25 / 61
第三幕【お嬢様、推しを見つけました】
3-9【お嬢様、ピンチです(3)】
しおりを挟む
港の倉庫区画を、ロベルトはエスティラを連れて走る。
そのすぐ後を追いかけるアデーレ。
遠くからは、兵士たちの怒号が響き渡っている。
(あの程度の魔獣なら、人間でも対処できるよ)
ロックンの声が脳内に届く。
事実兵士たちが、怪物に対し果敢に銃剣を突き立て戦う姿を去り際に見ることが出来た。
戦闘に長けている彼らなら安心だろう。
しかし、エスティラやロベルトは上流階級とはいえ一般人だ。
魔獣に襲われた場合、抵抗する間もなく命を奪われかねない。
ならば、変身する力を持つ自分が傍にいることで、彼らの安全を確保できるかもしれない。
問題は、変身するタイミングがあるかどうかだが。
「ちょっ、ちょっと待って……ッ」
息を切らせながら、立ち止まって欲しいと訴えるエスティラ。
案の定、体力はあまりないのだろう。
ロベルトに手を引かれて走ってはいるが、今にも脚はもつれそうだ。
彼女に促され、ロベルトが立ち止まり周囲を確認する。
怪物の出現した埠頭からはそれほど離れていない場所だ。
しかし兵隊によって足止めを受けている怪物が、こちらの後を追ってきてはいない。
「少し休みましょう。ですが出来るだけこの場から離れなければ――」
ロベルトの言葉を、三人の足元に差し込む黒い影が遮る。
頭上を見上げるアデーレ。
直後、先ほどより一回り以上大きな巻貝の殻が二つ、倉庫の屋根に激突しながら地面に落ちる。
貝殻は二人とアデーレの間に落ち、互いに分断される形となってしまう。
更に、破壊された屋根の残骸がアデーレの頭上に降り注ぐ。
「危ない!!」
ロベルトの声がアデーレに向けられる。
頭上の様子を目視していたアデーレは、すぐさまその場から飛び退く。
その瞬間、先ほどまでアデーレのいた場所に、大量の瓦礫が降り注いだ。
風圧でアデーレが被っていたキャップが吹き飛ばされ、黒髪が激しくなびく。
(アデーレっ、大丈夫かいっ?)
(何とか……それより、まずいよ)
煙のように広がる粉塵によって視界は遮られているが、巻貝の怪物はエスティラとロベルトに迫りつつある。
「な、なによこの怪物! こっちに来ないで!!」
粉塵の向こうから、エスティラの声が響く。
このような事態に備えて、アデーレは二人の傍にいたのだ。
(ロックン。鍵を)
向こうから見られていない今こそ、変身のチャンスだ。
アデーレの言葉に促されるかのように、彼女の左手の中に鍵が出現する。
(便利でしょ。どこからでも鍵が出せるの)
(それに関しては同意だね……行くよ、ロックン)
右のポケットから竜紋の錠を取り出し、左手に鍵を構える。
(一度、言ってみたいセリフがあったんだよね)
錠前を前に構え、左手の鍵を錠前の穴に差し込む。
「……変身っ」
エスティラ達に聞こえぬよう、小声でつぶやくのはあこがれのセリフ。
セリフと同時に鍵を回し、錠前から噴き出す炎を身にまとう。
アデーレの全身に、力がみなぎる。
そのまま地面を蹴り、炎を身にまとったまま粉塵の向こうへ跳び込む。
粉塵を抜けた瞬間、帽子と赤いコート、そして巨大な剣を持つ姿へと変身を果たしていた。
「はぁっ!!」
既に怪物たちは体を露にし、エスティラとロベルトは倉庫の壁へと追いやられている。
アデーレは二人に攻撃が当たらぬよう大剣を薙ぎ、二匹の怪物を空中へと吹き飛ばす。
大剣を振り抜いた姿勢で、エスティラ達の前にアデーレが着地する。
「……へ?」
突然現れた女騎士風の人物を前に、素っ頓狂な声を上げるエスティラ。
髪の色以外の容姿は変化していないのだが、それでも正体がばれないのはこの手のお約束という事だろうか。
だが今は、そんなことを気にしている場合ではない。
アデーレは空を見上げ、宙を舞う二匹の怪物を睨みつける。
「早く、安全なところに」
それだけを二人に告げると、アデーレは怪物を追って跳躍。
一回の跳躍で怪物たちと同じ高度に達したアデーレは、再び剣を構え、降り抜く。
噴出する炎によって限界まで加速された大剣は、強固な殻を有する怪物をいともたやすく両断してみせた。
そのすぐ後を追いかけるアデーレ。
遠くからは、兵士たちの怒号が響き渡っている。
(あの程度の魔獣なら、人間でも対処できるよ)
ロックンの声が脳内に届く。
事実兵士たちが、怪物に対し果敢に銃剣を突き立て戦う姿を去り際に見ることが出来た。
戦闘に長けている彼らなら安心だろう。
しかし、エスティラやロベルトは上流階級とはいえ一般人だ。
魔獣に襲われた場合、抵抗する間もなく命を奪われかねない。
ならば、変身する力を持つ自分が傍にいることで、彼らの安全を確保できるかもしれない。
問題は、変身するタイミングがあるかどうかだが。
「ちょっ、ちょっと待って……ッ」
息を切らせながら、立ち止まって欲しいと訴えるエスティラ。
案の定、体力はあまりないのだろう。
ロベルトに手を引かれて走ってはいるが、今にも脚はもつれそうだ。
彼女に促され、ロベルトが立ち止まり周囲を確認する。
怪物の出現した埠頭からはそれほど離れていない場所だ。
しかし兵隊によって足止めを受けている怪物が、こちらの後を追ってきてはいない。
「少し休みましょう。ですが出来るだけこの場から離れなければ――」
ロベルトの言葉を、三人の足元に差し込む黒い影が遮る。
頭上を見上げるアデーレ。
直後、先ほどより一回り以上大きな巻貝の殻が二つ、倉庫の屋根に激突しながら地面に落ちる。
貝殻は二人とアデーレの間に落ち、互いに分断される形となってしまう。
更に、破壊された屋根の残骸がアデーレの頭上に降り注ぐ。
「危ない!!」
ロベルトの声がアデーレに向けられる。
頭上の様子を目視していたアデーレは、すぐさまその場から飛び退く。
その瞬間、先ほどまでアデーレのいた場所に、大量の瓦礫が降り注いだ。
風圧でアデーレが被っていたキャップが吹き飛ばされ、黒髪が激しくなびく。
(アデーレっ、大丈夫かいっ?)
(何とか……それより、まずいよ)
煙のように広がる粉塵によって視界は遮られているが、巻貝の怪物はエスティラとロベルトに迫りつつある。
「な、なによこの怪物! こっちに来ないで!!」
粉塵の向こうから、エスティラの声が響く。
このような事態に備えて、アデーレは二人の傍にいたのだ。
(ロックン。鍵を)
向こうから見られていない今こそ、変身のチャンスだ。
アデーレの言葉に促されるかのように、彼女の左手の中に鍵が出現する。
(便利でしょ。どこからでも鍵が出せるの)
(それに関しては同意だね……行くよ、ロックン)
右のポケットから竜紋の錠を取り出し、左手に鍵を構える。
(一度、言ってみたいセリフがあったんだよね)
錠前を前に構え、左手の鍵を錠前の穴に差し込む。
「……変身っ」
エスティラ達に聞こえぬよう、小声でつぶやくのはあこがれのセリフ。
セリフと同時に鍵を回し、錠前から噴き出す炎を身にまとう。
アデーレの全身に、力がみなぎる。
そのまま地面を蹴り、炎を身にまとったまま粉塵の向こうへ跳び込む。
粉塵を抜けた瞬間、帽子と赤いコート、そして巨大な剣を持つ姿へと変身を果たしていた。
「はぁっ!!」
既に怪物たちは体を露にし、エスティラとロベルトは倉庫の壁へと追いやられている。
アデーレは二人に攻撃が当たらぬよう大剣を薙ぎ、二匹の怪物を空中へと吹き飛ばす。
大剣を振り抜いた姿勢で、エスティラ達の前にアデーレが着地する。
「……へ?」
突然現れた女騎士風の人物を前に、素っ頓狂な声を上げるエスティラ。
髪の色以外の容姿は変化していないのだが、それでも正体がばれないのはこの手のお約束という事だろうか。
だが今は、そんなことを気にしている場合ではない。
アデーレは空を見上げ、宙を舞う二匹の怪物を睨みつける。
「早く、安全なところに」
それだけを二人に告げると、アデーレは怪物を追って跳躍。
一回の跳躍で怪物たちと同じ高度に達したアデーレは、再び剣を構え、降り抜く。
噴出する炎によって限界まで加速された大剣は、強固な殻を有する怪物をいともたやすく両断してみせた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
DIVA LORE-伝承の歌姫-
Corvus corax
恋愛
たとえ世界が終わっても…最後まであなたと共に
恋愛×現代ファンタジー×魔法少女×魔法男子×学園
魔物が出没するようになってから300年後の世界。
祖母や初恋の人との約束を果たすために桜川姫歌は国立聖歌騎士育成学園へ入学する。
そこで待っていたのは学園内Sクラス第1位の初恋の人だった。
しかし彼には現在彼女がいて…
触れたくても触れられない彼の謎と、凶暴化する魔物の群れ。
魔物に立ち向かうため、姫歌は歌と変身を駆使して皆で戦う。
自分自身の中にあるトラウマや次々に起こる事件。
何度も心折れそうになりながらも、周りの人に助けられながら成長していく。
そしてそんな姫歌を支え続けるのは、今も変わらない彼の言葉だった。
「俺はどんな時も味方だから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる