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青年期

この後

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「母は、父は、ペストにかかったんだ。」

 俺がその事に気づいた時、上からとても大きな音がした。

 待てよ、確か、ペストは発症から2、3日で……。

 何か嫌な予感がして、階段を駆け上った。そして、部屋の扉を勢いよく開け、中に入ると、両親が2人とも倒れていた。

 すぐに近づいて脈を取る。

 もう脈拍はなかった。

 そうだった。ペストは発症してから2、3日で、死んでしまうのだった。







 夜も更けた頃、地面に大きな穴を掘り、両親の遺体をその中に入れた。

「ルイスさん、本当に焼くのですか?」

 家から遠く離れた山の中で、エラが泣きじゃくりながら聞いてくる。

「あぁ、ペストで死んだ人の死体はこうして処分しなきゃいけないんだ。」

 この世界の宗教上、火葬はタブー視されている。

 でも、感染の拡大を止めるためには、このような方法で処分するしかない。

 俺は火を起こして、地面の穴に投げ入れた。

 人だったものにオレンジ色の炎がまとわりつく。

 俺の隣ではエラが嗚咽をかみ殺すように泣いている。

 死体はすぐに灰になってくれなかった。





 両親の遺体を火葬した後、俺とエラは帰路についていた。エラは泣き疲れて寝てしまったので、おんぶしていた。

 家がやっと見えてくるぐらいのところで、俺の家の前にいたクリスが俺たちに気づいた。

 すぐに駆け寄って聞いてきた。

「ねぇ、お母さんたちがその……。」

 クリスはとにかく心配そうな顔をしている。

 そんなクリスの顔を見ると、すぅっと力が抜けていくような、安心するような、そんな感じがした。

 思わず、俺は泣いていた。

「俺が最初からペストだってわかっていたら、せめてその可能性を考えていたら、母も父も死なないで済んだんだ。俺がもっと前の世界で医学を学んでいたならば……。」

 クリスの前で思わず、そう吐露していた。





 エラを寝かせると、居間に戻ってきた。居間ではクリスが紅茶を入れていた。

「ねぇ、ルイス。もう大丈夫?」

 心配そうにクリスが尋ねてきた。見ると、目が腫れていた。

「もう大丈夫。ありがとう。」

 そう言って僕は椅子に座った。気持ちを切り替えなくては……。もう親はいない。今後は自分たちで暮らしていかなくてはならないんだ。

「今後はどうするの?」

「家の本屋は継ぐよ。このまま、ここで今までと同じように暮らそうと思う。」

 このまま、今までと同じように穏やかに暮らすんだ。

 あまり客入りの良くない本屋のカウンターでのんびり本の整理でもして、たまに内職でもしたりして、それから……。

 前を向くと、クリスが椅子に座りながら紅茶を飲んでいた。俺の視線に気づくと優しく微笑む。

 あぁ、やっぱり敵わない。俺は君の世話になってばかりだな。本当に情けない。

 いつも、俺は心の面で救われてきたんだな。君は俺の支えになってくれてるんだな。

 僕はもう君がいないとだめなんだな。

 そんなふうに思うと、眼の前にいるクリスがとても愛おしく思えてきた。

「ねぇ、ルイス。それでさ、私達の今後の事なんだけど……。」

 クリスはどことなく赤い顔をして、もじもじしながら、紅茶のカップを机に置く。

「あのさ、クリス。」

 俺がいつになく真面目な口調で話し始めると、クリスは少し驚いたような顔をした。

「結婚してください。」
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