50 / 361
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》2
しおりを挟む
今日の天候はいつにも増して快晴。
「こんな時は自宅の裏の山の中でピクニックでもしたいな…」
俺は青いベンチに身体を預けたまま上を見上げてポツリと呟いた。
裏山の山頂付近まで汗を流しながらも草木の匂いや鳥のさえずりなんかを感じながら登り、そこから港町と広大な太平洋の海を見下ろしながら、照り付ける日差しと風を感じてピクニックシートでも敷いた地面に座っりそのままサンドウィッチでも食べたり昼寝でもしていたい。
だが、俺を照り付けているのは太陽ではなく白い天井についたLED照明。正確に言うと港町にある射撃訓練場の地下にある俺の専用射撃レーンの休憩用に備え付けてあった青いベンチだ。鼻腔を刺激する匂いも草木のものではなく、嗅ぎなれた火薬の臭いだ。
全く、せっかく天気のいい日だというのに、まさか地下で硝煙臭いを嗅がされるとは思わなかったぜ……
まあ、それもこれも付き合うとしまった自分が悪いんだが…
というのも数時間前。
「新しい銃が欲しい?」
港町の表市場で自宅修復用の材料を買い漁っている中、セイナの言葉に俺が聞き返した。
「うん、Desert Eagleは奴らに盗まれちゃったから新しい銃を用意して欲しかったのよね……」
俺の後ろを親鳥についてくるヒヨコのようにテクテクとついてきていたセイナは少し俯いてから悔しそうにそう答えた。
さっきまでは多種多様なお店の数々、肉、野菜、魚などの食品系や衣類や生活消耗品などの雑貨系などの様々なお店に目を光らせ────
「あれは何?」
「これはなに?」
と興味津々だったその姿は普段のキリっとした凛々しい態度とは違い、どこにでもいるような普通の17歳の少女そのものだった。
「あれは朝に釣ったアンコウを売っているんだ。身体が滑りやすいから捌きやすいようにああやって吊るしてあるんだ」
「これはたこ焼きっていう日本の大阪って地域で生まれた小麦粉の生地にタコと薬味を入れて焼いた食い物だ」
と俺はセイナの様々な質問に対して律義に全部答えてあげていた。
本人曰くこの港町の市場にお店目的で来たのは今日が初めてらしく、イギリス育ちのお嬢様からしたら全てが新鮮に感じるのだろう。
だが、今はその雰囲気から一変してその表情は暗いものになってしまっていた。
セイナの言う奴らとはベルゼ達のことで、セイナが廃工場で捕まった時に愛銃のDesert Eagleと神器グングニルを連中に押収されていたのだが、逃走した際に銃をそのまま盗まれたらしく、廃工場内を探したが見つからなかったらしい。
幸い盗まれたら一番ヤバい神器グングニルはセイナの機転で何とか盗まれなくて済んだのだが……
それでも自分の装備が盗まれるということは、自分が命を預けているものを他者に奪われたということだ。軍人や戦闘を生業としている人からしたらこれ以上の屈辱は無いだろう。
だからセイナがそういった表情をするのは分からなくもない。
その時ふと俺は銃を盗まれた件とは別に、この喜怒哀楽の激しい少女に対してあることを考えていた。
セイナはこれまでどのような生活を送ってきたのだろうか?
本人や実の母であるエリザベス三世から聞いた話しでは、生まれてすぐに軍隊に入って戦闘技術や勉学を叩き込まれてきたとは聞いていたが、それ以外にも王室などで必要な作法や礼儀もしっかりしている。
だがその反面、学校などには通ったことが無いせいか、どうも人付き合いが苦手な節がある。
最初の出会った訓練小隊の時やエリザベス三世の話しでそれは実証されてしまっている。
それと合わせてセイナが一番欠けていると感じるのは「常識」だ。
家電系の電子機器の扱い方、洗濯機や電子レンジなどの使い方が全く分からなかったり、なにか気に入らないことがあると直ぐに人を電撃を纏った状態で追いかけまわすなど例を挙げるとキリがないのだが、その中でも一番気になっているのは、なんでわざわざ一緒の空間で生活しているのかということだ。
いくらパートナーと言っても必ず同じ空間で過ごす必要はない。
人気のお笑い芸人のコンビでも一緒に生活しているのはごく僅かだろう。
ましてや俺たちは男と女の異性同士、カップルでもないなら一緒に生活する必要は皆無である。
俺は初めてセイナが丘の上の自宅に住むといった時、渋々家を出ていこうとしたのだが。
「なんで家主が出ていく必要があるの?」
といって引き止められてしまい、結局そのまま一つ屋根の下一緒に生活する羽目になってしまった。
それからセイナは我が物顔で家に住んでいるのだが、正直こっちはたまったもんじゃない。
魔眼の影響で不老になった俺は今年92歳になるのだが、見た目は魔眼を手に入れた19歳の時から変わっていない。そして見た目だけでなく精神も19歳の時から成長しない呪いが掛かっていて、歳は取ってはいるが見た目と一緒で中身の方もそこら辺の思春期の青年と大して変わらないのだ。
つまり、今の俺が置かれている状況は、高校生や大学生の一人暮らしの空間に一人のとびきり超絶美少女が突然押しかけてきて同居しているの同じだ。しかもその少女は男に対して全くの無防備なのだ。
だから俺はセイナに対してかなり気を遣って生活をしている。
洗濯物を分けたり、風呂は俺があとから入ったり、セイナが使っている部屋にはなるべく入らないなど色々な面で気を遣っているのだが、本人は人付き合いが苦手なせいで俺が普段どれだけ気を遣っているかなどおそらく気付いてないだろうけどな。
つーかやってることが思春期の娘に対してのお父さんと変わりない気がする。
とまあだいぶ話が逸れた気もするが、そんなこんなで軍隊育ちで常識のないセイナがこれまでどんな生活を送ってきたのか少しだけ気になった気持ちを頭の片隅に追いやってから俺は銃の件に対しての返答する。
「分かった。だけど、市場でも一応銃は売っているけど、正直買って直ぐに使えるほど状態の良いものを扱っている店は少ない。だからここで買うよりも射撃場に整備されている俺の私物の中から先に選んだ方が良いだろう。その前にあと何件か回りたいところがあるから先にそっちに行ってからでもいいな?」
「うん、分かった」
と言って少し歩いたところで急にセイナが立ち止まった。
なんかあったのか?
それにすぐ気づいた俺が市場の人混みの中を振り返ってセイナを見ると何かを興味深そうに凝視していた。
視線の先に眼をやると────
どこにでもあるような屋台式のソフトクリーム店があった。
「食べたいのか?」
突っ立ったままのセイナに声を掛けるとセイナはハッとしたような表情になってから慌てたようにそれを否定する。
「べ、別に違うわよ!?あんな子供じみた食べ物にアタシが興味なんて────」
「じゃあ俺が一人で買って食べても文句言わないな?」
と言うとセイナはガーンとでも効果音が聞こえてきそうなほどに俺のことを残酷な物でも見るかのような絶望した表情をしたまま何かを訴えるかのように瞳を上目遣いにして見上げてきた。
