5 / 61
第一幕【火竜の巫女が守る島】
1-5【アデーレ・サウダーテ、十歳(2)】
しおりを挟む
十分ほど歩いたところで、周囲に日干しレンガの建物が目に付くようになる。
ここはロントゥーサの港町。島で唯一の人が集まる居住地だ。
ロントゥーサ島は狭く、大人の脚ならば半日もあれば島を一周することができる。
農家は島のあちらこちらに点在しているものの、人口の大半はこの港町に集中してる。
「なんかイタリアの田舎っぽいな」
ふと、旅行雑誌で見た写真の風景を思い出す。
白い建物に青い空。海は真っ青で美しく、サボテンが生えている奴だ。
それとほぼ同じ風景が、目の前に広がっていた。
それが意味するのは、良太がアデーレとして転生したのは、イタリアのどこかということなのか。
「……いや」
アデーレは……良太は、はっきりと認識していた。
今いるこの世界に、イタリアなどという国は存在しないと。
自身の中で良太の記憶とアデーレの記憶が整理されていき、徐々に置かれた状況への理解が進む。
更に、そんな異常な状況にあっても、心の中は冷静なままだった。
多少の混乱はあれど、現状に絶望とか、そんなことは一切ない。
そこはやはり、アデーレとしての下地の上に、良太の記憶が降って湧いてきたおかげなのだろう。
今の良太は、あくまでアデーレ・サウダーテなのだ。
「せっかく俳優、なれると思ったんだけどなぁ」
雲一つない青空を仰ぐ。
ろくでもない人生から脱却できると思ったら、その直前で命を落とした。
その原因が、自身の慢心と来たものだ。
結局、佐伯 良太は報われることのない星の下に生まれてしまった。
ならば、脱却しようと努力したことに、意味などあったのだろうか。
今となっては……異世界の別人として生まれ変わってしまっては、もう答えを見出すことも出来ないだろう。
「……ああ」
抑えきれない苛立ち。
今すぐ空に向かって、意味のない言葉を叫びたかった。
思いつく限りの罵倒を、そこにはいない誰かにぶつけたかった。
それが意味のないことだと分かっていても。
「ふざけんじゃないわよ!!」
そう、今ちょうど耳に入った、これくらいの声で。
「え?」
上げた顔を下ろし、あぜ道の向こうを見つめる。
ここに来て初めての別人の声。同い年くらいの少女のものだろうか。
声は道を進んだ先の町中から聞こえたものだった。
その口調から、ただならぬ状況になっている可能性は高そうだ。
このまま様子を伺いに行こうものなら、また面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
だからといって、無為に時間を浪費して、ただ腹を立てているだけでは何も始まらないだろう。
「……様子を見に行くだけなら」
今はとにかく、行動するしかない。
気は乗らなかったが、仕方なくアデーレは町中の方へ歩みを進めることにした。
ここはロントゥーサの港町。島で唯一の人が集まる居住地だ。
ロントゥーサ島は狭く、大人の脚ならば半日もあれば島を一周することができる。
農家は島のあちらこちらに点在しているものの、人口の大半はこの港町に集中してる。
「なんかイタリアの田舎っぽいな」
ふと、旅行雑誌で見た写真の風景を思い出す。
白い建物に青い空。海は真っ青で美しく、サボテンが生えている奴だ。
それとほぼ同じ風景が、目の前に広がっていた。
それが意味するのは、良太がアデーレとして転生したのは、イタリアのどこかということなのか。
「……いや」
アデーレは……良太は、はっきりと認識していた。
今いるこの世界に、イタリアなどという国は存在しないと。
自身の中で良太の記憶とアデーレの記憶が整理されていき、徐々に置かれた状況への理解が進む。
更に、そんな異常な状況にあっても、心の中は冷静なままだった。
多少の混乱はあれど、現状に絶望とか、そんなことは一切ない。
そこはやはり、アデーレとしての下地の上に、良太の記憶が降って湧いてきたおかげなのだろう。
今の良太は、あくまでアデーレ・サウダーテなのだ。
「せっかく俳優、なれると思ったんだけどなぁ」
雲一つない青空を仰ぐ。
ろくでもない人生から脱却できると思ったら、その直前で命を落とした。
その原因が、自身の慢心と来たものだ。
結局、佐伯 良太は報われることのない星の下に生まれてしまった。
ならば、脱却しようと努力したことに、意味などあったのだろうか。
今となっては……異世界の別人として生まれ変わってしまっては、もう答えを見出すことも出来ないだろう。
「……ああ」
抑えきれない苛立ち。
今すぐ空に向かって、意味のない言葉を叫びたかった。
思いつく限りの罵倒を、そこにはいない誰かにぶつけたかった。
それが意味のないことだと分かっていても。
「ふざけんじゃないわよ!!」
そう、今ちょうど耳に入った、これくらいの声で。
「え?」
上げた顔を下ろし、あぜ道の向こうを見つめる。
ここに来て初めての別人の声。同い年くらいの少女のものだろうか。
声は道を進んだ先の町中から聞こえたものだった。
その口調から、ただならぬ状況になっている可能性は高そうだ。
このまま様子を伺いに行こうものなら、また面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
だからといって、無為に時間を浪費して、ただ腹を立てているだけでは何も始まらないだろう。
「……様子を見に行くだけなら」
今はとにかく、行動するしかない。
気は乗らなかったが、仕方なくアデーレは町中の方へ歩みを進めることにした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる