのに対しての報酬みたいなものだ、確認してくれ」
そう言われて俺が恐る恐るケースの留め具をパチンッと二つ外してから開けると────
人の左腕。いや、それと見間違うほど細部まで作り込まれた義手だ。それも俺が過去に設計し、つい先日ベルゼに壊されたばかりのと同タイプに近い代物だ。
俺はその義手に驚きながら、大統領の方を向いて「触っても?」と目配せすると、ベアード大統領もそれに応えるようにコクリ……と小さく頷いた。
ケースに収まっていた義手を手に取ってから、自分の左腕に装着して軽く動かしてみる。
サイズはぴったりだ。動作も好調、いやむしろ前の奴よりもスムーズに動くような気がする。
「それはロナ君が一つしか義手を持っていない君のためにと、数か月前に空いた時間をコツコツ使って作成した代物だ。確かに君はその蒼き月の瞳で左腕を限定的に生やすこともできるが、それはあくまで能力が使用できる月の出ている夜に限った話。今もこうして君がその蒼き月の瞳を閉じているように、もし使えば魔眼のリミッターが効かずに暴走。それでも触媒である月が出ている状態なら、その月の満ち欠けによって数分から数十分耐えることができるが、月のない時間帯だと強大な力と引き換えにたった一分で触媒不足に陥って死ぬことになる」
以前ベルゼが話していた暴走の話しだ。
俺はこの蒼き月の瞳と体質が合っていないのを無理矢理使っている。
人は生まれながらにして魔力を扱える量に違いがあるように、魔術の性質も異なる。ごくまれにいる特異体質な人間を除けば、基本は四大元素である「火」「水」「土」「風」のどれかに当てはまり、俺はその中で一応「火」に当てはまっている。だが、魔眼はその性質がめちゃくちゃで正直どの属性が適正なのかよく分かっていない俺は、たまたま体質の合っていた右眼は普段から扱いに困っていないかわりに、右眼の方は体質に合っていないらしく上手く制御することができていない。それでも身を滅ぼす程の強大な力を使えてしまうところがこの黙示録の瞳の呪いの怖いところなのだが……
つまり、例えるならロウソクの火だ。
ロウソクの長さが命で、火の強弱が能力の強弱を表す。
日中はそのロウソクが極端に短い代わりに一瞬だけ巨大な爆発のように燃やすことができるが、一瞬で消えてしまう。
月が出ている時はそのロウソクを長くすることできるが、火の強さはその月明かりの量によって左右する。
月が大きければ大きいほど火が強くなるがロウソクは早く溶けてしまい、小さければ小さいほど、火が弱くなる代わりにロウソクは長い時間燃やすことができる。
そして、普段は火の大きさをコントロールすることができないのだが、それを可能にしたのがこの前使った両目の魔眼を開いて互いにリミッターを掛ける方法だ。
右眼の火の量が満月の時でも大きくなりすぎないように右眼で矯正し、同時に右眼の出力を限界まで上げれるよう右眼で全身のサポートをすると言ったものだ。
「能力をむやみに使用できない君にとって義手はとても大事な装備の一つだ。君にそれを渡す代わりに我々の願いを聞いてもらえないだろうか……?」
流石は大統領をやっているだけあって交渉が上手い。
正直全て図星です……はい、喉から手が新しく生えてきそうなほど欲しいです。
と言いかけたのを今度はグッと堪えることができた俺は少し考えてからこう告げた。
「内容によりますが、ひとまずそのお願いとやらの内容を聞かせてもらってもよろしいでしょうか……?」
しっかりその内容を聞いておかないと、安請け合いしてこれ以上自分の首を絞めたくないしな……
過去の失敗……借金とセイナのことをしっかり教訓にしている俺、偉い!と自画自賛しながら返事を待っていると────
ブーブーブーブー
携帯がマナーモードで震える音が部屋に小さく鳴り響いた。
「失礼」
どうやらジェイクの携帯らしい。
一言そう言ってからジェイクが部屋の外に再び出ていったタイミングでベアード大統領はこう告げた。
「頼みごとの内容だが、我々も君と同様ヨルムンガンドを追っている。だが、いくら下っ端を捕らえてもロクな情報が無いのは事実。だから君の持ってきたパソコンとやらで得た情報をぜひ我々にも共有させて欲しいのだ」
「なるほど……」
それくらいならいいですよ。と言いたいところだったが、もし仮にそれで何かのよからぬ情報がアメリカサイドに知れ渡って敵対することがあっても後味が悪い。
だが、この義手はこちらとしてはぜひ貰っておきたいところ。
