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紫電の王《バイオレットブリッツ》
紫電の王《バイオレットブリッツ》22
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「おっと、もうこんな時間か…」
ベルゼは黒のライダースジャケットのポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認しながらそう呟いた。
吸っていた二本目のWESTのメンソール煙草もすっかり短くなっていた。
「どうした?そんな難しい顔をして?」
「えっ?」
アタシは唐突にそう言われてベルゼの方を見た。さっきの聞いた話しの内容がまだ受け入れられず、色々と頭の中で考え込んでいたせいか、どうやら自分でも気づかないうちにそんな顔になっていたらしい。
「そんなに驚いたかこの魔眼に?」
ベルゼは自分のこめかみのあたりを右手の親指で指しながらそう聞いてきた。
アタシは少し俯いて一呼吸置いてから
「確かに驚いたけど、ちょっと疑問に思ったのよ…その呪いっていうのはさっき言っていたもの以外にもまだあるのよね?」
「ある。あと二つな。でもこれは普通の魔術と大して変わらねえけどな…」
ベルゼはそう言ってから短くなった煙草を捨てて足で火を消しながら説明しだす。
「一つは魔眼を使う際には必ず契約した武器が必要になってくるというものだ。契約武器を触媒に能力を発動させているからな、確かフォルテは小太刀で俺はコイツだ」
ベルゼはライダースジャケットの袖を捲って両腕についた鉄の篭手見せた。アタシとの戦闘で使っていた鉤爪だ。
「もう一つは対価を支払う必要があるってところだ。それぞれの魔眼によって対価はことなるが、まあこの二つは魔術の基本みたいなもんだし呪いってほどのものでもねーけどよ」
確かにベルゼの言う通りだった。
魔眼に限らず、魔術というのは全てが無限に使えるわけでない。どんな魔術でも必ずそれを使用するための対価が必要になってくるのだ。例えば普通の魔術なら体内の魔力を対価に利用して発動する。魔力は人によって一日に使える量には個人差があり、その日の体調によっても左右される。魔術を多く使って魔力切れを起こすと人間は基本動けなくなっていしまい、最悪の場合は死に至る可能性もある。
感覚としてはお酒のイメージに近いかしら。
アルコールに強い人もいれば弱い人がいるのと同じで、魔力も使える量が多い人もいれば少ない人もいるといった感じだ。
さらに魔術は魔力以外のものを対価に場合もある。恐らくさっきベルゼの言っていた魔眼によって対価が違うというのは恐らくそういうことだろう。魔術を使って、ある物質や力を別の物質に変換するといった具合だ。決して魔力を使って発動させるのが魔術というわけではない。
そして、多少魔術に心得のある者は道具に込められた魔力を利用するといったこともできるし、または道具を触媒として魔術を発動させるといったことも可能だ。魔力を込めた道具である札を使って魔術を発動させたり、杖などを触媒に魔力操作をして、通常では使うことのできない強力な魔術を発動させるなどがそれに当てはまる。
ちなみにこういった概念を無視できるのがアタシや世界でも数人が持つと言われている「神の加護」だ。
これは、コントロールさえできれば無制限に使うことのできる「魔術」とは異なる、いわば「魔法」と言った認識に近い。
アタシはベルゼのこれまでの話しを聞いて思った疑問を率直に聞いた。
「どうしてアンタはそんな大量の呪いや制限を掛けられてもなお、そこまでして魔眼を使おうと思うの…?」
正直この「黙示録の瞳」という魔眼は人が持つには過ぎた力だとアタシは少なからず感じた。簡単に誰でも強力な力を扱うことのできるの呪いによって自分の命を他の人間に狙われる可能性や、無制限に使える力に溺れてその対価が払えずに力尽きて死ぬ可能性もある。不老によって自分の家族や恋人が死んでも永遠に孤独で過ごさなければならないかもしれない。そんなことになるくらいならその魔眼を他の人にでも譲渡して破棄すべきだとアタシは思ったのだ。だから、そう言ったリスクを背負ったうえでなおその力を使う意図というのがアタシには分からなかったのだ。
アタシの問いにベルゼは呆れたように「なんだそんなことか」と肩を竦めてからこう言った。
「他の奴はどう思って使っているかは知らねえけどよ、俺様はお嬢ちゃんとの戦闘中に言った通り、心を満たす闘争、生きるか死ぬかのスリルを求めて今まで生きてきた。俺様は自分のことを世界で一番最強だと思っていた。だが偶然この眼と出会ってフォルテのことを初めて知った時、世界最強だと思っていたこの俺様が初めて勝てないかもしれないと思ったんだ。昔見た時の奴は目的の為なら愛していた女の黙示録の瞳ですら利用する姿勢やその容赦のなさに俺は恐怖と一緒に憧れのようなものを奴に抱いたんだ。この男とてめえの持てる力全部を出して勝ちたい。もしくは敵なしの世界最強だと思っていた俺のことを納得のいくようにアイツは殺してくれるかもしれない。そう思っていたんだ」
ずっとヤンキー座りをしていたベルゼは立ち上がって伸びをしてから、爆発音のする方角、アタシの正面にある廃工場の入り口の方を向いた。
「それがどうだ…そう思ってずっとを追いかけていたアイツはあの女と関わったことで、気づいたら腑抜けのお人好しになっちまいやがったんだ」
ベルゼの含みのある言葉、愛していた女、あの女、それが同一人物なのか他人なのかはアタシには分からない。だがその利用したと言ったベルゼの言葉に引っかかりのようなものをアタシは覚えた。確かにFBI長官暗殺未遂で一部の国から国際指名手配をかけられているなど、過去に何があって、どういった経歴でフォルテが今日まで生きてきたのかアタシは知らない。もしかしたら、本当に数年前までは極悪非道の人間だったのかもしれない。
でもアタシはどうしても、あの温厚そうなフォルテがそんな誰かを目的のために利用してとかそういったことをするような人間には見えないと思ってしまう。もし仮に本当にそうだったとして、そんな人間がイギリスでのテロ事件で人質救出に力を貸すだろうか?敵の前に飛び出してきた子供をあそこまで危険を顧みずに身体を張ることができるだろうか?できないと思う。だからベルゼの言葉にアタシはもの凄い引っかかりのようなものを覚えたのだ。
アタシに背を向けたままのベルゼはそのまま続ける。
「だから、この力を使って思い出させてやるのさ…今のクソみたいなアイツではなく、むかし俺が憧れたあの男の本当の姿を…」
ベルゼは両腕を下げた状態から鉤爪を装備した鉄の篭手から展開させた。
「ちっとばかし余計なことまでしゃべりすぎたな…」
鉤爪が展開したことでキーンッという軽快な金属音が廃工場に響いたが、それはすぐに近くで鳴り響く爆発音によってかき消された。
「さて、お嬢ちゃんの強さに免じて色々教えてやったが、仲良くしてやれんのはここまでだ。俺は今からずっと待ち望んでいた闘争を味わってくる。だがもし、その最高のひと時を邪魔するっていうなら例えお嬢ちゃんでも容赦しない」
「心配しなくてもこんな状態じゃ何もできないわよ」
ベルゼのその言葉にアタシは平静を装ってそう返したが、内心は今のベルゼに少し動揺していた。
ものの数秒前までフレンドリーに話していたこの紫眼の男は、アタシに警告している間にもその体中から溢れんばかりの殺気を放ち始めたのだ。
どんなに戦場や喧嘩慣れしている人間でもこんなにいともたやすくスイッチをころころ切り変えれるものではない。家族や恋人の仇に突然で出会ったとか、そう言った余程の事情でもない限り数秒でスイッチを切り替える行為は熟練者でも難しいものなのだ。
まるで人格が変わったみたい…
普通の殺気とはまるで違う、闘争のスリルを味わう戦闘狂の混じった殺気を放つ紫眼の男を前にそう思っていると、戦闘中に見たあの不気味な笑みを浮かべたベルゼが顔半分だけこっちに振り返った。
「世界最強決定戦をその特等席で精々眺めてな…!」
そう言い放った瞬間、目の前の廃工場の入り口の扉が真横に真っ二つに切り裂かれた。
「ッ!?」
3m近い高さのある横スライド式の扉二枚が真ん中付近でくの字になって地面へと落下した。
開いた扉の外から夜空に上がった満月の光が廃工場内に差し込んでくる。その光は入り口に立った一人の男を照らし出し、薄暗い影がアタシたちの前に細長く伸びていた。
ベルゼは黒のライダースジャケットのポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認しながらそう呟いた。
吸っていた二本目のWESTのメンソール煙草もすっかり短くなっていた。
「どうした?そんな難しい顔をして?」
「えっ?」
アタシは唐突にそう言われてベルゼの方を見た。さっきの聞いた話しの内容がまだ受け入れられず、色々と頭の中で考え込んでいたせいか、どうやら自分でも気づかないうちにそんな顔になっていたらしい。
「そんなに驚いたかこの魔眼に?」
ベルゼは自分のこめかみのあたりを右手の親指で指しながらそう聞いてきた。
アタシは少し俯いて一呼吸置いてから
「確かに驚いたけど、ちょっと疑問に思ったのよ…その呪いっていうのはさっき言っていたもの以外にもまだあるのよね?」
「ある。あと二つな。でもこれは普通の魔術と大して変わらねえけどな…」
ベルゼはそう言ってから短くなった煙草を捨てて足で火を消しながら説明しだす。
「一つは魔眼を使う際には必ず契約した武器が必要になってくるというものだ。契約武器を触媒に能力を発動させているからな、確かフォルテは小太刀で俺はコイツだ」
ベルゼはライダースジャケットの袖を捲って両腕についた鉄の篭手見せた。アタシとの戦闘で使っていた鉤爪だ。
「もう一つは対価を支払う必要があるってところだ。それぞれの魔眼によって対価はことなるが、まあこの二つは魔術の基本みたいなもんだし呪いってほどのものでもねーけどよ」
確かにベルゼの言う通りだった。
魔眼に限らず、魔術というのは全てが無限に使えるわけでない。どんな魔術でも必ずそれを使用するための対価が必要になってくるのだ。例えば普通の魔術なら体内の魔力を対価に利用して発動する。魔力は人によって一日に使える量には個人差があり、その日の体調によっても左右される。魔術を多く使って魔力切れを起こすと人間は基本動けなくなっていしまい、最悪の場合は死に至る可能性もある。
感覚としてはお酒のイメージに近いかしら。
アルコールに強い人もいれば弱い人がいるのと同じで、魔力も使える量が多い人もいれば少ない人もいるといった感じだ。
さらに魔術は魔力以外のものを対価に場合もある。恐らくさっきベルゼの言っていた魔眼によって対価が違うというのは恐らくそういうことだろう。魔術を使って、ある物質や力を別の物質に変換するといった具合だ。決して魔力を使って発動させるのが魔術というわけではない。
そして、多少魔術に心得のある者は道具に込められた魔力を利用するといったこともできるし、または道具を触媒として魔術を発動させるといったことも可能だ。魔力を込めた道具である札を使って魔術を発動させたり、杖などを触媒に魔力操作をして、通常では使うことのできない強力な魔術を発動させるなどがそれに当てはまる。
ちなみにこういった概念を無視できるのがアタシや世界でも数人が持つと言われている「神の加護」だ。
これは、コントロールさえできれば無制限に使うことのできる「魔術」とは異なる、いわば「魔法」と言った認識に近い。
アタシはベルゼのこれまでの話しを聞いて思った疑問を率直に聞いた。
「どうしてアンタはそんな大量の呪いや制限を掛けられてもなお、そこまでして魔眼を使おうと思うの…?」
正直この「黙示録の瞳」という魔眼は人が持つには過ぎた力だとアタシは少なからず感じた。簡単に誰でも強力な力を扱うことのできるの呪いによって自分の命を他の人間に狙われる可能性や、無制限に使える力に溺れてその対価が払えずに力尽きて死ぬ可能性もある。不老によって自分の家族や恋人が死んでも永遠に孤独で過ごさなければならないかもしれない。そんなことになるくらいならその魔眼を他の人にでも譲渡して破棄すべきだとアタシは思ったのだ。だから、そう言ったリスクを背負ったうえでなおその力を使う意図というのがアタシには分からなかったのだ。
アタシの問いにベルゼは呆れたように「なんだそんなことか」と肩を竦めてからこう言った。
「他の奴はどう思って使っているかは知らねえけどよ、俺様はお嬢ちゃんとの戦闘中に言った通り、心を満たす闘争、生きるか死ぬかのスリルを求めて今まで生きてきた。俺様は自分のことを世界で一番最強だと思っていた。だが偶然この眼と出会ってフォルテのことを初めて知った時、世界最強だと思っていたこの俺様が初めて勝てないかもしれないと思ったんだ。昔見た時の奴は目的の為なら愛していた女の黙示録の瞳ですら利用する姿勢やその容赦のなさに俺は恐怖と一緒に憧れのようなものを奴に抱いたんだ。この男とてめえの持てる力全部を出して勝ちたい。もしくは敵なしの世界最強だと思っていた俺のことを納得のいくようにアイツは殺してくれるかもしれない。そう思っていたんだ」
ずっとヤンキー座りをしていたベルゼは立ち上がって伸びをしてから、爆発音のする方角、アタシの正面にある廃工場の入り口の方を向いた。
「それがどうだ…そう思ってずっとを追いかけていたアイツはあの女と関わったことで、気づいたら腑抜けのお人好しになっちまいやがったんだ」
ベルゼの含みのある言葉、愛していた女、あの女、それが同一人物なのか他人なのかはアタシには分からない。だがその利用したと言ったベルゼの言葉に引っかかりのようなものをアタシは覚えた。確かにFBI長官暗殺未遂で一部の国から国際指名手配をかけられているなど、過去に何があって、どういった経歴でフォルテが今日まで生きてきたのかアタシは知らない。もしかしたら、本当に数年前までは極悪非道の人間だったのかもしれない。
でもアタシはどうしても、あの温厚そうなフォルテがそんな誰かを目的のために利用してとかそういったことをするような人間には見えないと思ってしまう。もし仮に本当にそうだったとして、そんな人間がイギリスでのテロ事件で人質救出に力を貸すだろうか?敵の前に飛び出してきた子供をあそこまで危険を顧みずに身体を張ることができるだろうか?できないと思う。だからベルゼの言葉にアタシはもの凄い引っかかりのようなものを覚えたのだ。
アタシに背を向けたままのベルゼはそのまま続ける。
「だから、この力を使って思い出させてやるのさ…今のクソみたいなアイツではなく、むかし俺が憧れたあの男の本当の姿を…」
ベルゼは両腕を下げた状態から鉤爪を装備した鉄の篭手から展開させた。
「ちっとばかし余計なことまでしゃべりすぎたな…」
鉤爪が展開したことでキーンッという軽快な金属音が廃工場に響いたが、それはすぐに近くで鳴り響く爆発音によってかき消された。
「さて、お嬢ちゃんの強さに免じて色々教えてやったが、仲良くしてやれんのはここまでだ。俺は今からずっと待ち望んでいた闘争を味わってくる。だがもし、その最高のひと時を邪魔するっていうなら例えお嬢ちゃんでも容赦しない」
「心配しなくてもこんな状態じゃ何もできないわよ」
ベルゼのその言葉にアタシは平静を装ってそう返したが、内心は今のベルゼに少し動揺していた。
ものの数秒前までフレンドリーに話していたこの紫眼の男は、アタシに警告している間にもその体中から溢れんばかりの殺気を放ち始めたのだ。
どんなに戦場や喧嘩慣れしている人間でもこんなにいともたやすくスイッチをころころ切り変えれるものではない。家族や恋人の仇に突然で出会ったとか、そう言った余程の事情でもない限り数秒でスイッチを切り替える行為は熟練者でも難しいものなのだ。
まるで人格が変わったみたい…
普通の殺気とはまるで違う、闘争のスリルを味わう戦闘狂の混じった殺気を放つ紫眼の男を前にそう思っていると、戦闘中に見たあの不気味な笑みを浮かべたベルゼが顔半分だけこっちに振り返った。
「世界最強決定戦をその特等席で精々眺めてな…!」
そう言い放った瞬間、目の前の廃工場の入り口の扉が真横に真っ二つに切り裂かれた。
「ッ!?」
3m近い高さのある横スライド式の扉二枚が真ん中付近でくの字になって地面へと落下した。
開いた扉の外から夜空に上がった満月の光が廃工場内に差し込んでくる。その光は入り口に立った一人の男を照らし出し、薄暗い影がアタシたちの前に細長く伸びていた。
応援ありがとうございます!
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