上 下
5 / 32
学園編

入学式

しおりを挟む
「また、帝都バニー・セントラルで黒仮面の盗賊が出たんだってさ。」

 そう言ってギルデは今日のアントーニオ新報を机の上に投げた。

 俺、ローゼンはその投げられた新報を拾い、目を通す。

 第一面にはその盗賊のニュースがでかでかと載っている。

 新聞によると、今回盗まれたのは金のネックレス、ダイヤの指輪、ルビーのブローチ等貴金属のアクセサリーらしい。

 黒仮面の盗賊は25年も前から確認されていて、その盗まれた殆どのものが次の月には市場に出回っているのだから、換金目的で盗んでいると考えられている。確かに、金や宝石など装飾品となっていなくとも価値がある物は換金に向いているのかもしれない。しかし、どうしてそんな大量の金が必要なのか、どうして25年も盗みを行っているのにまだ金が必要なのか、といった部分はまだ不明である。

 その時、部屋の扉が開きアムレットが入ってきた。

「ギルデとローゼン、おはよう。」

 アムレットはあくびをしながら部屋に入り、椅子に座った。

「眠そうだな、お前。」

 俺は悪態をつくようにそう訊いた。

「ところで今日、新入生の入学式だな。ちょっと覗いてみるか?」

 ギルデの提案にのり、俺とギルデとアムレットは入学式が行われる講堂に向かった。

「にしてもこの学院講堂だけは綺麗だよな。他は50年前の物を未だに使っているのに……。」

 講堂は隅々まで掃除が行き届いており、金属でできている聴衆用のベンチもピカピカである。

 そしてそのピカピカのベンチにはまだまだ6歳位の子供がお行儀よく座っていた。

 俺たちはその聴衆用のベンチよりも後ろにある立ち見席から中の様子を見ていた。

 そして前の壇上に立つ帝国側の校長が話し始めた。

「50期生の皆様、グレンチェ学院の御入学おめでとう御座います。」

 そう、ここはグレンチェ学院。

 この学院は二つに大人四人分くらいの高さの壁をもって分かれている。

 一つがフォルク帝国が運営する帝国側、もう一方が聖神教国が運営する教国側だ。

 この壁はこの二国間の国境も担っており、壁はこの学院の外にも続いている。

 この巨大な壁はこの大陸の端から端まで続いているのだから凄い。

 そして今いるのはそのフォルク帝国側だ。そして、新入生諸君、君たちは今日から人質だ。

 この学院は二国間のある種の抑制力である。詳しいことは長くなるし、よく覚えてないが、アントーニオ新報の記念号にまとまってた気がする。

 この学院は一応形だけは学院のつもりである。だが実際はもう名前をグレンチェ孤児院にでもした方が実情にあっている気がするくらいかけ離れている。

 まず第一にこの学院、卒業試験はおろか、定期試験、入学試験、体力試験その他諸々の試験がない。

 第二に授業は最初の一年間のみという何ともインスタントで手軽なカリキュラムだ。

 そして、この学院、生徒の9割9分9厘が孤児である。

 と言うのも、少し考えてみれば分かるのだが、わざわざ愛しの息子、娘を敵国の射程圏内に送り出し、そこで6歳から18歳(言い忘れていたがこの学院は6歳から18歳まで通うめちゃくちゃ過保護な教育機関である。)という実に12年間も離れさせて生活させたいと考える親はいない。

 と、ならばこの学院に入学してくるのは親がいない孤児になってくるのは何も不思議ではない。

 そして、学院的にはその12年間をこの学院で過ごしてくれれば、問題ないので生徒の質なんて考えていない。

 だから、こんなあまりにもおかしな学院が出来たのである。

 因みにアントーニオ新報によると、あのルイス・ミラデナスが開発したピルが大衆に普及し、子供を産むか産まないかの選択が出来るようになったので、そもそも孤児が少なってきている。まぁ、不幸な子供がいないことは良いことだ。

 その為、学院にとっては何とかフォックス・ワイルド条約を守らないといけないので、卒業生の子供をこの学院に入れるよう呼びかけているらしいが、なかなか一厘が二厘にならないそうだ。

 そして、その一厘は今、俺の隣りにいる。その名もギルデ。このギルデは何と今の皇帝の血を引く者なのである。まぁ、エラ皇帝の娘の四男の六男と妾との子供という立ち位置で皇位継承権があと少しで300番の大台にのるらしい。ていうか300人もいるんだ。皇族。

 そんな感じの学院ではあるがパンとピクルスのみというもはや清貧の範疇ではないが、食事がでる。広さはベッドしか置けない位だが、各個人の個室がある。一応勉強の意識があれば教授の下で勉強が出来る。というものでこの待遇を悪く言う者はいない。俺はむしろ勉強が出来るので感謝していた。

 ただ、ここにいる教授は基本なにかやらかして来た人が多いって事は考えものである。

 そんな考え事をしているといつの間にか入学式は終わっていた。

 俺たち三人は元いた研究室に帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結]勇者の旅の裏側で

八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。                                      起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。               「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」                                        「………………はい?」                                                   『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。                                                       依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。                             旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。                                          しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。                                         人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。                                                これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。                            ・1章には勇者は出てきません。                                                     ・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。                    ・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。                    ・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る

卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。 〔お知らせ〕 ※この作品は、毎日更新です。 ※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新 ※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。 ただいま作成中

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...