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第一幕【火竜の巫女が守る島】
1-5【アデーレ・サウダーテ、十歳(2)】
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十分ほど歩いたところで、周囲に日干しレンガの建物が目に付くようになる。
ここはロントゥーサの港町。島で唯一の人が集まる居住地だ。
ロントゥーサ島は狭く、大人の脚ならば半日もあれば島を一周することができる。
農家は島のあちらこちらに点在しているものの、人口の大半はこの港町に集中してる。
「なんかイタリアの田舎っぽいな」
ふと、旅行雑誌で見た写真の風景を思い出す。
白い建物に青い空。海は真っ青で美しく、サボテンが生えている奴だ。
それとほぼ同じ風景が、目の前に広がっていた。
それが意味するのは、良太がアデーレとして転生したのは、イタリアのどこかということなのか。
「……いや」
アデーレは……良太は、はっきりと認識していた。
今いるこの世界に、イタリアなどという国は存在しないと。
自身の中で良太の記憶とアデーレの記憶が整理されていき、徐々に置かれた状況への理解が進む。
更に、そんな異常な状況にあっても、心の中は冷静なままだった。
多少の混乱はあれど、現状に絶望とか、そんなことは一切ない。
そこはやはり、アデーレとしての下地の上に、良太の記憶が降って湧いてきたおかげなのだろう。
今の良太は、あくまでアデーレ・サウダーテなのだ。
「せっかく俳優、なれると思ったんだけどなぁ」
雲一つない青空を仰ぐ。
ろくでもない人生から脱却できると思ったら、その直前で命を落とした。
その原因が、自身の慢心と来たものだ。
結局、佐伯 良太は報われることのない星の下に生まれてしまった。
ならば、脱却しようと努力したことに、意味などあったのだろうか。
今となっては……異世界の別人として生まれ変わってしまっては、もう答えを見出すことも出来ないだろう。
「……ああ」
抑えきれない苛立ち。
今すぐ空に向かって、意味のない言葉を叫びたかった。
思いつく限りの罵倒を、そこにはいない誰かにぶつけたかった。
それが意味のないことだと分かっていても。
「ふざけんじゃないわよ!!」
そう、今ちょうど耳に入った、これくらいの声で。
「え?」
上げた顔を下ろし、あぜ道の向こうを見つめる。
ここに来て初めての別人の声。同い年くらいの少女のものだろうか。
声は道を進んだ先の町中から聞こえたものだった。
その口調から、ただならぬ状況になっている可能性は高そうだ。
このまま様子を伺いに行こうものなら、また面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
だからといって、無為に時間を浪費して、ただ腹を立てているだけでは何も始まらないだろう。
「……様子を見に行くだけなら」
今はとにかく、行動するしかない。
気は乗らなかったが、仕方なくアデーレは町中の方へ歩みを進めることにした。
ここはロントゥーサの港町。島で唯一の人が集まる居住地だ。
ロントゥーサ島は狭く、大人の脚ならば半日もあれば島を一周することができる。
農家は島のあちらこちらに点在しているものの、人口の大半はこの港町に集中してる。
「なんかイタリアの田舎っぽいな」
ふと、旅行雑誌で見た写真の風景を思い出す。
白い建物に青い空。海は真っ青で美しく、サボテンが生えている奴だ。
それとほぼ同じ風景が、目の前に広がっていた。
それが意味するのは、良太がアデーレとして転生したのは、イタリアのどこかということなのか。
「……いや」
アデーレは……良太は、はっきりと認識していた。
今いるこの世界に、イタリアなどという国は存在しないと。
自身の中で良太の記憶とアデーレの記憶が整理されていき、徐々に置かれた状況への理解が進む。
更に、そんな異常な状況にあっても、心の中は冷静なままだった。
多少の混乱はあれど、現状に絶望とか、そんなことは一切ない。
そこはやはり、アデーレとしての下地の上に、良太の記憶が降って湧いてきたおかげなのだろう。
今の良太は、あくまでアデーレ・サウダーテなのだ。
「せっかく俳優、なれると思ったんだけどなぁ」
雲一つない青空を仰ぐ。
ろくでもない人生から脱却できると思ったら、その直前で命を落とした。
その原因が、自身の慢心と来たものだ。
結局、佐伯 良太は報われることのない星の下に生まれてしまった。
ならば、脱却しようと努力したことに、意味などあったのだろうか。
今となっては……異世界の別人として生まれ変わってしまっては、もう答えを見出すことも出来ないだろう。
「……ああ」
抑えきれない苛立ち。
今すぐ空に向かって、意味のない言葉を叫びたかった。
思いつく限りの罵倒を、そこにはいない誰かにぶつけたかった。
それが意味のないことだと分かっていても。
「ふざけんじゃないわよ!!」
そう、今ちょうど耳に入った、これくらいの声で。
「え?」
上げた顔を下ろし、あぜ道の向こうを見つめる。
ここに来て初めての別人の声。同い年くらいの少女のものだろうか。
声は道を進んだ先の町中から聞こえたものだった。
その口調から、ただならぬ状況になっている可能性は高そうだ。
このまま様子を伺いに行こうものなら、また面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
だからといって、無為に時間を浪費して、ただ腹を立てているだけでは何も始まらないだろう。
「……様子を見に行くだけなら」
今はとにかく、行動するしかない。
気は乗らなかったが、仕方なくアデーレは町中の方へ歩みを進めることにした。
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