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幼少期

領主の訪問

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 フォックス・ワイルドに領主がやってきたのは俺がクリスにニュースを伝えられてから数日経ったくらいの頃だった。その領主を一目見ようと街の人が集まっていた。

 領主は馬車に数台連れてやって来た。先頭の馬車から最初に降りてきたのは、30歳手前くらいの男だった。ひと目見ただけでわかるほどいい生地を使った服に身を包み高価そうな金の指輪を身に着けている。だいぶ裕福な環境なのだろう。

 続いて、クリスや俺と同じくらいの年齢の少年が降りてきた。こちらも豪華な調度品に身を包んではいるがまだまだ子供っぽい仕草が見て取れた。

 「これが俗に言うバカ王子と呼ばれるものか。」と内心考えていた。大体こういう場合のお坊っちゃんは甘やかされた結果バカになるのが定石である。
 
 と、まだまともに話したこともないやつの悪口を考えているとその張本人がこう礼儀正しく挨拶をした。

 「皆さん、はじめまして。フォックス・ワイルド領主の息子、アルベール・ハイドロ・ヘリン・リチム・ベリリウ・ジェニファー・ワイルドです。本日はよろしくお願いします。」

 今、なんて言った?




 ちなみに他の馬車には召使いなどを乗せていたらしい。その時、一人の5歳くらいの黒髪の少年が大きな鞄を持って降りてきた。ふらふらとした足取りで重そうな荷物を持っている。あんな小さい子も召使いなのだろう。
 
 そうして、なんて名前なのか聞いてもわからない息子を連れて領主の視察は始まった。主に説明は領主の代理人が務めていた。
 
 この場合のお坊っちゃんは悪態をつきながら、退屈そうにしているのがテンプレートなのだが、熱心に話を聞き、質問すらしていた。
 
 そう、つまり、このお坊ちゃん馬鹿でないのである。俺はまたしてもこの世界に裏切られた気がした。
 
 それよりも気になったのは現領主の方である。こちらも話は聞いていたがどことなく上の空だった。


 そんなこんなで街中や穀倉地帯、害獣の調査などを済ませ、元のところに帰ってきた。もう日が傾き始めている。
 
 そして行きと同じ馬車に乗り込もうとした、その時だった。
 
 人混みの中から突然ナイフを持った男が飛び出してきた。怒り狂ったような表情で領主に突撃した。
 
 その時、俺はとっさに人混みから飛び出し、領主は押し飛ばした。ナイフは領主にも俺にも当たらず後ろにあった馬車に突き刺さる。
 
 「くそ!」と怯んだその隙に召使いたちが男を取り押さえた。その男は耕作している農地の収穫量が芳しくないとのことで農地が没収となった元農夫だった。

 俺は自分と領主のどちらにも怪我がないことを確認すると「大丈夫ですか?」と声をかけた。
 
 するとその領主は「この無礼者!」と言った。その襲いかかってきた男ではなく俺に……。
 
 すると、混血の分際で純血の民に触れるとはなんとおこがましいなどと喚き散らし始め、その息子が「この方は命の恩人なんですよ。」と、それを必死に止めようとしていた。
 
 そう馬鹿だったのは息子の方ではなく、父親の方だったのだ。
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