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青年期

人の命

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「つまり、クリスはまったく関係ない罪で殺されたのか?」

 俺は思わず呟いた。

「まぁ、そんなところだ。あと、おまえを揺さぶるつもりもあったんだろう。どちらにせよクソみたいな話だな。」

 御者はかなりそっけなく言う。

「ところであんたは、今なんでこんな仕事をしている。前のほうが給料良かったろ。」

 俺はふと疑問に思ったことを聞いた。最初は7年前の件で解雇されたと思ったが、そんな詳しく知っていることはかなり最近までは前の衛兵だったのだろう。

「息子が生まれましてね。こいつが嫁に似て可愛いんですよ。特に目とか唇が……。」

「だったら、尚更なんで、子供を育てるなら給料とか良いほうが良いに決まって……。」

「かっこいいクソオヤジになりたいんですよ。」

 さっきまでとは打って変わってとても優しく笑っている。

「そりゃぁ、衛兵のほうが給料よし、安定あり、非番という休みあり、なにより昇進もある。それになんか憧れるじゃないか、剣とか持ってたりして……。」

 ゆっくりと息を吐き、姿勢を崩す。

「でも、それにはそれに似合うだけの何かがあるんですよ。衛兵にはそれが命の値踏みをするというものが……。」

「衛兵は医者のように直接命を救うために命を扱わない。誰か別の命を間接的に救うために誰かの命を価値をつけて殺す。」

「俺は息子に俺が人の命の値踏みをするところなんて見られたくない。人の命を子供の憧れで奪うところなんて見せたくない。それよりも給料が悪くても、嫁さんの尻に敷かれても、こっちの方が気楽です。」

 俺は足を組み替えて、馬車の壁に背中を預ける。俺は優しく尋ねる。

「あんた、そんな人だったんですね。てっきり、衛兵の仕事に一生を捧げるのかと思ってました。」

「昔はそうだったんですが、やはり息子のおかげですかね。自分でも変わったと思います。」

「子供って、そんな人を変えてしまうほどのものなのですね。」

 少し姿勢を正した後、御者は口を開く。

「そりゃそうですよ。なにせ、自分の時間が自分と子供の時間になるんですから。そりゃ変わります。」

「そうか、そんなものなのか。」

 俺は天を仰いだ。





「よし、着いたぞ。」

 俺等はバニー・セントラルの近くで降ろされた。

「なぁ、ルイスさん。」

 御者が出発しようとする俺のことを引き止める。いつの間にか御者は名前で俺のことを呼んでいた。

「私と貴方は多くの人を殺した者です。私はもう人を殺さないと断言ができます。貴方はどうですか?」

「俺は……。」

 俺は答えられなかった。
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