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第三幕【お嬢様、推しを見つけました】
3-3【再会は突然に(2)】
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午後の使用人の仕事は、主人が生活する上階での雑務が多い。
そのため、掃除などに使う午前のドレスではなく、主人が用意した制服を着用することが義務付けられている。
黒い長袖ドレスに、フリル付きの白いキャップとエプロン。
これが、バルダート家の使用人に用意された基本的な制服である。
前日は主に階下の仕事が中心だったため、アデーレはここで初めて制服に袖を通すこととなった。
「なるほど……」
その完成度の高さに、アデーレは思わずうなってしまった。
自前で用意した仕事着よりも、生地の材質や縫製の精度が優れたドレス。
ロングスカートながらも動きやすく、なおかつ形が崩れにくい工夫が随所に施されている。
国の執政にも関わる貴族の家ならば、使用人の制服にも相応の金と手間が掛けられているということだろう。
今更ながら、アデーレは自分が高位の家に務めているということを実感していた。
「それでは、本日はこちらで調度品の手入れをお願いいたします」
数名のメイドと共にアメリアに案内されてきたのは、二階にある広い食堂だった。
自宅のダイニング二つ分はありそうな広間だが、どうやらバルダート家の者だけが使う食堂らしい。
田舎者と見られるだろうと考えつつも、その豪勢な室内を見渡すアデーレ。
同郷の少女たちも、同じように圧倒されているようだ。
そんな少女たちをやんわりとたしなめるかのように、軽い咳払いをするアメリア。
その音に促され、皆がアメリアの方に視線を戻す。
「どれも貴重なものなので、くれぐれも粗相のないようお願いいたします。ラヴィニアさん」
アメリアが隣に立つ使用人……ラヴィニアに視線を向ける。
後は任せる、ということだろう。
「かしこまりました、スィニョーラ」
両手を腹部に重ね、ゆっくり頭を下げるラヴィニア。
ラヴィニアの返事を確認したアメリアは、皆に軽く会釈をして食堂を後にする。
「という訳で皆さん。ここからは私が指示を出しますので、分からないことがあったらいつでも訪ねてくださいね」
灰色の髪と、垂れ目が温厚な雰囲気を見せる彼女は、メリナの同期でアデーレも少しだけ話したことのある相手だ。
実際に性格も穏やかで、はきはきした性格のメリナと雑談していた時は、まるで賑やかな妹の話を聞く聞き上手の姉のようだった。
ふと、彼女の背後にある銀製の皿に目が行く。
わざわざ棚の上にスタンドで立てられている辺り、実用品ではなくインテリアだろう。
「このお皿はちょっとびっくりする高級品だから、私が手入れしますね」
アデーレの視線に気づいたのか、ラヴィニアが穏やかな笑顔で答える。
(あれには触らないでおこう)
これから手入れするインテリアの数々が、アデーレには地雷と同等の危険な物に見えてきたのだった。
そのため、掃除などに使う午前のドレスではなく、主人が用意した制服を着用することが義務付けられている。
黒い長袖ドレスに、フリル付きの白いキャップとエプロン。
これが、バルダート家の使用人に用意された基本的な制服である。
前日は主に階下の仕事が中心だったため、アデーレはここで初めて制服に袖を通すこととなった。
「なるほど……」
その完成度の高さに、アデーレは思わずうなってしまった。
自前で用意した仕事着よりも、生地の材質や縫製の精度が優れたドレス。
ロングスカートながらも動きやすく、なおかつ形が崩れにくい工夫が随所に施されている。
国の執政にも関わる貴族の家ならば、使用人の制服にも相応の金と手間が掛けられているということだろう。
今更ながら、アデーレは自分が高位の家に務めているということを実感していた。
「それでは、本日はこちらで調度品の手入れをお願いいたします」
数名のメイドと共にアメリアに案内されてきたのは、二階にある広い食堂だった。
自宅のダイニング二つ分はありそうな広間だが、どうやらバルダート家の者だけが使う食堂らしい。
田舎者と見られるだろうと考えつつも、その豪勢な室内を見渡すアデーレ。
同郷の少女たちも、同じように圧倒されているようだ。
そんな少女たちをやんわりとたしなめるかのように、軽い咳払いをするアメリア。
その音に促され、皆がアメリアの方に視線を戻す。
「どれも貴重なものなので、くれぐれも粗相のないようお願いいたします。ラヴィニアさん」
アメリアが隣に立つ使用人……ラヴィニアに視線を向ける。
後は任せる、ということだろう。
「かしこまりました、スィニョーラ」
両手を腹部に重ね、ゆっくり頭を下げるラヴィニア。
ラヴィニアの返事を確認したアメリアは、皆に軽く会釈をして食堂を後にする。
「という訳で皆さん。ここからは私が指示を出しますので、分からないことがあったらいつでも訪ねてくださいね」
灰色の髪と、垂れ目が温厚な雰囲気を見せる彼女は、メリナの同期でアデーレも少しだけ話したことのある相手だ。
実際に性格も穏やかで、はきはきした性格のメリナと雑談していた時は、まるで賑やかな妹の話を聞く聞き上手の姉のようだった。
ふと、彼女の背後にある銀製の皿に目が行く。
わざわざ棚の上にスタンドで立てられている辺り、実用品ではなくインテリアだろう。
「このお皿はちょっとびっくりする高級品だから、私が手入れしますね」
アデーレの視線に気づいたのか、ラヴィニアが穏やかな笑顔で答える。
(あれには触らないでおこう)
これから手入れするインテリアの数々が、アデーレには地雷と同等の危険な物に見えてきたのだった。
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