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第四幕【シシリューア共和国】
4-11【アデーレとエスティラ(2)】
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「そして我々が足止めをしている巨人の頭上に、ヴェスティリア殿が現れまして」
昼食を終えた午後のひと時。
応接室にはエスティラと、彼女に昨日のヴェスティリアの活躍を報告する指揮官の姿があった。
指揮官は自分の部隊の活躍を話しつつも、ヴェスティリアの戦いぶりをやや大げさに脚色しながら話している。
こういった場合、地元の兵隊と正体不明の戦士というのは仲が悪くなりがちだ。
しかしこの指揮官もまた、エスティラ同様ヴェスティリアの活躍を大層気に入っていると見える。
エスティラの背後に立ち、話を聞かされているアデーレの顔はやや赤くなっていた。
「しかし、彼女は一体どこに身を潜めているのでしょうね。出来れば詳しく話を伺いたいところなのですが」
「そうねぇ。でも常に私達を見守ってくださっているらしいから、意外と近くにいらっしゃるのかも知れませんわね」
「その通り」と、心の中でつぶやくアデーレ。
やはり容姿が変わらない変身であっても、正体がばれないのはお約束のようだ。
さて、宴もたけなわ。小一時間が過ぎ、ヴェスティリアファンクラブの会合もそろそろお開きといったところだ。
指揮官がポケットの中から懐中時計を取り出し、時間を確認している。
「申し訳ありません。そろそろ仕事に戻らねば」
「あら、残念。もっと現場のお話を聞きたかったのに」
社交辞令の挨拶を交わしつつ、二人が席を立つ。
「お見送りは結構ですよ。エスティラ様、魔獣の出現が頻発しております故、外出の際はお気を付けを」
「ええ、ありがとう。それではまた、お話をお聞かせくださいね」
「お任せください。それでは、失礼いたします」
会釈をした後、指揮官はロベルトが開いた扉を抜けて応接室を後にする。
エスティラは彼の姿が見えなくなると、再びソファへと腰を下ろす。
「ふふ、彼女のすばらしさが分かるなんて。彼は見所があるわね」
「そ、そうですか」
満足そうに笑うエスティラの後姿を眺めつつ、アデーレは苦笑を浮かべていた。
そんなアデーレの反応が気に入らなかったのか、口を尖らせたエスティラが振り返る。
不満に満ちたエスティラの視線に、アデーレはわずかに委縮してしまう。
「なぁに、その気の抜けた返事は。何かご不満でも?」
「いえ、そんなことは一切ありませんけど……」
「ふーん……」
こういう時に愛想のある反応が出来ないのが、アデーレの欠点ともいえるだろう。
相変わらず睨みつけてくるエスティラの視線に耐えかね、視線を横に逸らすアデーレ。
それでもエスティラは視線をそらさない。
むしろ、アデーレの顔をじっくりと観察しているようにも感じられた。
「……気に入らないけど」
尖らせた口を開く。
「アンタ、ちょっとヴェスティリアに似てない?」
アデーレの肩が大きく揺れた。
視線は揺れ、エスティラの顔を見ることができない。
顔を隠していなくても正体に気付かれないのはお約束ではないのか。
「わ、私は会ったことがないので……」
「あー。まぁ似ているってだけよ」
どうやらエスティラの脳内では、アデーレとヴェスティリアがイコールであるという考えは全くないようだ。
そのことに気付き、アデーレは気付かれぬよう肩を撫で下ろす。
「まぁいいわ。それより今から外に出るから、アンタも付き合いなさい」
「えっ? お嬢様、今は外出を自粛して頂きたいのですが」
「暇なのよっ。毎日毎日屋敷の中じゃ息が詰まるわ」
勢いよく立ち上がり、一人扉の方へ進んでいく。
その一挙手一投足が、抑えきれない不満をアピールしているかのようだった。
「お嬢様、彼女の言う通りです。今はご辛抱を」
エスティラの横に立つロベルトを、エスティラが睨みつける。
「分かってるわよ。でも庭に出るくらいならいいでしょっ」
それも絶対に安全とは言えないが、室内でもそこは変わらないともいえる。
ならば、庭に出ての気分転換くらいは、心の健康の為にも許されるべきではないだろうか。
同じことを考えたのか、ロベルトはエスティラに頭を下げ、一歩後ずさる。
「ほら、さっさと行くわよっ」
結局その命令に逆らうことは出来ず、アデーレも渋々彼女の後ろに続く。
応接室を抜け、やや早足で廊下を進むエスティラの後姿を見つめる。
(その気分転換に私を連れて行くって、どういう考えなんだろう……)
そんなことを思いながら、すれ違う使用人たちが一礼する中を、慌ててついて行くアデーレだった。
昼食を終えた午後のひと時。
応接室にはエスティラと、彼女に昨日のヴェスティリアの活躍を報告する指揮官の姿があった。
指揮官は自分の部隊の活躍を話しつつも、ヴェスティリアの戦いぶりをやや大げさに脚色しながら話している。
こういった場合、地元の兵隊と正体不明の戦士というのは仲が悪くなりがちだ。
しかしこの指揮官もまた、エスティラ同様ヴェスティリアの活躍を大層気に入っていると見える。
エスティラの背後に立ち、話を聞かされているアデーレの顔はやや赤くなっていた。
「しかし、彼女は一体どこに身を潜めているのでしょうね。出来れば詳しく話を伺いたいところなのですが」
「そうねぇ。でも常に私達を見守ってくださっているらしいから、意外と近くにいらっしゃるのかも知れませんわね」
「その通り」と、心の中でつぶやくアデーレ。
やはり容姿が変わらない変身であっても、正体がばれないのはお約束のようだ。
さて、宴もたけなわ。小一時間が過ぎ、ヴェスティリアファンクラブの会合もそろそろお開きといったところだ。
指揮官がポケットの中から懐中時計を取り出し、時間を確認している。
「申し訳ありません。そろそろ仕事に戻らねば」
「あら、残念。もっと現場のお話を聞きたかったのに」
社交辞令の挨拶を交わしつつ、二人が席を立つ。
「お見送りは結構ですよ。エスティラ様、魔獣の出現が頻発しております故、外出の際はお気を付けを」
「ええ、ありがとう。それではまた、お話をお聞かせくださいね」
「お任せください。それでは、失礼いたします」
会釈をした後、指揮官はロベルトが開いた扉を抜けて応接室を後にする。
エスティラは彼の姿が見えなくなると、再びソファへと腰を下ろす。
「ふふ、彼女のすばらしさが分かるなんて。彼は見所があるわね」
「そ、そうですか」
満足そうに笑うエスティラの後姿を眺めつつ、アデーレは苦笑を浮かべていた。
そんなアデーレの反応が気に入らなかったのか、口を尖らせたエスティラが振り返る。
不満に満ちたエスティラの視線に、アデーレはわずかに委縮してしまう。
「なぁに、その気の抜けた返事は。何かご不満でも?」
「いえ、そんなことは一切ありませんけど……」
「ふーん……」
こういう時に愛想のある反応が出来ないのが、アデーレの欠点ともいえるだろう。
相変わらず睨みつけてくるエスティラの視線に耐えかね、視線を横に逸らすアデーレ。
それでもエスティラは視線をそらさない。
むしろ、アデーレの顔をじっくりと観察しているようにも感じられた。
「……気に入らないけど」
尖らせた口を開く。
「アンタ、ちょっとヴェスティリアに似てない?」
アデーレの肩が大きく揺れた。
視線は揺れ、エスティラの顔を見ることができない。
顔を隠していなくても正体に気付かれないのはお約束ではないのか。
「わ、私は会ったことがないので……」
「あー。まぁ似ているってだけよ」
どうやらエスティラの脳内では、アデーレとヴェスティリアがイコールであるという考えは全くないようだ。
そのことに気付き、アデーレは気付かれぬよう肩を撫で下ろす。
「まぁいいわ。それより今から外に出るから、アンタも付き合いなさい」
「えっ? お嬢様、今は外出を自粛して頂きたいのですが」
「暇なのよっ。毎日毎日屋敷の中じゃ息が詰まるわ」
勢いよく立ち上がり、一人扉の方へ進んでいく。
その一挙手一投足が、抑えきれない不満をアピールしているかのようだった。
「お嬢様、彼女の言う通りです。今はご辛抱を」
エスティラの横に立つロベルトを、エスティラが睨みつける。
「分かってるわよ。でも庭に出るくらいならいいでしょっ」
それも絶対に安全とは言えないが、室内でもそこは変わらないともいえる。
ならば、庭に出ての気分転換くらいは、心の健康の為にも許されるべきではないだろうか。
同じことを考えたのか、ロベルトはエスティラに頭を下げ、一歩後ずさる。
「ほら、さっさと行くわよっ」
結局その命令に逆らうことは出来ず、アデーレも渋々彼女の後ろに続く。
応接室を抜け、やや早足で廊下を進むエスティラの後姿を見つめる。
(その気分転換に私を連れて行くって、どういう考えなんだろう……)
そんなことを思いながら、すれ違う使用人たちが一礼する中を、慌ててついて行くアデーレだった。
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