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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》8
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「あークソッ!!もう空港出口を封鎖しにかかってやがるッ!」
入国審査ゲートを抜けて、荷物受取所から右側の税関の方を通り過ぎようとしたアタシ達の前に、アサルトライフルを構えた4人ほどの警備兵達が膝立ちでこちらに狙いを定めているのを確認したフォルテが悪態をついた。
空港利用者の一般人たちがその射線に巻き込まれないよう警備兵達の左右に分かれるようにして逃げていたので、フォルテの後ろを走っていたアタシもそれにすぐ気づいた。
「仕方ないッ!戻るぞッ!」
フォルテはそうアタシに叫んでから素早く180度ターンし、飛行機を降りた時に使ったラウンジの方に向かって走り出した。
「ちょッ!?」
急旋回したフォルテに驚きつつ、アタシもその後ろを何も考えずにとにかく全力でついて行く。
バリバリバリバリッ!!
もうアタシ達の周りには一般客がいないことを良いことに警備兵達がアタシの背後から銃を乱射してきた。
音からして恐らくM4アサルトライフルだ。
いくら防弾性の服を着ているとはいえ、5.56×45mm弾など食らったらひとたまりもない。
アタシは無防備な頭を低くしてフォルテと一緒に入国審査ゲートに入る前に使ったモービルラウンジで一階から二階に走り抜けていく。
「クソッ!!なんでバレたんだッ!?」
けたたましくなる銃弾の嵐の中、フォルテはそれに負けないくらいでかい声で叫びながら空港のラウンジを全力疾走していた。
走ったまま後ろをちらりと振り返ると、追いかけてきた黒人や白人の黒い警備服を着た筋肉ムキムキの男たちがM4アサルトライフルやらグロック17ハンドガンやらをこちらに向けて連射している。
飛んできた銃弾が、空港のラウンジにあったMICHAEL KORSやCOACHなどの有名ブランドの高級カバンやサイフを無残にもズタズタに引き裂いていく。
「ア、アンタの変装が下手すぎるせいでしょッ!!」
アタシはそのフォルテの隣を、自慢の腰まであるロングの金髪ポニーテールをぶんぶん振り回しながら同じように全力疾走していた。
「あれはセイナにも非があるだろッ!!余計なこと言わなければバレなかったのにッ!!」
「誰が見たってあんなの声が出るに決まっているじゃないッ!!それにフォルテ!アンタだって声出てたわよ!!」
「うるせえ!!あれはお前が声を出さなければ────」
バリバリバリバリ!!
フォルテの言葉を激しい銃弾が遮る。
数撃てば当たるなんて言葉は確かにあるけど、それにしても撃ちすぎじゃないッ!?
「大体、なんでアタシまで巻き込まれなきゃいけないのよ~!!」
逸れた弾丸が空港の外を一望できる巨大な窓を何枚もバラバラにしていく中、アタシは涙目になりながら大声で叫んだ。
「泣き言はあとだッ!!とりあえずどこかに隠れないとッ!」
フォルテは片腕で降り注ぐガラスから頭部を守りながら叫んで辺りを見渡した。
だが、身を完全に隠せそうな場所も店も存在していなかった。
どこの店も一度は入ってしまったら最後。殺されるか逮捕されるまで一生そこで籠城しなければならないという文字通りDeadEndでしかなかった。
「どうするのよッ!どこにもそんなとこないわよッ!?」
「仕方ないッ!このままあっちの人のいる方に向かって────」
とフォルテが前方の人混みを指さした瞬間────その正面から新たに別の警備員達が逃げ惑う人たちの間をすり抜けるようにして数人出てきた。
他の空港警備員か?とアタシ思ったけど装備がさっきの警備員達と比べて随分と立派なものを持っていた。
……いや、あれはまさか────
「げぇッ!?何でここにFBIがッ!?」
フォルテがその正体に気づいて顔を引きつらせながら立ち止まった。
肩にFBIの紋章を付けた黒いYシャツ、その上からご丁寧に誰からでも分かりやすいよう「FBI」と黄色いロゴの入った防弾ベストと帽子をかぶったこれまた屈強な男たちが、こちらに向かって光学サイトやフォアグリップなどのアタッチメントでゴテゴテに改造した高級装備のアサルトライフルをこちらに向けてきた。
約10年前にあったアメリカでのテロ事件のあと、世界の警察という単語を口にしたことをきっかけに、その後のワシントンD.C.で行われたG20サミットで今後の魔術やテロに対しての対抗策として「銃に対する規制緩和」及び「FBI捜査官のグローバル化」という何とも無茶な議題が奇跡的に通ってしまったのだ。
当時のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュの巧みな話術と、「銃に関する事件が起きた時は全てFBIの責任で構わない」というかなり大胆な提案のおかげもあってギリギリ通ったものだったけど、そのせいで事件があるごとにFBIが必要以上に首を突っ込むことが各国で多発しているらしい。
そんな出来事もあって最近では世界レベルで銃の規制が甘くなったのだが、FBIは今ではその予算を倍増させ、国で一位二位を争う超大型組織になりつつあるらしい。
そして世間では最近FBI(Federal Bureau of Investigation)のことをWBI(World Bureau of Investigation)と呼ぶ人もいるくらいだ。
と、その超大型組織の人間がアメリカで有名なダレス空港に一人や二人いても別におかしくは無いのだけど……
「どうするのよ!?挟み撃ちにされたじゃないッ!」
立ち止まってしまったフォルテを横にたまたまあった、人の背丈より少し大きい植木や電子看板の間に引き倒してからアタシは半泣きで胸元を掴んで上下に揺さぶった。
まだ相手が犯罪者なら抵抗したけど、今は立場が真逆の状態。幾らアタシでも一般人に銃を向けることはできない。
バリバリバリバリッ!!
銃声がさっきの二倍のデカさになって、電子看板や近くにあったベンチやゴミ箱を穴だらけにしていく。
「まてまて揺するなセイナ!いいか?こういう時こそリラックスリラックス────」
「できるかッ~!!あーもうッ!いっそのこと無抵抗に捕まったほうがいいんじゃないの……?」
こんな時でも呑気にふざけたことを言うフォルテに怒りを通り越して呆れになってきたアタシはあきらめムードでそう呟いた。
「それはダメだ……多分捕まったら二人とも酷い拷問受けたのちに殺される」
「いくらアンタが国際指名手配でもホントにそんなことするの?」
とアタシが呆れ顔でそう聞くと、突然豪雨のように降り注いでいた銃弾が急に止んだ。そして、数瞬してから前方のFBI側の方から拡声器でしゃべる40代くらいの男の声が聞こえてくる。
「出てこいッ!くそったれッ!!もう貴様だということは分かっているぞ反逆者フォルテッ!どの面下げてFBI10大最重要指名手配犯の一人である貴様が!我ら祖国に帰ってきたか知らないが5秒だけやろうッ!!それまでに出てくればそこの仲間ともども命だけは取らないでやるッ!!」
それを聞いたフォルテは肩を竦めて苦笑した。
「な?お前が向こうの立場だったらどうするよ?」
「アタシなら100パーセント出てきたところを二人とも撃ち殺すわ……」
アタシはがっくりと肩を落とした。
「5!!」
そうしているうちにカウントダウンが始まってしまった。
フォルテはそんなの気にすることなく俯いたアタシに静かに呟いた。
「だが安心しろ、逃走経路は見つけたから」
「4!!」
「ホントに?」
「ホントだ、俺を信じろ」
「3!!」
「よし、イギリスの時みたいに背中に乗れ」
「う、うん、分かったわ……」
右手で背中を指したフォルテにアタシがひょいッと乗っかて、片腕しかないフォルテがアタシの身体を固定できないので、恥ずかしい気持ちやそれに対する葛藤を自分の命が掛かっている故仕方ないと何とか言い聞かせながら、全身を背中に密着させるよう両腕と両足で挟み込むような形でしがみついた。
「2!!」
「ホントに大丈夫なのよね?」
「ああ、そのかわり絶対離すなよッ!!」
フォルテがアタシを背負った膝立ちの状態で、右眼の悪魔の紅い瞳を発動させる。
五倍まで高めた身体能力のまま空港の床を蹴って盾にしていた植木や電子看板を飛び出したフォルテが向かった先は────
「ちょッ!?アンタまさか!?」
通路の前と後ろどちらでもない滑走路を一望できるガラス窓が近づいてくる。
バリバリバリバリッ!!
カウントを言い終える前にアタシ達が逃げた方向目掛けてFBIと空港警備員達が一斉に発砲してきた。
「そのまさかさッ!!」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
フォルテがさっき奪った黒いグロック17を、そのダレス空港の滑走路を一望できる巨大なガラスに向けて連射しつつそのまま突っ込んでいく。
そして────
「うおおおおッ!!」
バリンッッ!!