ほんと喜怒哀楽が激しい奴だな。
よく見るとブルーサファイアの瞳はウルウルと少し潤んでいて、食いしばった口元からは聞き取れないくらい弱弱しい声で「ぅぅぅ」という唸り声が聞こえてきた。
そのいろいろな感情が入り混じっておかしくなった表情に俺は思わず「ぶっ」と吹き出してしまった。
ほんと分かりやすいやつだな。
「冗談だよ、ちょっとここで待っとけ」
全く、そんなに食いたいなら素直に言えばいいのに。
そう思いながら背中から聞こえるセイナの制止の声を無視して屋台式の店の前まで来た俺は、店主の初老のおじさんに話しかける。
「よう、おじさん久しぶり!」
「おっ!?フォルテさんじゃねーか!今日は何にするんだい?」
たまにここのソフトクリームを買うことから実は知り合いの白髪交じりの初老のおじさん。
そのおじさんに俺はメニューを見ずに注文をした。
「ソフトクリーム二つ、味はバニラで」
「あいよ~それにしても二つも注文するなんて珍しいじゃないか?」
「ああ、今日は連れがいるんだ」
作業しながらそう聞いてきたおじさんに俺は右手の親指で後方を指しながらそう言うと、おじさんは俺の後ろに立った少女を見てから少し目を丸くした。
「おや?誰かと思ったら妖精じゃないか」
「妖精?」
初老のおじさんの言葉に俺は首を傾げながら聞き返した。
「ああ、この港町はなにかと新顔が目立つが、金髪碧眼の少女なんて特に目立つようなヤツが現れるようになったってことで、誰かがそいつのことを妖精って勝手に呼んでいたんだが、まさかフォルテさんの知り合いだったとはね……なにか訳アリかい?」
「まあ、詳しくは話せないけどそんなところさ、はいこれお金」
と俺が小銭を右手に握りしめて差し出すと初老のおじさんは軽く微笑んでから。
「いいよ、今日はサービスしといてやるから彼女さんにこいつを渡してやんな」
と言いながら二つのバニラソフトクリームを渡してきた。
「いいのか?」
「ああ、この街に来たことへのささやかながら歓迎の証さ」
「そうか、じゃあお言葉に甘えてありがたく貰っとくよ。その代わり今度うちの店来た時は何か一杯奢るよ」
そう言った俺におじさんが「いいよいいよ気にすんなって」という声を聞きながらソフトクリーム店をあとにした。
「ほら、おじさんの奢りだ」
そう言って俺がソフトクリームを差し出すとセイナは少しためらってからそれを手に取った。
「あ、ありがとうフォルテおじさん」
「いやセイナ、おじさんって俺のことじゃないからな?」
おじさんを勘違いしたセイナは小さい声で歯切れ悪くお礼を言ってきたので、俺はそれを否定しながら首でソフトクリーム店のおじさんの方をくいッと向いた。
セイナが勘違いに気づいて少し離れたソフトクリーム店のおじさんにペコッとお辞儀をすると、それにおじさんは片手を少し上げて反応した。
それからセイナは何故か一口も食べずにジッとソフトクリームを眺めたまま難しい顔をしていた。
「どうした?溶けないうちに食えよ」
「わ、分かってるわよ!急かさないでよ!今集中しているだから……」
集中ってソフトクリームを食うのに必要か?
と思ったが俺はその時セイナが何故そうしているのか理由に気づいてしまった。
「セイナ、お前まさか食い方が分からないのか?」
「そ、そうよ悪い?映像で見たことあるけど実物を前にするのは初めてよ」
なるほどな。軍人兼王女様には関わることのない庶民の食い物だもんな。食ったことなくてもおかしくはない。
「はあ、ソフトクリームなんてこうやって適当に食えばいいんだよ」
と言いながら俺が舌でソフトクリームを食べて手本を見せてやると、セイナも恐る恐る舌を伸ばしてから。
