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第二幕【特撮ヒーロー? 魔法少女?】
2-2【十六歳からの職探し(2)】
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「……マジかぁ」
アデーレは使われていない係留用のロープを繋ぐ柱に座り、うなだれていた。
職に関する見立ては、間違っていなかった。
実際漁港は盛況だし、市場だって新鮮な魚の取引で賑わっている。
だが、仕事を求めているのはサウダーテ家だけではないのだ。
他の農家たちも今年の不作で仕事を求め、当然港までやってくる。
こうなると、力のある男達が優先され、自分のような女性がやる仕事は残っていなかった。
うつむいたまま、深いため息を漏らすアデーレ。
せめて家族と一緒にいたいという父の願いは叶えてあげたい。
では、どこに仕事が落ちているだろうか……。
「あら、アデーレじゃないっ」
頭上から掛けられる声。
見上げるとそこには、黒い地味なドレスを身にまとった女性が、うなだれるアデーレを見つめていた。
「元気なさそうね。日差しにやられたの?」
茶色のポニーテールを揺らしながらしゃがみ、アデーレの顔を覗き込む女性。
彼女の白く細い手が、アデーレの額に当てられる。
「ああ……おはよう、メリナさん」
「うん、おはよ。それで体の方は?」
「大丈夫です。うん、大丈夫」
メリナと呼んだ女性に、アデーレは苦笑を返す。
彼女はメリナ・バラッツィ。アデーレとは六年前に知り合った年上の友人だ。
六年前……あの時エスティラに責められていた茶髪の使用人がメリナだった。
あの後町で偶然再会し、それ以来何かとこちらを気にかけてくれている。
現在も使用人の仕事を続けており、アデーレには菓子を作る仕事をしていると話していた。
「大丈夫って顔じゃないでしょ。何があったの?」
それなりに長い付き合いであるメリナに、ごまかしはあまり通用しない。
こちらが話すまで、隣で寄り添い続けるだろう。
それでは逆にメリナの迷惑になると思い、アデーレは職探し中であることを簡潔に話した。
「仕事かぁ。やっぱアデーレは優しいね」
「そんなことは……」
「謙遜しないの。でも仕事かぁ」
アデーレの隣に立ち、腕を組むメリナ。
「そういう事情だと、探すのも一苦労だ」
「力仕事でも平気なんですけど、やっぱり男優先なもので」
「平気って、相変わらずアデーレは男らしいねぇ」
男らしい、というか前世では男をやっていた訳だが。
それに農家の娘ということで、家の手伝いでも多少の力仕事をやってきた。身体的にもさほど問題はない。
また、学業は読み書きや必要な計算を教わった程度だが、そこは現代日本で一応の教育を受けた良太だ。
真面目に勉強したわけではないが、入試を真面目に考えてからは改めてきたつもりだ。
この世界ならば、平均以上の教育を受けてきた扱いでも不思議ではないだろう。
それを活かす仕事が、この狭い仕事にはそれほど多くないのだが。
「でもそうだよね、アデーレは器用な子だし。家事の手伝いもしてきたよね?」
「ほどほどには」
掃除や洗濯、台所仕事は一通り経験してきた。
これもまた、過去の良太が劣悪な環境にあったために、必要最低限はやってきたことだ。
「んー……アデーレ、ちょっと立ってみて」
アデーレに向けて、メリナの右手が差し伸べられる。
突然のことだったが、特に何の疑問も持たず、アデーレはメリナの手を借りて彼女の目の前に立ち上がった。
すると、メリナはアデーレの頭頂からつま先までを数回見渡し始める。
「アデーレって年下だけど、私より身長高いんだよねぇ。羨ましい」
「身長高くても、それほど得なことはないんじゃ?」
「いやいや、使用人っていうのは見た目大事だから。高身長だとできる仕事が増えるんだよ」
「そういうものですか……ひゃっ!」
アデーレが油断したところに、メリナの両手がアデーレの胸を持ち上げる。
突然のことで声が出てしまい、肩をすくめる。
女性同士のスキンシップではあるのだが、男性としての経験の方が長いと未だに違和感を覚えてしまう。
「ああ、ごめんごめん。可愛い声だね」
にやりと笑うメリナ。
そんな彼女を、アデーレは呆れたように見つめ返す。
「なんなんですか、一体」
「まぁまぁ怒んないでって。でもやっぱ、うん。いいね」
顎に手を当て、メリナがうんうんとうなずく。
アデーレには、彼女が一体何に納得したのか、いまいち理解できずにいた。
困惑するアデーレの様子を見て、メリナが口を開く。
「せっかくこれだけ恵まれてるんだし……アデーレ、お屋敷で使用人やってみない?」
使用人。その言葉を受け、アデーレは目を丸くする。
メリナが言うお屋敷というのは、港町の小高い丘の上に建つ、一際大きな豪邸のことだ。
その豪邸は、島の者達からは『バルダート家の別荘』として認知されている。
夏場の避暑地として造られたもので、メリナがここに来ているということは、今年も家の者達が別荘に来ているという事だろう。
ちなみにメリナがこのような格好をしているときは、休憩か休暇のどちらかで町に来ているということだ。
しかし、彼女の提案にアデーレは驚きを隠せなかった。
農家の娘が使用人として屋敷に仕えるのは珍しくないが、アデーレにその気は一切なかった。
何せ、過去に険悪な間柄になった娘の家だ。
距離を置こうとするのは当然の事だろう。
「使用人って……私が行くと、お嬢様が」
「お嬢様の御付きでもないなら、顔を合わせることすらないから平気だよ?」
アデーレがエスティラを避けていることは、メリナも理解していたようだ。
「それに、今年はちょっと色々あってね。誰か人手を紹介できないかって私も言われてて」
「えっ、どうしたんですか?」
小さくため息を漏らすメリナ。
そして周囲には聞かれないよう、口元に手をやりアデーレに耳打ちをする。
「エスティラお嬢様がね、今年からここのお屋敷で暮らすことになったのよ」
あのお嬢様が屋敷で暮らす。それはすなわち、ロントゥーサ島での永住を意味する。
……その言葉に、アデーレは一瞬目の前が真っ暗になった。
「それで、どうかな? 使用人の仕事」
おそらく、内情は相当大変なことになっているのだろう。
普段通りに見えるメリナの目も、内心はどこか切羽詰まっているように感じられた。
現在求職中で、世話になっている人からの誘い。
そして何より、今まで避けて来た人物が、今後島で永住するという事実。
こうなると、断りづらいというよりは、断ってもさほど意味がないようにも感じられてしまった。
「……まずは、話を聞いてみるってことで」
アデーレは心の中でつぶやく。
さらば、平穏な我が生活よ、と。
アデーレは使われていない係留用のロープを繋ぐ柱に座り、うなだれていた。
職に関する見立ては、間違っていなかった。
実際漁港は盛況だし、市場だって新鮮な魚の取引で賑わっている。
だが、仕事を求めているのはサウダーテ家だけではないのだ。
他の農家たちも今年の不作で仕事を求め、当然港までやってくる。
こうなると、力のある男達が優先され、自分のような女性がやる仕事は残っていなかった。
うつむいたまま、深いため息を漏らすアデーレ。
せめて家族と一緒にいたいという父の願いは叶えてあげたい。
では、どこに仕事が落ちているだろうか……。
「あら、アデーレじゃないっ」
頭上から掛けられる声。
見上げるとそこには、黒い地味なドレスを身にまとった女性が、うなだれるアデーレを見つめていた。
「元気なさそうね。日差しにやられたの?」
茶色のポニーテールを揺らしながらしゃがみ、アデーレの顔を覗き込む女性。
彼女の白く細い手が、アデーレの額に当てられる。
「ああ……おはよう、メリナさん」
「うん、おはよ。それで体の方は?」
「大丈夫です。うん、大丈夫」
メリナと呼んだ女性に、アデーレは苦笑を返す。
彼女はメリナ・バラッツィ。アデーレとは六年前に知り合った年上の友人だ。
六年前……あの時エスティラに責められていた茶髪の使用人がメリナだった。
あの後町で偶然再会し、それ以来何かとこちらを気にかけてくれている。
現在も使用人の仕事を続けており、アデーレには菓子を作る仕事をしていると話していた。
「大丈夫って顔じゃないでしょ。何があったの?」
それなりに長い付き合いであるメリナに、ごまかしはあまり通用しない。
こちらが話すまで、隣で寄り添い続けるだろう。
それでは逆にメリナの迷惑になると思い、アデーレは職探し中であることを簡潔に話した。
「仕事かぁ。やっぱアデーレは優しいね」
「そんなことは……」
「謙遜しないの。でも仕事かぁ」
アデーレの隣に立ち、腕を組むメリナ。
「そういう事情だと、探すのも一苦労だ」
「力仕事でも平気なんですけど、やっぱり男優先なもので」
「平気って、相変わらずアデーレは男らしいねぇ」
男らしい、というか前世では男をやっていた訳だが。
それに農家の娘ということで、家の手伝いでも多少の力仕事をやってきた。身体的にもさほど問題はない。
また、学業は読み書きや必要な計算を教わった程度だが、そこは現代日本で一応の教育を受けた良太だ。
真面目に勉強したわけではないが、入試を真面目に考えてからは改めてきたつもりだ。
この世界ならば、平均以上の教育を受けてきた扱いでも不思議ではないだろう。
それを活かす仕事が、この狭い仕事にはそれほど多くないのだが。
「でもそうだよね、アデーレは器用な子だし。家事の手伝いもしてきたよね?」
「ほどほどには」
掃除や洗濯、台所仕事は一通り経験してきた。
これもまた、過去の良太が劣悪な環境にあったために、必要最低限はやってきたことだ。
「んー……アデーレ、ちょっと立ってみて」
アデーレに向けて、メリナの右手が差し伸べられる。
突然のことだったが、特に何の疑問も持たず、アデーレはメリナの手を借りて彼女の目の前に立ち上がった。
すると、メリナはアデーレの頭頂からつま先までを数回見渡し始める。
「アデーレって年下だけど、私より身長高いんだよねぇ。羨ましい」
「身長高くても、それほど得なことはないんじゃ?」
「いやいや、使用人っていうのは見た目大事だから。高身長だとできる仕事が増えるんだよ」
「そういうものですか……ひゃっ!」
アデーレが油断したところに、メリナの両手がアデーレの胸を持ち上げる。
突然のことで声が出てしまい、肩をすくめる。
女性同士のスキンシップではあるのだが、男性としての経験の方が長いと未だに違和感を覚えてしまう。
「ああ、ごめんごめん。可愛い声だね」
にやりと笑うメリナ。
そんな彼女を、アデーレは呆れたように見つめ返す。
「なんなんですか、一体」
「まぁまぁ怒んないでって。でもやっぱ、うん。いいね」
顎に手を当て、メリナがうんうんとうなずく。
アデーレには、彼女が一体何に納得したのか、いまいち理解できずにいた。
困惑するアデーレの様子を見て、メリナが口を開く。
「せっかくこれだけ恵まれてるんだし……アデーレ、お屋敷で使用人やってみない?」
使用人。その言葉を受け、アデーレは目を丸くする。
メリナが言うお屋敷というのは、港町の小高い丘の上に建つ、一際大きな豪邸のことだ。
その豪邸は、島の者達からは『バルダート家の別荘』として認知されている。
夏場の避暑地として造られたもので、メリナがここに来ているということは、今年も家の者達が別荘に来ているという事だろう。
ちなみにメリナがこのような格好をしているときは、休憩か休暇のどちらかで町に来ているということだ。
しかし、彼女の提案にアデーレは驚きを隠せなかった。
農家の娘が使用人として屋敷に仕えるのは珍しくないが、アデーレにその気は一切なかった。
何せ、過去に険悪な間柄になった娘の家だ。
距離を置こうとするのは当然の事だろう。
「使用人って……私が行くと、お嬢様が」
「お嬢様の御付きでもないなら、顔を合わせることすらないから平気だよ?」
アデーレがエスティラを避けていることは、メリナも理解していたようだ。
「それに、今年はちょっと色々あってね。誰か人手を紹介できないかって私も言われてて」
「えっ、どうしたんですか?」
小さくため息を漏らすメリナ。
そして周囲には聞かれないよう、口元に手をやりアデーレに耳打ちをする。
「エスティラお嬢様がね、今年からここのお屋敷で暮らすことになったのよ」
あのお嬢様が屋敷で暮らす。それはすなわち、ロントゥーサ島での永住を意味する。
……その言葉に、アデーレは一瞬目の前が真っ暗になった。
「それで、どうかな? 使用人の仕事」
おそらく、内情は相当大変なことになっているのだろう。
普段通りに見えるメリナの目も、内心はどこか切羽詰まっているように感じられた。
現在求職中で、世話になっている人からの誘い。
そして何より、今まで避けて来た人物が、今後島で永住するという事実。
こうなると、断りづらいというよりは、断ってもさほど意味がないようにも感じられてしまった。
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