アタシを背負ったままそのガラスに体当たりしたフォルテは空港のラウンジから外に飛び出した。
入国審査ゲートを抜けて、荷物受取所から右側の税関の方を通り過ぎようとしたアタシ達の前に、アサルトライフルを構えた4人ほどの警備兵達が膝立ちでこちらに狙いを定めているのを確認したフォルテが悪態をついた。
空港利用者の一般人たちがその射線に巻き込まれないよう警備兵達の左右に分かれるようにして逃げていたので、フォルテの後ろを走っていたアタシもそれにすぐ気づいた。
「仕方ないッ!戻るぞッ!」
フォルテはそうアタシに叫んでから素早く180度ターンし、飛行機を降りた時に使ったラウンジの方に向かって走り出した。
「ちょッ!?」
急旋回したフォルテに驚きつつ、アタシもその後ろを何も考えずにとにかく全力でついて行く。
バリバリバリバリッ!!
もうアタシ達の周りには一般客がいないことを良いことに警備兵達がアタシの背後から銃を乱射してきた。
音からして恐らくM4アサルトライフルだ。
いくら防弾性の服を着ているとはいえ、5.56×45mm弾など食らったらひとたまりもない。
アタシは無防備な頭を低くしてフォルテと一緒に入国審査ゲートに入る前に使ったモービルラウンジで一階から二階に走り抜けていく。
「クソッ!!なんでバレたんだッ!?」
けたたましくなる銃弾の嵐の中、フォルテはそれに負けないくらいでかい声で叫びながら空港のラウンジを全力疾走していた。
走ったまま後ろをちらりと振り返ると、追いかけてきた黒人や白人の黒い警備服を着た筋肉ムキムキの男たちがM4アサルトライフルやらグロック17ハンドガンやらをこちらに向けて連射している。
飛んできた銃弾が、空港のラウンジにあったMICHAEL KORSやCOACHなどの有名ブランドの高級カバンやサイフを無残にもズタズタに引き裂いていく。
「ア、アンタの変装が下手すぎるせいでしょッ!!」
アタシはそのフォルテの隣を、自慢の腰まであるロングの金髪ポニーテールをぶんぶん振り回しながら同じように全力疾走していた。
「あれはセイナにも非があるだろッ!!余計なこと言わなければバレなかったのにッ!!」
「誰が見たってあんなの声が出るに決まっているじゃないッ!!それにフォルテ!アンタだって声出てたわよ!!」
「うるせえ!!あれはお前が声を出さなければ────」
バリバリバリバリ!!
フォルテの言葉を激しい銃弾が遮る。
数撃てば当たるなんて言葉は確かにあるけど、それにしても撃ちすぎじゃないッ!?
「大体、なんでアタシまで巻き込まれなきゃいけないのよ~!!」
逸れた弾丸が空港の外を一望できる巨大な窓を何枚もバラバラにしていく中、アタシは涙目になりながら大声で叫んだ。
「泣き言はあとだッ!!とりあえずどこかに隠れないとッ!」
フォルテは片腕で降り注ぐガラスから頭部を守りながら叫んで辺りを見渡した。
だが、身を完全に隠せそうな場所も店も存在していなかった。
どこの店も一度は入ってしまったら最後。殺されるか逮捕されるまで一生そこで籠城しなければならないという文字通りDeadEndでしかなかった。
「どうするのよッ!どこにもそんなとこないわよッ!?」
「仕方ないッ!このままあっちの人のいる方に向かって────」
とフォルテが前方の人混みを指さした瞬間────その正面から新たに別の警備員達が逃げ惑う人たちの間をすり抜けるようにして数人出てきた。
他の空港警備員か?とアタシ思ったけど装備がさっきの警備員達と比べて随分と立派なものを持っていた。
……いや、あれはまさか────
「げぇッ!?何でここにFBIがッ!?」
フォルテがその正体に気づいて顔を引きつらせながら立ち止まった。
肩にFBIの紋章を付けた黒いYシャツ、その上からご丁寧に誰からでも分かりやすいよう「FBI」と黄色いロゴの入った防弾ベストと帽子をかぶったこれまた屈強な男たちが、こちらに向かって光学サイトやフォアグリップなどのアタッチメントでゴテゴテに改造した高級装備のアサルトライフルをこちらに向けてきた。
約10年前にあったアメリカでのテロ事件のあと、世界の警察という単語を口にしたことをきっかけに、その後のワシントンD.C.で行われたG20サミットで今後の魔術やテロに対しての対抗策として「銃に対する規制緩和」及び「FBI捜査官のグローバル化」という何とも無茶な議題が奇跡的に通ってしまったのだ。
当時のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュの巧みな話術と、「銃に関する事件が起きた時は全てFBIの責任で構わない」というかなり大胆な提案のおかげもあってギリギリ通ったものだったけど、そのせいで事件があるごとにFBIが必要以上に首を突っ込むことが各国で多発しているらしい。
そんな出来事もあって最近では世界レベルで銃の規制が甘くなったのだが、FBIは今ではその予算を倍増させ、国で一位二位を争う超大型組織になりつつあるらしい。
そして世間では最近FBI(Federal Bureau of Investigation)のことをWBI(World Bureau of Investigation)と呼ぶ人もいるくらいだ。
と、その超大型組織の人間がアメリカで有名なダレス空港に一人や二人いても別におかしくは無いのだけど……
「どうするのよ!?挟み撃ちにされたじゃないッ!」
立ち止まってしまったフォルテを横にたまたまあった、人の背丈より少し大きい植木や電子看板の間に引き倒してからアタシは半泣きで胸元を掴んで上下に揺さぶった。
まだ相手が犯罪者なら抵抗したけど、今は立場が真逆の状態。幾らアタシでも一般人に銃を向けることはできない。
バリバリバリバリッ!!
銃声がさっきの二倍のデカさになって、電子看板や近くにあったベンチやゴミ箱を穴だらけにしていく。
「まてまて揺するなセイナ!いいか?こういう時こそリラックスリラックス────」
「できるかッ~!!あーもうッ!いっそのこと無抵抗に捕まったほうがいいんじゃないの……?」
こんな時でも呑気にふざけたことを言うフォルテに怒りを通り越して呆れになってきたアタシはあきらめムードでそう呟いた。
「それはダメだ……多分捕まったら二人とも酷い拷問受けたのちに殺される」
「いくらアンタが国際指名手配でもホントにそんなことするの?」
とアタシが呆れ顔でそう聞くと、突然豪雨のように降り注いでいた銃弾が急に止んだ。そして、数瞬してから前方のFBI側の方から拡声器でしゃべる40代くらいの男の声が聞こえてくる。
「出てこいッ!くそったれッ!!もう貴様だということは分かっているぞ反逆者フォルテッ!どの面下げてFBI10大最重要指名手配犯の一人である貴様が!我ら祖国に帰ってきたか知らないが5秒だけやろうッ!!それまでに出てくればそこの仲間ともども命だけは取らないでやるッ!!」
それを聞いたフォルテは肩を竦めて苦笑した。
「な?お前が向こうの立場だったらどうするよ?」
「アタシなら100パーセント出てきたところを二人とも撃ち殺すわ……」
アタシはがっくりと肩を落とした。
「5!!」
そうしているうちにカウントダウンが始まってしまった。
フォルテはそんなの気にすることなく俯いたアタシに静かに呟いた。
「だが安心しろ、逃走経路は見つけたから」
「4!!」
「ホントに?」
「ホントだ、俺を信じろ」
「3!!」
「よし、イギリスの時みたいに背中に乗れ」
「う、うん、分かったわ……」
右手で背中を指したフォルテにアタシがひょいッと乗っかて、片腕しかないフォルテがアタシの身体を固定できないので、恥ずかしい気持ちやそれに対する葛藤を自分の命が掛かっている故仕方ないと何とか言い聞かせながら、全身を背中に密着させるよう両腕と両足で挟み込むような形でしがみついた。
「2!!」
「ホントに大丈夫なのよね?」
「ああ、そのかわり絶対離すなよッ!!」
フォルテがアタシを背負った膝立ちの状態で、右眼の悪魔の紅い瞳を発動させる。
五倍まで高めた身体能力のまま空港の床を蹴って盾にしていた植木や電子看板を飛び出したフォルテが向かった先は────
「ちょッ!?アンタまさか!?」
通路の前と後ろどちらでもない滑走路を一望できるガラス窓が近づいてくる。
バリバリバリバリッ!!
カウントを言い終える前にアタシ達が逃げた方向目掛けてFBIと空港警備員達が一斉に発砲してきた。
「そのまさかさッ!!」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
フォルテがさっき奪った黒いグロック17を、そのダレス空港の滑走路を一望できる巨大なガラスに向けて連射しつつそのまま突っ込んでいく。
そして────
「うおおおおッ!!」
バリンッッ!!
アタシを背負ったままそのガラスに体当たりしたフォルテは空港のラウンジから外に飛び出した。
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