ペロッ
一口舐めてみた。
ブルーサファイアの瞳がパチパチと大きく動いてから。
「美味しい」
と一言口から漏れた言葉に続けてペロペロと上手そうにソフトクリームを食べていく。
その姿はやはり、さっき見せたようなどこにでもいる17歳の少女そのものだった。
もしかしたらセイナは普段、神の加護を扱える数少ない人物としてその責任感から自分を真面目な人間として演じているのかもしれないと感じた。
強い戦闘力や大人顔負けの度胸で勘違いしているだけで、本当はそこらの17歳の少女と何ら変わらないのかもしれない。
と俺も自分のソフトクリームを食べながらそう思っていた。
「こんな時は自宅の裏の山の中でピクニックでもしたいな…」
俺は青いベンチに身体を預けたまま上を見上げてポツリと呟いた。
裏山の山頂付近まで汗を流しながらも草木の匂いや鳥のさえずりなんかを感じながら登り、そこから港町と広大な太平洋の海を見下ろしながら、照り付ける日差しと風を感じてピクニックシートでも敷いた地面に座っりそのままサンドウィッチでも食べたり昼寝でもしていたい。
だが、俺を照り付けているのは太陽ではなく白い天井についたLED照明。正確に言うと港町にある射撃訓練場の地下にある俺の専用射撃レーンの休憩用に備え付けてあった青いベンチだ。鼻腔を刺激する匂いも草木のものではなく、嗅ぎなれた火薬の臭いだ。
全く、せっかく天気のいい日だというのに、まさか地下で硝煙臭いを嗅がされるとは思わなかったぜ……
まあ、それもこれも付き合うとしまった自分が悪いんだが…
というのも数時間前。
「新しい銃が欲しい?」
港町の表市場で自宅修復用の材料を買い漁っている中、セイナの言葉に俺が聞き返した。
「うん、Desert Eagleは奴らに盗まれちゃったから新しい銃を用意して欲しかったのよね……」
俺の後ろを親鳥についてくるヒヨコのようにテクテクとついてきていたセイナは少し俯いてから悔しそうにそう答えた。
さっきまでは多種多様なお店の数々、肉、野菜、魚などの食品系や衣類や生活消耗品などの雑貨系などの様々なお店に目を光らせ────
「あれは何?」
「これはなに?」
と興味津々だったその姿は普段のキリっとした凛々しい態度とは違い、どこにでもいるような普通の17歳の少女そのものだった。
「あれは朝に釣ったアンコウを売っているんだ。身体が滑りやすいから捌きやすいようにああやって吊るしてあるんだ」
「これはたこ焼きっていう日本の大阪って地域で生まれた小麦粉の生地にタコと薬味を入れて焼いた食い物だ」
と俺はセイナの様々な質問に対して律義に全部答えてあげていた。
本人曰くこの港町の市場にお店目的で来たのは今日が初めてらしく、イギリス育ちのお嬢様からしたら全てが新鮮に感じるのだろう。
だが、今はその雰囲気から一変してその表情は暗いものになってしまっていた。
セイナの言う奴らとはベルゼ達のことで、セイナが廃工場で捕まった時に愛銃のDesert Eagleと神器グングニルを連中に押収されていたのだが、逃走した際に銃をそのまま盗まれたらしく、廃工場内を探したが見つからなかったらしい。
幸い盗まれたら一番ヤバい神器グングニルはセイナの機転で何とか盗まれなくて済んだのだが……
それでも自分の装備が盗まれるということは、自分が命を預けているものを他者に奪われたということだ。軍人や戦闘を生業としている人からしたらこれ以上の屈辱は無いだろう。
だからセイナがそういった表情をするのは分からなくもない。
その時ふと俺は銃を盗まれた件とは別に、この喜怒哀楽の激しい少女に対してあることを考えていた。
セイナはこれまでどのような生活を送ってきたのだろうか?
