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紫電の王《バイオレットブリッツ》
紫電の王《バイオレットブリッツ》13
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紫髪の男はそう言いながら不敵な笑みを浮かべた。その瞬間、紫髪の男の身体から抑えきれなくなったように殺気があふれ出した。今までアタシがあまり経験したことのないタイプの殺気。前に交戦したヨルムンガンドの教唆犯の女が発していた蛇のような静かな殺気ではなく、紫髪の男のそれは激しく、まるで獰猛な肉食獣が数日ぶりに餌である草食獣を前にして発するような威嚇と歓喜の気持ちを織り交ぜたようなそんな殺気だった。
強い。
殺気を放つ紫髪の男を前にアタシは一言そう思った。
この男が発している殺気はいわゆる戦闘狂の類のものだ。幾多の戦場を経験し、場数をこなしたものにしか出せない殺気。自分が負けることなど微塵も考えてない余裕に似た自信。過去の戦闘よりもさらに刺激やスリルのあるものを追い求め、彷徨う肉食獣。一般人がこの殺気を一度向けられてしまえば恐らく足が竦んで、ただ食われるのを待つだけの存在に成り下がるだろう。
だけどアタシは違う。アタシだって幾つもの修羅場を潜り抜けてきたのだ。この程度、恐れるに足らないわ!
アタシはキッと相手を睨みつける。まるで猛獣を前にした狩人のように、その紫の瞳を真っ直ぐに見据えた。
そんな時、ふとアタシは殺気を放つこの男の表情を見て少し不思議な感覚に陥っていた。見た目や性格は全くと言っていいほど違うはずなのに、何となくフォルテとどこか同じようなものを感じるとアタシは思ったのだ。
だが、直ぐにその考えをアタシは頭を軽く振ってシャットアウトした。
こんな時にアタシは何考えているんだ。集中だ。あの馬鹿のことはどうだっていい…今はこの紫髪の男を倒して情報を引き出さなくちゃ……
「いいねぇ…その顔…」
アタシが殺気に怖気づくことなく銃口で紫髪の男に狙いを定めていると、そんなアタシの気丈な態度を見て
紫髪の男は不敵な笑みを浮かべたまま、さらに興奮したのを表すかのようにその髪と同色の瞳をギラギラとした三白眼にさせた。
「お前のその顔が、痛みで歪むところが見て見たくなったぜ」
獲物を前にしてよだれが垂れそうなほどに口角を吊り上げながら紫髪の男はしみじみと独り言のように呟く。もう、いつ飛び掛かってきてもおかしくはない。
来るッ!!
アタシの直感がそう囁き、右手の人差し指を引き金にかけて力を入れる。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな…」
紫髪の男は短くなったWESTのメンソール煙草をポイッと捨て、指の関節をバキバキと鳴らしながら名乗りをあげた。
「俺の名前はベルゼ…「ベルゼ・ラング」だ」
ベルゼだと?アタシはその名前をどこかで聞いたことがあるような気がした。
だが、そんなことを思い出している余裕はなかった。
ベルゼと名乗った紫髪の男は両腕を頭上に上げてライダースジャケットの袖を少し捲ってから、腕を頭の位置まで素早く持っていき構えた。ボクシングで言うところのピーカブースタイルのように構えたベルゼを見ると、ライダースジャケットの袖の下から手の甲の辺りにかけて篭手のようなものが装着されていることにアタシはそこで気づいた。7~8m離れているせいで正確には分からないが、その篭手は鉄のようなシルバーの金属光沢を発していて、その表面には紋章のようなものが彫られていた。アタシが新宿で倒したあの魔術中毒者に付けられていたような拘束用のただの鉄リングとは違い、肘から先の腕全体を守るような構造をしていた。その金属の篭手をアタシが凝視した瞬間のことだった。
ジャキン!!
金属同士がすれるような音を発しながら、その篭手から三本のずつ刃が飛び出してきた。
アタシはベルゼのその武器を見て驚愕した。
鉤爪!?
ベルゼが装備しているのは刃渡りが大体40㎝くらいの刃が三本ついた鉤爪だった。ただ、通常の鉤爪と違って刃に反りがなく、何かに引っ掛けて攻撃するというよりは三本の刃で相手を切り裂くための武器と言ったところか。丁度フォルテの持っている小太刀(確か村正改って言ってたかしら?)の全長が目測35㎝くらいだから、ベルゼの鉤爪の刃の方が若干長いようにアタシは感じた。
今まで対峙したことのない武器を前にアタシの緊張が高まる。
「じゃあ行くぜお嬢ちゃん…」
ベルゼは両手に装着した鉤爪同士を研ぐように擦り合わせ、鋭い金属音と一緒に空中に火花を散らしながら
「死んだら、閻魔によろしくなッ!!」
と叫ぶと同時にアタシに向かって走り出した。
「ッ!!」
鉤爪を頭の位置に構えたまま真っすぐに突っ込んできたベルゼに対してアタシは銃弾を放つ。
一発の轟音が工場内に響いて.50AE弾がベルゼの左肩に向かって飛んでいく。
「ふんッ!!」
ベルゼはそれをアタシの左側にサイドステップして避けた。
速い!でもッ
Desert Eagleが再び火を噴く。
相手が避けることを見越してアタシは左側の誰もいない虚空に向かって銃弾を放った。
二発目の必殺の銃弾は、サイドステップしたベルゼが地面に着地する位置に向かって見事に飛んで行った。
低空とはいえ空中にいるベルゼがその銃弾を避けることは不可能。
キーンッ!!
甲高い金属音と火花がベルゼの右肩辺りで散ってアタシは思わずその芸当に驚愕の表情を浮かべた。
確かに避けることは不可能だった。ベルゼもそれには気づいていたようで、あろうことか二発目の銃弾をサイドステップした勢いに乗せて内から外に振るった右腕の鉤爪で切り落としたのだ。
フォルテがアタシにやってきた義手を使っての銃弾弾きとは訳が違う。あれは簡単に言ってしまうと、相手に向けられた銃口に対してその延長線上に義手を構えるだけでいいのだ。日ごろ戦闘中でも仲間同士でも銃口管理に気を付けているアタシたちのような戦闘慣れした人間からしたら度胸さえあれば誰にでもできることだ。
だがこのベルゼという男は、超音速の460m/Sで飛んできた小石程度の大きさのものをあろうことか空中で切り捨てて見せたのだ。アタシは放った二発目の銃弾は無残にも地面に真っ二つになって転がっていた。
「飛び道具なんざ使ってんじゃねえッ!!」
ベルゼは叫びながらこちらに向かって高速で近づき右手の鉤爪を右斜め上から左斜め下、アタシの左肩から右足の方向に振り落とした。
「クッ!!」
アタシはなんとか上体を逸らしてその攻撃を避けつつ左側に跳んだ。
攻撃を空ぶったことでガラ空きになったベルゼの右側面に向かって銃口を向けて発砲しようとした。
「はぁッ!!」
右腕の下に隠れた左腕の鉤爪がアタシの銃口の先に当たり、狙いが外にズレて銃弾が近くの地面に着弾した。
何とか銃を落とさなかったアタシは再び銃口を向けようと思ったが直ぐにその考えを断ち切って上体を逸らした。
アタシの顔のギリギリのところをベルゼの右回し蹴りが掠めていく。あと少しでも判断が遅れていたら直撃は免れなかっただろう。
アタシは凄まじい連撃を前に、上体を逸らして避けた勢いを乗せて左手一本でバク転をする。
「がはッ!」
ベルゼの呻き声とともにアタシの足に手応えのある感触が走る。バク転で狙った蹴りがベルゼの顎にクリーンヒットしたのだ。顔を跳ね上げられて一瞬動きが止まったベルゼから、アタシは黒の半袖ワンピースをはためかせながらバク転を数回挟んで距離を取って態勢を立て直した。
リロードしないで銃口をそのままベルゼに向けて二発の撃つ。凄まじい轟音がほぼ同時に廃工場に鳴り響き、ベルゼに向かって飛んでいく。
「無駄だっつってんだろ!!」
外から内にクロスするようにベルゼは腕を振るいながら左肩と右太腿に放たれた銃弾を弾いた。真っ二つになった.50AE弾二発がコロコロと音を立てながら地面に落ちる。
さっきの銃弾を切り落とした芸当がまぐれなんじゃないかと思ったんだけど、どうやら本当にベルゼは銃弾を弾くことができるらしい。アタシは心の中で悪態をついていると、ベルゼは銃口を向けられていることを気にせずに両手を広げて廃工場に全体に響くようなため息をついた。
「なんでそんな飛び道具に頼ってんだ?折角こんないい蹴りをしているのにどうして接近戦をしない!?その背中にあるものは飾りか!?」
最初に廃工場の中心で煙草吸っていた時の印象からは想像できないように興奮したベルゼは、語尾を跳ね上げるようにしてアタシに語り掛けてきた。
喫煙者が煙草を吸うと気分が落ち着くはずなのに、1本だとニコチンが足りなかったのかしら?
アタシは興奮したベルゼを無視して、頭に中で思考を巡らせていた。
ベルゼの鉤爪と対峙して分かったことは、アイツの持つ鉤爪は、内側のみにしか刃がついていない片刃だ。気を付けるのは手のひらの向き、ヤツの手のひらの方向が即ち刃で切れる方向と同じ、逆に手の甲側は切れない。とにかくヤツの側面に回って手の甲を抑えるような位置取りを続けていけば切られる可能性は格段に減る。あと気を付けるべきことは突きの攻撃。片刃とはいえアタシの「グングニル」やフォルテの「村正改」と一緒でベルゼの武器も同様に刺突の攻撃ができる。
「全く、無視とはいい度胸じゃねえか…」
ベルゼはそう言いながら足元にあった鉄骨の廃材の先端部の方に近づいていった。
「悪い子にはお仕置きが必要だな」
ニヤニヤとそう言いながらベルゼはアタシとの対角線上にその鉄骨の廃材を挟むような位置に移動した。
3m位しかない錆びた鉄骨に手を置く。
まさか持ち上げてぶん投げる気じゃ…?
いやいや、いくら何でも普通の人間がそんなことできるわけないじゃない。
と思った瞬間、鉄骨に一瞬紫の電撃のような光が走り、なんの前触れもなくその巨大な鉄骨がアタシに向かって真っすぐに飛んできた。
「なッ!?」
アタシは咄嗟に身を屈めてその鉄骨をギリギリところで避けた。数瞬前までアタシの頭があった位置に鉄骨が通過して、後ろの地面に落下した。
「オラァッ!!」
「いッ…!」
右肩に熱を帯びた激痛が走る。
鉄骨を目で追いながら躱していたせいで、鉄骨の後ろに同じように跳んできていたベルゼの斬撃を躱すことができずにアタシは短く悲鳴を上げた。
一応防刃性のはずの黒のワンピースの右肩部分を引き裂かれ、アタシは痛みに顔を歪める。幸い鉄骨を躱そうとして上体を逸らしていたので傷は浅く、致命傷にはならなかった。
アタシに向かって魚雷のように飛んできたベルゼは、アタシの右肩を引き裂きながら4~5m程後ろの位置に空中で前転しながら着地していた。
振り返ったベルゼの瞳からは紫の電撃のようなものが走っていた。
「その瞳は…まさか…」
アタシは顔を歪めたまま、ベルゼを睨みつけた。
「おう、これは紫電の瞳、あのフォルテの持つ魔眼と同じ、黙示録の瞳の一つだ」
強い。
殺気を放つ紫髪の男を前にアタシは一言そう思った。
この男が発している殺気はいわゆる戦闘狂の類のものだ。幾多の戦場を経験し、場数をこなしたものにしか出せない殺気。自分が負けることなど微塵も考えてない余裕に似た自信。過去の戦闘よりもさらに刺激やスリルのあるものを追い求め、彷徨う肉食獣。一般人がこの殺気を一度向けられてしまえば恐らく足が竦んで、ただ食われるのを待つだけの存在に成り下がるだろう。
だけどアタシは違う。アタシだって幾つもの修羅場を潜り抜けてきたのだ。この程度、恐れるに足らないわ!
アタシはキッと相手を睨みつける。まるで猛獣を前にした狩人のように、その紫の瞳を真っ直ぐに見据えた。
そんな時、ふとアタシは殺気を放つこの男の表情を見て少し不思議な感覚に陥っていた。見た目や性格は全くと言っていいほど違うはずなのに、何となくフォルテとどこか同じようなものを感じるとアタシは思ったのだ。
だが、直ぐにその考えをアタシは頭を軽く振ってシャットアウトした。
こんな時にアタシは何考えているんだ。集中だ。あの馬鹿のことはどうだっていい…今はこの紫髪の男を倒して情報を引き出さなくちゃ……
「いいねぇ…その顔…」
アタシが殺気に怖気づくことなく銃口で紫髪の男に狙いを定めていると、そんなアタシの気丈な態度を見て
紫髪の男は不敵な笑みを浮かべたまま、さらに興奮したのを表すかのようにその髪と同色の瞳をギラギラとした三白眼にさせた。
「お前のその顔が、痛みで歪むところが見て見たくなったぜ」
獲物を前にしてよだれが垂れそうなほどに口角を吊り上げながら紫髪の男はしみじみと独り言のように呟く。もう、いつ飛び掛かってきてもおかしくはない。
来るッ!!
アタシの直感がそう囁き、右手の人差し指を引き金にかけて力を入れる。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな…」
紫髪の男は短くなったWESTのメンソール煙草をポイッと捨て、指の関節をバキバキと鳴らしながら名乗りをあげた。
「俺の名前はベルゼ…「ベルゼ・ラング」だ」
ベルゼだと?アタシはその名前をどこかで聞いたことがあるような気がした。
だが、そんなことを思い出している余裕はなかった。
ベルゼと名乗った紫髪の男は両腕を頭上に上げてライダースジャケットの袖を少し捲ってから、腕を頭の位置まで素早く持っていき構えた。ボクシングで言うところのピーカブースタイルのように構えたベルゼを見ると、ライダースジャケットの袖の下から手の甲の辺りにかけて篭手のようなものが装着されていることにアタシはそこで気づいた。7~8m離れているせいで正確には分からないが、その篭手は鉄のようなシルバーの金属光沢を発していて、その表面には紋章のようなものが彫られていた。アタシが新宿で倒したあの魔術中毒者に付けられていたような拘束用のただの鉄リングとは違い、肘から先の腕全体を守るような構造をしていた。その金属の篭手をアタシが凝視した瞬間のことだった。
ジャキン!!
金属同士がすれるような音を発しながら、その篭手から三本のずつ刃が飛び出してきた。
アタシはベルゼのその武器を見て驚愕した。
鉤爪!?
ベルゼが装備しているのは刃渡りが大体40㎝くらいの刃が三本ついた鉤爪だった。ただ、通常の鉤爪と違って刃に反りがなく、何かに引っ掛けて攻撃するというよりは三本の刃で相手を切り裂くための武器と言ったところか。丁度フォルテの持っている小太刀(確か村正改って言ってたかしら?)の全長が目測35㎝くらいだから、ベルゼの鉤爪の刃の方が若干長いようにアタシは感じた。
今まで対峙したことのない武器を前にアタシの緊張が高まる。
「じゃあ行くぜお嬢ちゃん…」
ベルゼは両手に装着した鉤爪同士を研ぐように擦り合わせ、鋭い金属音と一緒に空中に火花を散らしながら
「死んだら、閻魔によろしくなッ!!」
と叫ぶと同時にアタシに向かって走り出した。
「ッ!!」
鉤爪を頭の位置に構えたまま真っすぐに突っ込んできたベルゼに対してアタシは銃弾を放つ。
一発の轟音が工場内に響いて.50AE弾がベルゼの左肩に向かって飛んでいく。
「ふんッ!!」
ベルゼはそれをアタシの左側にサイドステップして避けた。
速い!でもッ
Desert Eagleが再び火を噴く。
相手が避けることを見越してアタシは左側の誰もいない虚空に向かって銃弾を放った。
二発目の必殺の銃弾は、サイドステップしたベルゼが地面に着地する位置に向かって見事に飛んで行った。
低空とはいえ空中にいるベルゼがその銃弾を避けることは不可能。
キーンッ!!
甲高い金属音と火花がベルゼの右肩辺りで散ってアタシは思わずその芸当に驚愕の表情を浮かべた。
確かに避けることは不可能だった。ベルゼもそれには気づいていたようで、あろうことか二発目の銃弾をサイドステップした勢いに乗せて内から外に振るった右腕の鉤爪で切り落としたのだ。
フォルテがアタシにやってきた義手を使っての銃弾弾きとは訳が違う。あれは簡単に言ってしまうと、相手に向けられた銃口に対してその延長線上に義手を構えるだけでいいのだ。日ごろ戦闘中でも仲間同士でも銃口管理に気を付けているアタシたちのような戦闘慣れした人間からしたら度胸さえあれば誰にでもできることだ。
だがこのベルゼという男は、超音速の460m/Sで飛んできた小石程度の大きさのものをあろうことか空中で切り捨てて見せたのだ。アタシは放った二発目の銃弾は無残にも地面に真っ二つになって転がっていた。
「飛び道具なんざ使ってんじゃねえッ!!」
ベルゼは叫びながらこちらに向かって高速で近づき右手の鉤爪を右斜め上から左斜め下、アタシの左肩から右足の方向に振り落とした。
「クッ!!」
アタシはなんとか上体を逸らしてその攻撃を避けつつ左側に跳んだ。
攻撃を空ぶったことでガラ空きになったベルゼの右側面に向かって銃口を向けて発砲しようとした。
「はぁッ!!」
右腕の下に隠れた左腕の鉤爪がアタシの銃口の先に当たり、狙いが外にズレて銃弾が近くの地面に着弾した。
何とか銃を落とさなかったアタシは再び銃口を向けようと思ったが直ぐにその考えを断ち切って上体を逸らした。
アタシの顔のギリギリのところをベルゼの右回し蹴りが掠めていく。あと少しでも判断が遅れていたら直撃は免れなかっただろう。
アタシは凄まじい連撃を前に、上体を逸らして避けた勢いを乗せて左手一本でバク転をする。
「がはッ!」
ベルゼの呻き声とともにアタシの足に手応えのある感触が走る。バク転で狙った蹴りがベルゼの顎にクリーンヒットしたのだ。顔を跳ね上げられて一瞬動きが止まったベルゼから、アタシは黒の半袖ワンピースをはためかせながらバク転を数回挟んで距離を取って態勢を立て直した。
リロードしないで銃口をそのままベルゼに向けて二発の撃つ。凄まじい轟音がほぼ同時に廃工場に鳴り響き、ベルゼに向かって飛んでいく。
「無駄だっつってんだろ!!」
外から内にクロスするようにベルゼは腕を振るいながら左肩と右太腿に放たれた銃弾を弾いた。真っ二つになった.50AE弾二発がコロコロと音を立てながら地面に落ちる。
さっきの銃弾を切り落とした芸当がまぐれなんじゃないかと思ったんだけど、どうやら本当にベルゼは銃弾を弾くことができるらしい。アタシは心の中で悪態をついていると、ベルゼは銃口を向けられていることを気にせずに両手を広げて廃工場に全体に響くようなため息をついた。
「なんでそんな飛び道具に頼ってんだ?折角こんないい蹴りをしているのにどうして接近戦をしない!?その背中にあるものは飾りか!?」
最初に廃工場の中心で煙草吸っていた時の印象からは想像できないように興奮したベルゼは、語尾を跳ね上げるようにしてアタシに語り掛けてきた。
喫煙者が煙草を吸うと気分が落ち着くはずなのに、1本だとニコチンが足りなかったのかしら?
アタシは興奮したベルゼを無視して、頭に中で思考を巡らせていた。
ベルゼの鉤爪と対峙して分かったことは、アイツの持つ鉤爪は、内側のみにしか刃がついていない片刃だ。気を付けるのは手のひらの向き、ヤツの手のひらの方向が即ち刃で切れる方向と同じ、逆に手の甲側は切れない。とにかくヤツの側面に回って手の甲を抑えるような位置取りを続けていけば切られる可能性は格段に減る。あと気を付けるべきことは突きの攻撃。片刃とはいえアタシの「グングニル」やフォルテの「村正改」と一緒でベルゼの武器も同様に刺突の攻撃ができる。
「全く、無視とはいい度胸じゃねえか…」
ベルゼはそう言いながら足元にあった鉄骨の廃材の先端部の方に近づいていった。
「悪い子にはお仕置きが必要だな」
ニヤニヤとそう言いながらベルゼはアタシとの対角線上にその鉄骨の廃材を挟むような位置に移動した。
3m位しかない錆びた鉄骨に手を置く。
まさか持ち上げてぶん投げる気じゃ…?
いやいや、いくら何でも普通の人間がそんなことできるわけないじゃない。
と思った瞬間、鉄骨に一瞬紫の電撃のような光が走り、なんの前触れもなくその巨大な鉄骨がアタシに向かって真っすぐに飛んできた。
「なッ!?」
アタシは咄嗟に身を屈めてその鉄骨をギリギリところで避けた。数瞬前までアタシの頭があった位置に鉄骨が通過して、後ろの地面に落下した。
「オラァッ!!」
「いッ…!」
右肩に熱を帯びた激痛が走る。
鉄骨を目で追いながら躱していたせいで、鉄骨の後ろに同じように跳んできていたベルゼの斬撃を躱すことができずにアタシは短く悲鳴を上げた。
一応防刃性のはずの黒のワンピースの右肩部分を引き裂かれ、アタシは痛みに顔を歪める。幸い鉄骨を躱そうとして上体を逸らしていたので傷は浅く、致命傷にはならなかった。
アタシに向かって魚雷のように飛んできたベルゼは、アタシの右肩を引き裂きながら4~5m程後ろの位置に空中で前転しながら着地していた。
振り返ったベルゼの瞳からは紫の電撃のようなものが走っていた。
「その瞳は…まさか…」
アタシは顔を歪めたまま、ベルゼを睨みつけた。
「おう、これは紫電の瞳、あのフォルテの持つ魔眼と同じ、黙示録の瞳の一つだ」
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