俺は、一瞬の逡巡の末にこう答えた。
「内容にもよりますが、ロナに判断させた上でなら大丈夫です。その代わり、義手と一緒にできたらさっき話していた神器を自分たちに譲っていただけませんか……?」
「うーん、それはなかなか難しいな……」
そう言ってベアード大統領は頭を抱えた。
折角手に入れた情報になりそうなブツを寄越せと言っているだ。当然の反応だが────
あれ?ダメ元でそうは言った割には思っていたよりもいけそうな感じだな……
100パーセントNOではなく、難しいという彼らしくない曖昧な態度に、割と長い付き合いである俺は直感でそう感じ、さらにこう付け加えた。
「神器で得た情報は必ずアメリカ政府と共有します。それにうちには神器に詳しいエキスパートもいます」
「それは、君と同行していると言っていたあのセイナという少女のことか?」
「はい、彼女に任せれば多少は良い情報を発見できるかもしれません」
ウソ半分ホント半分。確かにセイナは神器の扱いに関しては詳しいが、だからと言って情報を集めれるほどの腕は多分そこまで無い。あくまで神器を回収するための口実だ。
それに情報集めに関しては寧ろロナの方が優れている。なんたって国が隠蔽している隠し王女という超トップシークレットをどんな手段使ったのかは知らないが、見事にぴたりと当てて見せたのだ。
俺のハッタリを聞いたベアード大統領は……よしよし……唸り声も上げずに椅子の背もたれに寄りかかって本気で考えている様子に心の中で俺は少しニヤリとした。
ただし、それがバレないよう険しい顔を作ってベアード大統領が話し出すのを辛抱強く待っていると────
「フォルテ……ちょっと────」
緊張で肌が少しピりつくような張りつめた空気になっていたオーヴァルオフィスに、電話をし終えたジェイクが部屋の扉を開けながら俺に声を掛けてきたが────
「取り込み中か?」
多分俺達の様子の変化を敏感に感じて、ジェイクは気を利かせて要件を言わずにそう聞きなおしてきた。
でかい図体に似合わず、こういう気の回る繊細さは流石CIA長官と言うべきか……全く、どっかの王女様と引きこもり副長官殿は彼の爪の垢を煎じずにそのまま食って欲しいくらいだ。
自分のことは棚に上げといてそう思いつつ、部屋の入り口から大きくはみ出た巨人に向かって俺はこう告げる。
「あぁ……ちょっと待ってくれ、すぐ終わるから」
敢えてすぐという言葉を使ってベアード大統領を急かし、判断を鈍らせようとする。
そのおかげもあってか、ベアード大統領は部屋の扉を開けて入ってきたジェイクと部屋の中央で座った俺を目だけで交互に見てから大きくため息をついた。
「分かった。一時的に貸すと言うことにしておこう」
「ホントですかッ!?ありがとうござい────」
「その代わり、これは個人的な話しなのだが、もう一つお願いを聞いてほしい」
満面の笑みでお礼を言おうとした俺の言葉に少し食い気味でベアード大統領がそう告げた。
「個人的な話し?」
その含みのある言葉に俺は首を傾げた。
「君も知っているかもしれないが、七月に米日英首脳会談で日本を訪れることになっているのだが、その時の護衛をぜひ君にも頼みたい」
おぉ!それなら大歓迎だ!軽く護衛するだけで普段稼げないような額を短時間で稼ぐことができる最高にうまい仕事じゃないか……!
棚から牡丹餅な話しに俺は少しだけ声を弾ませながら────
「ああ、それくらいなら別に構わない、報酬は……」
「無償でお願いしたい」
「あぁ!もちろ……ん?」
無償……?ムショウデオネガイシタイ?
その言葉に混乱した俺が首を大きく傾げている様にベアード大統領がニヤリと表情を歪ませる。
さっき俺をからかっていた時にしていた子供のような笑み、悪いことを考えている時の顔だ。
「神器のレンタル料として無償でボディーガードを引き受けて欲しい。その代わり私が七月に日本を訪れるまでの三か月間はその神器は君に預けよう。これでどうかね……?」
「な、なるほど……」
ベアード大統領の条件を聞いた俺はうんうんと頷きながら冷静を装ってはいたが────
ああああ!!クッソォ~!!
心の中ではメタルコアバンド並みのシャウトを決めていた。
普段だったら多分二つ返事でOKしていたが、俺は現在進行形で大量の借金を抱えているのだ。
そのためには稼げるときに稼いでおきたいのだが、大統領のボディーガードなんて美味しい仕事、タダでやるなんて勿体なすぎるッ……
だけど、ここは我慢だフォルテ……!
