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第三幕【お嬢様、推しを見つけました】

3-9【お嬢様、ピンチです(3)】

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 港の倉庫区画を、ロベルトはエスティラを連れて走る。
 そのすぐ後を追いかけるアデーレ。
 遠くからは、兵士たちの怒号が響き渡っている。

(あの程度の魔獣なら、人間でも対処できるよ)

 ロックンの声が脳内に届く。
 事実兵士たちが、怪物に対し果敢に銃剣を突き立て戦う姿を去り際に見ることが出来た。

 戦闘に長けている彼らなら安心だろう。
 しかし、エスティラやロベルトは上流階級とはいえ一般人だ。
 魔獣に襲われた場合、抵抗する間もなく命を奪われかねない。

 ならば、変身する力を持つ自分が傍にいることで、彼らの安全を確保できるかもしれない。
 問題は、変身するタイミングがあるかどうかだが。

「ちょっ、ちょっと待って……ッ」

 息を切らせながら、立ち止まって欲しいと訴えるエスティラ。
 案の定、体力はあまりないのだろう。
 ロベルトに手を引かれて走ってはいるが、今にも脚はもつれそうだ。

 彼女に促され、ロベルトが立ち止まり周囲を確認する。
 怪物の出現した埠頭からはそれほど離れていない場所だ。
 しかし兵隊によって足止めを受けている怪物が、こちらの後を追ってきてはいない。

「少し休みましょう。ですが出来るだけこの場から離れなければ――」

 ロベルトの言葉を、三人の足元に差し込む黒い影がさえぎる。

 頭上を見上げるアデーレ。
 直後、先ほどより一回り以上大きな巻貝の殻が二つ、倉庫の屋根に激突しながら地面に落ちる。
 貝殻は二人とアデーレの間に落ち、互いに分断される形となってしまう。
 更に、破壊された屋根の残骸がアデーレの頭上に降り注ぐ。

「危ない!!」

 ロベルトの声がアデーレに向けられる。
 頭上の様子を目視していたアデーレは、すぐさまその場から飛び退く。
 その瞬間、先ほどまでアデーレのいた場所に、大量の瓦礫が降り注いだ。

 風圧でアデーレが被っていたキャップが吹き飛ばされ、黒髪が激しくなびく。

(アデーレっ、大丈夫かいっ?)
(何とか……それより、まずいよ)

 煙のように広がる粉塵によって視界は遮られているが、巻貝の怪物はエスティラとロベルトに迫りつつある。

「な、なによこの怪物! こっちに来ないで!!」

 粉塵の向こうから、エスティラの声が響く。
 このような事態に備えて、アデーレは二人の傍にいたのだ。

(ロックン。鍵を)

 向こうから見られていない今こそ、変身のチャンスだ。
 アデーレの言葉に促されるかのように、彼女の左手の中に鍵が出現する。

(便利でしょ。どこからでも鍵が出せるの)
(それに関しては同意だね……行くよ、ロックン)

 右のポケットから竜紋の錠を取り出し、左手に鍵を構える。

(一度、言ってみたいセリフがあったんだよね)

 錠前を前に構え、左手の鍵を錠前の穴に差し込む。

「……変身っ」

 エスティラ達に聞こえぬよう、小声でつぶやくのはあこがれのセリフ。
 セリフと同時に鍵を回し、錠前から噴き出す炎を身にまとう。
 アデーレの全身に、力がみなぎる。
 そのまま地面を蹴り、炎を身にまとったまま粉塵の向こうへ跳び込む。

 粉塵を抜けた瞬間、帽子と赤いコート、そして巨大な剣を持つ姿へと変身を果たしていた。

「はぁっ!!」

 既に怪物たちは体を露にし、エスティラとロベルトは倉庫の壁へと追いやられている。
 アデーレは二人に攻撃が当たらぬよう大剣を薙ぎ、二匹の怪物を空中へと吹き飛ばす。

 大剣を振り抜いた姿勢で、エスティラ達の前にアデーレが着地する。

「……へ?」

 突然現れた女騎士風の人物を前に、素っ頓狂な声を上げるエスティラ。
 髪の色以外の容姿は変化していないのだが、それでも正体がばれないのはこの手のお約束という事だろうか。
 だが今は、そんなことを気にしている場合ではない。

 アデーレは空を見上げ、宙を舞う二匹の怪物を睨みつける。

「早く、安全なところに」

 それだけを二人に告げると、アデーレは怪物を追って跳躍。
 一回の跳躍で怪物たちと同じ高度に達したアデーレは、再び剣を構え、降り抜く。

 噴出する炎によって限界まで加速された大剣は、強固な殻を有する怪物をいともたやすく両断してみせた。
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