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紫電の王《バイオレットブリッツ》

紫電の王《バイオレットブリッツ》23

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「はぁ…はぁ…クソッ…」
 撃ち落とした二つ目のドローンが地面でメラメラと燃えている中、俺の目の前で黄土色のTシャツとだぼだぼのスウェットを着た中国人のデブが、荒れた呼吸で肩を揺らしながらそう吐き捨てた。全身を泥だらけにしながら玉のような汗を流していたそのデブは、顔につけていた暗視スコープナイトビジョンの二つあるレンズの片方が割れた状態になっていて、垂れさがった右の二の腕から流れ出した血は指先まで滴っており、地面に小さな赤い血溜まりを作っていた。さっき俺のHK45の放った.45ACP弾が貫いた場所だ。
「全く、手こずらせやがって…」
 俺は息切れ一つせずにそう呟く。さっきは50mはあった坂道も残すところ5m。だが、約束の時刻まであと2分30秒しかない。
 本当はもう少し早く済むはずだったんだけどな…
 どうやら、まだ身体が久々に使った5倍以上の感覚に慣れていないらしい…予定よりも30秒以上オーバーだ。
「はぁぁああ!!」
 撃たれた傷を抑えようともせずに、左腕を顔の位置で構えたまま、果敢かかんにもデブはこちらに向かってきた。左腕の鋭い正拳突きが俺の胸元に向かって放たれる。俺はそれを一切避ける素振そぶりを見せずにせず胸で受けた。
「なッ!?」
 デブの表情が驚愕と絶望のものに染まる。
 満身創痍なのにもかかわらず放たれたその達人級の見事な正拳突きは俺の胸元にしっかりと命中した。
 手応えもあったのだろう。それだけに何事もなかったかのように立っている俺の姿に驚いたといった様子だった。
 単に威力が通常時より落ちているという原因もあったが、それでも一般人がくらえば絶対に立つことができない一撃を俺は悠々と受け止めて見せたのだ。
 七倍強化しているからこそできる荒業ではあるけどな。
「クッ!!」
 打撃が有効でないと判断したデブはすぐに左腕を引いて、人差し指と中指を立てて左手をチョキの形にした。
 恐らく身体の柔らかい場所を狙っての攻撃に切り替えたのだろう。
 俺は目潰しサミングされる前に右足を無造作に横なぎに払った。
 右足はデブのわき腹に直撃し、ミシミシと音を立てながら100㎏以上の巨体が宙に浮き、俺の左側へと吹っ飛んでいった。
「がはッ!!」
 そのまま3mくらい離れた木の幹に背中を激突し、地面に落下したデブはそのまま動かなくなった。
 常人には絶対にできない威力の蹴りを放ったにもかかわらず、俺は右足を全く痛めていなかった。
 100㎏の巨体でも強化した身体の感覚としては少し大きめのバランスボール蹴ったくらいのものだった。
「ザイアッ!?」
 俺の後方の坂下、丁度さっき俺のいた場所と入れ替わるような位置で灰色のウェーブがかかったロングの髪を持つひょろがりノッポのロシア人が吹き飛ばされた仲間の名前を叫びつつ何かをこちらに向かって投擲してきた。
 軍人時代に何度も聞いたことある安全レバーの外れる音、ヤクザ狩りの時にも聞いたそれは俺の背中で爆発した。
 M67破片手榴弾アップルが俺の少し後ろの空中で爆発した。手榴弾内部に含まれる硬質鉄線が飛び散り、爆発地点から5m範囲内に死の嵐を巻き起こした。おそらくヒューズか雷管でも改造してあったのだろう。本来なら安全レバーが外れてから、ストライカー、信管、ヒューズ、雷管と火がついていき、爆発するのに5秒はかかるのだが、わずか3秒で爆発したそれは近くにあった草木を傷つけ、抉った地面からは土煙が舞った。
「やったか!?」
 ノッポは肩で息をしながらそう呟いた。
「なッ!?」
 爆風で巻き上げられた土煙が晴れた先に何事もなかったかのように坂の上から見下ろす俺を見てノッポは驚愕の声を上げた。
 爆発した場所から5m範囲内の木の幹や地面の一部は確かに傷ついていた。どこかに逃げた訳でもない。その証拠に木の幹は傷ついていてもその裏までは流石に傷ついていないように俺の立っている場所の後ろは全く傷ついていなかった。
八咫烏ヤタガラス」俺がいま着ているこの黒いロングコートのおかげだ。
 昔、俺に「月影つきかげ一刀流」を教えてくれた友人…いや元相棒と言うべきか…が使っていた大切なものだ。魔術を練り込んだ特殊な生地で作られた丈が膝下くらいまであるこのコートは、銃弾や刃物、爆発物はもちろん、魔術も防いでくれるという優れものだ。いつもは自宅の地下に綺麗に保管してあるのだが、今回はおそらく必要になるだろうと思って引っ張り出してきたのだ。
 M67破片手榴弾アップルが爆発した瞬間、俺は逃げきれないと判断して左手で着ていた「八咫烏ヤタガラス」を内から外に払いながら180°回転した。飛んできた硬質鉄線をコートで弾き飛ばしたおかげで負傷することは避けれたが、完全に衝撃を抑えることができないのは普通の防弾チョッキと感覚は一緒なので左腕や背中に大きな衝撃が走ったが、強化した身体と左腕義手では時に問題なかった。
「ちくしょうッ!!」
 ノッポはロシア語でそう叫びながら右手で新しい手榴弾をジーンズのポケットから取り出そうとしたが、それよりも先に俺は左腕に持っていたHK45を二発放った。
