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プロローグ

フラスコとビーカー

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 もう夏と言っていいような暑さの中必死にペダルを蹴りながら住宅地を駆け抜けている、

「こんな日に遅刻しそうになるなんてなぁ」
 
 そうこう10分くらい漕いでいたらやっと学校の正門が見えてきた。すぐに駐輪場に止めるとダッシュで昇降口に駆け込む。

 今日は高校の文化祭だ。至るところに飾りがついており、校舎からにぎやかな声が聞こえる。

 ところで、文化祭という青春真っ盛りなイベントがあるわけだが、俺にそんな甘酸っぱい予定があるのかって?いや、ない。そんな予定があるのはたったの一握りだろう。
 
 ちなみに、遅刻しそうになっていると言ったが登校時間にはまだ一時間ぐらいある。じゃあなんで急いでいたのかというとそれは部活のためだ。
 
 俺が所属している科学部(部員は二年生の俺を含めて三人ちなみに全員男)は毎年文化祭で実験ショーをすることになっている。この恒例のイベントはかれこれ30年ぐらい続いているのだからすごい。
 そのための準備があるのだ。

 
 科学室の前まで来ると部員で同じクラスの人間の姿が見えた。壁に寄りかかって立っている。
「オッス、理央!」
「オッスじゃないよ、遅刻。栄太郎」
 
 そう言って、腕時計を見た。

「まぁまぁ、ちょっとくらい大目に見てよ。」

 この理央とは中学時代からの仲である。

「まぁ、まだ一時間ぐらいあるし大丈夫か。」
 
 そうして科学室に入り、白衣を着たあとに準備は始めた。

「そういえば一年の榎本君はまだ来てないの?」

 言い忘れていたが俺と理央は二年生だ。

「榎本君には今ゴミを捨てに行ってもらってる。遅刻はしてないぞ。」

「なんだ、仲間はいないのか。」

「いたら困る。」

「にしても臭いな。」

 この蒸し暑い科学室には、今かなり特徴的な匂いが充満している。これは授業で使うジエチルエーテルの匂いだった。

「たしかに臭い。一応窓を開けて換気しておくか。」
 
 そう言ってビーカーが窓に近づいたときだった。
 
 突然雷が鳴ったような衝撃を感じた。力が急に入らなくなっていった。声も出せない。立つことさえできない。心臓の鼓動が激しくなっていく。そうして俺は倒れてしまった。
 
 意識はどんどん薄れていき、視界もぼやけいていた。
 
 やがて俺は動くことができなくなった。
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