壁があるこの世界で……。

学園編

馬車の中で慰めは無用

「もっと優しく慰めてくれよぉ。ローゼン。」

　背中で泣いているギルデが泣きじゃくっている。

「うるせぇ、クソギャンブラーが。一体いくら溶かした？」

「昨日と今日合わせて、四万フォル。」

「だいぶ溶かしたな。」

　俺とアムレットはギルデを連れ、グレンチェ学院に帰っていた。

「あぁ、いたいた。チョット待ってくれ。」

　後ろから声をかけられ、振り返るとあの時、ロイヤルストレートフラッシュを決め、五万フォルの金を受け取ったあの爺さんがいた。（実際には儲けは三万フォル以下だが……。）

　後ろに背負っているギルデは泣きつかれて寝てしまったようだ。

「豪運のお爺さん。なにか御用でしょうか？今、このクソギャンブラーを持って帰るのに本当の意味で手一杯なので、できるだけ短めに……。」

「ちょうどその事で話があってね。少し来てくれないかい？」





「まさか、お爺さんが馬車の御者だったなんて……。」

「しかもただの御者じゃない。このフォルク帝国ができるより前からやっているんだ。あの、エラ皇帝やルイス・ミラデナスも乗せたことがあるんだぞ。」

　随分と歴史があるな。という事はこの老人はもう八十歳を超えているのか。

「しかもな。君たちも歴史か絵本なんかで習ったろ。ルイス・ミラデナスとエラ皇帝の逃避行のくだり。」

　確か、馬車に乗ってバニー・セントラル近くにまで逃げたんだっけ。

「その逃避行に使われた馬車がうちだ。」

「本当ですか？そりゃすごい。」

　聞くと、ルイス・ミラデナスとは馬車の中で会話もしていたようで、その詳細も教えてくれた。





「有難うございました。えぇっと。」

「ホレイだよ。ホレイ・スカルラッティ。んじゃ、またカジノ場で……。」

　そう言って、ホレイさんはまた馬車で去っていった。