「ぐぁッ!!」
 右肩と左肩に一発ずつ銃弾を食らったロシア人は悲鳴を上げながら倒れて、坂を2~3m転げ落ちた。
「ザイア…!モルテガ…!」
 俺は坂下に転げ落ちたロシア人には見向きもせず、声のした方を向いた。
 吹っ飛ばされて伸びているデブとは反対側にいた黒人のチビは、次々にやられていく仲間を前に、近くに生えていた木の幹まで後ずさって背を預けたまま恐怖を露わにわなわなと震えていた。
 飛ばしていた二つの遠隔式戦闘ドローンを二機とも破壊されたせいで、個人としての戦闘能力がそこまで高くないチビは二人の足を引っ張らないようにとジッとしていたのだが、頼りの二人がやられたことで最早誰も守ってくれる人はいなかった。
 俺はそんなチビに向かって両手に銃を持ったままゆっくりと近づいていく。
「く、くるなぁぁああ!!」
 チビはおそらくそれでドローンを操作していたのであろうノートパソコンを両手に抱えたまま叫んだ。
 黒ぶち眼鏡の向こうの瞳は若干潤んでいた。
「これで終わりだ…」
 俺は左手のHK45をチビの額に向けて引き金を引こうとした。
 その時、チビが懐の俺から見えない位置で腕が少しだけ振れた。
 まるで何かのスイッチでも入れたかのように…
「クッ!!」
 俺はそれが何かと考えるよりも先に大きく首を後方に反らした。
 坂下方向の空中から一発の銃弾が飛んできた。
 数瞬前まで俺の右側頭部のあった位置をその銃弾は通過していき
「はぁッ!?」
 チビが驚いてるなか、俺は身体を逸らしたままの態勢で右手に持ったHK417を構えた。
 あれかッ!
 強化した視力で覗き込んだ四倍スコープの先に発砲してきた三機目の遠隔式戦闘ドローンがホバリングしているのを発見した俺はHK417の引き金を二回引いた。
 距離はそこそこ遠かったが、20インチのロングバレルを装備したアサルトライフルと言うよりもうほぼマークスマンライフルに近いHK417から放たれた二発の7.62×51㎜ NATO弾は見事に三機目の遠隔式戦闘ドローンのプロペラと本体に命中し、空中分解しながら地面に落下していった。
「バカなッ!?500m近く離れた位置とこの暗闇の中での死角からの攻撃だぞッ!?そんなもの、躱すのも当てるのも人間じゃあできるわけが…!」
 どうやら怯えた表情は演技だったらしいチビがそう吐き捨てたところで俺は蹴りをチビの頭に叩き込んで吹っ飛ばした。チビはさっきのデブと違って紙きれのように坂下に吹き飛んでいった。
 まだ他にドローンがいる可能性を考えた俺は、残弾がゼロになったHK417を捨ててからHK45をチビが落としたノートパソコンとスマートフォンに向けて何発か撃ち込んでおく。
 さて、雑魚は片付いた。
 画面が粉々になって使えなくなったことを確認してからホールドオープンしたHK45のマガジンを交換し、スライドリリースレバーを解除してスライドを戻した俺は特に戦闘に対して思うこともなく、ただ機械的にそう思っただけだ。
 それに今の連中相手にして、廃工場に待つ敵が誰なのか見当がついたぜ。
 廃工場の横の広場をゆっくりと歩きながら空を少し見ると無数の星々や大きな満月の光が俺の背を照らした。約束の時刻まであと30秒のところで入り口の扉の前に立った俺はスライド式の扉に手を掛けようとしたところで。
「…」
 いる、ヤツが。
 扉の向こうにはすでに凄まじい殺気を放つ人間が一人いることを感じながら、捨てたHK417の代わりに小太刀「村正改」を腰から素早く逆手で抜いた。3m近い高さのスライド式の扉は中央付近で真っ二つになり、くの字になって地面に倒れた。
 俺の背を照らしていた満月の光が開いた扉から廃工場内に伸びていき、二人の男女を照らし出した。
 一人はもちろんセイナだ。少し乱れた金髪のポニーテールと疲れ気味のブルーサファイアの瞳。警視庁の時に着ていた服ではなく、黒い半袖ワンピースと同色のニーソックスを履いていた。だが、身体は鉄製の十字架のような造形物に鎖で縛り付けられて、着ていた服も右肩辺りやニーソックスの左太もも辺りなどに三本線に切り裂かれたような跡が残っていた。足の方からは血は出ていなかったが、右肩だけには包帯が巻いてあり、血が少しだけ滲んでいた。顔を見るとその綺麗な青い瞳をパチパチさせて驚きの表情をしていた。
 そして…
 もう一人の人物に目をやる。俺と同じぐらいの身長で体型は筋肉質な男。特徴的な紫の髪と瞳を持つドイツ人で黒のライダージャケットと髑髏ドクロのプリントが入った赤いTシャツ、ダメージの入ったグレーのジーンズと黒いブーツを身につけていた。サイドの髪を刈り上げ、センターをオールバックにした紫の髪の上には垂れたレンズが特徴のティアドロップサングラスが乗せてあった。
 ベルゼ・ラング…!
 思った通りの人物を前に俺は眉間にしわを寄せてベルゼを睨みつけた。
悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイ」と同じ「黙示録の瞳アポカリプスアイ」の一つである「紫電のバイオレットブリッツアイ」を所持している、俺と因縁のある男だ。
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