俺がここでごねなければ、無事に神器を一つレンタルではあるが回収することができるのだ。
もしかしたらそこから別の神器の情報を得られるかもしれないだぞ。
背に腹は代えられない……
「分かり……ました。ボディーガードやります……はい」
がっくりと肩を落とした俺は、喉の奥からどうにか言葉を絞り出して歯切れ悪くそう答えた。
「交渉成立だ」
フンッとベアード大統領が小さく鼻を鳴らしてそう答えた。
そのしてやった感のような満足したような顔を見た俺は、その時初めて自分が大統領の手のひらで踊らされていたことに気づいた。
多分あの曖昧な態度は、始めからこれが目的だったのだろう。
こちらが欲しい餌をチラつかせ、気づいた時にはこちらに不利な条件を呑まさせる。
さっきも言ったが流石大統領……俺のような素人が下手に交渉なんてするもんじゃないな……
どうやらふっかける相手を俺は間違えたらしい……
その時ふと、前にもこんなことあったなと俺は既視感のようなデジャブような感覚に陥っていた。
ああ、思い出した。
俺がS.Tこと、アメリカ外人特殊作戦部隊に入隊させられた時も、この大統領に上手いこと口車に乗せられたんだったことを思い出した。
やれやれ、全然過去の失敗を教訓にできてねーじゃねーかよ俺……
俺は再び身体を前のめりにさせてベアード大統領に質問した。
が、俺は興奮のあまり、自分の口から思わず出てしまったその質問が悪手であったことにすぐ気づいた。
「その反応から察するに、君はやはり神器について何かしらの知識があるということだね?」
しまった……つい寝耳に水な話しに、まるで知っていて当たり前のように話しを進めていた……
だが、もうそのことを悔やんでも仕方ない。ここまできたらこちらもある程度は隠していたカードを切ったほうが良さそうだな。
と開き直ってから俺はこう言った。
「自分も知ったのは最近で多少ではありますが……そして、自分は訳あってセイナと共にヨルムンガンドの情報の他にも、その神器を探しています。それも、いま話で出たその雷神トールの神器を……」
もしここでポーカーフェイスのポの字もできてない今の俺の姿をセイナが見ていたら、きっとブチギレられながら電撃をくらわされるんだろうな……
頭の片隅でそう苦笑していると、ベアード大統領は「そうか……」と短く答えてから何かを考えるように顎に手を当てながら唸り声をあげていた。
多分向こうもまだ隠しているカードが何枚かあるはずだ。
俺の情報を聞き出すためにそれを切るのか切らないのかベアード大統領は迷っている様子だった。
「大統領、例の物を持ってきました」
ノックしてからガチャッと扉を開けたジェイクが、ビジネスバッグくらいのサイズのジェラルミンケースをその太い電柱のような片腕で軽々と運びながらオーヴァルオフィスに帰ってきた。
「おお、ちょうどナイスタイミングだジェイク君、それを彼に見せてやってくれ」
「はい」
大統領の言葉にジェイクが短く返事してから、そのケースを俺の前にあったテーブルの上に置いた。
「これは……?」
置かれたケースの中身が全く見当つかない俺が首を傾げてそう聞く。
「それは、我々が君にお願いするのに対しての報酬みたいなものだ、確認してくれ」
そう言われて俺が恐る恐るケースの留め具をパチンッと二つ外してから開けると────
人の左腕。いや、それと見間違うほど細部まで作り込まれた義手だ。それも俺が過去に設計し、つい先日ベルゼに壊されたばかりのと同タイプに近い代物だ。
俺はその義手に驚きながら、大統領の方を向いて「触っても?」と目配せすると、ベアード大統領もそれに応えるようにコクリ……と小さく頷いた。
ケースに収まっていた義手を手に取ってから、自分の左腕に装着して軽く動かしてみる。
サイズはぴったりだ。動作も好調、いやむしろ前の奴よりもスムーズに動くような気がする。
「それはロナ君が一つしか義手を持っていない君のためにと、数か月前に空いた時間をコツコツ使って作成した代物だ。確かに君はその蒼き月の瞳で左腕を限定的に生やすこともできるが、それはあくまで能力が使用できる月の出ている夜に限った話。今もこうして君がその蒼き月の瞳を閉じているように、もし使えば魔眼のリミッターが効かずに暴走。それでも触媒である月が出ている状態なら、その月の満ち欠けによって数分から数十分耐えることができるが、月のない時間帯だと強大な力と引き換えにたった一分で触媒不足に陥って死ぬことになる」
以前ベルゼが話していた暴走の話しだ。
俺はこの蒼き月の瞳と体質が合っていないのを無理矢理使っている。
人は生まれながらにして魔力を扱える量に違いがあるように、魔術の性質も異なる。ごくまれにいる特異体質な人間を除けば、基本は四大元素である「火」「水」「土」「風」のどれかに当てはまり、俺はその中で一応「火」に当てはまっている。だが、魔眼はその性質がめちゃくちゃで正直どの属性が適正なのかよく分かっていない俺は、たまたま体質の合っていた右眼は普段から扱いに困っていないかわりに、右眼の方は体質に合っていないらしく上手く制御することができていない。それでも身を滅ぼす程の強大な力を使えてしまうところがこの黙示録の瞳の呪いの怖いところなのだが……
つまり、例えるならロウソクの火だ。
ロウソクの長さが命で、火の強弱が能力の強弱を表す。
日中はそのロウソクが極端に短い代わりに一瞬だけ巨大な爆発のように燃やすことができるが、一瞬で消えてしまう。
月が出ている時はそのロウソクを長くすることできるが、火の強さはその月明かりの量によって左右する。
月が大きければ大きいほど火が強くなるがロウソクは早く溶けてしまい、小さければ小さいほど、火が弱くなる代わりにロウソクは長い時間燃やすことができる。
そして、普段は火の大きさをコントロールすることができないのだが、それを可能にしたのがこの前使った両目の魔眼を開いて互いにリミッターを掛ける方法だ。
右眼の火の量が満月の時でも大きくなりすぎないように右眼で矯正し、同時に右眼の出力を限界まで上げれるよう右眼で全身のサポートをすると言ったものだ。
「能力をむやみに使用できない君にとって義手はとても大事な装備の一つだ。君にそれを渡す代わりに我々の願いを聞いてもらえないだろうか……?」
流石は大統領をやっているだけあって交渉が上手い。
正直全て図星です……はい、喉から手が新しく生えてきそうなほど欲しいです。
と言いかけたのを今度はグッと堪えることができた俺は少し考えてからこう告げた。
「内容によりますが、ひとまずそのお願いとやらの内容を聞かせてもらってもよろしいでしょうか……?」
しっかりその内容を聞いておかないと、安請け合いしてこれ以上自分の首を絞めたくないしな……
過去の失敗……借金とセイナのことをしっかり教訓にしている俺、偉い!と自画自賛しながら返事を待っていると────
ブーブーブーブー
携帯がマナーモードで震える音が部屋に小さく鳴り響いた。
「失礼」
どうやらジェイクの携帯らしい。
一言そう言ってからジェイクが部屋の外に再び出ていったタイミングでベアード大統領はこう告げた。
「頼みごとの内容だが、我々も君と同様ヨルムンガンドを追っている。だが、いくら下っ端を捕らえてもロクな情報が無いのは事実。だから君の持ってきたパソコンとやらで得た情報をぜひ我々にも共有させて欲しいのだ」
「なるほど……」
それくらいならいいですよ。と言いたいところだったが、もし仮にそれで何かのよからぬ情報がアメリカサイドに知れ渡って敵対することがあっても後味が悪い。
だが、この義手はこちらとしてはぜひ貰っておきたいところ。
俺は、一瞬の逡巡の末にこう答えた。
「内容にもよりますが、ロナに判断させた上でなら大丈夫です。その代わり、義手と一緒にできたらさっき話していた神器を自分たちに譲っていただけませんか……?」
「うーん、それはなかなか難しいな……」
そう言ってベアード大統領は頭を抱えた。
折角手に入れた情報になりそうなブツを寄越せと言っているだ。当然の反応だが────
あれ?ダメ元でそうは言った割には思っていたよりもいけそうな感じだな……
100パーセントNOではなく、難しいという彼らしくない曖昧な態度に、割と長い付き合いである俺は直感でそう感じ、さらにこう付け加えた。
「神器で得た情報は必ずアメリカ政府と共有します。それにうちには神器に詳しいエキスパートもいます」
「それは、君と同行していると言っていたあのセイナという少女のことか?」
「はい、彼女に任せれば多少は良い情報を発見できるかもしれません」
ウソ半分ホント半分。確かにセイナは神器の扱いに関しては詳しいが、だからと言って情報を集めれるほどの腕は多分そこまで無い。あくまで神器を回収するための口実だ。
それに情報集めに関しては寧ろロナの方が優れている。なんたって国が隠蔽している隠し王女という超トップシークレットをどんな手段使ったのかは知らないが、見事にぴたりと当てて見せたのだ。
