エリジウムズ・エッジ~楽園境界~

くしまちみなと

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第2章:破滅の剣

第22話:クラウツェン駐機場騒乱1

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 クラウツェン精霊首長国――
 古代超帝国の精霊崇拝殿遺跡を発見した伝導師たちが、その土地の精霊力が非常に強いことから聖地として考えて都市国家を建国した永世中立を謳う少領国家。都市国家としては世界最大の国家であり、七重に築かれた城壁に護られた都市総人口は二五万を数える。これは登録人口であり、城壁内に入れない流民たちによって形成された城外都市人口も含めると三〇万を超える人口を抱える超国家となる。
 都市国家といっても都市周辺も領有しており、それだけの人口を支える農地などが存在している。
 アルフィンたちを乗せたドラグーン・バリシュはゆっくりとした速度でその領域に侵入し、先ほどとは打って変わった開墾された広大な畑上空を飛行していた。

「一面の麦畑だ!」

 思わずアルフィンは声を上げてしまったが、そんな驚きの声を上げるほどに広大な農地が広がっていた。
 ケープ・シェルの周辺ではほぼ畑作はできない。大半が輸入に頼らざるを得ない土地であり、そんな土地だからこそ、人口の大半がレリクスを求める賞金稼ぎという偏った構成になっている。

「どんだけの量の小麦が収穫できるんだ?」

 アルフィンの声に窓の外を見たユクシーも驚きに目を見張っていた。
 風に穂が揺れて、まるで黄金色の海を見ているようだった。

「何万トンという単位だろうな。俺たちの両手にはとても抱えきれねえ量だ」

 いつの間にかネビルも艦橋に上がってきていて、感心した様子で広がる畑の海を見つめていた。
 そうしている間にもバリシュは進み、やがてアルフィンたちは巨大な都市を目にした。
 地上から見るのでは分からない巨大都市。丘に建つ遺跡を中心に斜面に大小様々な建物が立ち並び巨大な円錐を作り上げていた。

「ドラグーンはどこに停泊するわけ?」
「あん? ああ、あんたらは普段は牛車だから門に行ってたのね……」

 バレンシアはアルフィンの隣りに立ち、街の内陸側の平地を指さした。

「あそこに妙に開けた場所があるだろ? あそこがドラグーンの駐機場だ」
「ええっ? ただの野原じゃない!?」
「そう。クラウツェンはレリクスにおいては後進国よ。盲信しすぎてフォートレスもロクに揃えなかった。まぁ、今では自衛に多少はあるようだけど、帝国や他の諸王国のように、制式化された画一的装備があるわけじゃないわ」

 ケープ・シェルは街中の商会にドラグーンを格納するような倉庫を保持していたり、あるいは外国船を迎え入れるためのドラグーン・テラスなどが港に建設されている。そうした当たり前に思っていた光景がこの世界最大の巨大都市にはない。

「なんでもデカけりゃいいってわけじゃない見本だねぇ。あは~ん! あはは~ん!」
「まあ……盲信の結果、先進国に遅れた形になったわけだな。もっとも財力はあるから、後付けで揃えた装備もバカにならん。注意しとけよ」

 財力という点はこの麦畑を見れば理解できた。
 しかし、レリクスのなにが精霊崇拝に抵触するのか、アルフィンにもユクシーにも理解できなかった。

「クラウツェンの伝導師たちは、他の地域の伝導師たちが知らないレリクスにまつわるなにかを知っている。もっぱら、そんな噂だな……」
「着陸準備!」

 大きめの野原のように見えた駐機場は、あまりにも広大な麦畑を見ていたから〝大きめ〟と感じただけだった。実際に近づけば全長八〇メートル強のバリシュを並列で二〇隻の合計四〇隻並べてもあまりあるほどの大きさがあった。
 実際、バリシュほどの大きさのドラグーンが数隻停まっていたが、思い思いの位置に停泊させており、かなりスペースに余裕があった。

「サイズ感が……おかしくなるね……」
「ここの連中は、なんでもかんでもデカく作るのが好きなんだよ。さて、私とガリクソン、ランディで管理局に行ってくる。あんたらはここで大人しくしてな」
「観光はなし?」
「通過許可取ったらさっさとズラかるんだから大人しくしてな。ったく……」

 バレンシアはアルフィンたちを艦橋に残し、ガリクソンとランディを引きつれてさっさと駐機場に降り立った。
 無理やり牧草地を駐機場にしたのだろう。地面はボコボコしていて決して整備されているとは言えない。雨が降った際にぬかるまぬように芝が植えられているだけマシなのかもしれない。

「管理局内には私とガリクソンが入る。ランディは外で見張りを……」
「了解でさぁ、姐さん」

 駐機場に違和感はない。
 だが、バレンシアはなにか胸騒ぎのようなものを感じて仕方なかった。

「帝国が先に手回しした可能性はあるかい?」
「考えられませんねぇ。実際、それほど仲が良いわけじゃないでしょうし……」

 ガリクソンの言うように永世中立を謳うクラウツェン精霊首長国をエタニア帝国は快く思っていない。一五年前のバルクムント王国の独立戦争騒ぎの時も停戦仲介を気取るなどしていたし、最近では永世中立を盾に都市国家群にも幅を利かせている始末だ。
 首長たちの態度の大きさに、バレンシアの父親も苦々しい顔をしていた。

「とにかくランディ、気を抜くなよ」
「アイサー。お任せを」

 いざとなればガリクソンが足止めをし、その間にバレンシアを抱えてランディが遁走する。なにか事あらばそうしようと二人は取り決めていた。
 そんな話をしている間に、バレンシアたちは駐機場管理局の建物前に辿り着いた。
 ここまで、コレといってなにも起こらなかった。
 すべては考えすぎ。そう苦笑しながらバレンシアは管理局の頑丈な扉を開いた。
 酒場のホールを思わせるような大きなホールは駐機場を使う人間たち賑わっていた。
 荷物を運ぶ人。ドラグーンで運んでもらう人。新たに届いた荷物を受け取る人。
 バレンシアとガリクソンはそんな賑わいの中を縫って歩き、カウンターの前に辿り着いた。

「ご用件は?」

 カウンターの窓口に立っていた中年の神経質そうな人族の男性が、表情のない眠そうな目をバレンシアに向けた。

「領内通過許可をもらいたい」
「旅券を改めさせていただきます」
「こいつだ……」

 バレンシアは父親が発券させた旅券書類を提出した。

「積荷は……フォートレス二騎……ですか? どなたが騎乗を?」
「私とコイツだ」

 自分とその隣に立つガリクソンをバレンシアが指で示すと、ガリクソンはそれに合わせるように腕組みして格好をつけて見せたが、男性はまったく興味なさそうにすぐに書類に目を落とした。

「目的地は……ベイ・フリップですか? フォートレスは盗品ではございませんね?」
「私らは賞金稼ぎだ。盗掘者とは違うよ」
「結構です。通過料として一万ギーンいただきます」
「高いね……」
「硬貨一枚とてまけませんよ」
「値切る気はないよ。そら」

 バレンシアは一〇〇〇ギーン硬貨を一〇枚カウンターの上に並べた。それを目算で数えてから、男はすべて回収した。

「街に入るご予定は?」
「ない。通過するだけだ」
「では、入国税はなしですね……」

 男は書類にサインと日付を入れ、ダンッと大きな音を立ててそこに印を押した。

「この旅券をお無くしになると、無許可で領内に入ったことになりますので、罰金として一〇〇万ギーンいただくことになります。その点はご了承ください」
「分かってるよ」

 バレンシアは書類を受け取り日付とサインを確認してから、それを懐にしまい込んだ。
 何事もなかった。
 すべては考えすぎだった。
 無事に終わったことでホッとしてカウンターに背を向けた時、そこにいた客の全員が、バレンシアたちにガンランスを向けていた。

「どういうことだい?」
「どういうこともこういうこともない。バレンシア。お前ともう一人のパイロットの身柄は拘束させてもらう」

 背後にいた神経質そうな男がそう落ち着いた声で説明した。

「罪状は?」
「騒乱罪とでもなんとでもつけるさ」
「なるほど……。じゃあ、騒乱してもいいってことだね。前もって罪がついてんだからさぁ。ガリクソン! 逃げろ!」

 バレンシアはそのままバク宙をかましてカウンターの裏側に飛び込み、男の首根っこを掴んでカウンター下に引きずり込んだ。
 ガリクソンはその小太りした体型からは想像も付かない機敏さで横跳びし、懐から引き抜いたレリクスの回転弾倉拳銃を構え、バレンシアを狙っていたガンランスの男に向けて引き金を引いた。
 銃声が轟いた。
 それを外で聞きつけたランディは懐に手を入れながら扉を蹴り開けると、ホールに集う客全員がガンランスを構えているという異常事態を目にすることになった。

「ランディ! 逃げな!」
「アイサー!」

 今、ランディが乱入してもこの状況は変えられない。
 ランディは懐から引き抜いた爆裂弾の安全ピンを抜き、押しボタンを押してからホール内に投げ入れてそのまま扉を閉めた。
 激しい爆発音が響き、管理局の窓ガラスが吹き飛んだ。
 ネビルに助けを求めるのは気に入らないが、今ここでそれを言ってる状況ではないことはランディも理解していた。

「くそがあああああっ!」

 ランディが必死でバリシュに向かって走っていると後部格納庫のハッチが開き、そこからエスパダが顔を見せた。
 今この瞬間ほど、ランディはエスパダを力強く思ったことはなかった。

「姐さんが捕まった! 助けてくれええええっ!」
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『エリジウムズ・エッジ~楽園境界~』の世界観を使ったゲームを制作していただけることになりました。シェアワールド方式で世界を拡張創造していくというweb3.0のために企画された次世代ファンタジーゲームになる予定で、株式会社フロンティアワークス様と株式会社ヴァンガード様のご協力で進められるとのことです。皆様、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。
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