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第二幕【特撮ヒーロー? 魔法少女?】

2-1【十六歳からの職探し(1)】

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 良太の記憶を取り戻して、六年の歳月が過ぎた。

 あれからアデーレの性格は、徐々に良太の人間性に引っ張られてしまった。
 しかし元々クールな性格だったためか、周囲から違和感を覚えられたことは数えるほどしかない。
 また、両親に恵まれなかった良太とは違い、アデーレの両親であるヴェネリオ、サンドラ夫妻は深い愛情をもっていた。
 一人娘故の溺愛ともいえるが、農民なりに女性として満足のいく生活を送らせてあげようと、アデーレに着飾る機会などを与えてくれた。

 今のアデーレは、良太が送った二十一年の人生と地続きになったような状態だ。
 幸い、記憶のない純粋なアデーレ・サウダーテとして育てられた年月があったため、性別が変わったことによる違和感はすぐに受け入れられた。
 そうでなければ……着替え中の自分の体を鏡に映す。

「中身男のままだったら……まずかったな、これ」

 そう言って、肌着越しに自分の胸に手をやる。
 率直な感想は、やたらと育ったといったところだ。町でも上の方の大きさだろう。
 おかげで町の男共の視線を集めるし、コルセットやら何やらは苦しい。
 自分が女性であるという自覚があるからまだよかったが、着替える度に毎度ガチガチに抑え込むのは、恐ろしく息苦しかった。

 また、身長もかつての良太に比べれば低いとはいえ、女性としては高い方だろう。
 東洋人では考えられない脚の長さについては、初めて気付いたときに感動してしまったほどだ。

 とはいえ、男の頃の生活を思い出すと、今の身だしなみに気を遣わなければいけない生活は窮屈である。
 髪は伸ばした方がいいと母に言われて、腰の上あたりまで伸ばして切りそろえている。
 これを毎度キャップに収めるためにまとめるのはとにかくめんどくさい。
 果たして、見えなくしては伸ばした意味があるのか、アデーレとしては疑問だった。

「アデーレ、ちょっと来てくれないかしらー?」

 扉越しに聞こえる母の声。
 さすがに今の格好のまま下の階に向かう訳にもいかない。

「ちょっと待っててー」

 扉に向けて返事をするアデーレ。
 そのまま周囲の衣服を手に取り、手早く朝の着替えを済ませるのだった。



 十六歳になったアデーレの仕事は、主に農作業の手伝いだ。
 サウダーテ家の農場は港町から少し離れた丘の中腹にあり、主にトマトを栽培している。

 季節は初夏。
 ロントゥーサ島では乾いた夏風が吹き、支柱に巻き付いたつるが風に揺れ、赤く実ったトマトが……。
 というのはいつもの話。
 残念ながら今年の夏は悪天候が続き、日照不足と季節外れの雨が生育に悪影響を及ぼしていた。
 サウダーテ家の畑に植えられたトマトも、つるの生長は鈍く、また花も少なかった。

「参ったな……」

 アデーレの父ヴェネリオが、頭を掻きながら生育の悪い畑を眺める。
 日焼けした肌が印象的な、茶髪の優男だ。

「元気なさそうだね、トマト」
「ああ。本当にな」

 隣に立つアデーレの言葉を受けて、ヴェネリオはがっくりと肩を落としてしまう。
 ロントゥーサ島の作物は、日光と乾燥を好むものが特に多い。
 不作なのはヴェネリオの畑だけではない。
 むしろロントゥーサ島だけではなく、周辺の島々でも同じ問題が起きている。

 とはいえ、一回不作が起きたからといって急に飢饉ききんが起きることはない。食糧貯蔵はある。
 漁業だって発達しているのだから、食うに困るということは早々ない。
 問題は日々の生活費や税金である。
 基本的に作物は売り物だ。食べることに困らずとも、売り物がなければ結局貧しくなる。

「今年の収穫は諦めるしかないか……そうなると本島で出稼ぎだなぁ、父さんは」

 本島とは、ロントゥーサ島の南西に位置する大きな島、【シシリューア島】の事である。

 シシリューア島と、ロントゥーサ島を含む周辺の島々は【シシリューア共和国】という国に属している。

 さて、出稼ぎを覚悟しなければならない状況になったヴェネリオは、涙目でアデーレの方を見ていた。

「……寂しくなるなぁ」

 娘や妻と離れ離れになることを想像してしまったのか、見て分かるくらいに落ち込んでいた。

 ヴェネリオは分かりやすほどに子煩悩であり、家族を愛している。
 そのため、最悪半年以上……一年近く娘と会えない状況が耐えられないのだろう。

 良太の人生に置いて、このように愛された期間は祖父母と過ごしたごく一部の期間のみだ。
 この愛情に戸惑うこともあるが、同時に親の愛情には素直に感謝していた。
 同時に、アデーレというもう一人の自分を、羨ましく思うこともあったのだが。

 ところで、十六歳というのは、この国においては社会に出て仕事に就くことも珍しくない年齢だ。

「何なら、私も働くから」

 さすがにこのまま父を出稼ぎに送るのも不憫だし、何より家に母と娘二人というのも物騒だ。
 そういう考えもあって、アデーレは自らこの島で別の仕事を見つける提案をしたのだ。
 これならば、島外に出ずとも必要な金を稼ぐくらいの仕事はあるはずだ。

「アデーレ……いいのかい?」
「うん。だって私、もう十六だよ」
「ああ、年齢なんて関係ないよ。アデーレはいつまでも私達の娘なのだからっ」
「うんうん。分かったから落ち着いて」

 ヴェネリオは娘を家業以外の仕事に出すことに抵抗があるのだろうか。
 目頭を押さえ、涙をこらえる父の背中を撫でてやるアデーレ。

 とはいえ、果たしてこの島でアデーレが就ける仕事はあるのだろうか。

「……職探し、か」

 ふと思い出すのは、かつて祖父母に迷惑をかけないようにとバイトを探していた頃の自分。
 あの頃とは性別も年齢も、何なら世界だって違う。
 一体どんな仕事があるのだろうか。

(せめて、奴隷みたいなのは勘弁したいものだ)

 よくあるフィクションの展開を思い出しつつ、アデーレは曇天の空を見上げるのだった。
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