俺のハッタリを聞いたベアード大統領は……よしよし……唸り声も上げずに椅子の背もたれに寄りかかって本気で考えている様子に心の中で俺は少しニヤリとした。
ただし、それがバレないよう険しい顔を作ってベアード大統領が話し出すのを辛抱強く待っていると────
「フォルテ……ちょっと────」
緊張で肌が少しピりつくような張りつめた空気になっていたオーヴァルオフィスに、電話をし終えたジェイクが部屋の扉を開けながら俺に声を掛けてきたが────
「取り込み中か?」
多分俺達の様子の変化を敏感に感じて、ジェイクは気を利かせて要件を言わずにそう聞きなおしてきた。
でかい図体に似合わず、こういう気の回る繊細さは流石CIA長官と言うべきか……全く、どっかの王女様と引きこもり副長官殿は彼の爪の垢を煎じずにそのまま食って欲しいくらいだ。
自分のことは棚に上げといてそう思いつつ、部屋の入り口から大きくはみ出た巨人に向かって俺はこう告げる。
「あぁ……ちょっと待ってくれ、すぐ終わるから」
敢えてすぐという言葉を使ってベアード大統領を急かし、判断を鈍らせようとする。
そのおかげもあってか、ベアード大統領は部屋の扉を開けて入ってきたジェイクと部屋の中央で座った俺を目だけで交互に見てから大きくため息をついた。
「分かった。一時的に貸すと言うことにしておこう」
「ホントですかッ!?ありがとうござい────」
「その代わり、これは個人的な話しなのだが、もう一つお願いを聞いてほしい」
満面の笑みでお礼を言おうとした俺の言葉に少し食い気味でベアード大統領がそう告げた。
「個人的な話し?」
その含みのある言葉に俺は首を傾げた。
「君も知っているかもしれないが、七月に米日英首脳会談で日本を訪れることになっているのだが、その時の護衛をぜひ君にも頼みたい」
おぉ!それなら大歓迎だ!軽く護衛するだけで普段稼げないような額を短時間で稼ぐことができる最高にうまい仕事じゃないか……!
棚から牡丹餅な話しに俺は少しだけ声を弾ませながら────
「ああ、それくらいなら別に構わない、報酬は……」
「無償でお願いしたい」
「あぁ!もちろ……ん?」
無償……?ムショウデオネガイシタイ?
その言葉に混乱した俺が首を大きく傾げている様にベアード大統領がニヤリと表情を歪ませる。
さっき俺をからかっていた時にしていた子供のような笑み、悪いことを考えている時の顔だ。
「神器のレンタル料として無償でボディーガードを引き受けて欲しい。その代わり私が七月に日本を訪れるまでの三か月間はその神器は君に預けよう。これでどうかね……?」
「な、なるほど……」
ベアード大統領の条件を聞いた俺はうんうんと頷きながら冷静を装ってはいたが────
ああああ!!クッソォ~!!
心の中ではメタルコアバンド並みのシャウトを決めていた。
普段だったら多分二つ返事でOKしていたが、俺は現在進行形で大量の借金を抱えているのだ。
そのためには稼げるときに稼いでおきたいのだが、大統領のボディーガードなんて美味しい仕事、タダでやるなんて勿体なすぎるッ……
だけど、ここは我慢だフォルテ……!
俺がここでごねなければ、無事に神器を一つレンタルではあるが回収することができるのだ。
もしかしたらそこから別の神器の情報を得られるかもしれないだぞ。
背に腹は代えられない……
「分かり……ました。ボディーガードやります……はい」
がっくりと肩を落とした俺は、喉の奥からどうにか言葉を絞り出して歯切れ悪くそう答えた。
「交渉成立だ」
フンッとベアード大統領が小さく鼻を鳴らしてそう答えた。
そのしてやった感のような満足したような顔を見た俺は、その時初めて自分が大統領の手のひらで踊らされていたことに気づいた。
多分あの曖昧な態度は、始めからこれが目的だったのだろう。
こちらが欲しい餌をチラつかせ、気づいた時にはこちらに不利な条件を呑まさせる。
さっきも言ったが流石大統領……俺のような素人が下手に交渉なんてするもんじゃないな……
どうやらふっかける相手を俺は間違えたらしい……
その時ふと、前にもこんなことあったなと俺は既視感のようなデジャブような感覚に陥っていた。
ああ、思い出した。
俺がS.Tこと、アメリカ外人特殊作戦部隊に入隊させられた時も、この大統領に上手いこと口車に乗せられたんだったことを思い出した。
やれやれ、全然過去の失敗を教訓にできてねーじゃねーかよ俺……
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