本人や実の母であるエリザベス三世から聞いた話しでは、生まれてすぐに軍隊に入って戦闘技術や勉学を叩き込まれてきたとは聞いていたが、それ以外にも王室などで必要な作法や礼儀もしっかりしている。
だがその反面、学校などには通ったことが無いせいか、どうも人付き合いが苦手な節がある。
最初の出会った訓練小隊の時やエリザベス三世の話しでそれは実証されてしまっている。
それと合わせてセイナが一番欠けていると感じるのは「常識」だ。
家電系の電子機器の扱い方、洗濯機や電子レンジなどの使い方が全く分からなかったり、なにか気に入らないことがあると直ぐに人を電撃を纏った状態で追いかけまわすなど例を挙げるとキリがないのだが、その中でも一番気になっているのは、なんでわざわざ一緒の空間で生活しているのかということだ。
いくらパートナーと言っても必ず同じ空間で過ごす必要はない。
人気のお笑い芸人のコンビでも一緒に生活しているのはごく僅かだろう。
ましてや俺たちは男と女の異性同士、カップルでもないなら一緒に生活する必要は皆無である。
俺は初めてセイナが丘の上の自宅に住むといった時、渋々家を出ていこうとしたのだが。
「なんで家主が出ていく必要があるの?」
といって引き止められてしまい、結局そのまま一つ屋根の下一緒に生活する羽目になってしまった。
それからセイナは我が物顔で家に住んでいるのだが、正直こっちはたまったもんじゃない。
魔眼の影響で不老になった俺は今年92歳になるのだが、見た目は魔眼を手に入れた19歳の時から変わっていない。そして見た目だけでなく精神も19歳の時から成長しない呪いが掛かっていて、歳は取ってはいるが見た目と一緒で中身の方もそこら辺の思春期の青年と大して変わらないのだ。
つまり、今の俺が置かれている状況は、高校生や大学生の一人暮らしの空間に一人のとびきり超絶美少女が突然押しかけてきて同居しているの同じだ。しかもその少女は男に対して全くの無防備なのだ。
だから俺はセイナに対してかなり気を遣って生活をしている。
洗濯物を分けたり、風呂は俺があとから入ったり、セイナが使っている部屋にはなるべく入らないなど色々な面で気を遣っているのだが、本人は人付き合いが苦手なせいで俺が普段どれだけ気を遣っているかなどおそらく気付いてないだろうけどな。
つーかやってることが思春期の娘に対してのお父さんと変わりない気がする。
とまあだいぶ話が逸れた気もするが、そんなこんなで軍隊育ちで常識のないセイナがこれまでどんな生活を送ってきたのか少しだけ気になった気持ちを頭の片隅に追いやってから俺は銃の件に対しての返答する。
「分かった。だけど、市場でも一応銃は売っているけど、正直買って直ぐに使えるほど状態の良いものを扱っている店は少ない。だからここで買うよりも射撃場に整備されている俺の私物の中から先に選んだ方が良いだろう。その前にあと何件か回りたいところがあるから先にそっちに行ってからでもいいな?」
「うん、分かった」
と言って少し歩いたところで急にセイナが立ち止まった。
なんかあったのか?
それにすぐ気づいた俺が市場の人混みの中を振り返ってセイナを見ると何かを興味深そうに凝視していた。
視線の先に眼をやると────
どこにでもあるような屋台式のソフトクリーム店があった。
「食べたいのか?」
突っ立ったままのセイナに声を掛けるとセイナはハッとしたような表情になってから慌てたようにそれを否定する。
「べ、別に違うわよ!?あんな子供じみた食べ物にアタシが興味なんて────」
「じゃあ俺が一人で買って食べても文句言わないな?」
と言うとセイナはガーンとでも効果音が聞こえてきそうなほどに俺のことを残酷な物でも見るかのような絶望した表情をしたまま何かを訴えるかのように瞳を上目遣いにして見上げてきた。
ほんと喜怒哀楽が激しい奴だな。
よく見るとブルーサファイアの瞳はウルウルと少し潤んでいて、食いしばった口元からは聞き取れないくらい弱弱しい声で「ぅぅぅ」という唸り声が聞こえてきた。
そのいろいろな感情が入り混じっておかしくなった表情に俺は思わず「ぶっ」と吹き出してしまった。
ほんと分かりやすいやつだな。
「冗談だよ、ちょっとここで待っとけ」
全く、そんなに食いたいなら素直に言えばいいのに。
そう思いながら背中から聞こえるセイナの制止の声を無視して屋台式の店の前まで来た俺は、店主の初老のおじさんに話しかける。
「よう、おじさん久しぶり!」
「おっ!?フォルテさんじゃねーか!今日は何にするんだい?」
たまにここのソフトクリームを買うことから実は知り合いの白髪交じりの初老のおじさん。
そのおじさんに俺はメニューを見ずに注文をした。
「ソフトクリーム二つ、味はバニラで」
「あいよ~それにしても二つも注文するなんて珍しいじゃないか?」
「ああ、今日は連れがいるんだ」
作業しながらそう聞いてきたおじさんに俺は右手の親指で後方を指しながらそう言うと、おじさんは俺の後ろに立った少女を見てから少し目を丸くした。
「おや?誰かと思ったら妖精じゃないか」
「妖精?」
初老のおじさんの言葉に俺は首を傾げながら聞き返した。
「ああ、この港町はなにかと新顔が目立つが、金髪碧眼の少女なんて特に目立つようなヤツが現れるようになったってことで、誰かがそいつのことを妖精って勝手に呼んでいたんだが、まさかフォルテさんの知り合いだったとはね……なにか訳アリかい?」
「まあ、詳しくは話せないけどそんなところさ、はいこれお金」
と俺が小銭を右手に握りしめて差し出すと初老のおじさんは軽く微笑んでから。
「いいよ、今日はサービスしといてやるから彼女さんにこいつを渡してやんな」
と言いながら二つのバニラソフトクリームを渡してきた。
「いいのか?」
「ああ、この街に来たことへのささやかながら歓迎の証さ」
「そうか、じゃあお言葉に甘えてありがたく貰っとくよ。その代わり今度うちの店来た時は何か一杯奢るよ」
そう言った俺におじさんが「いいよいいよ気にすんなって」という声を聞きながらソフトクリーム店をあとにした。
「ほら、おじさんの奢りだ」
そう言って俺がソフトクリームを差し出すとセイナは少しためらってからそれを手に取った。
「あ、ありがとうフォルテおじさん」
「いやセイナ、おじさんって俺のことじゃないからな?」
おじさんを勘違いしたセイナは小さい声で歯切れ悪くお礼を言ってきたので、俺はそれを否定しながら首でソフトクリーム店のおじさんの方をくいッと向いた。
セイナが勘違いに気づいて少し離れたソフトクリーム店のおじさんにペコッとお辞儀をすると、それにおじさんは片手を少し上げて反応した。
それからセイナは何故か一口も食べずにジッとソフトクリームを眺めたまま難しい顔をしていた。
「どうした?溶けないうちに食えよ」
「わ、分かってるわよ!急かさないでよ!今集中しているだから……」
集中ってソフトクリームを食うのに必要か?
と思ったが俺はその時セイナが何故そうしているのか理由に気づいてしまった。
「セイナ、お前まさか食い方が分からないのか?」
「そ、そうよ悪い?映像で見たことあるけど実物を前にするのは初めてよ」
なるほどな。軍人兼王女様には関わることのない庶民の食い物だもんな。食ったことなくてもおかしくはない。
「はあ、ソフトクリームなんてこうやって適当に食えばいいんだよ」
と言いながら俺が舌でソフトクリームを食べて手本を見せてやると、セイナも恐る恐る舌を伸ばしてから。
ペロッ
一口舐めてみた。
ブルーサファイアの瞳がパチパチと大きく動いてから。
「美味しい」
と一言口から漏れた言葉に続けてペロペロと上手そうにソフトクリームを食べていく。
その姿はやはり、さっき見せたようなどこにでもいる17歳の少女そのものだった。
もしかしたらセイナは普段、神の加護を扱える数少ない人物としてその責任感から自分を真面目な人間として演じているのかもしれないと感じた。
強い戦闘力や大人顔負けの度胸で勘違いしているだけで、本当はそこらの17歳の少女と何ら変わらないのかもしれない。
と俺も自分のソフトクリームを食べながらそう思っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる