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#04 嬌飾の仮面【ストレガドッグ】
第38話
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「……馬鹿げてやがる。こんなの」
吐露する双賀の言葉。そこには怒りの感情が滲む。
「あぁそうだ、お前達はいつも。こちらがどれほどの犠牲を払っても、どれだけの労力をかけようとも、少し頑張っただけで全部ひっくり返す。だから俺は嫌いなんだよ。貴様らのような天才気取りの連中が」
心に響く訴えは、ここにきて初めて見せる奴の本心か。
それにしても酷い表情、甘いマスクはすっかり影を落としていた。
「お前らのような連中が、何も知らずに下賎な正義感で何でもかんでも力で事を成そうとしている様は虫唾が走る。力のある連中はいつだってそうさ、結局は物事の本質って奴を理解しないまま力を奮う自分に酔い痴れているだけのクソッタレだ」
「一体何の話しかは知らないけど奇遇だな。俺もその天才って奴が大っ嫌いだよ」
ここ数日は特にそうだった。
後ろで眠りに付いた少女にどれだけ振り回されたことか。
いや、これからもきっとそうなるのだろうな。
「けど一つだけ分かったのは、凡人の俺達には理解できない程の苦労も苦悩も、見えないところで人一倍抱えているってことさ。だから俺は彼女の側に立つことにした。抱えるものが少しでも減らせるように」
俺自身手放しかけた自身の命。
その救世主に対し、できる最大の恩義はそれしかいないだろう。
「それができるのはなッ────」
無機質な銃口がこちらへ向けられ、
「強い精神の持ち主だけだッ!」
吐露した思いを代弁するよう銃弾が放たれる。
力任せな連射、俺はその全てを見切りつつ難なく躱しながら距離を詰めていく。
同時に何度か殺意の具現化を差し向けつつ動作妨害を図るものの、双賀程に肝が据わった相手にはあまり効果は無く、僅かな隙を作る程度しか効力を成さない。
けれど俺にはそれで十分だ。僅かな隙を手繰りよせ、あっと言う間にナイフの殺傷範囲へ。双賀の怪訝たる表情が見せる皺の一つ一つがクッキリと見えるほど肉薄してナイフを振るう。
「弱い立場の人間はただ、お前達のような強者に搾取されるだけの養分に過ぎない」
振るったナイフが鋼鉄の壁に弾かれる。
冷却途中の軽量型電磁誘導加速照射砲を盾にした双賀は、立ち止まった俺を突き飛ばすように鋭い前蹴りを放つ。
鳩尾あたりを狙われたそれを両腕で何とか防ぐものの、魔力で強化されているその威力を防ぎきることはできず、再びスタート地点へ。
その最中、中空でクルリとバク宙しながら銃弾を放つ。
「グッ……!」
放った三発の内、一発だけが左肋骨に直撃。
防弾スーツとはいえボクサー並みの一撃に怯む双賀。
与えられた痛みに増してこちらに向ける憎悪も表情へ上乗せされていく。
一体何がそこまでして奴にそうさせるのか。魔力を通じて伝わる思いはずっとマグマのように煮え滾るばかりだ。
「お前の人生観については理解できないが、これだけ人のことを力で支配しておきながら言う奴のセリフとは思えないな」
「黙れッ!!何も知らない野良犬風情が……ッ!!」
再び対面する形となって睨み合う両者。
「────」
言葉とは裏腹に双賀の脈拍と魔力の波長がゆっくり収まっていく。
初めて見る光景だが、不思議と既視感を覚える反応。
何か策略を巡らせている者が見せるほんの僅かな逡巡。
次なる行動で奴が見せたのは、冷却を終えた軽量型電磁誘導加速照射砲を構えることだった。
その青白い焔が俺へと向けられたと思った瞬間、奴の口元がニヤリと動く。
向けていた銃口をもう一人のミーアへと向ける。
「……ッ!」
咄嗟に庇うよう身体の動いていた。
何か策があったわけでもない。
とにかく彼女には指一本触れさせない。
「バカめッ!!てめぇがそう動くことは分かり切っていたぜ」
レールガンが放たれる寸前、ミーアを抱き抱えようとしていた銃口が更に別の場所を指し示す。
その方角にあるのは、当初よりも十分の一以下に発光が収まった魔結晶にだ。
「しまッ────」
幾らミーアがその大部分を使用したとはいえ、未だ魔結晶には途轍もない魔力を内包していることに変わりない。
たとえ半径十キロの効力を発揮しなくとも、一キロは軽く吹き飛ぶだろう。
「死ね、ストレガドッグ共。忌まわしき悪行と共に消え去れ!!」
蛮行たる一撃が解き放たれてしまう。
俺の思いも、奴の憎悪も、そしてミーアの奮励も。
それら何もかもを無下にしようと、青白い咆哮は魔結晶へ向けて飛翔する。
「させるかぁぁぁぁッ!!!!」
無謀かつ壮烈に、俺は弾頭と魔結晶の間に飛び込む。
何か考えがあった訳でも、策を講じている訳でもない。
────翳せ。
内なる響きに感化されて両の手を前に伸ばす。
タネも仕掛けもない生身の両腕。
その内に流れる血汐、感覚を司る神経、動作を表現する筋線維、あらゆる感覚系統が過敏に反応する。
何の施しもない両の手が、迫る火砲照射に触れる。
「グッ、うぁぁぁぁぁぁッ!!」
高熱で炙られる痛みと亜音速を超える一撃が両腕の全神経に食らいつく。
まるでマグマで焼かれながら、同時にレッドゾーンを超えたトラックに突っ込まれたような衝撃連鎖、耐えようと思って耐えられるものじゃない。
ただの人間には到底止めることのできない照射に、仰け反った身体が後ろへとよろめいた。
「なんのぉぉッ……!!」
倒れかけた身体は何とか踏ん張りながら耐える。
「貴様ッ、この期に及んでまだ抵抗するかッ!」
「諦めてたまるかよ……こんなところで。もう沢山なんだよ、何かを喪う悲しさってやつは……ッ!!」
一体何がどうして、あろうことか俺は、ビルすら両断するような威力を誇る照射を捨て身で受け止めてしまっていた。
こんな土壇場で根性論ってやつが通用しているのも、どうやら彼女から受け取ったこの左眼のおかげらしい。
「同じ駄犬なだけあって単細胞であることに変わり無いらしい。この火砲の魔力全てを吸いつくすなんざ人間にできるわけが無いだろぉ!さぁ私達と一緒に丸焼けになるが良いさストレガドッグ!!」
「うるせぇよキザ気取りの三流悪党風情が、いま俺の人生十六年史上最高の見せ場なんだよ。だから黙ってみてやがれよクソ」
掌に伝わる荒々しい熱。それは質量を凝縮して体内へと流れ込んでいく。
虫唾が走る。腕の内側に蛆が湧いたように皮膚の内側で神経が飛び出すように暴れ蠢く感覚は、絶え間なくちっぽけな蝋燭のような俺の精神を擦り減らしていく。
魔力を受け取るという行為、譲魔行為。
先程のミーアが魔結晶でやったことと同じことを、俺は経験ゼロの状態で実行していた。
これがゲームならきっと簡単にことを澄ますことができただろう、されど今は現実世界。
刹那のミスで半径一キロの生物が消失する。
やべぇ、耐えられねぇ……
吐露する双賀の言葉。そこには怒りの感情が滲む。
「あぁそうだ、お前達はいつも。こちらがどれほどの犠牲を払っても、どれだけの労力をかけようとも、少し頑張っただけで全部ひっくり返す。だから俺は嫌いなんだよ。貴様らのような天才気取りの連中が」
心に響く訴えは、ここにきて初めて見せる奴の本心か。
それにしても酷い表情、甘いマスクはすっかり影を落としていた。
「お前らのような連中が、何も知らずに下賎な正義感で何でもかんでも力で事を成そうとしている様は虫唾が走る。力のある連中はいつだってそうさ、結局は物事の本質って奴を理解しないまま力を奮う自分に酔い痴れているだけのクソッタレだ」
「一体何の話しかは知らないけど奇遇だな。俺もその天才って奴が大っ嫌いだよ」
ここ数日は特にそうだった。
後ろで眠りに付いた少女にどれだけ振り回されたことか。
いや、これからもきっとそうなるのだろうな。
「けど一つだけ分かったのは、凡人の俺達には理解できない程の苦労も苦悩も、見えないところで人一倍抱えているってことさ。だから俺は彼女の側に立つことにした。抱えるものが少しでも減らせるように」
俺自身手放しかけた自身の命。
その救世主に対し、できる最大の恩義はそれしかいないだろう。
「それができるのはなッ────」
無機質な銃口がこちらへ向けられ、
「強い精神の持ち主だけだッ!」
吐露した思いを代弁するよう銃弾が放たれる。
力任せな連射、俺はその全てを見切りつつ難なく躱しながら距離を詰めていく。
同時に何度か殺意の具現化を差し向けつつ動作妨害を図るものの、双賀程に肝が据わった相手にはあまり効果は無く、僅かな隙を作る程度しか効力を成さない。
けれど俺にはそれで十分だ。僅かな隙を手繰りよせ、あっと言う間にナイフの殺傷範囲へ。双賀の怪訝たる表情が見せる皺の一つ一つがクッキリと見えるほど肉薄してナイフを振るう。
「弱い立場の人間はただ、お前達のような強者に搾取されるだけの養分に過ぎない」
振るったナイフが鋼鉄の壁に弾かれる。
冷却途中の軽量型電磁誘導加速照射砲を盾にした双賀は、立ち止まった俺を突き飛ばすように鋭い前蹴りを放つ。
鳩尾あたりを狙われたそれを両腕で何とか防ぐものの、魔力で強化されているその威力を防ぎきることはできず、再びスタート地点へ。
その最中、中空でクルリとバク宙しながら銃弾を放つ。
「グッ……!」
放った三発の内、一発だけが左肋骨に直撃。
防弾スーツとはいえボクサー並みの一撃に怯む双賀。
与えられた痛みに増してこちらに向ける憎悪も表情へ上乗せされていく。
一体何がそこまでして奴にそうさせるのか。魔力を通じて伝わる思いはずっとマグマのように煮え滾るばかりだ。
「お前の人生観については理解できないが、これだけ人のことを力で支配しておきながら言う奴のセリフとは思えないな」
「黙れッ!!何も知らない野良犬風情が……ッ!!」
再び対面する形となって睨み合う両者。
「────」
言葉とは裏腹に双賀の脈拍と魔力の波長がゆっくり収まっていく。
初めて見る光景だが、不思議と既視感を覚える反応。
何か策略を巡らせている者が見せるほんの僅かな逡巡。
次なる行動で奴が見せたのは、冷却を終えた軽量型電磁誘導加速照射砲を構えることだった。
その青白い焔が俺へと向けられたと思った瞬間、奴の口元がニヤリと動く。
向けていた銃口をもう一人のミーアへと向ける。
「……ッ!」
咄嗟に庇うよう身体の動いていた。
何か策があったわけでもない。
とにかく彼女には指一本触れさせない。
「バカめッ!!てめぇがそう動くことは分かり切っていたぜ」
レールガンが放たれる寸前、ミーアを抱き抱えようとしていた銃口が更に別の場所を指し示す。
その方角にあるのは、当初よりも十分の一以下に発光が収まった魔結晶にだ。
「しまッ────」
幾らミーアがその大部分を使用したとはいえ、未だ魔結晶には途轍もない魔力を内包していることに変わりない。
たとえ半径十キロの効力を発揮しなくとも、一キロは軽く吹き飛ぶだろう。
「死ね、ストレガドッグ共。忌まわしき悪行と共に消え去れ!!」
蛮行たる一撃が解き放たれてしまう。
俺の思いも、奴の憎悪も、そしてミーアの奮励も。
それら何もかもを無下にしようと、青白い咆哮は魔結晶へ向けて飛翔する。
「させるかぁぁぁぁッ!!!!」
無謀かつ壮烈に、俺は弾頭と魔結晶の間に飛び込む。
何か考えがあった訳でも、策を講じている訳でもない。
────翳せ。
内なる響きに感化されて両の手を前に伸ばす。
タネも仕掛けもない生身の両腕。
その内に流れる血汐、感覚を司る神経、動作を表現する筋線維、あらゆる感覚系統が過敏に反応する。
何の施しもない両の手が、迫る火砲照射に触れる。
「グッ、うぁぁぁぁぁぁッ!!」
高熱で炙られる痛みと亜音速を超える一撃が両腕の全神経に食らいつく。
まるでマグマで焼かれながら、同時にレッドゾーンを超えたトラックに突っ込まれたような衝撃連鎖、耐えようと思って耐えられるものじゃない。
ただの人間には到底止めることのできない照射に、仰け反った身体が後ろへとよろめいた。
「なんのぉぉッ……!!」
倒れかけた身体は何とか踏ん張りながら耐える。
「貴様ッ、この期に及んでまだ抵抗するかッ!」
「諦めてたまるかよ……こんなところで。もう沢山なんだよ、何かを喪う悲しさってやつは……ッ!!」
一体何がどうして、あろうことか俺は、ビルすら両断するような威力を誇る照射を捨て身で受け止めてしまっていた。
こんな土壇場で根性論ってやつが通用しているのも、どうやら彼女から受け取ったこの左眼のおかげらしい。
「同じ駄犬なだけあって単細胞であることに変わり無いらしい。この火砲の魔力全てを吸いつくすなんざ人間にできるわけが無いだろぉ!さぁ私達と一緒に丸焼けになるが良いさストレガドッグ!!」
「うるせぇよキザ気取りの三流悪党風情が、いま俺の人生十六年史上最高の見せ場なんだよ。だから黙ってみてやがれよクソ」
掌に伝わる荒々しい熱。それは質量を凝縮して体内へと流れ込んでいく。
虫唾が走る。腕の内側に蛆が湧いたように皮膚の内側で神経が飛び出すように暴れ蠢く感覚は、絶え間なくちっぽけな蝋燭のような俺の精神を擦り減らしていく。
魔力を受け取るという行為、譲魔行為。
先程のミーアが魔結晶でやったことと同じことを、俺は経験ゼロの状態で実行していた。
これがゲームならきっと簡単にことを澄ますことができただろう、されど今は現実世界。
刹那のミスで半径一キロの生物が消失する。
やべぇ、耐えられねぇ……
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