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第四幕【シシリューア共和国】
4-5【ヴェスティリアの協力者(2)】
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石畳の破片や土ぼこりを舞い上がらせながら、単眼の巨人の身体が倒れる。
上空には、フラムディウスの切っ先を巨人に向けたアデーレの姿。
「これで、決めるッ!」
フラムディウスを逆手で構え直し、投てきの姿勢を取るアデーレ。
そのまま腕を振りかぶり、巨人の胴体にめがけて投げる。
フラムディウスの纏うオーラが、まるでレーザーのような軌跡を残し、巨人の身体に突き刺さった。
「ギャアアアァァァ!!」
大地を轟かせるような巨人の悲鳴。
そこに、右脚を突き出したアデーレが、フラムディウスの柄めがけて急降下する。
それはいわば、特撮ヒーローが放つ必殺キックの姿勢だった。
アデーレの脚がフラムディウスの柄頭に当たり、刃はさらに深く巨人の身体に沈み込む。
その瞬間、凄まじい閃光が刃から放たれ、巨人の身体を爆散させた。
巨人が消滅した後の大通りには、フラムディウスを足で地面に深々と刺し込んだアデーレの姿があった。
「ねぇ、さすがに僕を足蹴にするのはひどくないかい?」
「剣をキックで撃ち込むのは定番の必殺技だよ」
「それ、本当に定番なのかい?」
愚痴をこぼすアンロックンを見下ろすアデーレ。
その姿は、どこかサディスティックな空気を醸し出すものだった。
「それより早く戻るよ。これ以上は誤魔化すの難しそうだし」
そう言いながら、アデーレはフラムディウスを引き抜き肩に担ぐ。
ここまで約五分。現場到着から魔獣撃破までの最短タイムだ。
(テレビなら、ダイジェストで軽く流される奴だな)
そんなことを思いながら、アデーレは地面を蹴り上げ跳躍し、エスティラの待つ屋敷へと戻るのだった。
「遅いっ!!」
眉をつり上げ、怒りを露にしたエスティラの一喝が響き渡る。
アデーレが屋敷に戻ったときには、既に安全が確保されたということで彼女は自室へと戻っていた。
エスティラの剣幕に、アデーレは思わず身をすくめる。
「緊急時にこれだけもたつくとか、どれだけのろまなのよ!?」
「も、申し訳ございません……」
「謝って済む話じゃないわよ! 私の身に何かあったらどうする気よ!!」
そこでアデーレではなく自分自身の安否を指摘する辺りは、さすがお嬢様である。
「まっ、ヴェスティリアがいる限り、万が一にもそんなことはあり得ないけどっ」
「はぁ……」
どうやらエスティラの中では、ヴェスティリアの信頼感はかなり高いようだ。
それが自分のことだと思うと、少し照れくさくなってしまうアデーレだった。
「ところでお嬢様、ロベルトさんの姿が見当たらないようですが」
「ロベルトには、今回の彼女の活躍に関する情報を集めさせてるの」
「情報?」
「ええ。本当なら間近で活躍を見物したいところだけど、そうも言ってられないもの」
これではまるで、ヴェスティリアの追っかけではないか。
そんなことを思いながらも、楽しげに語るエスティラの姿に、アデーレは少しだけ目を奪われる。
「私の顔に、何かついていて?」
そんな視線を察したのか、エスティラが怪訝そうな様子でアデーレを睨みつける。
「いえ……お嬢様が楽しそうで、何よりです」
「はぁ? 何よその保護者みたいな物言いは。生意気!」
「そんなことはありませんよ」
「うっさい! ニヤニヤしてんじゃないわよ!」
そう言って怒りを露にするエスティラが、今はどこか可愛らしく映ってしまう。
そんな彼女に、ヴェスティリアとしての自分を気に入ってもらえるのは、悪い気分ではなかった。
もしもこの世界に転生せず、ヒーローのスーツを着て活躍する姿を子供たちに喜んでもらえたら、こんな気分になっていたのだろうか。
「ああもぉ、アンタもう部屋から出てって! その顔むかつく!」
結局へそを曲げてしまったエスティラが、アデーレを部屋から押し出してしまう。
廊下に追いやられたアデーレの目の前で、勢いよくドアが閉められる。
「やりすぎたか……」
この後に来るであろう報復を思い、苦笑を浮かべるアデーレ。
だが気にしていても仕方がない。
珍しくエスティラから解放されたアデーレは、他の仕事を求めて廊下を進む。
そのとき、廊下の曲がり角から小さな人影が飛び出してくる。
「えっ?」
その人影を見て、アデーレが思わず声を上げる。
そこに立っていたのは、アデーレが最初に変身した際に助けた、あの少年だった。
上空には、フラムディウスの切っ先を巨人に向けたアデーレの姿。
「これで、決めるッ!」
フラムディウスを逆手で構え直し、投てきの姿勢を取るアデーレ。
そのまま腕を振りかぶり、巨人の胴体にめがけて投げる。
フラムディウスの纏うオーラが、まるでレーザーのような軌跡を残し、巨人の身体に突き刺さった。
「ギャアアアァァァ!!」
大地を轟かせるような巨人の悲鳴。
そこに、右脚を突き出したアデーレが、フラムディウスの柄めがけて急降下する。
それはいわば、特撮ヒーローが放つ必殺キックの姿勢だった。
アデーレの脚がフラムディウスの柄頭に当たり、刃はさらに深く巨人の身体に沈み込む。
その瞬間、凄まじい閃光が刃から放たれ、巨人の身体を爆散させた。
巨人が消滅した後の大通りには、フラムディウスを足で地面に深々と刺し込んだアデーレの姿があった。
「ねぇ、さすがに僕を足蹴にするのはひどくないかい?」
「剣をキックで撃ち込むのは定番の必殺技だよ」
「それ、本当に定番なのかい?」
愚痴をこぼすアンロックンを見下ろすアデーレ。
その姿は、どこかサディスティックな空気を醸し出すものだった。
「それより早く戻るよ。これ以上は誤魔化すの難しそうだし」
そう言いながら、アデーレはフラムディウスを引き抜き肩に担ぐ。
ここまで約五分。現場到着から魔獣撃破までの最短タイムだ。
(テレビなら、ダイジェストで軽く流される奴だな)
そんなことを思いながら、アデーレは地面を蹴り上げ跳躍し、エスティラの待つ屋敷へと戻るのだった。
「遅いっ!!」
眉をつり上げ、怒りを露にしたエスティラの一喝が響き渡る。
アデーレが屋敷に戻ったときには、既に安全が確保されたということで彼女は自室へと戻っていた。
エスティラの剣幕に、アデーレは思わず身をすくめる。
「緊急時にこれだけもたつくとか、どれだけのろまなのよ!?」
「も、申し訳ございません……」
「謝って済む話じゃないわよ! 私の身に何かあったらどうする気よ!!」
そこでアデーレではなく自分自身の安否を指摘する辺りは、さすがお嬢様である。
「まっ、ヴェスティリアがいる限り、万が一にもそんなことはあり得ないけどっ」
「はぁ……」
どうやらエスティラの中では、ヴェスティリアの信頼感はかなり高いようだ。
それが自分のことだと思うと、少し照れくさくなってしまうアデーレだった。
「ところでお嬢様、ロベルトさんの姿が見当たらないようですが」
「ロベルトには、今回の彼女の活躍に関する情報を集めさせてるの」
「情報?」
「ええ。本当なら間近で活躍を見物したいところだけど、そうも言ってられないもの」
これではまるで、ヴェスティリアの追っかけではないか。
そんなことを思いながらも、楽しげに語るエスティラの姿に、アデーレは少しだけ目を奪われる。
「私の顔に、何かついていて?」
そんな視線を察したのか、エスティラが怪訝そうな様子でアデーレを睨みつける。
「いえ……お嬢様が楽しそうで、何よりです」
「はぁ? 何よその保護者みたいな物言いは。生意気!」
「そんなことはありませんよ」
「うっさい! ニヤニヤしてんじゃないわよ!」
そう言って怒りを露にするエスティラが、今はどこか可愛らしく映ってしまう。
そんな彼女に、ヴェスティリアとしての自分を気に入ってもらえるのは、悪い気分ではなかった。
もしもこの世界に転生せず、ヒーローのスーツを着て活躍する姿を子供たちに喜んでもらえたら、こんな気分になっていたのだろうか。
「ああもぉ、アンタもう部屋から出てって! その顔むかつく!」
結局へそを曲げてしまったエスティラが、アデーレを部屋から押し出してしまう。
廊下に追いやられたアデーレの目の前で、勢いよくドアが閉められる。
「やりすぎたか……」
この後に来るであろう報復を思い、苦笑を浮かべるアデーレ。
だが気にしていても仕方がない。
珍しくエスティラから解放されたアデーレは、他の仕事を求めて廊下を進む。
そのとき、廊下の曲がり角から小さな人影が飛び出してくる。
「えっ?」
その人影を見て、アデーレが思わず声を上げる。
そこに立っていたのは、アデーレが最初に変身した際に助けた、あの少年だった。
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